2018年に創業したらくだ不動産株式会社は、不動産の売買仲介会社ながら「売上げノルマ無し」「個人のSNS推奨」「フラット組織」。それでいて創業以来右肩上がりの業績向上を成し遂げ、全国に仲間が増え続けている。およそ普通の不動産会社では考えられないスタイルで、なぜ業績・メンバー数ともに拡大し続けられるのか、らくだ不動産副社長の山本直彌に話を聞きました。【全3編:中編】
- 山本直彌
らくだ不動産株式会社 副社長執行役員・不動産エージェント
マンション・ビル管理、不動産仲介の経験を経て、マンション管理コンサルタント・不動産エージェントの業務に従事。これまでに500件以上の不動産仲介を経験。2023年にらくだ不動産・副社長執行役員に就任。
ー そもそもらくだ不動産は、どんなことを目指している会社なんですか?
らくだ不動産として今やるべきところというのは、不動産のエージェント型取引の定着です。今は不動産を売買・賃貸しようとすると、多くの方々は不動産エージェントに相談するのではなく「〇〇不動産」にお願いするという認識だと思うんですよ。
また、不動産が欲しいからまずは物件をインターネット上で探すといった、日本の不動産取引の根底にあるその考え方を変えて、まずは不動産エージェントに相談するという商慣習に変えたいという思いがあります。
他にも、仲介手数料上限が料率で定められていて、不動産価格が低いエリアでは、仲介手数料だけでは事業が成り立ちにくいところがあります。でも本来、不動産取引はその地域が発展していくために不可欠なものなんです。
らくだ不動産では、いろんな形の不動産エージェント像があって、行政書士との兼業でらくだ不動産のエージェントになるとか、二足のわらじを履きながら不動産業務に従事して、その街のために働ける、そんな環境を作っていきたいなと本気で思っています。
そのためにはまず、らくだ不動産としては業界の模範となるべく、不動産エージェントの伝道師・先駆者になることが、直近の目指すべき目標の姿だと思っています。
ただ、そうは言いながらも、これまで不動産エージェントという考え方が広まっていないところを考えると、まずは、らくだ不動産として、他の不動産会社からも尊敬されるような会社になること、そんな立ち位置になることを目指していきたいと思っています。
そのために、業務拡大をしていく必要があります。創業から5年でらくだ不動産単体で見ると不動産エージェントという考え方が浸透してきているので、次は第2創業期として、この考え方をスタンダードにするための一歩とするためにも事業拡大と仲間を増やしていきたいと思っています。
それらが今後、日本の不動産業界のネオスタンダードになるということを発信していく、らくだ不動産として、もっと足腰を強くすることを考えています。ホップ・ステップ・ジャンプで例えれば、今は、ホップが終わり、ステップという感じです。
ー らくだ不動産は創業から5年経ちましたが、次の5年後にどうなっていたいですか?
5年後の姿を想像した時には、所属している不動産会社に関わらず、個人の不動産エージェントとしてのリテラシーを持った方々が増えている業界になるべきだと思っています。
らくだ不動産はエージェント個人のセルフブランディングを大切にしていますが、必ずしも必須ではないと思ってるんです。
例えば、大手の不動産会社にいながらも、個人で不動産エージェントとしてのリテラシーを持ってお客様のために仕事をする、そんな個人単位の倫理感を持ったプレイヤーが広まっていること、それが5年後に目指すべき姿かなと思っています。
らくだ不動産単体で言えば、具体的な売上額というよりも、1件1件の取引というのが1人の幸せを叶えてるという考えで、その数を倍増したいと考えています。
いまは年間100件ほどの取引件数なので、5年後には倍の年間200件を超える不動産のストーリーに関われるようなエージェントを育成していきたいという思いです。
ー なるほど、業界の枠を超えた不動産エージェントの広がり、楽しみですね。ところで、いわゆる普通の不動産屋と不動産エージェントって何が違うんですか?
私の中では扱う商材がそもそも違うと考えています。いわゆる、一般の不動産屋というのは売買することであったり、賃貸することをゴールに置いています。成約したら、そこで関係が終わることが一般的です。今でも、そのような考え方が一般的ですね。
私たち不動産エージェントは、お客様の将来にわたって不動産とどう向き合うべきか、将来まで考えているからこそ買うべきなのか、売るべきなのか、というところから相談に乗ることが考え方として大事だと思っていて、私たちはあくまでも自分を信頼してくれた依頼者の方々の「資産」が商材だと思ってるんです。
売ったり、買ったり、借りたり、貸したりがゴールではなく、そこがスタートになるという考え方です。
実際、不動産を売買するということはそのようなことだと思っています。売主様だったら、売却してお金が入ったら、その後どうするのかという次の課題が出てきますし、買主様は、自分が買った不動産をどのようにメンテナンスしていこうということを考えますよね。マンションであれば管理組合運営状況をどう改善して資産価値をどのように高めていこうかということも考えると思います。
そうしたことに答えられることが、不動産エージェントのリテラシーとして必要だと思いますので、そこに「不動産屋」と「不動産エージェント」の大きな違いがあるということです。見据えている年数や時間軸はまったく違うということです。
だからこそ、不動産エージェントは不動産取引だけ詳しければ良いわけではなく、不動産取引以外の専門性も大事にしてるんです。例えば、らくだ不動産では、マンション管理や資産運用、建築であったり、いろんな資格を持ったりスキルを持ってる不動産エージェントがいます。要は、そのような個性や特徴を持ったエージェントがその専門性を生かして、金融で悩みがあるお客様がいたら金融のアドバイスをしてあげたり、建物なら建物、災害リスクなら災害リスク、マンション管理ならマンション管理というような形で不動産の領域を超えたアドバイス・サポートを求められていると思っています。
らくだ不動産は個人向け不動産コンサルティングやホームインスペクションの実績が業界No.1のさくら事務所グループなので、さくら事務所の専門家の知見を活用できることも大きなメリットです。不動産エージェントとしても、様々な専門性を身につけられる環境があります。
ー 長い時間軸で考えた結果、一般の不動産屋さんと違うアドバイスをすることもあるんですか?
