マンション大規模修繕の談合、約40社に排除措置命令へ。管理組合が今すべきこととは

2026年6月、マンションの大規模修繕工事をめぐる談合に対し、公正取引委員会が施工会社と設計コンサルタントへ排除措置命令を出す方針を固めたと報じられました。長年「出来レース」や「癒着が常態化している」と言われてきた業界の実態に、ついに大きな行政処分が下されようとしています。
本記事では、40年近くマンション管理に携わってきたマンション管理コンサルタントの土屋輝之が、業界の構造的問題である「談合」や「癒着」について現場の実感を交えて解説します。
業界を揺るがす公取委の立ち入り調査──談合の実態がついに表面化
2026年6月、公正取引委員会は、関東地方のマンション大規模修繕工事で談合を繰り返したとして、施工会社と設計コンサルタントの計約40社に独占禁止法違反(不当な取引制限)を認定し、再発防止を求める排除措置命令を出す方針を固めたと報じられました。工事業者に対しては、計約16億円の課徴金納付も命じられる見通しです。
談合があったとされるのは、遅くとも2021年秋ごろから関東地方各地で行われたマンション100件以上の大規模修繕工事です。各社は見積もり合わせや入札の際に、事前に受注業者や金額を調整していたとされています。
「助言役」のはずの設計コンサルタントの背信
今回の処分方針で特に重いのは、施工会社だけでなく、本来は管理組合に助言する立場であるはずの設計コンサルタント2社も対象に含まれている点です。これは、管理組合に中立的なアドバイスをするはずのコンサルタントが談合を主導し、工事業者と不当な利益を分け合っていた事例もあったということを意味します。
国土交通省によれば、2021(令和3)年度に設計コンサルタントが大規模修繕工事の受発注に関与する「設計監理方式」を採用したマンションは実に80%以上におよびます。

マンション大規模修繕における談合の手口
マンションの大規模修繕工事では、施工会社の選定において、複数社に相見積もりを取るのが一般的です。ただ実際には、すでに受注業者が内定しており、他の会社は見せかけだけの「偽装競争」であるケースも少なくありません。設計コンサルタントや管理会社が中心となって「今回はA社に受注させる」などと決め、そのための形だけの見積もりを他社が出すといった構図がその典型です。
競争している“フリ”。形だけの相見積もり

談合とは、施工会社同士が事前に価格を調整し合う行為を指します。工事費の10~20%程度が管理組合の知らないところでバックマージンとして授受されるケースもあり、これは本来は不要なコストであり、管理組合にとって大きな損失です。
こうした癒着構造は、設計事務所や管理会社が特定の施工会社を選び、見積もりや工事の内容まで裏で調整する形で、長年業界に根付いてきました。形式的には公募も行われており、外形的には不正が見えにくいためこれまで見過ごされてきましたが、ついに「NG」が下された形です。
管理組合が見抜けないカラクリと典型的な手口
理事や修繕委員を務める方の多くは、建築や契約の専門知識を持っていません。そのため「大手の管理会社だから」「コンサルが入ってくれているから」という理由で、特定の企業に一任してしまうのが一般的です。その裏で癒着や談合があっても、住民や委員が気づくのは困難です。「見積もりの単価が高すぎる」「仕様が妥当でない」といった判断は専門家でなければ難しく、これは情報の非対称性がもたらす弊害ともいえます。
修繕業者の癒着・談合には、主に次のような手口があります。
- 常識外に安価な費用で設計監理業務を受託し、工事費で回収する
- 受注予定会社が、見積もり・劣化診断・改修設計のすべてに関与する
- 息のかかった施工会社以外の応募がない
- 見積参加会社すべての見積もりを、受注予定会社が作成する
- 資本金や実績などの応募条件を厳しく制限し、参入障壁を高めて市場を独占的にコントロールする
談合は、表面的な見積もり調整にとどまりません。受注予定の施工会社が他社分の見積もりまで作成する例や、見せかけの競争のためだけに他社を巻き込む例もあります。こうした手口によって、住民が長年積み立ててきた修繕積立金が、気づかぬうちに数千万円単位で失われている事例も少なくありません。
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排除措置命令が出ても談合はなくならない?回避する術は
今回の公正取引委員会の排除措置命令は、業界内外に大きな衝撃を与えました。実名報道のインパクトは業界内での警戒感を強め、一定の自浄作用をもたらすことになるでしょう。とはいえ、今回処分の対象となっていない施工会社や設計コンサルタントに談合がなかったのかというと、そうとは言い切れません。また、2年、3年と月日が経つにつれ、今回の一件が風化してしまう可能性もあります。
現状は、癒着によるバックマージンや出来レース構造を避ける手段が乏しく、当たり前の手順で修繕を進めたつもりでも、結果的に損をする構図が温存されたままです。特別な対策をしなければ被害を受けてしまう。それが「マンション修繕工事における談合」問題の根深さであり、本当の問題はそこにあります。
大事なのは「丸投げ」しないこと

