ナフサショックがマンション大規模修繕工事に与える影響は?覚書締結でも油断禁物なワケ

ナフサショック マンション 大規模修繕工事

2026年6月17日、米国とイランによる戦闘終結に向けた14項目の覚書が発効となりました。イランが事実上封鎖していたホルムズ海峡は開放へと向かったのも束の間、イランは6月20日、覚書違反を理由にホルムズ海峡を封鎖すると発表。まだまだ予断を許さない状況です。

マンション大規模修繕の価格高騰や工期長期化の要因は「ナフサショック」だけではなく、インフレや人材不足などが影響していることもあって、正常化にはしばらく時間がかかりそうです。では、管理組合は今この局面でどう動くべきなのか。本記事では、現状の整理と管理組合が取るべき対応をまとめます。

目次

ホルムズ海峡封鎖に向けた覚書締結でも「安心」とは言えない理由

ホルムズ海峡の封鎖解除に向けた覚書締結は明るいニュースですが、イラン軍は6月20日、イスラエルがレバノン南部への攻撃を続けていることが覚書や停戦協定に違反していると主張し、ホルムズ海峡を封鎖すると発表しました。覚書発効後、最長60日間の協議を経て夏までには最終合意に至る見通しでしたが、事態の収束には時間を要する可能性があります。

大規模修繕工事で使用する防水材・シーリング材・塗料などナフサ(石油化学の基礎原料)を原料とした資材は、「ものがない」というよりホルムズ海峡封鎖中の買い占めや先行発注によって流通の目詰まりが引き起こされている状況です。たとえホルムズ海峡の封鎖が解除されたとしても、目詰まりが解消されなければ納期遅れや過度な価格高騰は解消されません。

さらに、昨今の工事費や資材の高騰、そして工期の長期化は、ナフサショックだけでなく、インフレの進行や慢性的な人材不足、大規模な修繕やメンテナンスを要する高経年マンションの増加などの影響も大きく、ナフサショックによって過熱しすぎた部分が是正されることはあっても、工事費や工期が以前の水準に完全に戻るとは考えにくいというのが実情です。

大規模修繕工事を直前に控えている管理組合が留意すべきこと

先行きが読めない今、とくに大規模修繕工事を直前に控えている管理組合の皆さんは「今動いて大丈夫なのか」と不安に感じているのではないでしょうか。焦って決断することは避けるべきですが、かといって無策に立ち止まるのも得策ではありません。

焦って発注しない

ナフサショックやそれによるマンションの大規模修繕工事への影響は現在、さまざまなメディアで報じられており、先行きが読めないこともあって、2026年秋の工事は例年と比べて極端に少なくなっています。施工会社としては、なんとか管理組合に工事を決めてもらい、着手金をもらってキャッシュフローを回したいという思いがあるため、速やかな着工を進言してくれることもあるかもしれません。しかし、焦りは禁物です。

先のとおり、中東情勢の行方にかかわらず、資材の流通が正常化するまでには時間を要することが予想されます。焦って工事請負契約を締結するのではなく、スライド条項の有無や内容、工事中に資材の納入が遅れた場合の足場や管理をどうするのかといった諸条件をよく確認することをおすすめします。

劣化状況を正確に把握

大規模修繕工事を検討している管理組合にとって、最も切実な問題は「いつ工事を実施すべきか」という点ではないでしょうか。資材価格がいつ下がるのか、あるいは高止まりが続くのか。これらはいずれも予測が困難な変数であり、待てば必ず状況が改善するという保証はどこにもありません。

重要なのは、外部環境の変化だけではなく、自分たちのマンションの劣化状態を正確に把握したうえで判断することです。建物の劣化が深刻でなく、漏水リスクも当面は低いと判断できるのであれば、状況の推移を見守りながら工事時期を慎重に検討する選択肢もあります。しかし、すでに漏水の兆候が見られるなど、建物の状態が待ったなしの状況であれば、資材価格の高騰を承知のうえで早期に対応することが建物の資産価値を守るうえで不可欠です。

