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【インタビュー|土屋 輝之】
顧客のニーズを聞き出し、それを実現する。 これまでも、これからもそれは同じ

およそ20年という長きにわたり、さくら事務所、そしてマンション管理組合向けコンサルティングサービスの歴史とともに歩んできた執行役員の土屋輝之。さくら事務所の黎明期を振り返ってもらうとともに、次世代を創っていくメンバーへの想いを聞きました。


土屋 輝之(つちや てるゆき)

不動産売買及び 運用コンサルティングなどを幅広く長年にわたって経験後、さくら事務所に参画。不動産、建築関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を持つ不動産とマンション管理のスペシャリスト。さくら事務所執行役員。社内の隠れた愛称「ヨーダ」


「あなたも宅建を取っておいたら?」
妻の一言から始まった不動産人生

さくら事務所で長い間コンサルタントとして活動している土屋さんですが、若い頃は技術者をしていたと聞きました。

そうなんです。もともとは消防設備の会社で設計や点検の仕事をしていました。もう、かれこれ40年くらい前のことですが。

 

そうだったんですね。それがどうして不動産業界に?

当時、妻が商社で働いていて。最先端のビジネスをしている商社の周辺では、「これからは不動産の時代だ」という機運が高まっていたんですって。それで妻が、「将来を見込んであなたも宅建の資格を取っておいたら?」って私に言ったんです。

ちょうど土地を購入し、家を建てている頃で、お世話になっている不動産屋さんに宅建のことを話したら、「合格したらウチで働いてくださいよ」っていう話になって。奇跡的に1回で試験に合格できて、トントン拍子に不動産屋さんになったという次第です(笑)

 

そんなことがあるんですね(笑)

そういうちょっとしたきっかけで業界に入ったんですが、成績はすごく良かったんですよ。見習い期間を経て不動産売買の営業を担当し始めてすぐに会社でトップの営業成績を収めて。それからずっと、トップの座を守り抜きました。向いていたんでしょうね、不動産屋さんの仕事が。

 

奥様に先見の明があったということですか(笑)

そうかもしれないですね。不動産の営業の仕事は都合16年ほどやりました。収入も良かったし、楽しいこともたくさんあったんだけど、少しずつ苦しくなってきてね……。

数字に追われる毎日
「これでいいのかな」という違和感が強くなっていく

何があったんでしょう?

立場が上になってくると、数字に追われるようになるんです。

当時は新築分譲マンションのモデルルームの所長を務めていたんですが、「モデルルームを見に来たお客さん全員に、物件を買わせろ」という指示が、会社の上層部から来るんですよ。

そうなると、嘘をついてでも売らなきゃいけなくなるんですよね。

 

たとえば来場者に「修繕積立金って、将来的には高くなるんでしょう?」なんて聞かれても、「そんなことないですよ」とシラを切ったり。

確かに最初は毎月の修繕積立金は5,000円と低めの設定になっているんです。でも、手元の資料では、20年後には毎月40,000円になるという予測の数字が出ている。

これを言わない。隠すんです。

 

素知らぬ顔で、「そうですね、修繕積立金をどうしていくかは、マンションの管理組合のみなさんで決めていくことですから。そんなに高くならないんじゃないですかね」って。

でも、そういうことがだんだんイヤになってくる。これでいいのかな……って、違和感が強くなってくるんです。

それで、将来のことをぼんやり考え始めました。

「オレがやりたいことをやってるヤツがいる!」
それがさくら事務所との出会い

どんなことを考えていたんですか?

自身のこれまでのことを考えると、私は建物の消防設備のことを知っている。新築、戸建ての仲介も戸建て、マンションともにやってきた。マンション営業をやっていた頃にはマンション管理士の資格も取り、管理組合のお世話のようなこともやってきた。

そうした経験を活かして、不動産コンサルティングのような仕事ができたらな……って。

そんな頃にネットで情報収集をしていたら、さくら事務所を見つけたんです。

 

そこでさくら事務所につながるんですね。

長嶋修さんという人を見つけて、「あっ!オレがやりたいことをやってるヤツがいる!」って(笑)。

それからは、暇さえあればさくら事務所のサイトを見て、端から端まで記事を読みました。

 

ちょうどその頃、仕事のストレスもあったのかな、病気になってしまって。退職することが決まったこともあり、さくら事務所にコンタクトをとったんですよ。

当時はまだ創業後数年、社長だった長嶋さんがすべての採用を担当していたので、長嶋さんに面談してもらい、さくら事務所への入社が決まりました。もう20年くらい前のことですね。私は45歳になっていました。

 

さくら事務所は2003年3月に株式会社化していますが、ちょうどその頃ですね。

そうそう。これまでの経験を活かしてマンション管理組合向けのサービスをがんばっていこうということになって。

でも、サービス内容は現在とはちょっと違ってましたね。さくら事務所って、当時からホームインスペクション(住宅診断、建物調査)の色が強い会社でしたから、マンションの管理組合から寄せられる相談は、組合運営に関わることではなく、施工不良などの案件が多かったんです。

組合からの相談を一つひとつ解決していくうちに、少しずつサービス内容が広がっていった

マンション管理組合向けのサービスは順調に進んだのですか?

今じゃ考えられない話ですが、結構、めちゃくちゃな順序でサービスを作ったりしたんですよ。

当時、サーモグラフィーカメラ(物の表面温度が温度に応じた色で表示されるカメラ)が世の中に出始めてきた頃で、社内で「これ使って、新しいことをやろう!」という話が出て、さっそくリース契約を結んでしまった。

リース料は、毎月20万円くらいだったかな。そのカメラを使って具体的に何をするかも決まってないのに(笑)

 

それはひどい(笑)。元は取れたんですか?

