過去の津波地震に学ぶ
5月後半は、歴史的にみて大きな津波地震がいくつか発生しています。ここでは、あまり知られていないこともある、この時期に過去発生した3つの地震津波の教訓を紐解いてみます。西暦869年5月26日に発生した三陸沖を震源とする海溝型の巨大地震による「巨大津波」である・貞観地震(じょうがんじしん)、1960年5月24日に南米で発生したチリ地震による津波が三陸沿岸を襲った「遠地津波」であるチリ地震津波、1983年5月26日に発生し津波に遠足の児童など100人以上が巻き込まれた「日本海の津波」日本海中部地震について解説します。貞観(じょうがん)地震 1000年に1回クラスの巨大津波
貞観地震は、今から1154年前の貞観11年(西暦869年)5月26日に、三陸沖を震源として起きた地震で、マグニチュード8.3程度と推測されます(仙台管区気象台)。仙台付近では約1000年に1回、内陸深くに押し寄せて甚大な被害をもたらす巨大津波が襲来していたことがわかっていますが、貞観地震は、過去にこのような巨大津波を起こした地震の1つと考えられています。過去の地震や津波被害の履歴は、古文書に書き記された災害の記載を調べたり、津波が押し寄せた際に残していった土砂(津波堆積物)の分布を調べたり、海岸線の隆起した量やそれらの年代から調べることができます。仙台平野の例では、過去の津波堆積物などの調査から、およそ1000年の巨大な津波が襲来していたことがわかっていました。
湿原の泥層に挟まれた津波堆積物の例:写真中央王の白い砂の層(横山芳春撮影)
東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は巨大津波による大きな被害が発生しており、「1000年に1度の巨大津波」に相当するといわれることがあります。貞観地震から1142年後に発生した地震で、事前に巨大津波が襲来する可能性は警告されていたものの、特に原発などでの対策が進まなかったことは課題です。戸建て住宅などでは対策は難しい点もありますが、原子力発電所という施設であれば、その立地や万一の対策として、最大級の対策が必要であったと考えます。 日本近海で懸念される巨大津波地震としては、南海トラフ沿岸、北海道東方の千島海溝などの地震で、巨大な津波が想定されています。関東でも、大正時代の関東地震(関東大震災)より規模が大きい「元禄型」関東地震は、500年おきに発生してきたとする研究もあります(東京大学)。これらの再来間隔は、数百年、1000年オーダーと言う数世代以上の感覚があるほど長い場合もあります。私たちが生きている時代に、現実として起きた東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)という、巨大地震・巨大津波の教訓がじゅうぶん活かされて、今後の津波発生時の被害が減ることが望まれます。 長い再来間隔の津波も、決して他人事ではありません。ひとたび発生したときには多くの被害が発生することを知り、いざという時の対抗する備えは難しいので、避難が必要かどうか、避難先はどこか、どう行動するかについて日ごろから考えておくことが重要でしょう。チリ地震津波 地球の反対側で起きた地震による「遠地津波」
チリ地震は昭和35年(1960年)5月23日の4時15分ごろ(日本時間)、太平洋を挟んで地球の反対側のチリ沖で発生した地震で、規模はM9.5と世界の観測史上の最大となる地震でした。津波が発生し、チリ沿岸では10m以上の津波が押し寄せたほか、津波は太平洋を越えて5月24日未明、日本沿岸に到達しました。津波の速さは平均時速750km/hに達し、太平洋を越えて伝わってくる過程で、巨大な津波となりました。
チリ地震津波の浸水深表示と避難誘導看板 (宮城県南三陸町にて 2008年横山芳春撮影)
地形的な要因から三陸沿岸での津波は高いところで6m以上に達し、日本全国で死者139名、住家の流失・全壊2,830棟,半壊2,183棟,浸水37,195棟などの大きな被害をもたらしました。長い周期の津波で、波が低くなる引き波の際に海藻などを取りに行って亡くなった方の例もあります。海がいつもの引き潮の時間や規模とは違う引き方をしているときは津波の可能性が有るので、魚介類、海藻取りなどは危険です。一方、津波の前に必ず引き波があるわけではありません。 2023年4月20日、気象庁防災情報のTwitterで『「津波の前には必ず潮が引く」という話を聞いたことがありますか?さて、この話は本当でしょうか?』という津波クイズが出題されましたが、6割近い57.4%の方が「本当」と回答しています。引き波がないから津波は来ないということはありません。こういった知識が周知されることを願います。 チリ地震のような、はるか遠方で起きた地震による津波は、「遠地津波」と呼ばれます。震源が遠い、海外で発生した地震などでは地震の揺れは感じませんが、津波は海を伝わってはるか遠くにまで達します。現在では国際的な太平洋津波監視システムが発展しており、事前に襲来を知ることが可能であり、津波による被害が想定される前には津波警報等が発令されます。到達が予測される時間を知ることもできます。 ここで知っておきたい教訓は、「津波は地震の揺れを感じない場合にも起こる可能性があること」です。揺れがなくとも津波警報等が発令されたら、ただちに高台などに避難することが必要です。日本海中部地震 太平洋側だけではない「日本海の津波」
日本海中部地震は、40年前の昭和58年(1983年)5月26日、秋田県沖の日本海を震源としたM7.7の地震です。最大14mに達する津波をもたらし、津波による死者100名、住家の流失52棟などの被害が発生しています。死者は港湾で護岸工事中の作業員、釣り人のほか、男鹿市の海岸では遠足で海岸に来ていた小学生児童4,5年生が津波に飲み込まれ、児童13人が亡くなるという被害もありました。当時の「日本海では津波がない」という俗説が避難行動につながりづらかったこともあります。 当時の津波警報発令は15分後でしたが、津波の第一波は早いところでは地震発生後8分で到達していたとされます。現在では地震発生後3分を目途に津波警報等が発令されますが、地域によっては地震発生から津波の到達まで数分と言う地域もあります。発表を待って避難の準備や行動を開始したのでは間に合わないこともあります。とくに津波で高い浸水深が葬礼される地域や海岸のレジャー中になどで大きな地震の揺れを感じた場合、警報の発令有無を待つのではなく、速やかに低い土地や海岸から離れて高台や津波避難ビルに避難することを優先しましょう。
津波一次避難施設の看板 (千葉県船橋市にて 横山芳春撮影)
「日本海側では津波が起きない」という俗説もありますが、これは今では明確な誤りとなっています。日本海中部地震だけではなく、その10年後の1993年7月12日に発生した北海道南西沖地震(M7.8)では、地震発生から数分で北海道奥尻島に津波が襲来。最大30mを超える高さの津波により、奥尻島の人口の4%にあたる198名の方が亡くなりました。奥尻島では、亡くなった方の45.5%が割合が61歳以上と突出しており(内閣府)、災害弱者の避難が難しいと言う課題をつきつけています。 〇〇地域では津波が来ない、ここは津波が来たことがない、という俗説ではなく、最新のハザードマップなどを参考に、津波の被害を受けるおそれがある地域では適切・迅速な避難が求められます。























