Culture

徒然草
さくら事務所が生まれるまで(前編)

創業者の長嶋が、さくら事務所の誕生を語ります。
さくら事務所の歩みでもあり、挑戦の歴史。
創業以前の仕事観を振り返りながら、どんな経験を経て独立したのか、
長嶋を突き動かしたものは何なのかをお聞きください。


長嶋 修

1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社である、
不動産の達人 株式会社さくら事務所を設立、現会長。
“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”
第一人者としての地位を築く。
国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。
2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。

TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。
『100年マンション 資産になる住まいの育て方』(日本経済新聞出版社)など著書多数。


はじめに

さくら事務所について
私が経営する株式会社さくら事務所とは、国内で初めて「個人向け不動産コンサルティングサービス」をスタートさせた、業界ナンバーワンのリーディングカンパニーです。

1999年に「人と不動産のより幸せな関係を追求し、その思想を世の中に広めること」を目的として設立された、いかなる金融機関・事業会社とも資本関係を持たない、中立・公正な不動産コンサルティングサービス企業、それがさくら事務所。
完全独立系の消費者エージェント企業です。

売り手側の論理でなく、完全中立な立場から調査報告・アドバイスをご提供しています。
「不動産の達人サービス」は、購入者の要望をふまえながら第三者的な 調査やアドバイスを差し上げるサービス。不動産を売る立場ではないため、まったく利害にとらわれないアドバイスをできるのが特徴です。

イメージは「かかりつけのお医者さん」
あなたが、あなたと不動産のより幸せな関係を築く道しるべとなるべく、コンサルティングサービスをご提供しています。

さくら事務所のホームページアクセスは現在、50万ページビュー/月を超え、また、TV・ラジオ・新聞・雑誌等、各種メディアにも数多く取り上げていただ いています。
依頼者の方からのご紹介も多く、場合によってはご依頼をお断りせざるを得ないほどの状況も。
これはひとえに、私たちの姿勢や考え方に共感や支持をいただけた結果だと、感謝しています。

まずは私の自己紹介を
簡単に私の足取りを説明させていただきますが、私は以前、不動産デベロッパーで中古住宅の仲介・売買や、大きな土地を仕入れて新築の建物プランを作ることから、販売、そして資金回収、というような仕事に携わりました。

不動産売買における一通りのことを経験しています。
その不動産会社で結構売れる販売員となり、入社一年でひとつのお店を任せられ、もうそれこそ夢中で不動産を売ってきたのです。
本当に、たくさん売ってきました。

本当の一番とは

仕事にも慣れ、ある程度自分に余裕が出てきた頃、どうしたら本当の意味で、自分は不動産の世界で一番になれるのか、ということを考えました。
一番というのは、成績はもちろん知識、提案力、ありとあらゆるすべてにおいて、「真の実力ナンバーワン」ということです。本当の意味で一番になりたいと思いました。
そこで、不動産の世界で実力ナンバーワンになるために、まずはもっと勉強しなければと思い立ったのです。

日本において不動産とは、経済そのもの。
だからまず「経済」、そして「お金」についても勉強してみました。
お金の成り立ちから変遷、欧米の財閥などがどの ようにお金を動かしているのか、歴史的文脈の中で、日本は今どういった位置づけにあるのか、そしてその日本の中で、不動産はどうなっているのか、ということをです。
また世界の「人と不動産の関係」 はどうなっているのか、日本とはどう違うのか、といったことも。
その範囲は膨大で、全てを詳細にやっても終わらないため、すべての概略をどんどん理解していく、というやり方でした。

しかしこの勉強こそが、不動産の世界で一番になりたいという、かつて描いた本来の趣旨とは違う考えを、私にもたらすことになりました。
勉強すればするほ ど、「人と不動産の関係」の現状を知れば知るほど、現在日本で行われている不動産売買がいかに粗雑で、適当で、いい加減で、そのためにいかに多くのマイナスが生まれているのか、ということがくっきりと見えてきてしまったのです。
その他、いろいろな意味を含めて、日本の不動産事情は特殊だと感じました。
私にいわせれば、ちょっと異常といってもいいくらいの世界なのです。

そうして、最終的に20名弱の部下を抱える支店の支店長となっていた私に、「もしかしたら私はとんでもないことをしているのではないだろうか」という考えが頭をよぎりはじめたのです。

それまで、ただ「売る」ことだけに夢中で、そんなことを考える時間も、頭もなかったのに、とにかくそう思ってしまったのです。売ることに、ためらいをもつようになってしまったのです。

