さくら事務所の20年を振り返り、創業者であり取締役会長の長嶋修と、取締役社長の大西倫加による対談。
第二回は長嶋と大西が、社会ではばたく現代の若い力へのエールとも言える「仕事とは?」「人生の時間とは?」「働く意味、生きがい」についての熱い想いと、さくら事務所を通じてできることは?を深く語りました。
- 長嶋 修
1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社である、
不動産の達人 株式会社さくら事務所を設立、現会長。
“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”
第一人者としての地位を築く。
国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。
2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。
『100年マンション 資産になる住まいの育て方』(日本経済新聞出版社)など著書多数。
- 大西 倫加
広告・マーケティング会社などを経て、2004年さくら事務所参画。
同社で 広報室を立ち上げ、マーケティングPR全般を行う。
2011年取締役に就任し、 経営企画を担当。
2013年1月に代表取締役就任。
2008年にはNPO法人 日本ホームインスペクターズ協会の設立から携わり、同協会理事に就任。
2019年らくだ不動産設立。不動産・建築業界を専門とするPRコンサルティング、書籍企画・ライティングなども行っており、 執筆協力・出版や講演多数。
Q.長嶋さんと大西さんが一致したという、さくら事務所が大切にしている価値観は?
長嶋:
会社をやるからには必要とされるべきだけれど、たった今必要なのと、中長期的に持続可能な会社であることはまた別だよね。10年後20年後には求められていないかもしれない。そこをどうバランス取るかが大事じゃないかな。あとはね、娘が今就活中なんだけど…
大西:
もう大学三年生なんですね!
長嶋:
四年生になったところ。いくつも内定もらえても決め手に欠けるみたいで。正直今、自分が就活やってたら行きたい会社ないからね。思いつかない。笑
大西:
それはどうして?
長嶋:
今の社会のシステムや企業の在り方と、若い人たちが向かいたい方向やマインドが乖離してるんじゃないかな。それはいつの時代もそうで、自分も若い時はそうだったけど。「何でそんなことやってるの?」と疑問だらけの会社も少なくないんだよね。
大西:
今は時代の転換期ですよね。
長嶋:
そうそう。戦後の高度成長があってバブル崩壊して、リーマンショック…いろんなことがあった。もうそろそろ既存の在り方が根本的に転換しなくちゃいけない時期かな。仕事の在り方とか、社会のしくみ、政治経済、産業資本の関係を再構築した方がいい時期。ハードランディングでいくのか、ソフトランディングでいくのか。10年20年30年後に今と同じ考え方やり方が続くはずがないので…
大西:
そういうことも心がけてやってきたのが、さくら事務所の20年ですよね。
長嶋:
この社会で生きている以上お金…会社なら売上からは逃れられないし、社会の成績表なんだけど、そればっかり追っていると「そもそも何のために稼いでいるんだ?」「何のために仕事しているんだ?」となってしまう。もっといい概念っていうのは「自分たちが誇りをもって仕事をしている。それを世の中が称えてくれる」と結びつくこと。そういう考え方が大事じゃないかな。
大西:
