2022年 深海魚と地震の関係・大調査

  • Update: 2023-02-02
2022年 深海魚と地震の関係・大調査

2022年 深海魚と地震の関係・大調査

深海魚の出現と地震の関係は?

 今年になって、大阪市淀川マッコウクジラの出現や、東京湾でイルカの群れトドザトウクジラ、また各地でリュウグウノツカイダイオウイカなどが発見されたニュースが相次ぎました。このような普段見られない動物の出現がみられると地震の前兆か?という声も聞かれます。

 昨年公開した、「地震の迷信!?、うそ?ほんと?」のコラムでは、東海大学の研究グループ(2019年に発表)による研究が、「深海魚出現は地震の前触れといった伝承は迷信と考えられる」と結論づけたことを紹介しています。東海大学の調査では、「リュウグウノツカイなど深海魚出現日から 30 日後までに、半径 100km 以内に発生したマグニチュード(M)6.0 以上」の地震を調査したところ、深海魚出現後に地震があったケースは 1例のみであったことを根拠としています。

 大地震の前に発生したと考えられる動物の異常行動など、普段と異なる自然現象や動物つの行動については「宏観異常現象」という言葉で呼ばれています。東海大学による研究では、迷信と考えられるとしていますが、動物の異常現象と地震との間に何らかの関係性が見いだせれば、地震防災に関して役立つことも考えられます。近年ではスマートフォンの普及やSNS利用者の増加、またリュウグウノツカイはニュース報道やゲーム等でも登場するケースが増えて認知度も上がっていることから、寄せられる情報も多くなっている可能性も考えられます。

 東海大学の研究と同様に検証を行うには、深海魚の出現から1か月のインターバルが必要になりますので、例えば1月9日に大阪湾に現れたマッコウクジラではもう少しの期間があります。このほか1月に現れた各生物の検証にはもう少し時間を要するため、2022年に出現した深海魚と、その後に大きな地震が発生したかどうかを調べてみました。

調査方法

 2022年、深海魚と地震の関係・大調査では、地震と深海魚出現に関する東海大学による先行研究Orihara et al.,2019)に準じた調査方法を採用しました。ただし、M6.0以上の地震だけでは数が限られることから、これに加えてさらに人々が大きな地震と認識しやすいといえる最大震度5弱以上の地震との比較も試みてみました。

調査方法
・深海魚出現:期間検索が可能なウェブ検索(google、Yahooニュース)、
 およびSNS(Twitter)により、2022年1月1日から12月31日までに、
 対象とした魚種名で検索してヒットしたもの
 発見日、場所、魚種、生死(確実な生存か否か)、状態、出典を確認
 可能な限り報道機関・水族館等公的機関による記録を確認

・対象とした深海魚種:リュウグウノツカイサケガシラテンガイハタユキフリソデウオ

・地震情報:Yahoo!天気・災害 地震情報(履歴一覧)より
 2022年1月1日から2022年1月7日(2022年の深海魚確認から30日後)
 までに、日本付近で発生したM6.0以上の地震を抽出(14地震)
 ※参考まで、震度5弱以上の地震も抽出(11地震、前者と重複を省く)

・検証:各深海魚が出現した場所(漂着・水揚げ港を含む)から100㎞、
 発見日から30日以内に、M6.0以上の地震発生があったかどうか。
 さらに、最大震度5弱以上を観測した地震でも同様。

・調査 だいち災害リスク研究所 所長 横山芳春

 この結果の概要は以下に掲載していますが、出典の情報を含めて、Google スプレッドシートに記載してあります。なお、深海魚については未公表の情報や検索結果のリンク先が消失していることから、2023年1月28日時点で確認できたものを掲載しています。インターネット上のすべての情報を網羅することは難しいと考えますので、抜け、漏れがあった際はご容赦ください。

2022年の深海魚出現は?

