紛争や戦争が続く激動の時代。日経平均は4万円を超え、金の価格も史上最高値を更新しました。不動産市場も同様に、土地の価格は上昇を続けています。1000年、2000年に一度とも考えられるこの変化の時代に、さくら事務所はどのような存在であるべきか。創業者・長嶋修が改めて語りました。
- 長嶋 修
1967年、東京生まれ。1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社・さくら事務所を設立、現会長。
業界の第一人者として不動産購入のノウハウにとどまらず、業界・政策提言にも言及するなど精力的に活動。「第三者性を堅持した不動産コンサルタント」の第一人者としての地位を築く。
2024年4月現在、登録者数6.85万人のYouTubeチャンネル(長嶋修の「日本と世界の未来を読む」)を運営。不動産投資・政治・経済・金融全般についての情報発信をするYouTuberとしても活動中。
経産省・国交省など国の15委員を歴任、多数のTV・メディア出演・講演・出版・執筆活動で政策提言や社会問題に言及、著書31冊。最新刊に『バブル再び ——日経平均株価が4万円を超える日』(2022年、小学館)。
世の中の三極化は最後の局面へ
「激動の時代」などとよく言われますが、この時代を迎えるにあたって私たちさくら事務所がどのようにあるべきか、私、長嶋の考えを記しておこうと思います。
2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻、そして2023年10月にはイスラエルとハマスが武力衝突を始め、世界では戦争や紛争が起きています。第二次世界大戦後、いわゆる「戦後」というレベルではとうてい収まらない、1000年に一度、2000年に一度とも言ってもいいほどの激変の時代が来ている。そう私は考えています。
ところが、こうしたことが起きているにもかかわらず、日経平均は2024年3月に4万円を超えました。さらに、仮想通貨や金価格が最高値を更新するといったニュースも見聞きします。ただ、本来であれば、こういうことは起きません。というのも、通常、株価に不安がある時、経済や金融が破綻してしまうのではないかという時に金の価格は上がっていくのです。つまり、株価が高い時には金は安く、株価が低い時には金が高い。これが普通、というかこれまでの常識だったわけですが、その常識に反することが起きているのです。
これはどういうことかと言うと、この世の中が、三極化が進む最後の局面にあるということなんです。不動産価格を例に挙げると、全体の15%は「価格維持、あるいは上昇する地域」、70%は「なだらかに下落を続ける地域」、残り15%は「限りなく無価値、あるいはマイナスの地域」へと三極化していきます。これは1990年代初頭のバブル崩壊以降、現在まで続いている流れですが、世の中はフラクタル構造になっていますから、不動産市場のみならず、ありとあらゆる国、分野、業界でこのような三極化が進んでいます。その終盤に差し掛かって、従来型のさまざまなものが壊れ始めている。そういうプロセスにあるのが現代なのだと思っています。
お金の価値は、あくまで「上がったように見える」だけ
経済、金融についてのお話に戻りましょう。なぜ株価も金も仮想通貨も、そして不動産価格も高くなっているのかというと、簡単に言えば、国がお金を刷り過ぎてしまったからなんです。
アメリカを例に話しますが、日本も状況は変わりませんので、そのつもりでお聞きください。米FRB(連邦準備制度理事会)、日本で言う日銀ですね、このFRBがこの数年でどれくらいのお金を刷ったかを見ていくと、リーマンショックが起きた2008年にお金の総量を約2倍に増やしました。
2019年ごろには市場が落ち着いてきたのですが、そこで世界的に新型コロナウイルス感染症が蔓延し、またお金を刷りました。結果、2007年と比べておよそ9倍の量です。これはつまり、お金の価値が2007年比で1/9になってしまったということ。株価や金、不動産の価値が上がっていても、それは、「上がったように見える」ということでしかないのです
