空き家問題のリスク・対策・解決策は?根本原因は新築の過剰供給にあり

2023年12月13日、空き家対策特別措置法(空き家法)が改正されました。固定資産税増税のペナルティが課される空き家の対象が拡大したということで注目されていますが、同法改正が空き家問題の抜本的解決に結びつくことはないと私は見ています。

2018年の調査で、全国の空き家の数は約849万戸。空き家率は13.6%で世界一です。まもなく2023年の調査結果が出てくると思いますが、空き家数は1,000万戸程度になっているのではないでしょうか。これほどまでに空き家が増加してしまった要因はさまざまなことが考えられますが、根本原因は新築住宅の過剰供給にあると考えます。

目次

空き家を放置するリスク

「空き家問題」と一口にいっても、そのリスクはさまざまです。空き家の所有者にリスクがあることはもちろん、空き家の増加が都市の荒廃につながってしまうおそれもあります。

空き家になると急速に劣化が進む

家屋は、人が住まなくなると急速に劣化が進みます。人が暮らすことで自ずと行われていた「換気」や「清掃」といった住まいの維持に不可欠なことが一切されなくなってしまうからです。6ヶ月以上放置すると、建物の傷みは決定的となります。そのままの状態では住めなくなってしまうため、売るにも貸すにも修繕が必要になってくるでしょう。あるいは、現状のまま買い取ってくれる業者に安価に売却することになります。

無価値どころかマイナスになる可能性もある

エリアによっては、タダ同然の価格で手放さなければならないことにもなってしまいかねません。加えて、後述する「空き家対策特別措置法」が施行されて以降、空き家を放置することで固定資産税の増税や過料が課される可能性も出てきました。「所有しているだけでお金がかかる」「手放すにもお金がかかる」となれば、タダどころかマイナスの資産にもなりかねません。

防災上・防犯上の懸念も

周囲に迷惑をかけるだけでならまだ良いほうでしょう。最も怖いのは、劣化した塀や外壁、屋根材、窓ガラスなどが飛散し、歩行者などに怪我をさせてしまうことです。近年では自然災害が多発・激甚化しています。自然災害が起こるたびに見回りをしたり、修繕したりするのも大きな手間になります。

加えて、空き家や空き家の多いエリアが犯罪の温床になってしまうことも懸念されます。かつて東西ドイツが統一したとき、東ドイツから西ドイツへと人が流れ、東ドイツでは空き家率が30%を超える都市が続出しました。当時、問題となったのが、街の荒廃です。都市環境が悪化し、犯罪が増え、居住性が著しく低下したわけですが、これと同じことが日本の各地で見られるようになるおそれがあるのです。日本でも、2035年には空き家率が30%を超えるといわれています。

見落とされががちな「マンション空き家」の問題点

建て方別空き家数の推移
出典:総務省統計局

「空き家」といえば、一戸建ての空き家を思い浮かべる方がほとんどなのではないでしょうか。しかし、共同住宅の空き家の数は一戸建てよりも多いというのが現状です。

マンションに空き家が増えると起こること

一戸建ての空き家は、誰の目に見ても空き家であることが明らかです。一方、マンションの空き家は、側から見ても空き家であることはわからず、庭がなければ草木が伸びて周囲に迷惑をかけることもなく、すみやかに防犯・防災上、危険な状態になるということもありません。

しかし、管理費や修繕積立金が支払われなければ、マンションにとっては大打撃となり得ます。何十、何百も戸数があるマンションのうち1〜2戸であれば大きな問題にはなりませんが、これが5%、10%……にもなればマンション自体の維持・管理にも大きく影響してくるでしょう。一戸建てなら行政代執行による解体も可能ですが、マンションの建て替えには区分所有者の4/5以上の賛成が必要です。

空き家の増加、管理費・修繕積立金未納の増加、管理状態の悪化‥…このような状態になっても建て替えや取り壊しができず、悪循環が断ち切れないマンションは今後、増えていくものと推測されます。

空き家の増加がマンションの管理状況や資産価値の二極化を拡大させる

とはいえ、都心、駅前、駅近やタワーマンション、ブランドマンションなど好条件のマンションは、まず空き家の増加や管理費の滞納といった問題は起こりません。売っても貸してもお金になるからです。

空き家が増え、それによって管理状況が悪くなるおそれがあるのは、郊外のマンションやすでに管理状態が悪化しつつあるマンションでしょう。つまり、空き家の増加がマンションの管理状態や資産価値の二極化をさらに拡大させるのです。

2023年改正!空き家対策特別措置法

2015年に施行された「空き家対策特別措置法(空き家法)」は、日本で初めての空き家に関する法律です。適切に管理されていない空き家が防災や衛生、景観などに深刻な影響を及ぼしてしまわないよう、地域住民の生命・身体・財産の保護や生活環境の保全、空き家の活用などを目的として制定されました。