また、足場の設置しやすさや使用されている建材の種類など、マンションが持つ固有の条件や状態も判断に影響します。一律の基準で「今がベストなタイミング」と断言することは難しく、それぞれのマンションの状況に即した個別の判断が求められます。

「保証」の考え方

マンションの大規模修繕工事には、アフターサービスとして、施工不良などによる不具合を無償で補修してもらえる保証が付帯します。保証は施工会社が提供するサービスとなりますので、施工会社が倒産すれば保証はなくなります。

保証期間中に施工会社が倒産する可能性はゼロではないものの、保証期間中の施工会社倒産は、これまで現実的なリスクとして深刻に受け止められることは多くありませんでした。しかし、資材価格の高騰や流通の混乱が続くなかで、施工会社のキャッシュフローが悪化するリスクは現実のものとなりつつあります。

どれほど高品質な工事を施工してもらったとしても、保証期間中に施工会社が倒産してしまえば、その保証は意味をなしません。管理組合にとって、施工会社の財務基盤の健全性は、今後の施工会社選定において欠かせない評価軸となります。

すべてのマンションに求められる「長期修繕計画」の見直し

大規模修繕工事を直前に控えていないマンションも、今回のナフサショックや資材価格の高騰は無関係ではありません。長期修繕計画は、計画当時に想定していた資材価格や工事費を前提に組まれています。その前提が崩れた以上、5年後・10年後に工事を予定しているマンションも含め、計画の見直しが必要な局面を迎えています。

多くのマンションでは、長期修繕計画に記載された工事費用の総額を把握しているものの、その金額が一定程度膨らんだ場合、その後の修繕積立金の計画がどうなるかまで検証しているケースは極めて少ないのが現状です。さらに踏み込んで、コストが上昇した際にどの工事箇所を先延ばしできるか、あるいはどの仕様を見直せるかという取捨選択まで行っている管理組合となるとほとんど存在しません。

複数のシナリオを想定

工事費が現状維持で推移した場合や一定割合で上昇した場合など「複数シナリオ」をシミュレーションし、修繕積立金の残高がどのように変化するかを事前に把握しておくことで、管理組合は「転ばぬ先の杖」を手にすることができます。いざ工事の時期を迎えてから資金不足に気づき、借入金に頼らざるを得ない状況に陥るのと、事前に計画を見直して健全な財務体制を整えておくのとでは、長期的なコストに大きな差が生まれます。

長期修繕計画は一般的に5年に一度の見直しが推奨されていますが、今回のような不測の事態が発生した場合には、その周期にとらわれる必要はありません。2年に一度、あるいは3年に一度の見直しを行うことは何ら問題なく、むしろ積極的に推奨されるべき対応といえます。

第三者の専門家の活用を

大規模修繕計画の見直しには、専門家のサポートが不可欠です。専門家というと、日頃から関係のある「管理会社」が真っ先に思い浮かぶでしょうが、管理会社はその性質上、保守的な立場から計画を立案せざるを得ません。これは管理会社が悪いというわけではなく、漏水の発生や設備の故障といったリスクを未然に防ぐことが管理業務の根幹にある以上、保守的な計画になるのは自然なことです。

しかし、現在のようなあらゆる資材価格や人件費が高騰している局面で保守的な見積もりが積み重なると、必要以上にコストが膨らみ、いくら積立金があっても足りないという状況に陥りかねません。

こうした課題を解決するためには、第三者の専門家の活用が有効です。ナフサショックの現状と今後の見通しを正確に把握し、それが修繕計画に与える影響を客観的に分析できる専門家が管理組合の立場に立って計画の最適化を支援することで、将来の借入や修繕積立金の不足を回避できる可能性が高まります。専門家への依頼にはコストがかかりますが、計画の見直しによって回避できる借入金利や無駄な工事費と比較すれば、十分に見合う投資となるケースがほとんどです。

