2024年公示地価バブル期以来の伸び・マイナス金利解除!インフレ時代の到来で不動産市場はどうなるのか
2024年の地価公示が国交省から発表され、全国の地価動向が明らかになりました。全用途平均の地価は前年比2.3%上昇し、3年連続のプラス。この上昇率は、コロナ禍からの回復が進んだ2023年をさらに上回る数値であり、地価の上昇ペースが加速していることを示唆しています。2%を超える上昇率は90年代のバブル期以来、実に33年ぶりの高水準です。
2024年公示地価全用途平均は3年連続の上昇!コロナ禍前を上回る
全国・三大都市圏・東京圏・大阪圏・名古屋県・地方圏・地方四市・その他のエリアの全用途平均地価は、いずれも前年比プラスとなりました。上記グラフのように2021年にはコロナ禍の影響で地方四市(札幌市・仙台市・広島市・福岡市)を除きマイナスとなりましたが、2021年、2022年と徐々に上昇幅を拡大し、2024年は2020年の上昇率を上回るエリアも見られます。
今年の公示地価は、アフターコロナ時代およびインフレ時代の到来を告げるものだといえるでしょう。90年代のバブル崩壊以降、日本では継続してデフレが続いていましたが、日経平均株価は年始から急騰し、バブル期を超える4万円を突破しました。21年に出版した拙著「バブル再び 日経平均株価が4万円を超える日(小学館新書)」が現実のものとなったのです。
足元ではさらに上昇している可能性も
公示地価は、1月1日時点の標準地の価格を公示したものです。つまり、2024年の公示地価は、23年中後半の取引履歴を見て算出されており、年始からの株価高騰は織り込まれていないということになります。
また、公示地価は現場の声も反映しながら鑑定士が評価していますが、最後には国土交通省の調整が入るため、地価が上昇しているエリアでは公示地価の上昇率以上に上がっている感覚があるかもしれません。
2024年公示地価の上昇率が高い地点のキーワードは「半導体」「インバウンド」
上昇率が高かったエリアは、以下に示すとおりです。キーワードは「半導体」と「インバウンド」ということになってくるでしょう。
住宅地トップの北海道富良野や上位の沖縄県宮古島、住宅地・商業地いずれもランクインしている長野県の白馬村などはリゾート地として人気で、インバウンド需要が拡大ているエリアです。移住の需要も多少はあるでしょうが、地価に大きく影響するということはないと思います。
訪日外客数はコロナ禍で大きく減少しましたが、新型コロナウイルス感染症が5類になって以降増加し、23年10月からはコロナ禍前の19年を上回る水準で推移しています。
一方、住宅地・商業地ともにランクインしている北海道千歳市や熊本県大津町、菊陽町は、半導体メーカーが進出しているエリアです。千歳市は日本のラピダス社、大津町、菊陽町は台湾のTSMC社の進出が地価上昇に大きく影響しています。
住宅地の地価上昇地点ランキング
順位 | 都道府県 | 標準値の所在地 | 変動率%(23年) |
1 | 北海道 | 富良野市北の峰町4777番33 | 27.9(22.1) |
2 | 北海道 | 千歳市栄町2丁目25番20 | 23.4(21.6) |
3 | 沖縄県 | 宮古島市上野宇野原東方原1104番 | 21.2(19.6) |
4 | 北海道 | 千歳市柏陽2丁目3番11 | 20.6(14.9) |
5 | 北海道 | 帯広市大空町1丁目6番13 | 20.4(13.1) |
6 | 北海道 | 千歳市緑町3丁目13番地 | 20.2(22.0) |
7 | 福岡県 | 福岡市博多区麦野3丁目5番3 | 19.6(17.3) |
8 | 長野県 | 北安曇郡白馬村大字北城字堰別レ827番36 | 19.5(17.3) |
9 | 北海道 | 千歳市花園5丁目33番 | 19.5(21.8) |
10 | 北海道 | 中川郡幕別町札内あかしや町47番23 | 19.5(7.6) |
商業地の地価上昇率ランキング
順位 | 標準値の所在地 | 変動率%(23年) |
---|---|---|
1 | 熊本県菊池郡大津町大字大津字拾六番町屋敷1096番2外 | 33.2(16.8) |
2 | 熊本県菊池郡菊陽町大字津久礼字石坂2343番2 | 30.8(21.7) |
3 | 北海道千歳市幸町3丁目19番2 | 30.3(20.4) |
4 | 長野県北安曇郡白馬村大字北城字山越4093番2 | 30.2(6.2) |
5 | 北海道千歳市千代田町5丁目1番8 | 29.3(15.0) |
6 | 北海道千歳市錦町2丁目10番3 | 28.8(22.9) |
7 | 千葉市美浜区豊砂1番4 | 27.1(-) |
8 | 大阪府大阪市中央区道頓堀1丁目37番外 | 25.3(1.0) |
9 | 北海道北広島市栄町1丁目1番3 | 23.3(28.4) |
10 | 北海道札幌市東区北8条東1丁目2番3外 | 23.0(19.5) |