管理組合からの依頼は相変わらず建物の調査に関するものが多かったので、外壁の劣化診断にサーモグラフィーカメラを使ってみたんです。

マンションの外壁仕上げに使われているタイルやモルタルに、異常な浮き(コンクリートに適切に接着されていなくて、剥がれる恐れがある状態)が無いかをサーモグラフィーカメラの色温度でチェックするわけですね。気温や日陰の影響も受けるので、必ず異常を見つけ出せるわけではないのですが、手が届かない高所などはこれでしか調べられない。

そうすると、人の目では見られない接着状態が可視化されることのインパクトや、見た目には異変が無いと思っていた外壁に浮きがあることを見つけた実績が手伝い、どんどん外壁タイルの調査のお仕事をいただくようになって。数年で元は取れました。

手探りで新しいことにチャレンジしているうちに、少しずつサービス内容が広がっていったんです。

 

他にどういったチャレンジをされたんですか?

ある時、建物の調査をやらせてもらった分譲マンション管理組合から、「工事が決まって施工会社から見積もりが届いたんですが、その内容が適切かどうかわからないのでチェックをお願いできますか?」とご相談いただんですよね。マンション建築やその時期の建築単価などの知識がないと、見積もりの精査はできませんからね。

私たちがチェックした結果、500万円ほど余計にかかっているようだったので、それをお伝えすると、大変喜んでくださいました。

このあたりから、管理費や修繕積立金のコストダウンについて相談を受けることが増えましたね。

 

その後、同じ管理組合から今度は「工事費用が安くなったのはうれしいんだけど、手抜き工事が不安で……」というご相談が来て。

ありがたいことに、管理組合の中で「安くなった500万円を使ってさくら事務所に工事のチェックを依頼しましょうよ」という意見が出たようで、第三者工事チェックも始めさせていただきました。

そうやって、次は大規模修繕工事のコンサルをしてくださいと言われたり。ちょっとずつ、ちょっとずつ実績を積み上げて、現在のようなサービスが固まってきました。

 

でも、よく考えてみると、ぼくらのやったことはサーモグラフィーカメラを買ったことだけなんですよね。たまたま、新築マンションの内覧会立ち会いを依頼してくださった方が管理組合の理事になられ、その方がきっかけとなり、その管理組合から外壁調査のお仕事をいただいた。

「こんなのやれませんか?」とご相談をいただき、それがさくら事務所の仕事になっていった。結局、管理組合のニーズに応えることの繰り返しでここまでたどり着いた、というのが本当のところです。

20年経って実感する、仕事の原点

なるほど、そうやってさくら事務所の礎が築かれてきたんですね。

既にあるものを売るのが仕事なんじゃなくて、顧客と信頼関係を築いてニーズを聞き出し、それを実現することが仕事なんだな、と思います。

古くから営業の原点だと言われていますが、要するに、昔の酒屋さんが醤油や味噌の配達もやっていたのと同じ。御用聞きですよね。

さくら事務所の今後を創っていく方には、新しいものを自分で考えていくという姿勢を強く求めていきたいです。

 

ゼロからの築きは、本当に大変だったでしょう。

それは確かにね。でも、さくら事務所で仕事を始めてからは、成果を出すために変なセールストークを使ったり、嘘をついたり、隠し事をしたり、そういうことをしないでよくなりましたから、精神衛生上、すごく安定していた。晴れ晴れした気持ちで働けるのは大きいです。

先程も言ったように、不動産の世界では、数字を上げるためには何をしてもいいっていう悪い慣習があったんです。

でもさくら事務所の場合は、理念に照らし合わせて、それが理念に背くことであれば、どんなに儲かることでもやりません。明確な判断基準があるんです。

 

理念に合わないことなら、依頼を断ることもあるのですね。

一般的な営業会社は逆ですよね。売上が先で、理念は二の次三の次。四の次……、くらいの会社もあるかな(笑)。

だから、さくら事務所のように理念第一主義を掲げる会社は珍しいですよね。「理念に背くことはやらない」という明確な信念があると強いですよ。

その信念が知らず知らずの間に周りに伝わって、いつの間にか、理念に背く仕事が来なくなります。理念に背かず、無理せず、一生懸命に仕事をしてさえいれば、わかってもらえるんです。

自分が自分らしく生きられる場所

土屋さんにとって、さくら事務所はどんな存在ですか?

さくら事務所の仕事って、一般のみなさまの困りごとに寄り添って、解決の糸口を見つけてあげて、場合によっては一緒にその糸口を手繰ってあげるような仕事なんです。

不動産の営業をしている頃、成約が決まって10万円とか20万円とか、個人的にお礼をくださる方もいらっしゃいました。でも、さくら事務所の仕事で困りごとを解決して、ご依頼主から「ありがとう」って言われるほうが何倍もうれしい。深みが違うんですよね。

困っている方の相談に乗って、自分の経験や得意なことを生かしてそれを解決し、感謝してもらったうえにお金もいただいて。

さくら事務所って、もちろん自分の職場なんですけど、なんというか、自分が自分らしく生きられる場所なんです。ここで生きることが心地いいからこそ、20年も続いたんでしょうね。

私がいままで築いてきたものを、次の世代の人たちにどうやって伝えていくか。60代半ばを過ぎた私に課された最後の大きなチャレンジとして、そこに専念したいと考えています。

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