空き家対策特別措置法(空き家法)とは

空き家対策特別措置法
出典:政府広報オンライン

空き家法では、市町村に対し「特定空き家」への指導や勧告、命令などの措置を段階的に行える権限を与えています。

「特定空き家」

空き家対策特別措置法2条2項により、以下のような空き家と定義される

  1. 倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
  2. 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
  3. 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
  4. その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

特定空き家は「勧告」の段階で「住宅用地の特例」の対象から除外されます。同特例は、住宅の建つ土地の固定資産税や都市計画税の課税標準額を次のように軽減する措置です。同特例の対象ではなくなることにより、固定資産税は実質的に引き上がります。

固定資産税課税標準額都市計画税課税標準額
200㎡以下の住宅用地1/61/3
200㎡超の住宅用地1/32/3
住宅用地の特例

勧告の後は、最大50万円の過料を伴う「命令」と続き、最終的には「代執行」により強制的に空き家が解体されてしまう可能性があります。解体費用はもちろん自治体が負担してくれることはなく、後日、所有者に請求されます。

空き家法の改正点

管理不全空き家
出典:国土交通省

2023年12月13日に施行となった改正空き家法により、住宅用地の特例が適用除外となる「勧告」の対象が「管理不全空き家」にまで拡大しました。

管理不全空き家とは、放置すれば特定空き家になるおそれのある空き家を指します。特定空き家の数は約2万戸とされていますが、市区町村が把握しているだけでも管理不全空き家は特定空き家の12倍の約24万戸にのぼります。

改正で何が変わる?

出典:国土交通省

2015年に空き家法が施行されてから令和元年度までに勧告によって固定資産税が実質的に増税した空き家は、わずか1,351戸にとどまります。

空き家法の効果が限定的になってしまっている理由は、特定空き家の指定方法にあるでしょう。実務上、自治体の職員が積極的に空き家を見て周って特定空き家に指定しているわけではありません。多くの場合、地域住民からのクレームのある空き家や明らかに周囲に危害を及ぼすおそれのある空き家を特定空き家に指定しているにすぎないため、空き家法が空き家の減少や管理の改善に寄与しているということはほとんどないというのが現状です。

法改正により指定のハードルは一定程度下がるでしょうが、仮に勧告の数が12倍になったところで年間5,000〜6,000戸です。空き家の数が1,000万戸に迫るかどうかという中では、やはり限定的な効果しか見込めないのではないでしょうか。

空き家を放置しないための抑止力になることも考えられますが、これもまた、すでに売ったり貸したりすることを検討している人の背中を押す程度のことだと思います。そもそも空き家になる理由として多いのは、相続で揉めていたり、「思い出があって手放せない」といった情緒的なものでしょう。空き家法がこれらの解決にまったく寄与しないことも、法改正の効果が限定的だと推測する理由のひとつです。

マンションも想定したうえで空き家法の改正を

空き家法は「一戸建て」の空き家を想定したものとなっています。しかし、前述のとおりマンションの空き家も多く、一戸建てとはまた異なる問題を抱えています。改正空き家法も、マンションの空き家を想定していません。

たとえば、空き家の数が減少傾向にあるイギリスでは、一定期間以上、空き家になっている住宅を自治体が所有者の同意なしにリフォームし、貸し出すことができます。家賃収入でリフォーム費用を回収するというスキームです。

なぜ自治体がここまでやるのかというと、空き家が増えて、街や建物が荒廃することを避けるためです。これと同じことを日本の自治体に強いるのはなかなか難しいかもしれませんが、官民一体で同様のことをやっていくなど、いくらでも方策はあるでしょう。活用できる空き家は活用する。国庫に帰属させるより、よほど持続可能で街や建物にとっても良い取り組みになるのではないでしょうか。

空き家問題の原因は新築住宅の過剰供給にあり

空き家法は、空き家問題の対症療法にすぎません。特定空き家や管理不全空き家ではなく、すべての空き家を対象とした空き家税を創設するなどすれば別かもしれませんが、改正法を含め“焼石に水”程度の効果しか期待できないでしょう。

解決するには、根本的な原因となっている新築住宅供給過多の状況からの脱却が求められます。

住宅供給目標がない日本

空き家増加の原因は、人口や世帯数の減少にあると言われています。たしかにその通りではありますが、本質的な問題は、人口や世帯数が減っているにも関わらず新築住宅の建設が促進し続けられていることです。欧米諸国などの先進国では住宅総量や住宅供給数の目安や目標を定めていますが、日本はこれらのことを一切把握しておらず、むしろ景気対策として新築住宅の建築を促進するための過剰な政策を続けています。