自分の就活時代を振り返っても、どっちもどっちというか…。「なぜ働くか?」「今後どういう生き方で何を成し遂げるか?」「どういう風に社会とかかわっていくか?」「どう社会をよくしていきたいか」って、学生当時はまだふわっとしていたかなと思います。
あまり深く考えないまま「何人かの先輩の話を聞いて、面談をして」って就活のプロセスにと飛び込んでも、なかなか自分にあった仕事、環境を選ぶこと自体難しいですよね。システムの問題でもあるし、本人にもまだ見えていないっていうのもあって。
自分をとことん大事にする
長嶋:
最近少しずつは、変わってきてるよね。
大西:
これから流動性が高まって「転職が普通」に変わりつつありますね。複業でいくつかの組織と関わるのもひとつのスタイル。長いキャリア人生でやれること、やりたいことを増やして、貢献できる幅も増やす考え方が一般的になってきています。今は過渡期だから旧来システムの「何回か面談して、行きたい企業を決めましょう」に無理があるだけで。一度社会に出てから、自分を自在に変えていくといいと思うんですよね。
長嶋:
俺は就活自体をやったことがないからなあ。うーん、自分をとことん大事にすればいいと思うんだよね。この「自分を大事にする」っていう定義が大事。人生は時間そのものだからね。自分の時間をどんな風に満足に納得がいく過ごし方をするか。そうすると仕事している人は…。
大西:
仕事してる時間が一番長いですよね。
長嶋:
そうそう。その長い時間の仕事を苦行みたいにすると意味がないわけ。そこでいかに満足して、納得できるか。仕事で満足できると人生が充実する。自分を大事にしてる実感もある。逆にないがしろにしてしまうと「会社に搾取されている」とか変な話になっちゃう。個人のやっていることと、企業のやっていることを一致させられるかなんだよね。まともな経営者であれば、そこで働く人たちの時間を大事にしたいと考えるはず。
大西:
「時間」をどう使うかですね。
長嶋:
うん。みんな個性違うんだけど、その人たちがいかに納得して満足して仕事するか。そういう状況をつくるのが大事でしょ。その結果として会社がうまく機能する。会社と付き合う外の人。ご依頼者様も楽しく幸せになる。そういう考え方だよね。
大西:
仕事の定義って、何かしらの時間を切り売りして自分をすり減らした労働の対価=ガマン料みたいな定義ではなくて…。どの人の中にも「よき心」ってあると思うんですよ。人に感謝されるとか、人に貢献することがうれしい、誰かの役に立つ自分が好き…みたいな気持ちがあって。それが生きがいだったり、自分の存在意義につながると思うんですね。仕事ってそういう自分を成長させて発揮する場だと思っています。そういう時間の過ごし方って豊かだし、自分の可能性とか創造性とかを最大限発揮できるチャンスじゃないですか。
長嶋:
マズローの欲求で言うと「お金を稼いでいないと不安」とかね、もちろん仕事せざるを得ない人もいるんだけど、ここにとらわれているといい仕事にはならない。マズローの「承認欲求」も最上位ではないんだよね。誰かに認められるために仕事をするってことは、人に価値を預けちゃってるわけだからさ。最上位は「自己承認欲求」。自分が何で満足するのかをまず決めた方がいい。それを組織やプロジェクトをどう折り合いをつけていくかなんだよ。そういう姿勢でいるとたぶんいい仕事ができる。この「自己承認欲求」が満たされると低い欲求も自然に満たされるんだよね。
大西:
さくら事務所にはいろんな専門職のいろんな仕事があって、それぞれミッションは違うけれど、私が採用の最終面談で必ず聞いているのは、その「自己実現」の部分なんです。
長嶋:
どう聞いてるの?
