マンション住民へのなりすましや談合よりも怖い?区分所有法改正で高まる「乗っ取り」リスク

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2025年はマンションの大規模修繕工事をめぐる「談合」や住民への「なりすまし」など、さまざまな不正の実態が明らかになった1年でした。

「談合」とは、大規模修繕工事の施工会社同士が事前に価格を調整し合う行為を指します。一方、「なりすまし」は、住民になりすました大規模修繕工事施工関連事業者が管理組合に潜入し、工事の発注を不正に誘導する行為です。2025年5月には、神奈川県のマンションの大規模修繕委員会に偽名で参加した関連事業者の社員が逮捕されました。

「談合」と「なりすまし」は手口こそ違えど、いずれも大規模修繕工事の受発注を不正に誘導するための行為です。2026年4月に区分所有法等マンション関連法が改正されましたが、決議要件が緩和されたことにより、こうした不正がより起こりやすい環境になってしまうことも懸念されます。

本記事では、さくら事務所のマンションコンサルタント土屋輝之と、なりすましの手口を経験した複数のマンションの住民が立ち上げた「大規模修繕情報交換ネットワーク」のAさんとの対談をレポートします。

目次

実態は「住民へのなりすまし」だけではない

なりすまし マンション

土屋:「大規模修繕情報交換ネットワーク」はどのような経緯で設立されたんですか?

Aさん:管理組合の垣根を越えてマンション同士で情報を共有していかなければ、なりすましの問題は解決できないのではないかという判断に至り、大規模修繕情報交換ネットワークを立ち上げました。2025年末時点で、数十件の情報が寄せられています。私たちが把握しているだけでも、なりすましが疑われるマンションは30近くにおよびます。

なりすましの手口

土屋:長くこの業界にいますが「談合」はさておき、「なりすまし」についてはこれまで噂レベルでしか聞いたことがありませんでした。後にわかったことですが、実は弊社がコンサルタントして入らせていただいているマンションにも逮捕された関連業者の社員が潜入していたんですよ。私は実際に対峙していたのですが、業界の裏事情に詳しすぎるんですよね。そして、弊社をやたらと追いやろうとするんです。受注を誘導するのに邪魔だと思ったのでしょうね。あまりにも詳しいので有名なマンション管理士なのかと思いきや、私を含め誰も彼を知らない。おかしいと思っていた矢先に、5月の報道が舞い込んできたわけです。

手口としては、まず大規模修繕工事の仕様書、つまり見積もりを作るためのたたきとなる書類を格安で作ってくれる施工会社を紹介することから始まります。仕様書作成の費用は、市場価格の5分の1以下でした。格段に安い金額を提示することで、コスト削減を求める修繕委員の心を掴むわけですね。ここで信頼を得たうえで、次のステップとして「自分たちのグループと取引のある施工会社」を含む複数社を並べた比較表を用意し、発注先の選定を誘導していきます。

なりすまし マンション 逮捕
神奈川県の大規模マンションで修繕委員に潜入し逮捕された工事関連業者の社員2名

Aさん:私たちが調べたところこの比較表には共通点があって、どのマンションも以下のように×や△の項目は黄色の背景になっていて、受注を誘導したい特定の事業者がよく見えるような表になっています。土屋さん、このような表を見たことはありませんか?

マンション なりすまし 手口
出典:大規模修繕情報交換ネットワーク

土屋:見たことありますね……。上半分が会社の情報で、下が比較になっているんですよね。

Aさん:そうなんです。また、施工会社を公募する際の文言も酷似しているんですよ。箇条書きの条件の並びもほぼ一緒です。

複数のなりすまし

土屋:違うマンションで比較表や募集文がここまで酷似することはあり得ません。なりすまし犯にあらゆるドキュメントが共有されていて、ある意味ルーティンのようになっているのでしょう。私が一番驚いたのが、住民になりすまして施工会社の選定を誘導するだけでなく、下請けやその下請けに関連会社を滑り込ませているということです。

Aさん:今報じられているのは「マンション住民へのなりすまし」ですが、我々は「3つのなりすまし」があると考えています。住民へのなりすましはあくまで入口にすぎず、不正に関与する関連業者が下請け異なる会社名で工事の下請けに入り込んだり、社員が本来の所属とは異なる別の下請けや元請け業者になりすましている可能性もあると見ています。

土屋いくつもの「なりすまし」によって、不正グループがマンションの大規模修繕工事そのものを掌握してしまっているわけですね。

「談合」と「なりすまし」の関連は

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土屋:なりすましによる逮捕者が出た少し前に、約20社の施工会社が「談合」を行っていた疑いで公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いにより立ち入り検査を実施しましたが、「なりすまし」と「談合」は同じ土俵のうえで起こっている不正と見られます。談合とは、管理組合から見積もりの依頼があった施工会社等が結託し、見せかけだけの競争を偽る行為です。設計コンサルタントや管理会社などが中心となり、たとえば「今回はA社に取らせる」などと決め、そのための形だけの見積もりを他社が出し、受注したA社が設計事務所や管理会社などにバックマージンとして工事費の10〜20%程度が授受されるケースもあります。

工事関連業者とコンサル会社が結託すれば、住民になりすまして管理組合に潜入し、結託しているコンサル会社が受注するよう誘導。さらに下請けや元請け業者になりすませば、大規模修繕工事全体を掌握できてしまいます。つまり、特定の施工業者の受注が誘導されるだけでなく、バックマージンの分だけ工事費が上がることで、マンションは経済的損失を被るおそれもあるわけですね。

