マンション大規模修繕の談合、42社に排除措置命令。管理組合が今すべきこととは

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2026年9月、マンションの大規模修繕工事をめぐる談合に対し、公正取引委員会は施工会社40社と設計コンサルタント2社の計42社に排除措置命令および課徴金納付命令を下しました。長年「出来レース」や「癒着が常態化している」と言われてきた業界の実態に、ついに大きな行政処分が下された形です。

本記事では、40年近くマンション管理に携わってきたマンション管理コンサルタントの土屋輝之が、業界の構造的問題である「談合」や「癒着」、そして管理組合がすべきことについて現場の実感を交えて解説します。

目次

公取委が42社の談合を認定。長年指摘されてきた実態がついに表面化

2026年9月28日、公正取引委員会は、東京都と神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、栃木県、群馬県の関東1都6県で行われたマンション大規模修繕工事をめぐり、設計コンサルタント2社と施工会社40社の計42社に独占禁止法違反(不当な取引制限)を認定しました。このうち38社には再発防止を求める排除措置命令が、施工会社37社には総額16億3,788万円の課徴金納付命令が出されています。マンションの大規模修繕工事をめぐって公取委が行政処分に踏み切ったのは、今回が初めてです。

対象はいずれも「設計監理方式」による工事

マンション 大規模修繕工事 設計監理方式

談合が認定されたのは、遅くとも2021年9月以降に関東1都6県で行われた171件の大規模修繕工事です。いずれも、管理組合が劣化診断や設計、施工会社選定の補助といった業務を設計コンサルタントに委託したうえで発注する、いわゆる「設計監理方式」の工事でした。工事ごとに、設計コンサルタントと「受注協力関係」を築いた施工会社が受注予定者となり、それ以外の施工会社は、指定された金額で見積もりを出すか見積もり合わせに参加しないことで受注予定者に協力していました。

加えて、設計コンサルタントは、業務の過程で知り得た管理組合の発注予定金額にあたる「設計予算」などの情報を受注予定者に提供し、受注予定者の意向を踏まえて設計コンサル業務を行っていたと認定されています。

「助言役」のはずの設計コンサルタントの背信

今回の処分で特に重いのは、施工会社だけでなく、設計コンサルタント2社が談合の中心にいたと認定された点です。公取委の資料によれば、工事を受注した施工会社は原則として、工事請負契約の契約価格の5%を目安とする金額を設計コンサルタントに支払っていました。管理組合に中立的なアドバイスをするはずのコンサルタントが受注予定者を決め、工事業者と利益を分け合っていたことになります。

国土交通省によれば、2021(令和3)年度に設計コンサルタントが大規模修繕工事の受発注に関与する「設計監理方式」を採用したマンションは実に80%以上におよびます。

設計監理方式 割合
出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」

「一件落着」で終わらせないために

排除措置命令を受けた各社には、取締役会での再発防止の決議と工事を発注した管理組合への通知に加え、独占禁止法の遵守に関する行動指針の作成や役員・従業員への定期的な研修が命じられました。あわせて公取委は、施工会社から設計コンサルタントに支払われる「手数料」が施工会社間の競争をゆがめるおそれがあるとして、設計コンサルタントや施工会社の業界団体3団体に対し、会員への周知を申し入れています。

不正を続けてきた企業が実名で処分されたこと自体には、もちろん一定の抑止力があります。一方で、課徴金を納めて「一件落着」という感覚になってしまえば、何も改善されないまま同じことが繰り返されかねません。実際、大規模修繕以外の建築工事でも談合は繰り返し摘発されてきましたが、それで談合がなくなったとはいえない状況です。大規模修繕工事だけが今回の処分で談合と無縁になると考えるほうが、むしろ不自然といえます。