 2022年、対象となる深海魚の出現情報を収集してみたところ、23回の報告事例がありました。そのうち、リュウグウノツカイが14例サケガシラは8例テンガイハタは2例ユキソデフリウオは1例ありました(1例で2種確認が2回)。

 リュウグウノツカイは「幻の魚」という割には、1月に1回以上の14例も発見されており、うち生存状態では11例発見されていました。この中には表層に漂流している幼魚なども含まれています。なお、専門家による同定を経ていないものもあるため、例えばサケガシラとしている中には、形態の類似しているテンガイハタ等が混在している可能性もあります。

2022年の対象期間内における深海魚出現(Google スプレッドシート

M6.0・震度5強以上の地震前の深海魚出現はなし

  一方で、対象となるM6.0以上の地震はどのようなものがあったでしょうか。対象期間に発生した、M6.0以上の地震は13回ありました。大きなものでは、3月16日に発生した福島県沖の地震では、M7.3最大震度6強という地震がありました。

 深海魚の出現時期・場所と比較したところ、下記の通りM6.0 以上の地震発生前30日間に、100㎞圏内の深海魚出現はありませんでした。


2022年に発生したマグニチュード6以上の地震と深海魚の出現の関係性

 なお、※注1で示した、1月22日の日向灘を震源とする地震に近い日付では、「1月末」に愛媛県南西部の愛南町でリュウグウノツカイ幼魚、テンガイハタ幼魚が確認されています。ここでは日付は特定できませんが、いっぱんに月末とは末日もしくは31日ある月では25日~28日以降を指すことから、少なくとも日向灘地震のあった1月21日以前ではないと判断しました。「リュウグウノツカイは深海魚ですが、幼魚のころは浅場に出現(参考サイト)」という影響も考えられます。

 

 M6.0以上の地震をみると、内陸から離れた沖合いで発生した震源などで、日本国内では大きな揺れをもたらしていない地震も含まれています。このため、参考までに「2022年に日本国内で震度5弱以上」の揺れが観測された地震についてもピックアップしてみました。

 この結果、M6.0以上の地震とは別に、M4.7~5.8、震度5弱~6弱の地震が11回発生していました。それら11回の地震発生から1か月前に、震源域から100㎞程度以内で対象となる深海魚の出現があったかを確認したところ、対象となる最大震度5弱以上を観測した地震発生の地震発生前30日間に、深海魚の出現はみられませんでした。

2022年に発生した震度5弱以上の地震と深海魚の出現の関係性

 このなかで、6月19日、20日に大きな震度を観測している石川県能登地方の群発地震はやや他と異なる地震であることがわかっています。これらの群発地震は、東京工業大学の研究でによると、震源域直下にある流体の上昇が原因になっていると指摘されています。能登半島地震の震源域から100㎞圏内には、しばしば深海魚などの報告があり、11月11日にリュウグウノツカイ報告があった富山湾全域が含まれます。しかし、最大震度を観測した6月19日の一か月前以内に、100㎞以内での対象となる深海魚の出現はみられませんでした。

結論:2022年・深海魚出現後の大きな地震発生無し

 以上、2022年の一年間、各深海魚の出現後にその100㎞圏内で一か月以内に発生したM6.0以上、または震度5弱以上の地震があるか検証したところ、本調査の範囲における調査期間内においては、対象となる地震の発生はなかったものとみられます

 東海大学の先行研究におけるM6.0以上に加えて、最大震度5弱以上にまで範囲を広げて検証を行いましたが、該当するケースが認められませんでした。出現したときは話題になって地震の予兆か?などとキャッチーに取り上げられても、その後に地震があったかどうか検証されているケースはあまり見かけません。動物の異常行動・出現と地震発生の間には、今後とも現象の確認と共に、その後の検証が必要だと考えられます。

参考:小さな地震をもって的中といえるか?

