マンション外壁タイルの浮き・剥落が急増! 「巨大地震」に備えて点検を

8月8日、宮崎県日向灘を震源とするマグニチュード7・1と推定される地震が発生。これを受け、気象庁は南海トラフ地震臨時情報<巨大地震注意>」を発表しました。翌9日には、神奈川県西部を震源とする最大震度5弱の地震が観測されています。南海トラフ地震や首都直下型地震など大規模地震の発生時には、こうしたマンションのタイルが剥落することよって甚大な被害が出るおそれがあります。

マンション管理をコンサルティングしているさくら事務所には、マンションの維持・管理に関する悩みや問題、不安に伴うご相談・ご質問が多く寄せられます。中でも近年、目立つのが、外壁タイルの浮きや剥落という問題です。

さくら事務所は、これまで長きに渡ってマンションの外壁タイルの調査、修繕に携わってきましたが、近年、外壁タイルの瑕疵が発覚するマンションは増加傾向にあります。昨今では高経年マンションも増加しており、管理不全に陥っているマンションも少なからず見られることから、相当数のマンションが外壁タイルに問題を抱えているものと考えられます。

目次

外壁タイルは「凶器」! 大地震発生時は頭上に注意

タイルの剥離・剥落が発覚した場合、弊社のような機関にご相談いただき、正しく修繕することが必須です。しかし、そもそもこうした事態に気づいていないマンションや費用が捻出できず修繕できないマンション、中途半端な修繕で終わらせてしまっているマンションなども散見されます。

大規模地震発生時には、メンテナンスが行き届いていないマンションの外壁タイルが剥がれ落ち、通行人や住人を傷つけたり、破損したタイルが救助や通行の妨げになってしまったりすることが危惧されます。

外壁タイルは「1枚単位」で剥落するとは限らない

一般的なマンションの外壁タイルは、壁などに3㎡程度モルタルを塗り、その上にユニット式のタイルを貼り付けて施工します。この施工方法の外壁タイルが剥落するときは、1枚とは限らず、数百枚まとめて剥がれ落ちることもあります。タイル1枚であっても剥落すれば人の命を奪いかねませんが、数百枚もの重たい塊が落ちてくれば被害は甚大ものになるでしょう。

都市圏など高層の建物が密集しているエリアはとくに、大規模地震発生後に道を歩くときにはとにかく頭上に注意しなければなりません。防災頭巾などでは到底、命を守れませんので、高層の建物が密集している地域にお住まいの場合は必ずヘルメットを常備しておくべきでしょう。

剥落した外壁タイルによる被害は管理組合の責任

剥落した外壁タイルが通行している人や住人、あるいは車などを傷つけてしまった場合の責任は、管理組合にあります。

これは外壁タイルが人を傷つけた事例ではありませんが、2020年にマンションの擁壁が崩れ、通行していた女子高校生が亡くなられた事故が起きました。この事故では、マンション側が遺族側に1億円の賠償金を支払って和解しています。外壁タイルの剥離・剥落によって建物が深刻なダメージを受けるおそれもありますが、最も危惧しなければならないのは人を傷つけてしまうリスクです。

巨大地震に備えて点検を

建築基準法第12条では、マンションなどの一定規模の建築物は「おおむね6ヶ月から3年以内に一度の手の届く範囲の打診等に加え、おおむね10 年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等を行うこと」と規定されています。これは「12条点検」と呼ばれるものです。新築から10年後、あるいは大規模修繕から10年後を超えたマンションは、外壁タイルの点検を行い、特定行政庁へ報告しなければなりません。

とはいえ、12条点検をしなかったからといって、督促されたり、過料が科されたりすることはありません。努力義務ではなく法規定であるものの、実質的には疎かになってしまっているのが現状です。また一部、条例によってマンションの12条点検を免除している自治体も見られます。

いずれにせよ「法律で規定されているから」外壁タイルの点検をするのではなく、「被害を未然に防ぐため」そして「自分たちを守るため」に点検が必要なのです。外壁タイルの点検は足場をかけて実施しなければならないイメージがあるかもしれませんが、屋上からロープを下げる「ロープアクセス」や「ドローン」によって外壁を点検することも可能です。