その意味で、今回の処分は「これで終わり」ではなく「これが始まり」です。少なくとも管理組合は、談合を止めるためのスタートラインに立ったという感覚で取り組んでいただきたいと考えています。マンションには無関心層が多いといわれるなか、連日の報道を通じて、必要不可欠な工事である大規模修繕工事で談合が行われていたという事実が広く知れ渡ったことは、大きな一歩になったといえそうです。

マンション大規模修繕における談合の手口

マンションの大規模修繕工事では、施工会社の選定において、複数社に相見積もりを取るのが一般的です。ただ実際には、すでに受注業者が内定しており、他の会社は見せかけだけの「偽装競争」であるケースも少なくありません。設計コンサルタントや管理会社が中心となって「今回はA社に受注させる」などと決め、そのための形だけの見積もりを他社が出すといった構図がその典型です。

競争している“フリ”。形だけの相見積もり

談合とは、施工会社同士が事前に価格を調整し合う行為を指します。今回の処分では契約価格の5%を目安とする金額が設計コンサルタントに渡っていたと認定されましたが、工事の規模によっては工事費の10~20%程度が管理組合の知らないところでバックマージンとして授受されるケースもあります。これは本来は不要なコストであり、管理組合にとって大きな損失です。

こうした癒着構造は、設計事務所や管理会社が特定の施工会社を選び、見積もりや工事の内容まで裏で調整する形で、長年業界に根付いてきました。形式的には公募も行われており、外形的には不正が見えにくいためこれまで見過ごされてきましたが、ついに「NG」が下された形です。

設計監理方式の弱点

設計監理方式で癒着が起こりやすい最大の理由は、見積もりへの参加があまりにも簡単なことにあります。この方式では、設計コンサルタントが改修設計として工事の内容と数量を決め、それをもとに見積書のフォームを用意します。フォームはExcelで作られているのが一般的で、施工会社は単価の欄に自社の単価を入力していくだけで見積もりに参加できてしまいます。なかには、受注予定の施工会社がそのフォーム自体を作っているケースもあります。

実際、100~200戸程度のマンションであれば、フォームさえ整っていれば2~3日で見積もりを作成でき、現場も1回見れば参加に支障はないというのが施工会社の積算担当者の実感です。この手軽さが「今回はうちに譲ってほしい」「次はこちらにやらせてほしい」という業者間のやり取りを生み、公正に競争させているように見せながら、実際には設計コンサルタントを中心に受注そのものがコントロールされていきます。設計コンサルタントが談合を主導するうえで、設計監理方式は都合のよい仕組みだったといえます。

管理組合が見抜けないカラクリと典型的な手口

理事や修繕委員を務める方の多くは、建築や契約の専門知識を持っていません。そのため「大手の管理会社だから」「コンサルが入ってくれているから」という理由で、特定の企業に一任してしまうのが一般的です。その裏で癒着や談合があっても、住民や委員が気づくのは困難です。「見積もりの単価が高すぎる」「仕様が妥当でない」といった判断は専門家でなければ難しく、これは情報の非対称性がもたらす弊害ともいえます。

修繕業者の癒着・談合には、主に次のような手口があります。

  • 常識外に安価な費用で設計監理業務を受託し、工事費で回収する
  • 受注予定会社が、見積もり・劣化診断・改修設計のすべてに関与する
  • 息のかかった施工会社以外の応募がない
  • 見積参加会社すべての見積もりを、受注予定会社が作成する
  • 資本金や実績などの応募条件を厳しく制限し、参入障壁を高めて市場を独占的にコントロールする

談合は、表面的な見積もり調整にとどまりません。受注予定の施工会社が他社分の見積もりまで作成する例や、見せかけの競争のためだけに他社を巻き込む例もあります。こうした手口によって、住民が長年積み立ててきた修繕積立金が、気づかぬうちに数千万円単位で失われている事例も少なくありません。