実は2017年1月の時点で、国土交通省から「設計コンサルタント活用」についての注意喚起と相談窓口の周知を目的とした文書が通達されています。その内容は、設計コンサルタントと施工会社の結託による利益相反を指摘し、管理組合が中立に施工会社を選定できる体制が必要であると注意を促すものです。
つまり、今回の排除措置命令で問題となった構図は、9年以上前にすでに警鐘が鳴らされていたのです。注意喚起だけでは止めきれなかった問題が、行政処分という形でようやく表面化したともいえるでしょう。

さくら事務所では、施工会社から自由な提案を募る「プロポーザル方式」を採用しています。設計監理方式は、決まった工事仕様書に施工会社が金額を入れるだけの簡易な仕組みですが、プロポーザル方式は管理組合が要望する工事を伝え、各施工会社に独自の工事仕様書を作成してもらうため、金額だけではなく、各社の「スタンス」や「工夫」を比較することができ談合も起きにくい方式です。
今回処分の対象となった施工会社のなかには、過去にさくら事務所のプロポーザル方式へ提案してきた会社も含まれますが、その提案の場で金額調整などを図る様子はこれまで見られませんでした。ただし、プロポーザル方式においても、独自の提案とはいえ、似通った内容とすれば各社が口裏を合わせられないわけではありません。
「設計監理方式だけが危険」というわけではなく「今回処分の対象となった施工会社や設計コンサルタント以外であれば安心」というものでもありません。同じ会社であっても、管理組合がどういう進め方をするかによって、談合に巻き込まれるリスクは大きく変わります。「特定の会社に任せておけば安心」という考え方が否定されたというのが今回のニュースの正しい受け止め方といえます。
談合のリスクを下げる具体策
談合のリスクを下げるために最も効果的なのは、統一の仕様を作らないことです。すべての会社に同じ仕様で見積もらせると、裏で金額調整が図られても外からは分かりづらくなります。逆に、各社が提案力を競い、自由に見積もりを出す条件にしておけば、似たような見積もりが並んだ時点で「口裏を合わせているのではないか」と気づける可能性が高まります。
このとき鍵になるのが、工事の内容を管理組合自身が選ぶことです。シーリング工事や防水工事、鉄部塗装工事など、項目ひとつひとつについて「どんな仕様にするか」「どの程度の保証がある製品にするか」を検討していれば、見積もりの中身を自分たちで検証できます。検証できるからこそ、似通った見積もりかどうかが分かり、談合リスクが下がるのです。反対に「安くて、できるだけ良い工事を提案してほしい」と中身を任せきりにするほど、談合に巻き込まれるリスクは上がっていきます。
あわせて、選定プロセスの透明性を高める工夫も有効です。たとえばさくら事務所では、施工会社からの応募書類をコンサルタントだけが受け取るのではなく、管理組合とコンサルタントの双方に同じ情報を届けるようにしています。情報を一方に集中させないことが、談合リスクを下げる取り組みのひとつになります。
さらに、コストの考え方も重要です。今回の談合は、設計監理方式で表向きのコンサル費用を下げ、その分の利益を裏側から調整して回収する仕組みでした。だからこそ「安ければいい」「高ければいい」という単純な比較ではなく、適切なコストを払って適切な工事を選ぶという姿勢が求められます。
住民一人ひとりの意識を高めることも大切
住民一人ひとりが談合のリスクを自分事として捉えることも大切です。談合という問題が実際に業界内で起きていたという認識がなければ、適切な対策を講じようという動機も生まれません。
今回の一連の問題をすべての住民と共有し、危機意識を醸成していくことが、その出発点になります。これから報じられるニュースや本記事のような専門家による解説を積極的に共有するなど、住民全体がこの問題を自分事として捉えられるよう働きかけていくことが求められます。
自分たちの資産は自分たちで守る時代へ
今回の排除措置命令の本質的な意義は、特定の企業が処分されたことではなく、管理組合が自らの資産を主体的に守ることの重要性が明確に示された点にあります。
大規模修繕工事の仕様・価格・プロセスは、すべての区分所有者の財産に直結します。専門家の力を借りることは必要ですが、最終的な判断と責任は管理組合自身が担うものです。丸投げをしない姿勢こそが、談合リスクを下げ、限られた修繕積立金を最も効果的に活かす土台になります。今回の問題を契機に管理組合が発注プロセスへの関与を深めていくことが、業界全体の健全化にもつながっていくはずです。