 一部では、「深海魚が出現した後に小さな地震があったから的中した」、という意見も見られますが、これは関係があるとは言い難いと思われることが多いです。理由を説明します。

①小さな地震は頻繁に発生している
 例えば、昨年12月7日の宮城県金華山沖でのリュウグウノツカイ発見後、の翌日に約80㎞離れた宮城県沖でM3.7、震源の深さ55㎞、最大震度1の地震がありました。しかし、この地震は普段起きていない、特別な現象ではありません。気象庁震度DBによると、昨年1年間で宮城県沖を震源とし、震度1以上の揺れを観測した地震は106回ありました。つまり、昨年1年間の平均で3日に1回近くは発生している規模の地震です。実際に、出現後1か月ではM3.3~4.0、最大震度1の地震が5回、出現前の1か月にはM3.6~4.1、最大震度3の地震が4回起きており、特段変わったとは言い難いです。福島県沖でM7.3の地震があった3月には、宮城県沖の地震は33回もありましたので、むしろ12月は少ないともいえるでしょう。

②小さな地震は、規模があまりにも小さすぎる 
 参考まで、大きな地震と小さな地震の規模はどのくらい違うのでしょうか。地震が起きた際の断層面のおよその大きさ(青色/枠はおよその距離を示す)と、およその動いた幅(赤字/矢印の/矢印の長さは実際の長さではない)を示してみます。M3の地震とM7の地震を比較すると、例えばM3の地震ではわずか300mほどの断層面が1.5㎝動いたことに対し、M7の地震では、30㎞ほどの長い断層面が1.5m動いたほどになります。M8では100㎞もの断層面が5m動くほどの規模です。地図上のイメージで見ると、マグニチュードが1、2変わると地震の規模が大きく変わることがよくわかると思います。

 エネルギーでは、マグニチュードが1上がるとエネルギーは32倍大きくなる関係にあります。M3の地震とM7の地震では、数字上は4しか違いませんが、エネルギーでは約3万倍も違います

マグニチュードと地震断層面の大きさのイメージ(防災科研HPを参考に作図)

 12月8日の地震は、震源の深さ55㎞という地下深くで、1㎞に満たない断層幅が数㎝ズレた規模の地震です。これが、約80㎞先の深海魚の行動に影響を与えうるのでしょうか?。一方、金華山沖から約80kmほど以内で起きた、3月14日の福島県沖地震(断層幅が数10㎞、数mでズレた規模)という大きな地震の前に深海魚が出現することはありませんでした。日常的に起きている小さな地震と、その前に深海魚の出現があることに関連があるということは難しいことが多いと考えます。

③稀な現象×頻繁に起きる現象
 「地震発生という現象」だけみると的中したといもいえます。しかし、それは日々日常的に起こっている地震活動です。M3~4程度や最大震度2~3程度の地震は日本では日々、日常的に起きていることも念頭に置く必要があります。エネルギーも、大きな地震と比べると比較にならないほど小さいです。ゆえに、稀に出現する深海魚の発生を、頻繁に起きている小さな地震に結び付けることに合理性に乏しいもの考えます。超常現象や、地震予知、地震予兆に関わる人などは、このロジックをもとに的中を謳うこともあります。閲覧する側の方も地震や生物に関する正しい知識をつけることが重要であると考えます。

 宏観異常現象の中には、本当に大きな地震と関連するものも含まれていることは十分に考えられます。しかし、検証が行われていないことも多く、また遠方や日常的に起きている地震発生を持って的中という話があると約に立ちません。毎日のように地震が起こると発信していれば、いつか、どこかで地震が起こる=的中するように見えることもあるでしょう。しかし、それは「雨が降るまで雨ごいを続ける」ようなものです。動物の行動や様々な自然現象などを記録される方は、日々起こるような地震発生と短絡的に結び付けず、記録と合わせて検証(最大30日以内に100㎞以内でのM6以上の地震の有無など)をすることが望ましいでしょう。

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
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