Aさん:下請けや元請けという構造を理解していない方も多いように思います。施工会社を選んだら、その会社がすべての工事をしてくれると思いがちですが、実際に工事するのはその下請けや孫請けの事業者です。その中に、住民になりすまして受注誘導を行った業者が入り込んでいる可能性があります。住民へのなりすましの段階で発覚したとしても、大規模修繕工事に向けた話し合いが振り出しに戻ってしまうわけですから、管理組合はいずれにしても不利益を被る構図です。

土屋:コロナ禍以降、世界的な紛争や円安、インフレの進行などにより、工事費が著しく高騰しています。これまでしっかり修繕費を積み立ててきた組合でさえ、どうにかコストを下げられないかと頭を悩ませている状況です。そんなときに、修繕工事に詳しく、安い業者を紹介してくれる住民らしき人物が現れれば、救世主のように感じてしまいますよね。

「なりすまし」や「談合」を防ぐにはどうすればいいのか

土屋2026年4月に区分所有法等マンション関連法の改正法が施行され、2025年10月にはこれに先駆けてマンション標準管理規約が改正し、管理組合役員等の本人確認に関するコメントが追加されましたが、談合を防ぐ手段にはならず、本人確認の効果も限定的だと思います。

なりすまし マンション 本人確認
出典:国土交通省

Aさん不正に関与している業者やその社員が実際にマンションを購入しているケースもあります。この場合、本人確認をしても気づくことはできませんよね。

土屋:一連の不正は、一般の方にはなかなか見破れないと思います。防衛策としては、信頼できる第三者のコンサルタントを味方につける、あるいはそのうえで修繕工事の仕様を作成して一律な見積もり合わせを誘導するのではなく、施工会社ごとにゼロベースで提案してもらう「プロポーザル方式」で施工会社を選んでいくのがいいかもしれません。被害に遭ってしまった後や疑わしい人物がいる場合は、大規模修繕情報交換ネットワークさんに相談するのに非常に有効だと思いますが、非営利の市民組織でいらっしゃる以上、いずれ限界は来るのではないでしょうか。本来は国土交通省やその所管する公的機関になりすましや談合専門の部署をつくり、予算を付け、相談窓口を設けてもらえると今よりずっと良くなると思うのですが。

Aさん:私としては、国交省がいつまで不正に関与している業者に建設業許可を出し続けるのかと疑問を感じます。マンションの住民は、国が建設業許可を出してるからこそ信頼してしまうのです。現在は、建設業許可が信頼の証ではなく、不正の免罪符のようになってしまっているのではないでしょうか。なりすましにしても談合にしても、この業界はコンプライアンスの意識が非常に低く、さらに法律自体が今の時代に合っていないように感じます。

区分所有法改正で高まる「乗っ取り」リスク

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土屋:2026年4月施行の区分所有法の改正は、大規模修繕工事の受注誘導をされてしまうリスクを高めるものだと思います。施工会社やコンサル会社の決定は「普通決議」となりますが、従来は区分所有者の過半数を超える人が参加した総会で、さらに過半数以上の人が賛成すれば可決しました。総会に出席せず、議決権行使書も提出しなければ「棄権」とみなされていましたが、現在は総会に出席した区分所有者およびその議決権の多数決による決議となります。たとえば100世帯のマンションも、総会に出席した世帯が30世帯であれば、16世帯の賛成で可決されてしまうのです。実は管理組合も一枚岩ではなく、理事や役員が工事関連業者の不正に荷担しているケースも見られます。

Aさん:私も、一部の理事や役員が独断に近い形で管理会社を変更したり、必要性の乏しい修繕工事を発注したりする事例を耳にしたことがあります。もはや談合やなりすましというより、ここまで来てしまったら管理組合の「乗っ取り」ですよね……。公的な相談窓口は「管理組合」からの相談しか受け付けてくれないんですよ。管理組合が乗っ取られてしまえば、そのマンションは八方塞がりになってしまいます。

不審な動きがあれば立ち止まり、議論し直す

土屋:小規模なマンションについては、決議のハードルが下がったことにより、買い占められてしまうリスクも高まっています。いずれにしても今、管理組合のお金が狙われています。従来以上に用心深く物事を進めていくのが肝要でしょう。管理に無関心な方が多いマンションほど、なりすましや談合、乗っ取りのリスクが高くなります。マンションを所有するすべての方に管理に関心を持っていただきたいですが、それが難しいようであれば、専門家の起用や相談を検討してみてほしいですね。大規模修繕工事を発注する前に見積もりを見せていただければ、相場を逸脱して著しく高額になっているか否か判断できます。

そして大事なのは、少しでも不審な動きがあれば一度立ち止まり、議論し直す勇気を持つことです。数ヶ月や1年かけて話し合ってきた議論が振り出しに戻ることはできれば避けたいところですが、業者間のバックマージンが総工事費用の10~20%も含まれていることは、管理組合として看過できない損失です。改めて議論し直すことで工事費を抑えることができるはずです。

Aさん:なりすましや談合については、明確な防衛策がないというのが現状です。自分たちで見破ったり、解決したりすることが難しい以上、誰かに相談するしかないと思います。大規模修繕情報交換ネットワークでもご相談を受け付けていますので、管理組合で抱え込まずにご相談いただければと思います。

大規模修繕情報交換ネットワーク相談フォーム

修繕参謀 さくら事務所
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執筆者

土屋輝之のアバター 土屋輝之 マンション管理コンサルタント

2003年さくら事務所に参画、不動産仲介から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び 運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを幅広く長年にわたって経験。
不動産、建築関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト。

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