東日本大震災では、全国的にマンションの外壁タイルが剥離・剥落した事例が見られました。大規模地震だけでなく、昨今、激甚化している大雨や台風によってタイルの剥離・剥落が起こる可能性もあります。

  • タイルが数枚でも剥落したことがある
  • 剥落しないまでも浮いている部分がある
  • タイルの破片が落ちていたことがある

こうしたマンションは、巨大地震に備えて一度、調査を実施することをおすすめします。

\外壁タイル以外のトラブルにも対応!/

築浅のマンションにも外壁タイルの瑕疵は多い

さくら事務所が2023年7月から2024年6月までに一度目の大規模修繕工事のコンサルティングをさせていただいたマンション21件のうち、14件に外壁タイルの瑕疵が見つかりました。割合にして、実に66.6%。この数値は日本全国の平均を示すものではないものの、当社のこれまでの実績からも、第1回目の大規模修繕工事の時期を迎えているマンションに対する傾向としては注意を促す必要があるレベルであると感じています。

先日、弊社のコンサルティングのもと一度目の大規模修繕工事でタイルの剥離を修繕したマンションは、外壁タイルの修繕を除く大規模修繕に約5,000万円、外壁タイルの修繕に約6,000万円かかりました。このマンションは外壁タイルの5割程度に問題があったためこれだけの費用がかかりましたが、外壁タイルに問題があると想定している大規模修繕費の倍以上の費用がかかるおそれがあります。

一度目の大規模修繕工事を控えているということは、築10〜15年程度のマンションです。この築年数だと分譲会社のフターサービス期間は過ぎているものの、施工会社に対して損害賠償請求ができる可能性もあります。

アフターサービス保証期間内なら無償で修繕してもらえる可能性が高い

分譲後、2年間あるいは5年間、分譲会社が無償で交換や修繕に応じてくれる「アフターサービス保証」は、多くの場合タイルの浮き・剥落にも対応しています。また、引き渡し後10年までは「契約不適合責任」に基づき、分譲会社に対して損害賠償請求などをすることも可能です。

さくら事務所は、これまで多くのタイルの剥離・剥落の調査に携わってきましたが、築10年未満でご相談いただいたマンションは100%、施工会社・分譲会社に何かしらの費用を負担してもらっています。

\アフターサービスを最大限活用!/

設計者・施工会社への損害賠償請求を認めた判例も

10年を超えている場合も、設計者・施行会社に対して「不法行為」による損害賠償請求できる可能性があります。ただし、民法では不法行為による損害賠償請求権は20年で消滅するとされています。

業界で有名な「別府マンション事件」では、2011年の最高裁の判決で、建物の倒壊などに至る構造耐力に関わる瑕疵に加え、以下のような瑕疵も「当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができるものと解される」と明言し、マンション側の損害賠償請求を認めました。

  • 外壁が剥落して通行人の上に落下したり、開口部・ベランダ・階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるとき
  • 漏水・有害物質の発生などにより建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるとき
  • 建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵

\一度目の大規模修繕工事前に!/

地震で建物が倒壊しなくても外壁タイルが剥落する可能性がある

一戸建て比べて地震に強いマンションの災害対策というと、水や食料、災害トイレの備蓄や共助意識ばかりが重要視されます。もちろんこれらの備えも必要ですが、地震によって建物が倒壊しなくても、外壁タイルが剥落してしまう可能性は十分あります。健全な施工がされた場合であっても、一度目の大規模修繕工事を迎える竣工後12〜15年頃には、2〜3%のタイルの浮きが見られるものです。外壁から剥離したタイルは、まさに凶器です。人の命をも奪いかねません。

1月1日の能登半島地震、8月8日の宮崎県日向灘地震、8月9日の神奈川県西部地震と、大規模地震が続いています。巨大地震も懸念されることから、外壁タイルになんらかの問題が見られるマンションは一度、点検されることをおすすめします。

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執筆者

土屋輝之のアバター 土屋輝之 マンション管理コンサルタント

2003年さくら事務所に参画、不動産仲介から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び 運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを幅広く長年にわたって経験。
不動産、建築関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト。

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