具体的なアプローチとしては、長期修繕計画の内訳表を精査し、各工事項目の現在の劣化状況を確認したうえで、修繕周期の調整や仕様の見直しを検討していきます。たとえば、足場を必要とする工事は大規模修繕工事と同時に実施することでコストを抑えられる一方、劣化が進んでいない箇所については修繕時期を数年ずらすことも選択肢となります。こうした細かな調整の積み重ねが、全体のコストを大きく左右します。

とくに注意が必要なマンション

ナフサショックへの対応は、すべてのマンションにとって重要な課題ですが、その緊急度は物件の規模や工事の時期によって異なります。とくに注意が必要なのは、5年以内に大規模修繕工事が予定されているマンションや総戸数が50戸未満の比較的小規模なマンションです。

工事時期が迫っているマンションほど、軌道修正が必要な場合の期間が短いため早急な対応が求められます。直近1〜2年以内に大規模修繕工事を控えている場合は、まず資金シミュレーションを行うことで、工事を予定通り実施すべきか、一部を先延ばしにすべきか、あるいは仕様を見直すべきかという判断材料を得ることができます。たとえ時間が限られていても計画を精査したうえで意思決定することが、結果として長期的な財務健全性につながります。

とはいえ、大規模修繕工事がまだ先というマンションも、修繕計画の見直しが早すぎるということはありません。時間的な余裕があるからこそ、より多くの選択肢を検討できます。

また、マンションの規模については、やはり大規模マンションはスケールメリットが働くため、資材価格が多少上昇しても、蓄積された修繕積立金でカバーできる可能性が高い傾向にあります。対して、小規模マンションではそのような余裕が生まれにくく、シーリング材や塗料、防水材といった各種資材のわずかな値上がりでも修繕積立金の会計に与える影響は相対的に大きくなります。

不測の事態が露わにした「設計監理方式」の盲点と「プロポーザル方式」による施工会社選定の利点

大規模修繕工事の施工会社を選定する方法は現在、「設計監理方式」が主流です。設計監理方式とは、第三者の設計コンサルタントに依頼し、あらかじめ管理会社や設計コンサルタントに決められた仕様をもとに、施工会社の選定を進めていく方式です。

設計監理方式

一見すると公平かつ透明性の高い選定方式に思えるかもしれませんが、2026年6月、マンションの大規模修繕工事をめぐる談合に対し、公正取引委員会が施工会社と設計コンサルタントへ排除措置命令を出す方針を固めたと報じられました。管理組合に中立的なアドバイスをするはずのコンサルタントが談合を主導し、工事業者と不当な利益を分け合っていた事例もあったということです。

談合問題、そしてナフサショックという不測の事態が重なったことで、さくら事務所が以前から推奨してきた「プロポーザル方式」が改めて注目されています。

プロポーザル方式とは

プロポーザル方式

プロポーザル方式とは、管理組合が要望する工事を伝え、各施工会社に独自の工事仕様書を作成してもらうため、金額だけではなく、各社の「スタンス」や「提案」を比較することができ談合も起きにくい施工会社の選定方式です。

「談合が起きにくい」ということに加え次のような点においても、ナフサショックの影響が残る今、理にかなった施工会社の選定方式といえます。

資材や工法の選択肢が増える

設計監理方式は、あらかじめ決まった仕様や工事内容のもと施工会社が工事内容を提案するのに対し、プロポーザル方式は施工会社が自由に工事内容を提案します。今のように資材の高騰や納入の遅れが目立つ時期はとくに、プロポーザル方式の「自由度の高さ」が結果的に費用の圧縮や工期の短縮につながる可能性が高くなります。

施工会社は自社が得意とする仕入れルートやメーカーを活用できるため、流通が滞っている資材を避け、確保しやすい代替品や工法を提案することができます。また、メーカーが指定されていない分、値上がり幅が比較的小さい資材を選ぶ余地も生まれます。