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排除措置命令が出ても談合はなくならない?回避する術は

今回の公正取引委員会の排除措置命令は、業界内外に大きな衝撃を与えました。実名報道のインパクトは業界内での警戒感を強め、一定の自浄作用をもたらすことになるでしょう。とはいえ、今回処分の対象となっていない施工会社や設計コンサルタントに談合がなかったのかというと、そうとは言い切れません。また、2年、3年と月日が経つにつれ、今回の一件が風化してしまう可能性もあります。

現状は、癒着によるバックマージンや出来レース構造を避ける手段が乏しく、当たり前の手順で修繕を進めたつもりでも、結果的に損をする構図が温存されたままです。特別な対策をしなければ被害を受けてしまうという点にこそ、「マンション修繕工事における談合」問題の根深さがあります。

大事なのは「丸投げ」しないこと

実は2017年1月の時点で、国土交通省から「設計コンサルタント活用」についての注意喚起と相談窓口の周知を目的とした文書が通達されています。その内容は、設計コンサルタントと施工会社の結託による利益相反を指摘し、管理組合が中立に施工会社を選定できる体制が必要であると注意を促すものです。

つまり、今回の排除措置命令で問題となった構図は、9年以上前にすでに警鐘が鳴らされていたのです。注意喚起だけでは止めきれなかった問題が、行政処分という形でようやく表面化したともいえるでしょう。

警鐘が生かされなかった背景には、管理組合が判断そのものをコンサルタントに委ねてしまう構図があります。設計監理方式では、信頼して起用したコンサルタントに「この施工会社がよいのではないでしょうか」と言われれば、管理組合としてはその会社と契約するのが自然です。

普段からの付き合いを踏まえてそう考えること自体は悪いことではありません。一方で、理事会や修繕委員会として組合員への説明を果たそうとしたとき、「コンサルタントが言うから」「管理会社が勧めるから」だけでは根拠として心もとないのも事実です。

「プロポーザル方式」という選択肢

プロポーザル方式 マンション 大規模修繕工事

さくら事務所では、施工会社から自由な提案を募る「プロポーザル方式」を採用しています。設計監理方式は、決まった工事仕様書に施工会社が金額を入れるだけの簡易な仕組みですが、プロポーザル方式は管理組合が要望する工事を伝え、各施工会社に独自の工事仕様書を作成してもらうため、金額だけではなく、各社の「スタンス」や「工夫」を比較することができ、談合も起きにくい方式です。もともと談合防止だけを目的に考えた方式ではありませんが、結果的に不正が起こりにくいことから、歴史は浅いものの、この10数年で大規模マンションからタワーマンションまで多くの管理組合に採用されてきました。

プロポーザル方式では、コンサルタントが「この会社がよい」と特定の施工会社を推すことはありません。たとえば3社の提案を比較する場合でも、どの会社を選ぶかは管理組合自身が決断します。設計監理方式に比べて管理組合が自分たちで判断する場面は増えますが、その分、特定の会社へ誘導される余地は小さくなります。

今回処分の対象となった施工会社のなかには、過去にさくら事務所のプロポーザル方式へ提案してきた会社も含まれますが、その提案の場で金額調整などを図る様子はこれまで見られませんでした。ただし、プロポーザル方式においても、独自の提案とはいえ、似通った内容とすれば各社が口裏を合わせられないわけではありません。

「設計監理方式だけが危険」というわけではなく「今回処分の対象となった施工会社や設計コンサルタント以外であれば安心」というものでもありません。同じ会社であっても、管理組合がどういう進め方をするかによって、談合に巻き込まれるリスクは大きく変わります。最近では、責任施工方式や設計監理方式といった既存の枠にとらわれず、自分たちのマンションに合わせた独自の発注方式を組み立てる管理組合も出てきています。「特定の会社に任せておけば安心」という考え方が否定されたというのが今回のニュースの正しい受け止め方といえます。