影を落とし始めた業界、その背景

甘えてきた不動産業界
つい最近まで、建物は20年でその価値がほぼゼロということになっていました。
それは、国土交通省(旧建設省)の指導、国策によるものです。

住宅政策は、景気回復の2番バッターといわれています。1番は公共事業。
高度成長期は、住宅をバンバン造って、バンバン壊して、それで経済を盛り上げるという大いなるムダがあって、まあそれでも皆が経済的に、または物質的に豊かになり、日本経済は順調に盛りあがってきました。
当然、資源のムダ遣いとか、環境汚染などの問題は別にあるでしょう。

現在は周知の通り、高度成長も終わって、さらに本格的な人口減少社会、少子化・高齢化社会問題などもあり、これからは成熟国家を目指そう、大人の国になろう、という方向に向かいつつあります。

資本主義経済において人口はパワー。しかし、その人口は2005年がピークでした。
(世帯数のピークは2015年)また人口構成も変わり、働き盛りの若者が減って、圧倒的に高齢者が増えることになります。

しかしいまだ、日本の不動産売買は高度成長期時代を引きずっています。
高度成長期の頃、基本的には不動産価格が上昇しつづける神話がありました。
少し雑な取引をしたって、あるいはちょっと失敗したって、それでも不動産価格が上がるのだから、結果オーライ、とうことで問題が顕在化しなかったのです。
当時は、あまり細かいことを言っていると、その間に不動産価格はどんどん上がってしまい、早く買わないと不動産なんか買えなくなってしまう、そんな現実もありました。
実際、国土交通省(旧建設省)が毎年公表する「地価公示」によると、70年代、年に1.5倍も地価が上昇した時もあったのです。

この状況に、不動産業界は永らく甘えてきました。
いろんなことをキチンとしなくても、細かいことなど言わずにバンバン売ってしまったほうが、結果的にお客さんが買った不動産は値上がりして喜ぶのだと。
小手先の営業テクニックと、少しの知識さえあれば、誰でも不動産業で儲かる時代があったのです。
しかし、もうとっくにそういう時代は終わっています。

不動産価格は下落を続けています。正確に言えば、

・上昇している、ほんの一部の不動産
・下げ止まりを見せ始めた、一部の不動産
・下落をし続ける大半の不動産

という状況。

この状況下において、未だ旧態依然とした不動産売買が行なわれているのが実態なのです。
おそらく、皆さんが想像されるよりずっと、現実はひどいものでしょう。

4つの課題

なぜそう思うかの理由は、主に4つあります。

1.取引の仕方があまりにも雑
売り物件についてきちんと調査せず、つまり、その物件の事をロクに知らない状態で売っています。
これでは確率の問題で、何件かに一件は大中小の間違いが起きてしまいます。
2.業界人のレベルが低すぎる
ほとんど無知に近い状態といっても過言ではありません。
不動産は一見難しそうで、とっつきづらそうに感じるために、購入者の方は何がなんだかわからないというまま、少しだけ不動産を知っている業界人の言葉を信じ、どんどん前に進んでしまいます。
「人がいい」とか「一生懸命やってくれる」というようなことが判断基準になったりします。
これは大変キケンなことです。実に恐ろしいことなのです。
実際には、本当に不動産のことをわかっていて売買に携わっている業界人は、ほとんどいないのです。
自覚がなく、無知で、プロ意識もないままに堂々としている人が多いのが、この業界の特徴なのです。
3.売る側の心構えがなっていない 購入者をお客さんだと思っていない
「買わせてやる」とか「お客をあの物件にはめる」なんてことも聞きます。
この物言いは、普通ではないでしょう。
そして基本的に「売ったら終わり」の業界。
「不動産」は、特に住宅は、クレーム産業です。クレームなど本当は、正面きって誠実に対応すれば感謝されたり、また他のお客さんを紹介してくれたりといいことばかりなのに、面倒に考えて逃げてしまったりするのはバカらしいことです。
購入者のためにはならないことを、あえて、購入者のためにやっているのだというわかりきったウソをついてマンションを売っている業者もいます。有名な上場会社の中にも。
4.買う側の無責任
誤解を恐れず言えば、買う側も無責任ではないでしょうか。
自分のことなのに、何も知らない、わからない状態で買っているのです。不動産を買うにあたって、自分は特段の勉強もしなくてもイイ、そんな雰囲気が世の中にたしかにありました。
自分は何も勉強しないで、それで欠陥住宅をつかんでしまった場合、それはそれで気の毒なことであるけれども、それでも買主にもある程度の責任があるはず。
これからは、購入者自身ももっと勉強して、賢くならなくてはいけないのです。
とにかく、現状のままではだめです。このままではまずい、まずすぎるのです。

人と不動産の関係に横たわる事実

安い買い物をするならいいでしょう。失敗したって取り返せるし、笑ってすませられます。
リカバーもできます。しかし不動産だけは、適当に売ってはいけません。
それだけはやってはいけないのです。額が大きすぎます。3000万・5000万単位です。
私たち購入者の、生涯収入の数分の一をも占める買い物です。

