外部管理者方式の「意識」と「実態」に乖離! 高経年マンションで導入が進まない理由は?

近年、マンション管理組合の役員の担い手不足などを背景に、外部の専門家などを管理者として選定する「外部管理者方式(管理業者管理者方式)」が注目されています。2024年6月には、国土交通省によって外部管理者方式に関するガイドラインが策定されました。
2024年にさくら事務所のコンサルタントを活用していただいた全国60のマンション管理組合へのアンケートでは、築40年以上の高経年マンションにおいて外部管理者方式の導入に後ろ向きな組合はゼロ。関心の高さが伺えます。一方、外部管理者方式が導入されているのは、主に新築マンションという実態があります。なぜ、本来の目的や意識と実態に乖離が見られているのでしょうか。
本来の目的や意識と実態には乖離が

外部管理者方式は、築30年から40年を経過した高経年マンションにおける深刻な課題を解決するために生まれた制度です。新築当時は30代だった住民も築40年ともなれば70代となり、健康上の問題や施設への入所や入院などにより理事会活動が困難になるケースが増加しています。このような状況下で理事のなり手が見つからないマンションの救済策として、国土交通省の座談会や勉強会を通じて長年検討され、近年ようやく導入が始まったのが外部管理者方式の本来の姿です。
導入が進んでいるのは新築マンションが中心
しかし実態として、外部管理者方式は新築マンション、とくに富裕層向けの高級マンションで急速に普及しています。財閥系デベロッパーが手がける高価格帯の物件ほど、外部管理者方式の採用率が高くなっているのが実情です。
この乖離が生じる背景には、外部管理者方式の導入に伴う経済的負担の問題があります。外部の管理者を採用するには当然ながらコストがかかりますが、制度を必要とする高経年マンションの多くは経済的余裕がありません。結果として、経済的に余裕のある新築マンション購入者が管理の手間を省くために同制度を選択するという状況が生まれているのです。
新築マンションへの導入にはリスクも
外部管理者方式には明確なメリットがある一方で、看過できないリスクも存在しています。最も深刻なのは、新築時から外部管理者方式を採用したマンションが将来、管理がコントロールできなくなってしまうリスクです。理事会方式での管理運営経験を持たない住民が、突然、従来の理事会方式に移行することは極めて困難であり、管理規約の大幅変更も必要となるでしょう。
長年、理事会方式で運営してきたマンションが、住民の高齢化などにより外部管理者方式に移行するのは自然な流れといえます。しかし、最初から外部管理者方式を採用していたマンションでは、住民のマンション管理に対する関心や知識が醸成されないリスクがあります。専門家に任せることで安心感は得られるものの、マンション管理の当事者意識の希薄化は長期的には大きな問題となる可能性があります。
さらに、外部管理者の質や誠実性に関する懸念も無視できません。悪意のある管理者に当たってしまった場合、過剰なメンテナンスや不必要な工事の実施により、住民の経済的負担が不当に増加するリスクもあります。このリスクがあることは新築マンションも高経年マンションも同じですが、住民の管理への関心が低い状況では、このような不正や不適切な管理を発見・是正することが困難となるおそれがあります。
高経年マンションが直面する課題と現実
築30年を超えるマンションでは、住民の高齢化が避けられない課題となっています。
高経年マンションは、従来であれば当然のように引き受けられていた理事の職務が、住民の身体的・精神的負担の増加により敬遠される傾向が強くなります。さらに、所有は継続しているものの、実際には居住していない住戸の増加も組合活動が停滞する要因のひとつです。
外部管理者方式は高経年マンションにこそ有効
このような状況下では、外部管理者方式が有効な解決策となり得ます。専門知識を持つ外部の管理者が理事長の役割を担うことで、管理組合の運営継続が可能となり、最終的にはマンションのスラム化防止にも寄与する可能性があります。管理不全に陥るマンションを一棟でも減らすという観点から見ても、外部管理者方式の高経年マンションへの普及には、大きな社会的意義があります。
しかし、理想と現実の間には大きな壁が存在しています。外部管理者への報酬支払いという経済的負担が、制度を最も必要とするマンションにとって最大の障壁となっているのです。
管理会社が外部管理者を兼務する場合でも、既存業務に加え、理事長業務を担うことに対する追加報酬が必要となります。ましてや管理会社以外の専門家に依頼する場合、月額5〜10万円程度、複雑な案件では10〜20万円程度の報酬が必要となり、多くの高経年マンションにとって現実的な選択肢にはなりません。
富裕層が居住するマンションは外部管理者方式への意向が比較的容易
外部管理者方式の今後の普及については、現在の傾向が継続する可能性が高いと見ています。新築マンション、とくに富裕層向けマンションや規模の大きなマンションでの採用が中心となり、本来の対象である高経年マンションでの普及は限定的にとどまると予想されます。理事会方式から外部管理者方式への移行は、経済的制約により少数派にとどまる可能性が高いでしょう。
ただし、高経年マンションにおいても、富裕層が居住する物件では外部管理者方式の採用が進む可能性があります。結果として、経済格差がマンション管理方式の選択にも影響を与える構造が固定化されることも懸念されます。管理不全に陥りやすい経済的に厳しいマンションほど、有効な解決策である外部管理者方式を選択できないという皮肉な状況が続くことになるかもしれません。
国土交通省によるガイドラインの改訂によって制度の実務的な運用は改善されているものの、根本的な経済的制約の解決には至っていません。制度の本来の目的を達成するためには、一定基準を満たす管理組合への補助金交付や自治体主導の管理者派遣制度など、公的支援策の検討が求められるでしょう。
まとめ
外部管理者方式は、適切に運用されれば、高経年マンションの管理不全防止に大きな効果を発揮する制度です。しかし、経済的制約や制度設計上の課題により、本来の目的達成には多くの困難が伴っているのが現実です。今後は、制度の改善と併せて、より多くのマンションが恩恵を受けられる仕組みづくりが求められます。