▶大規模修繕工事の3つの発注方式を比較。設計監理方式・責任施工方式・プロポーザル方式の違いとは

談合のリスクを下げる具体策

談合のリスクを下げるために最も効果的なのは、統一の仕様を作らないことです。すべての会社に同じ仕様で見積もらせると、裏で金額調整が図られても外からは分かりづらくなります。逆に、各社が提案力を競い、自由に見積もりを出す条件にしておけば、似たような見積もりが並んだ時点で「口裏を合わせているのではないか」と気づける可能性が高まります。

このとき鍵になるのが、工事の内容を管理組合自身が選ぶことです。シーリング工事や防水工事、鉄部塗装工事など、項目ひとつひとつについて「どんな仕様にするか」「どの程度の保証がある製品にするか」を検討していれば、見積もりの中身を自分たちで検証できます。検証できるからこそ、似通った見積もりかどうかが分かり、談合リスクが下がるのです。反対に「安くて、できるだけ良い工事を提案してほしい」と中身を任せきりにするほど、談合に巻き込まれるリスクは上がっていきます。

あわせて、選定プロセスの透明性を高める工夫も有効です。たとえばさくら事務所では、施工会社からの応募書類をコンサルタントだけが受け取るのではなく、管理組合とコンサルタントの双方に同じ情報を届けるようにしています。情報を一方に集中させないことが、談合リスクを下げる取り組みのひとつになります。

さらに、コストの考え方も重要です。今回の談合は、設計監理方式で表向きのコンサル費用を下げ、その分の利益を裏側から調整して回収する仕組みでした。だからこそ「安ければいい」「高ければいい」という単純な比較ではなく、適切なコストを払って適切な工事を選ぶという姿勢が求められます。

「手間をかけた見積もり」を出す施工会社こそ信頼できる

見積もりへの参加が簡単すぎることが談合の温床になるのであれば、対策はその逆を行くことです。何社も比較することにこだわるより、1社であっても、その会社にしっかりと現場を見て図面を確認してもらい、そのマンションのための工事内容と見積もりを一から作ってもらうほうが、しっかり精査できる体制さえあれば健全な選び方になります。

100~200戸のマンションでも、このやり方で見積もりを作ろうとすれば1~2ヶ月は必要になります。それだけのマンパワーをかけた施工会社であれば、他社から「今回は譲ってくれ」と言われても応じるはずがありません。見積もりを作ること自体に手間をかけてくれる施工会社こそ、信用できる施工会社だといえます。

もちろん、1社だけに見積もりを依頼する進め方には、他社の見積もりを取らずに費用や工事内容の妥当性をどう説明するのかという、総会での合意形成の課題が残ります。その場合は、契約を考えている施工会社の見積金額を伏せたうえで、同規模の別の施工会社に事情を説明して金額を入れてもらい、大きな違いがなければ妥当と判断する方法もあります。先に見積もりを作ってくれた施工会社にきちんと断りを入れてから行うのが前提ですし、2社が裏でつながっていれば意味をなさないため100%とはいえませんが、こうしたひと手間が談合に巻き込まれるリスクを下げてくれます。

住民一人ひとりの意識を高めることも大切

住民一人ひとりが談合のリスクを自分事として捉えることも大切です。談合という問題が実際に業界内で起きていたという認識がなければ、適切な対策を講じようという動機も生まれません。

今回の一連の問題をすべての住民と共有し、危機意識を醸成していくことが、その出発点になります。これから報じられるニュースや本記事のような専門家による解説を積極的に共有するなど、住民全体がこの問題を自分事として捉えられるよう働きかけていくことが求められます。

談合に巻き込まれるリスクは、今後さらに高まるのか

新築マンションの供給戸数は減少傾向にあるものの、新たな供給は続いており、マンションのストックは増え続けています。既存のマンションは時間の経過とともに必ず次の大規模修繕工事の時期を迎えますから、大規模修繕工事の市場規模は今後も拡大していくものと考えられます。

