不動産コンサルタント長嶋修の2018年不動産市場予測

長嶋修の市場予測 さくら事務所の創業者・不動産コンサルタントの長嶋修が2018年の不動産市場を読み解きます!
ぜひ最後までご覧ください!


新築一戸建て・マンション市場

国内を見渡せば「有効求人倍率」は43年9か月ぶりの高水準、完全失業率も2.8%と、多くの業種で人手不足感が鮮明に。こうなると次はどの程度「賃上げ」がなされるかに焦点があたりますが、政府が要請する3%の賃上げが達成されるようだと不動産市場には強い追い風です。
FRB(米連邦準備理事会)は段階的な金利上げ、ECB(欧州中央銀行)も金融緩和の出口を探る局面のなか、日本では、4月に黒田日銀総裁が任期満了となるものの、継投でも交代でも従来の緩和路線は継承されるものと見られることから「ドル高・円安」基調となる可能性が高く、輸出企業を中心に業績回復の可能性が高くなりそう。米国が大型の減税を決めたことも日本経済や為替にはプラス。18年3月期の企業利益が過去最高を更新するものとみられるなか、株価が2万2000-3000の現行水準を超え株高になれば、不動産市場には強い追い風。株高は不動産購入のマインド改善に加え、購入者や贈与者が売却益を不動産に振り向けるといった動きが期待されます。
「金利」についても日銀のスタンスに大きな変化はなさそう。都心・都市部の優良立地マンション、一戸建などを中心に増勢が期待できます。首都圏新築マンション・新築一戸建てとも、17年比では増加基調であることが見込まれる他、19年10月に予定される「消費増税」は年内に決断がくだされる見込みですが、引き渡しまで期間が長い新築マンションを中心に一定の「駆け込み需要」が起こる可能性があります。
中古マンション市場は昨年、戦後初めて新築マンション発売戸数を上回りましたが、この基調は変わらず。既存住宅の事業者団体登録制度「安心R住宅」が昨年12月に交付され、4月には本格運用開始。戸あたり上限100万円の補助金が出る本制度が継続するうちは、いまだ本格流通していない中古一戸建て市場も一定の動きが期待できます。

株高、仮想通貨の出現で影響あり?不動産投資市場

2012年12月の政権交代以降の金融緩和から、また2015年の相続増税以降価格上昇(利回り低下)を続けてきた個人の不動産投資市場も、日銀の警告や金融庁の監視強化により2017年には融資も2ケタの減少。こうした趨勢は18年も継続。株高基調や仮想通貨(暗号通貨)といった代替投資の出現は、これまで不動産投資市場に向かっていた投資資金を一定程度分散させる可能性もあります。

人手不足でオフィスの「大量供給」は後ろ倒しに

オフィス大量供給による需給悪化が懸念される「2018年問題」は、主に人手不足といった理由から工期が先延ばしになっており、2018年の大量供給は後ろ倒し。需給悪化は相当程度緩和される見通し。オフィス賃料・空室率とも安定的な推移が見込まれます。

懸念払拭で市場にプラスとなるか?「北朝鮮リスク」

最大の懸念は「地政学リスク」。北朝鮮が核開発をやめることを条件に政権維持となれば引きずっていた懸念払拭で経済・不動産市場にはプラス。米が先制攻撃を行った場合、期間にもよるものの円高や株安、金利上昇などの可能性があり日本経済への打撃は未知数。国内の米軍基地が攻撃されるようなことがあれば先の見通しが立たず、といったところでしょう。

「見落とし」「不動産業者との癒着」などの「インスペクショントラブル」が勃発

4月に始まる「インスペクション説明義務化」。国は制度に合わせ、インスペクションを行う「既存住宅現況検査技術者」を3月までに、全米のそれと同数の2万4000人まで増やす方針。かんたんな講習を受けるだけの本制度が問題なく機能するとは思えず、各所で「見落とし」「不動産業者との癒着」などの「インスペクショントラブル」が勃発するのは必至。ユーザーは、インスペクターの実績や第三者性を確認することが大事になるといった、欧米などインスペクション先進国における常識が叫ばれる年となるでしょう。


長嶋修

長嶋 修(ながしま おさむ)

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。『中立な不動産コンサルタント』としてマイホーム購入・不動産投資など不動産購入ノウハウや、業界・政策への提言を行なう。著書・メディア出演多数。現在、東洋経済オンライン、Forbes JAPAN WEB等で連載中。業界・政策提言や社会問題全般にも言及する。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)、『不動産格差』(日本経済新聞出版社) 他、著書多数。新著に『5年後に笑う不動産』(ビジネス社)。