たとえば、住宅ローン減税。中古住宅の借り入れ限度額は最大3,000万円ですが、新築住宅は4,500万円(2024年)です。固定資産税や不動産取得税、登録免許税にしても、補助金・助成金制度にしても、新築住宅ばかりが優遇されているのです。

新築住宅の建設・供給が「悪」ということではありませんが、人口動態に即した数に調整しなければ、空き家問題の抜本的な解決はできないでしょう。

空き家問題の解決策は「都市計画」とセットでなければならない

他の先進国で住宅総量や新築供給数の目安や目標を定めているのは、市町村レベルの自治体です。日本では国が宅建業法や建築基準法とともに都市計画法まで司っていますが、空き家問題をはじめ地域の諸問題は、その地域でなければ解決できません。

立地適正化計画
出典:国土交通省

現状の市街化区域は大きすぎます。そもそも市街化区域が設定された当時からその範囲が広すぎたのですが、人口が減り、世帯数が減り、空き家が増えた今ではあまりにもその区域が広すぎるというのは明白です。すでに立地適正化計画によりコンパクトシティ化を推進している自治体も見られますが、今後は住宅の総量や供給数だけでなく供給エリアについても制限しなければならないでしょう。空き家の抑制と都市計画はセットで考えなければならないことから、空き家問題の解決には社会構造そのものの見直しも求められるはずです。

空き家所有者・空き家予備軍ができるこ

不動産の価値を決めるのは、一にも二にも立地です。空き家問題は、一朝一夕に解決できるものではないことから、空き家や将来空き家になる可能性のあるご実家があるエリアに応じた対策を講じる必要があるでしょう。

家族で「空き家になったときのこと」を話し合っておく

 住まいが空き家になってしまる理由は「相続で揉めている」あるいは「思い入れのある実家だから処分できない」というものが大半なのではないでしょうか。いずれも、問題や課題が発生してしまった後の解決は難しいものです。しかし、空き家になる前から家族で「空き家になったらどうしようか」と話し合い、両親や兄弟の気持ちを聞いておけば、いざ空き家になったときに困ることは少ないはずです。

相続での揉め事も、空き家になってしまったときの行き場のない気持ちも、親の意向がわからないからこそ出てくるものです。元気なうちにこの手の話を切り出すのは難しいものですが、自分たちの未来のためにしっかり話し合われておくことをおすすめします。

問題なのは都市機能が維持されない区域の空き家

「空き家の増加がマンションの管理状態や資産価値の二極化をさらに拡大させる」と申し上げましたが、もちろん一戸建ても同じです。厳密にいえば、二極化ではなく三極化。不動産市場はすでに「価格が維持、あるいは上がり続ける不動産」「なだらかに下落する不動産」「限りなく無価値になっていく不動産」の三極化が進んでいますが、空き家の増加がさらにこの三極化を浮き彫りにさせることになるでしょう。

都心・駅前・駅近など好条件な上位10〜15%の空き家は、持っていてもよし、売ってもよし、貸してもよしですが、下位15〜20%の不動産は今後さらに価値が低減していきます。郊外や駅から遠い場所にある空き家を所有している方は、1秒でも早く売却することをおすすめします。とくに、郊外のベッドタウンのようなエリアは空き家が著しく増加していくことが予測されます。ライバルが多いほど不動産は売れにくいため、時間が経てば経つほど売りにくくなっていくことでしょう。

不動産を購入される方についても、購入する前に自治体の人口動態や都市計画をよく見ておくことが大切です。日本の多くのエリアが、今後、街を縮小せざるを得なくなります。都市機能が維持されないエリアに家を持つと資産価値が維持されず「空き家予備軍」になってしまうリスクは高いものと考えられます。

空き家問題の解決には時間を要する

日本は、他の先進国に倣い、早急に本質的な空き家対策に乗り出さなければなりません。とはいえ、空き家問題の解決には長い時間を要します。不動産市場はすでに三極化が進行しており、価値の低い不動産は今後ますますその価値も低減していくはずです。空き家のリスクは、空き家である期間が長ければ長いほど高まっていきます。空き家になった時点、あるいは空き家になる前に必要な対策を講じるべきでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

執筆者

長嶋修のアバター 長嶋修 さくら事務所会長・不動産コンサルタント

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。2008年、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会設立、理事長に就任。様々な活動を通して『中立な不動産コンサルタント』としての地位を確立。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。TV等メディア出演 、講演、出版・執筆活動等でも活躍するほか、NHKドラマ「正直不動産」の監修を一部担当。新著に『悩める売主を救う 不動産エージェントという選択』(幻冬舎)他、著書・メディア出演多数。

目次