「これからマンションを売ろうかな、どうしようかな」と迷っているときに、一般の不動産屋に相談をすると、普通は「売却した方がいいです」と言われることが多いと思います。不動産エージェントの場合、お客様が次に住む家が決まっていないタイミングであれば、「売却すべきではない」とアドバイスをすることがあります。
大事なのは「売るか、売らないか」という行動ではなく、お客様の次のプランが決まっていないタイミングで売却することを不動産エージェントはお勧めしない。これが売却の局面で1番あることです。
一方、購入の局面での代表的な例としては、例えば、勤務先が品川駅だったら品川駅から電車で30分で通勤できる範囲で探される方が多いと思います。一般的な不動産営業の場合には、30分圏内で探して、予算に収まる物件に当てはめていきます。
不動産エージェントは違います。個別の様々な事情や考え方、今後のライフプランをしっかりヒアリングして、新しく家を買うとよりも、そもそも環境を変えた方がいいとアドバイスすることがあります。
例えば、家を探している方がすごく気に入った街があったとしますね。その場合には、この街に住み続けられる仕事に変えようとか、職場を変えようというような発想もしてみます。意外とそのようなアドバイスをすると、「確かに、実はそう遠くない未来で仕事を転職しようと考えてたんです」となることもあります。品川駅から30分圏内で探して購入したとしても、2・3年後に転職となると、また売却しなければならない可能性が出てきます。
そのようなところをきちんと説明してあげて、本当に買うべきなのかをアドバイスしてあげる、このような事例が多くあります。
ー まさに人生の伴走者ですね。ところで、不動産エージェントはすごく良いことをしているように思うんですが、なんで不動産業界には少ないんでしょうか。
根底を言いますと、宅建業法が両手取引を認めてるからという部分が、正直あると思っています。
他の大きな要素としては、日本の不動産取引の情報が閉鎖されていて情報の非対称性を利用したビジネスが成り立っているからもあります。要は不動産会社に聞かなければわからない、情報が出てこないということが、今でもあります。
不動産エージェントを選んで取引することが、一般的なアメリカの場合には、MLSという日本でいうところのREINS(レインズ)の情報と、Zillow(ジロウ)やREDFIN(レッドフィン)の情報は、ほぼ同じ情報、情報に大きな格差がないんです。
※REINS:不動産業者用の物件情報サイト、一般公開されていない
※Zillow、REDFIN:日本のSUUMOなど不動産ポータルサイトに近いが、物件の情報が非常に詳しく公開されているサイト
そうすると、情報の非対称性を利用したビジネスが成り立たなくなっていて、気になっている物件が本当に自分にとってベストかどうかをプロである専門家、不動産エージェントに相談しようという考え方が成り立ちやすくなります。
ユーザーに豊富な情報がある状態で不動産エージェントにアドバイスを求めることが、アメリカでは常識と言われています。不動産エージェントは要望に答えるために、より高い倫理性と専門性が求められているのです。
後は、情報がブラインドになっていることも日本における不動産エージェント取引が広まらない1つの理由だと思っています。
今、日本の不動産営業の仕事は情報を与えることが仕事になっています。でも、例えばアメリカは情報がオープンになっている中で、自分にとっての正しい情報がどれかをアドバイスや精査してあげるのが、不動産エージェントの仕事になっています。そこに、大きな差があります。情報がたくさんあるので、ベストな情報は何かを精査して、届けてあげるのがエージェントの本来あるべき仕事ですね。
例えば、日本でも、マンションと戸建てのどちらがいいのか、災害リスクはどの程度気にするのか、築年数の許容範囲など、様々条件をきちんと整理して、その上で、ベストな物件を二人三脚で一緒に探すことが、本来の理想の姿だと思います。
現状では、日本の不動産営業は自分たちが情報を持っていて、問い合わせされた方だけに情報を与えることが仕事になってしまっています。
さらに日本は特有で、両手取引を認めているからこそ、両手取引を誘引するために囲い込みが起き、それによりまた情報にブラインドがかかるという状況です。
日本でも、不動産エージェントの考え方が広まって、その上で、らくだ不動産のような社風の会社がいいか、それとも、大手不動産会社の安心感を買いたいのか、どちらに依頼してもリテラシーが高い不動産エージェントがそこに所属していれば、消費者の皆様にとってはとても良い話だと思います。
だからこそ、そこを目指していきたいと思っています。らくだ不動産として、不動産エージェントの考え方をより広めていくためにも、今回、事業拡大をして仲間を増やす必要があるのです。