お金の価値はどのように変わったか。他の通貨も含めて見ていきましょう。およそ50年前、1971年の金の価格を標準として、USドル、ユーロ、スイスフラン、日本円の価値を100とすると、この50年間でUSドル、ユーロは約1/50になりました。スイスフランは約1/12.5、日本円は約1/20です。これは要するに、この50年間は金と通貨の関係で言えばずっとインフレになっていた、言い方を変えれば金の価値が高まり続けてきた50年だったと言えます。日本は特にバブル崩壊後、私たちの生活実感で言えばデフレの時代でした(牛丼が200円台だった時代ですね)。しかし実際には市場におけるマネーの量が増えており、お金の価値が下がってきたということだったのです。
金融だけでなく、あらゆる既存体制が崩壊していく時代
今回の変化は、これだけでは収まりません。先進国の代表であるG7(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカ)と新興国の代表であるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)とを比較した時、GDP(国内総生産)の総量における割合が、逆転し始めました。BRICSのGDPのほうがG7のGDPを上回る時代がやってきたのです。今後、圧倒的にBRICSが優位に立つであろうことは、容易に予想できますよね。従来の金融システムでは、もうやっていけなくなることは間違いありません。
いま起きているのは、金融だけでなく、政治、宗教……あらゆる既存体制の崩壊です。教育もそうですね。現在の教育システムは明治維新後にイギリスの協力を得て作られたものですが、この体制が生まれて150年ほど経ったいま、陳腐化している部分が見えてきていることは否めません。仕事もそうです。「仕事ってどういうことなの?」「お金を稼ぐってどういうことなの?」といった価値観が根本的に変わろうとしてきています。
さくら事務所は、世の中をより良い方向にリードしていく存在でありたい
さくら事務所を創業した25年前から、こうなるだろうなということを私は予想していました。このような世の中になる時に必要な会社でありたい、その先の世の中においても必要とされる会社でありたい、そう思いながらさくら事務所とともに生きてきました。
そうした時代における象徴的なキーワードをいくつかご紹介しましょう。
「大きいもの」から「小さいもの」へ。会社で言えば、これまでは大企業がいいと言われていましたね。いい高校、いい大学に入って、いい会社に入って……というコースがいいとされていました。既に「従来型のコース」と言ってもいい考え方になりつつあると思いますが、個人の幸せ、あるいは職業人としての幸せは、必ずしもそうしたコースの上にはあるとは限りません。そのことに多くの方が気づき始めていると思います。
「重いもの」から「軽いもの」へ。ものすごく大きな集団でマスゲーム的に動くよりも、個人、一人ひとりの動きが大事になるということです。一人ひとりの動きの集大成として集団が成り立つというイメージですね。
そして、「見えるもの」から「見えないもの」へ。個人にまつわる偏差値や知能指数、学歴、資格、そういった目に見えるもの、つまり「鎧」の価値を完全に否定するものではありませんが、その鎧を脱いた状態でその人が何をするのか。それが今後重要になってくるということです。仕事で言えば、「何を大事にして生きているのか」「どんな理念を大事にして仕事をしているのか」、そうしたことを考え続け、実行することが求められるのではないかと思っています。
先程の三極化の話に戻りますが、多くの企業、多くの仕事、多くの職業人、そして私たち一人ひとりも、やはり三極化していきます。先に挙げた図で言えば、一番左の場所、私たちさくら事務所は、いつもここにいたい。世の中をより良い形、より良い方向にリードしていく、導いていく、そういう位置付けでありたいと考えています。
さくら事務所は25年、らくだ不動産は5年、続いてきました。今後、50年、100年、あるいはもっと続く組織体でありたいと思っています。そのためには、私たち自身も、どんどん変化していかなくてはなりません。いま掲げている理念も、場合によっては時代に合わせて変えたほうがいいかもしれない。事業に関しても、時代に反した不要なものは捨てたほうがいいかもしれない。長く続く組織というのは、新陳代謝が適切に行われていくものです。そういうことができる私たちでありたいと私は思っています。