地価が下落し続けているエリアも
2024年の公示地価では、全国全用途および住宅地、商業地の平均、三大都市圏や地方四市などで上昇が見られましたが、下落している地点もあります。新潟県や徳島県、鹿児島県などは、25〜30年以上連続で平均地価が下落しており、地価が上昇しているエリアとの格差が拡大しています。
地方の中でも中心部は好調
地方の地価が下落しているというと東京や大阪、三大都市圏などだけが上昇していると思われるかもしれませんが、冒頭のグラフで示したとおり、上昇率でいえば地方四市のほうが上です。
都道府県の中でも、地方は中心部に人が集約される流れにあります。主要駅では駅前にタワーマンションが建つこともあり、大規模な再開発も見られます。平均的に見れば地方の人口は減少し、地価は下がってきていますが、その反面、中心部は局所的に人が集まり不動産価格も上がっていくため、近年は地方都市の上昇率が著しいのだと思います。
土地総額はバブル期から半減
昨今は、今回の公示地価や新築マンション価格などが「バブル後最高を記録した」「バブル期を超えた」といったニュースが目立ちますが、日本全体の地価ということであればバブル崩壊からの約30年で半減しています。
バブル当時は土地総額が約2,000兆円ありましたが、いまや1,000兆円ほどです。人口減少が続くとされる2050年頃まで土地総額は下落し続けるのではないでしょうか。新築マンションについては確かに著しく高騰しているものの、バブル期と比較すれば供給数も供給エリアも絞り込まれていることから、これも格差を拡大する一因となっています。
マイナス金利解除の影響は当面限定的か?その一方で確実に「三極化」が進行
3月には、日本銀行がマイナス金利政策を解除しましたが、この程度の政策変更が地価や不動産価格に与える影響は軽微だと考えます。4月の住宅ローン金利は、フラット35は融資率9割以下が0.02%減とほぼ横ばい。変動金利についても、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行などは金利据え置きで、三井住友信託銀行など金利を引き下げた金融機関も見られます。
もちろん、日銀の政策がマイナス金利解除どころか2%、3%利上げするようになれば住宅ローン金利にも影響してくるでしょう。しかし、金利が上がるということは一定のインフレが見られるということですから、物価が上がり、多くの人の給与所得も上がった後の判断となるはずです。つまり、賃金が上がったうえでの利上げとなるはずですから、今の段階で必要以上に住宅ローン金利の上昇を懸念する必要はないと思います。
とはいえ、中長期的には、金利上昇も不動産市場の格差を拡大させる要因の1つとなってくるでしょう。
金利上昇の影響を受けるのは地価が下がり続けているようなエリア
金利の上昇は、ローンを組んで不動産を購入する人の予算を下げるため下落要因となり得ます。しかし、金利上昇の影響の出方は一律ではないはずです。
この10数年間、不動産価格は高騰を続けていますが、高騰しているのもまたすべての不動産ではありません。2024年の公示地価を見てもわかるように、上昇率が伸びているエリアもあれば、逆に下がり続けているエリアもあります。
金利上昇など不動産の下落要因があるときに大きく影響を受けるのは、地価が下がり続けているようなエリアです。
公示地価にも見られるように今後は「三極化」が進行する
日本は今後、金利が上がる可能性が高い状況です。一方、米国は今後、金利を下げていく可能性が高い状況といえます。となると、日米の金利差は徐々に縮まり、今後は円高に向かっていくことになると思います。
拙著「バブル再び 日経平均株価が4万円を超える日(小学館新書)」では、たしかに日経平均株価が4万円を超えると予想しましたが、正確には「円高かつ日経平均株価4万円超」というのが私の想定したシナリオです。これから円高になり、日本の魅力、日本の資産の魅力が高まれば、「駅前」「駅近」「都市部」「タワー」「大規模」などに代表される好条件の不動産の価格はもう一段、上がる可能性があります。
インフレや金利上昇は、資産価値の低い不動産の価値をさらに下げ、価値の高い不動産の価値をさらに上げるものになると思います。これにより、すでに顕著になっている市場の三極化はより鮮明になり、格差が拡大するのではないでしょうか。
まとめ
2024年公示地価では、大都市部、開発エリア、インバウンド需要が拡大しているエリア、そして地方の中心部の上昇が目立ち、平均上昇率はバブル期以来の2%超を記録しました。こうしたエリアは今後も上昇する余地がありますが、全体的には日本の地価は下がっていくものと考えられます。
大都市と地方の格差、都道府県内の格差は、今回の公示地価でも顕著に表れています。今後も「地価が維持・高騰するエリア」「なだらかに下落を続けるエリア」「限りなく無価値になっていくエリア」の三極化はますます鮮明なっていくことでしょう。