大西:
「あなたはこの先、何を実現したい?自分をどれくらいの状態に持っていきたい?何をもって自分が幸せだと感じる?」みたいな質問ですね。それって人それぞれだと思うんですよ。その人がなりたい自分、かなえたい自分に合わせて、その人なりの力や可能性とうちの会社が一緒に力を発揮する。そうすることで「よきこと」を成し遂げ、それぞれの理想を追求できるか…を面談では大事にしてます。入社いただいた後もその人がなりたい自分に向かって成長しているか。会社というチームはその人の成長によって、切磋琢磨で成長できて、変化や進化に加速度がついて…というすり合わせを重視していますね。
Q.「仕事は苦行じゃない。自己実現」というと、人によっては耳障りがよく、仕事を甘く捉えてしまいそうな懸念もありますが…
長嶋:
そこは経営者の永遠の課題なんだよね。結局どういう場を作るかってことでゴールがない。同じような価値観、同じような喜びを感じられる人を極力集める。それでも100:0には絶対ならないんだよ。100人いたら80人くらいが同じ価値観で働けるといいと思う。全体を同じ価値観にもっていこうとすると、それはそれでまたおかしい話になるから。会社の価値観だって時代が変われば、それに合わせて変えていかなきゃいけない生き物みたいなものだから。8割くらいの人がOKだろうという価値観を経営者側で定義して、あとは中の人の化学反応待ちだよね。
大西:
私は会社を生き物としてとらえていて、チームを考える時、自然界になぞらえて考えることが多いんです。自然の中っていろんなものがあるじゃないですか。だから「会社の中にもいろんなものがあって自然」というのが大前提。いろんな環境のいろんな国があるのと同じで「これくらいの気候でこんな環境のこういう国ですよ」ってゆるやかに体現しているのが会社だと思っているんです。
すべての人が似た価値観で同じスキルで同じ方向に向かっていくのはストレスがないかもしれないけれど、自然じゃないので持続可能ではないですよね。ただ「よき事」をするために、誰かや社会によりよいインパクトをもたらしたいと思ってここにいるんだよ。っていう大前提は共有しておきたい。それと「報酬や働き方、会社として求める貢献範囲が大きく乖離していなければ、みんな違っていていいんじゃない?」っていうのが私の考え方です。
できるだけ全身全霊かけて貢献したい、それが自身の自己実現とつながっているタイプの人もいれば、趣味とか家庭を最大限大事にしながら「この範囲でいいことをしたいです。その代わり、会社のコミットも得られるものも適度で」というのも全然ありですね。個々人が「よきことをしていきましょう」っていう、それぞれの影響力でコミットできる環境が理想なのかなと思っています。
長嶋:
うん。さくら事務所に100%かけて一生のすべてを賭けたい人はそれもいいし、地域のことをやりたい、別のビジネスでこういうプロジェクトをやりたい、という人もそれでバランスを取ればいいよね。コミットの仕方はバラバラだけれど、価値観は一緒というのが最低限のルールかな。そこさえちゃんとしていれば、時間が長い、短いは全然関係ない。もしどこかの会社に100%コミットして働いていたら「働き方改革」いらないからね。好きで働くときは何時間でも働くし、そうじゃない時はやらないし。
大西:
もちろんそうじゃない人もいると思うんですけど、私の場合は「ワーク」と「ライフ」を切り分けて考えることが不可能なんですよ。仕事の定義が難しいんですけど、やってること自体が好きで楽しくてやりがいがあって、会っている人が好きで楽しくて趣味みたいなものなんです。それを「ワーク」と呼んで、どこかで線を引いて「ライフ」と呼びなさいっていうのがすごくとまどっちゃう。ワークそのものが「ライフ」であって、自分の人生から切り離せない。まさに「ワーク・イズ・ライフ」です。
長嶋:
三段階あってね、20~30年前は「ライスワーク」をしてたの。食べるため。そのうちライスワークとライフワークをやりたいという人たちが出てきたのがこの10年20年くらいかな。最近はライスワークは幸せになれない。ライフワークと思っているものを仕事にするのが必要だよねと、ここ最近ようやく言われるようになった。
大西:
仕事上で必要だから勉強したり、勉強しているともっと知りたいから探求したり。会ってみたい人が増えて会食してっていうのはどこまで仕事なの?と言われると、頼まれなくてもやっているし、趣味というか大いなる愉快な遊びというか。一日の大半を費やしてやりたいことをやって、会いたい人に会ってワイワイやっている。私にとって仕事っていうのは文化祭やお祭り前夜の準備してるみたいなんです。わくわく面白くて夢中になれる時間がずっと続いている人生が幸せだと思うし、今その毎日を送れてるのはありがたいことだと思っています。
長嶋:
さくら事務所では作った時からそうなのよ。20年前から。ライスワークなんてなくて最初から「ライフワーク」。こういう価値観の人だけが集まってねと。人と組織を選んじゃう感じなんだけど、そういう中で人の役に立ちたい、お金を稼ぎたいという人には合っている組織かなと思います。