それに住居用不動産は、絵画など美術品のように、なくてもよいというものではありません。
生活に必要不可欠な買い物です。この一世一代の買い物で失敗したら、普通の人はまず立ち直れないでしょう。そんな多くの失敗や、後悔を、たくさん見てきました。

これが現実であり、事実です。
この現状にあって、自分はどうしたらいいのか、この客観的状況の中、自分はどう考え、どんなポジションで仕事をしていったらいいのか、そればかり考え続けました。

安い買い物をするならいいでしょう。失敗したって取り返せるし、笑ってすませられます。
リカバーもできます。しかし不動産だけは、適当に売ってはいけません。
それだけはやってはいけないのです。額が大きすぎます。3000万・5000万単位です。
私たち購入者の、生涯収入の数分の一をも占める買い物です。

それに住居用不動産は、絵画など美術品のように、なくてもよいというものではありません。
生活に必要不可欠な買い物です。この一世一代の買い物で失敗したら、普通の人はまず立ち直れないでしょう。そんな多くの失敗や、後悔を、たくさん見てきました。

これが現実であり、事実です。
この現状にあって、自分はどうしたらいいのか、この客観的状況の中、自分はどう考え、どんなポジションで仕事をしていったらいいのか、そればかり考え続けました。

埋まらない溝

本来あるべき姿とは・・・
不動産業の、真にあるべき姿とはどんなものだろうか。
私が考えた末に行き着いた、本来あるべき姿とは、

・知識/見識が豊富
・倫理観が高い
・長期的展望にたつ(売ることがすべてではない)

そして、「本当のことを言う」ということでした。

あるお客さんがお店に来ます。
その方に対するアドバイスは、本来は、大きく3パターンにわかれるはずです。

・今買うべき
・数年後に買うべき
・買うべきではない

それをいつだって、「今が買い時ですよ」と不動産屋は言います。
誰がいつ来たって、「今が買い時ですよ」と言うのです。
とにかく売らなくては商売にならないから、それが当然だと、彼らは思っています。
そのうえ、その人にとってベストな不動産を紹介するわけではありません。
自分が売りたい不動産、不動産屋が売りたい不動産をすすめるのです。

これはおかしい。こんなことでよい訳はありません。

不動産業の本来あるべき姿、不動産売買に携わる者のあるべき姿というのは、
購入者の、

・マイホームや、人生に関する考え方・要望
・希望するライフスタイル
・ライフサイクル

これらをきちんとヒアリングしたうえで、その人にとっての最適なアドバイスをすること。
非常にシンプルで単純なのです。

しかし現実には、ここで問題が発生します。
「そんなことしたら、不動産が売れなくなってしまう」と、業界側が思ってしまうことです。
それで、小手先テクニックで営業してしまうのです。あるいはまた、根性論の世界だったり。
こういうのは美しくありません。

不動産を勧める前にも、もっと詳細な調査をするべきです。
その土地についても、建物についても。
そのうえで、もっとキチンとした契約書を作るべきなのです。
今の調査レベルや書類作成のレベルでは、お話になりません。
もう、必ず間違いが起こるようになっているクオリティーなのです。そんなレベルです。

「無力な購入者」VS「狡猾な業者」。
そんな悲しい現実を見て、バランス的に、自分は真のアドバイスができる立場に身を置きたいと思うようになりました。
そういったものが社会に必要だとも、切実に思ったのです。
自分の親や兄弟や、友人にアドバイスを求められたときは、商売抜きで利害のない話をするのに、お客さんにはそれをしないなんて、それはどこかおかしいはず。
もちろん、そんな業者ばかりではなく、きちんとやっているところだって当然あります。

会社への提案
そこで私の考えを、当時勤めていた会社に提案してみました。
社内ベンチャー的なやり方で、現在さくら事務所が行なっていることとほぼ同じようなことをやらせてくれと、企画書を作って役員に頼んでみたのです。

結果は、全くだめ、思いきりボツでした。
理由は簡単です。「そんな事したら、不動産が売れなくなってしまう」からでした。

それは大いなる勘違い
でも、これは大きな勘違いです。実際はその逆なのです。
信用され、紹介が増え、会社はますます発展するはずだと私は考えていました。

しかし当時は、誰に相談しても反対ばかり。
反対理由は主に、以下のようなことです。

日本では、個人が形のないコンサルティングサービスにフィーを払う概念は根付かない
儲からない 普通に不動産屋をやったほうが儲かる
国土交通省がそのようなものを認めない
ふざけるなと思いました。
よいことをやろうとしているのに、どうしてそんな理由で反対するんだろう。今思えば、私のことを思っていってくれたのだと理解はできます。しかし当時の私は、反対意見を聞けば聞くほど奮い立ち、そこで会社を辞めて独立したのです。

記事をシェア
xでシェアする facebookでシェアする
一覧へもどる