都市部を中心にマンション価格が高騰し、新築ではなく中古を選ぶ人が増えるなか、大規模修繕工事を終えたばかりのマンションやこれから工事を控えたマンションを購入する人も増えています。工事の件数が増えれば、それだけ談合に巻き込まれる管理組合も増えるという見方ができます。

「資本金1億円」の壁が、本当の競争を妨げている

談合を防ぐ最も効果的な方法は、多くの施工会社がマンション大規模修繕工事の世界に参入し、本当の意味で競争が激しくなることです。ところが実際には、見積もり参加の条件として「資本金1億円以上」「直近5年間に一定件数以上の実績」といったハードルが設けられていることが少なくありません。条件を厳しくするほど公明正大な比較につながるという認識は根強いのですが、参加できる会社が最初から絞られてしまえば、実質的には業者を指名しているのと変わらないのが実情です。

資本金1億円を積んでいる施工会社はそれほど多くありません。大規模修繕工事を専業とする会社のなかには、会社の規模が大きくなくても、見積もりに参加するためだけに資本金を積んでいるところもあります。このことからも、参入のハードルそのものが健全とはいえない業界構造の入り口になってしまっているといえるでしょう。管理組合としては、募集要項の条件を見直して門戸を広げることも、談合リスクを下げる選択肢のひとつになります。

「知らない人」を減らすための情報開示を

市場が広がるなかでリスクに向き合うには、談合という問題を一人でも多くの人に知ってもらうことが重要です。今回の報道で問題を知った方は多い一方で、これからマンションを買おうとしている方の多くは、まだそこまでキャッチアップできていないのではないでしょうか。

たとえば、マンション売買の重要事項説明の際に「大規模修繕工事を何年に実施した」という報告だけでなく、その工事を施工した会社が公取委の処分を受けたかどうかまで伝わる仕組みがあれば、購入のタイミングでリスクを知ることができます。購入後に管理組合の運営に関わる際も、過去に問題があったのなら次はどう進めるかという議論につなげられます。需要と供給のバランスを整え、情報をより細かく幅広く開示していくことが、これからの業界には求められます。

談合問題はマンションの資産価値や修繕積立金にどう影響するか

今回の公取委の発表では、談合が認定された171件の工事について、対象となったマンションの名前が排除措置命令書の別表で公表されました。該当するマンションにお住まいの方は、資産価値への影響を心配されているはずです。

今後は、管理組合が施工会社に損害賠償を求める動きが出てくる可能性もあります。なかでも区分所有者にとって最も身近な問題が、修繕積立金への影響です。工事費の高騰で修繕積立金の値上げが相次ぐなか、談合がそこにどう影響するのかを整理しておきましょう。

名前が出たマンションも、資産価値への直接的な影響は限定的

結論からいえば、今回名前が公表されたマンションについては、取引において資産価値が直接的に大きく下がることはないものと考えられます。賃貸に出した場合の家賃への影響はまず考えにくく、売却価格についても、談合の有無そのものが相場を動かすとは考えにくいところです。むしろ、名前が出たマンションの管理組合は今後、二度と同じことが起きない仕組みを整えていくはずで、長い目で見れば修繕積立金を抑える方向に進んでいくと見ることもできます。

一方で注意したいのが、修繕積立金の金額です。談合によって割高な工事費を払っていた場合、修繕積立金が条件の近い他のマンションに比べて高くなっていることがあります。購入を検討する人がその理由の説明を求めたり、疑問を感じたりしても不思議ではありません。

修繕積立金は「なぜこの金額なのか」を説明できるようにしておく

そこで有効なのが、修繕積立金に関する情報開示です。現在の金額に至った見直しの経緯と、今後の見通しをあらかじめ整理しておきましょう。

当面は増額の予定がないのか、それとも次回の大規模修繕工事の完了後に長期修繕計画を見直し、不足分の増額を検討する可能性があるのかといった方針まで開示しておけば、いわれのない疑いをかけられて資産価値に影響することは、少なくとも防げるものと考えられます。