安全性に直結しにくい腰より低い位置の外壁やタイルなど、優先度の低い箇所の補修対象を絞るといった提案も引き出しやすく、管理組合にとって費用対効果の高い選択肢を比較検討できる環境が整います。

受注意欲の高い施工会社を選定しやすくなる

工事の中断や延期が相次ぐ中、施工会社各社は受注確保に向けた競争をこれまで以上に激化させています。この状況は管理組合にとって有利であり、同時にプロポーザル方式の良さが活きやすい局面ともいえます。

プロポーザル方式では、複数の施工会社が同一物件に対して競合提案を行います。受注意欲の高い会社ほど他社との差別化を図ろうと、保証期間の延長、高耐久建材の積極採用、きめ細かなアフターフォロー体制の整備など、独自の強みを前面に打ち出した提案を持ち寄ります。管理組合はその中から、自分たちのマンションに最も合った会社を選ぶことができます。

高耐久建材も検討しやすい

ナフサショックは「高耐久建材」の価値を改めて見直すきっかけにもなったといえるでしょう。耐久性が高い建材を使用していれば、不測の事態が発生した場合も、建物に深刻なダメージが生じるリスクを抑えながら着工時期を後ろ倒しにする選択もしやすくなります。高耐久建材は一般的な建材と比べると価格は高くなりますが、工事全体の総額で見れば5%程度の差にとどまるケースも少なくありません。

プロポーザル方式では施工会社が自由に工法や建材を提案するため、金額だけでなく耐久性の面でも各社の提案に違いが生まれます。管理組合は提案内容を比較しながら、コストと耐久性のバランスを自分たちの判断で選ぶことができます。

責任の所在が明確になる

設計監理方式では、設計コンサルタントが定めた仕様と施工会社の施工との間でトラブルが生じた際、責任の所在が曖昧になるケースがあります。実際に、設計コンサルタントと施工会社が互いに相手の責任を主張し、管理組合が板挟みになるという事態も起きています。

一方、プロポーザル方式では、数量の積算から工法・建材の選定まで施工会社が一貫して責任を持ちます。自社が提案した内容で工事を進める以上、施工上の問題が生じた際の責任の所在はシンプルです。ナフサショックによるコスト増やスライド条項をめぐる交渉が生じた際も、管理組合と施工会社が直接向き合える構造は、問題解決をスムーズにします。

「悩んで止まる」のではなく「悩みながら動く」のが正解

中東情勢はまだまだ予断を許さない状況であり、たとえホルムズ海峡の封鎖が解除されたとしても、資材流通の正常化には時間を要することが予想されます。悩んで立ち止まるのではなく、まずは自分たちのマンションの現状を正確に把握し、複数のシナリオに基づいたシミュレーションを行ったうえで具体的な対策を講じる一歩を踏み出すことが、将来の修繕積立金の健全性を保ち、住民全員の資産価値を守ることにつながります。

さくら事務所では、ナフサショックに対応した長期修繕計画の最適化を支援する臨時サービスをご提供しています。まずは無料相談から、自分たちのマンションが抱える課題を整理していただければと思います。

ナフサ 長期修繕計画 見直し
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執筆者

山本直彌のアバター 山本直彌 さくら事務所・らくだ不動産代表取締役社長

マンション・ビル管理、不動産仲介の経験を経て、マンション管理コンサルタント・不動産エージェントの業務に従事。これまでに50棟を超えるマンション管理フロント業務、500件以上の不動産仲介を経験。2020年4月 、さくら事務所へ参画。同年、自身が取材協力した「マンションバブル41の落とし穴」(小学館)が発売。2026年4月にさくら事務所およびグループ会社であるらくだ不動産の社長に就任。

宅地建物取引士/2級ファイナンシャル・プランニング技能士/マンション管理士/管理業務主任者/マンション維持修繕技術者

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