本当に注意すべきなのは「自分たちは関係ない」と思っている管理組合

今回の発表は、設計コンサルタント2社、171件、契約価格の5%という具体的な数字を伴うものでしたが、これはあくまで立ち入り調査の対象となった範囲での話です。今回名前が出なかった設計事務所や施工会社が関わった工事でも、同じような被害に遭っている可能性は決して低くありません。自分たちのマンションは無事だったと安心するのは時期尚早です。

談合に巻き込まれた工事は、相場より高い費用で発注している可能性があります。ただ、その影響はすぐには表れません。工事直後に修繕積立金が足りなくなって借入れが必要になるわけではなく、何十年か先に修繕積立金が不足するという形で、将来の区分所有者にのしかかってきます。そう考えると、自分たちのマンションが被害に遭ったかどうかにかかわらず、未来に向けて議論することに意味があります。

修繕積立金をできるだけ抑えて工事を進める方法を自分たちで工夫し、発注のプロセスに能動的に関わることが何より大切です。管理組合が関われば関わるほど、談合をもくろむ施工会社や設計事務所は手を出しにくくなります。今回の一連の報道を、そうした仕組みづくりのきっかけとして受け止めていただければと思います。

管理組合と業界への2つの提言

最後に、今回の処分を受けて2つの提言をお伝えします。ひとつは管理組合が今すぐ取り組めること、そしてもうひとつは業界全体への呼びかけです。

コンサルタント契約に「ペナルティ条項」を

管理組合にお願いしたいのは、コンサルタントとの業務委託契約書にペナルティ条項を入れることです。ペナルティ条項とは、談合などの不正が明らかになった場合の措置をあらかじめ契約に定めておくもので、すでに取り入れている管理組合もあります。不正を行う懸念がなければ、契約書にペナルティ条項を入れることに何ら支障はありません。

万が一のときの救済は、ペナルティ条項の有無で大きく変わるというのが弁護士の見解でもあります。どの会社とコンサルタント契約を結ぶ場合でも、契約書にペナルティ条項が入っていなければ、追加するよう求めることをおすすめします。

名前が出なかった会社も、コンプライアンスの見直しを

今回処分を受けた各社は、公取委から再発防止策の実施やコンプライアンスの見直しを義務付けられました。しかし、先のとおり、2社・171件は氷山の一角です。今回名前が出なかった設計コンサルタントや施工会社にも、この機会に自社のコンプライアンスと談合防止策を見直し、「立ち入り調査は受けていないが、これを機にこう改めた」と、依頼を検討している管理組合に積極的に示してほしいと考えています。

公取委が業界団体に対して手数料の問題を申し入れたことも、業界全体で襟を正す契機になるはずです。談合が起こりにくい環境づくりに自ら取り組むコンサルタントや施工会社が増えていくことこそ、今回の処分がもたらす何よりの成果になるでしょう。

自分たちの資産は自分たちで守る時代へ

今回の排除措置命令の本質的な意義は、特定の企業が処分されたことではなく、管理組合が自らの資産を主体的に守ることの重要性が明確に示された点にあります。

大規模修繕工事の仕様・価格・プロセスは、すべての区分所有者の財産に直結します。専門家の力を借りることは必要ですが、最終的な判断と責任は管理組合自身が担うものです。丸投げをしない姿勢こそが、談合リスクを下げ、限られた修繕積立金を最も効果的に活かす土台になります。今回の問題を契機に管理組合が発注プロセスへの関与を深めていくことが、業界全体の健全化にもつながっていくはずです。

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執筆者

土屋輝之のアバター 土屋輝之 マンション管理コンサルタント

2003年さくら事務所に参画、不動産仲介から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び 運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを幅広く長年にわたって経験。
不動産、建築関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト。

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