現役ホームインスペクター(パートナー建築士)に聞きました『密着!ホームインスペクターのリアル』

ホームインスペクション(住宅診断・住宅検査)を仕事として多数経験している建築士はまだまだ少なく、知り合いに様子を聞いてみようにも、ホームインスペクターの知り合いがいない方のほうが多いのではないでしょうか。

「ホームインスペクションはどんな仕事なんだろう?」
「いざ自分がホームインスペクターとして活動したらどうなるんだろう?」
「自分の設計事務所等の仕事と両立できるものなんだろうか?」

こういった疑問をなかなかお聞きいただく機会も少ないことでしょう。そこで、すでにさくら事務所ホームインスペクターとして数多くの調査・検査を行ってきたパートナー建築士※に、こんなことを聞いてみました。

  • ホームインスペクション以外の自身の仕事
  • ホームインスペクションを始めたきっかけ
  • 業務を始めてから大変だったこと
  • 自身の仕事にホームインスペクションが役立つと思うこと
  • 仕事の両立で大変なこと
  • ホームインスペクションの好きなところ、楽しいと思うこと

さくら事務所でホームインスペクションを行っているパートナー建築士は、建物の設計や監理、現場管理の経験はたくさんあるけど、初めてさくら事務所にコンタクトを取ったとき、ホームインスペクションはやったことが無かった方がほとんど。 

その先輩パートナーの皆さんの、忌憚のない意見を、ホームインスペクションを始めるかどうかの参考になさってください。

※個人または法人(自身の設計事務所等)として、さくら事務所と業務委託契約を締結している建築士

■File1 一級建築士 松島 伸行

正確な調査スキルはもちろんのこと、物腰がやわらかく落ち着いた話し方とわかりやすい説明により多数のご依頼者様の好評を得ている松島さん。一戸建てからマンション、自宅用物件から投資用物件まで幅広い建物のホームインスペクションを担当しています。

さくら事務所のホームインスペクション以外はどんな仕事をしていますか?
設計事務所で建築物の設計監理業務を行っています。
ホームインスペクションをやってみようと思ったきっかけは?
知り合いにインスペクションを始めた方がいて、おもしろそうだと興味を持ったのが始まりです。これまでやったことがないジャンルを新たに始めることで、知識を広げることができるのではないかと思い、応募しました。
ホームインスペクションの研修や業務を始めてしばらくの間、どんなことが大変でしたか?
普段、自分がやっている設計や監理とは違い、建物をチェックするために現場で手や体を動かす作業に慣れるのに少し手間取りました。点検口や給気口、換気扇の蓋(フェース)などを開ける経験はあまりなかったので。
ホームインスペクションの経験がご自身の仕事に役立っていると思うことは何ですか?
自分の設計監理の仕事では出会ったことがない仕様や製品に触れられることです。自分の設計業務の参考になっています。 さくら事務所には、さまざまな不動産会社や施工会社、設計事務所が関わった物件について、その契約者や所有者から調査の依頼が来ます。これまで関与したことがない会社の設計・施工の仕様を知ることができたり、また、新築物件の内覧会などでは各種メーカーの最新の製品などに触れることができます。
ご自身の仕事とホームインスペクション業務の両立で大変なことは何ですか?
時間の調整です。インスペクションの対応ができない日をあらかじめさくら事務所に知らせておき、対応可能な日についてさくら事務所から業務の依頼が来るのですが、いくつか続けてインスペクションが入ってきたり、また、自分の設計の仕事で急な対応が必要なものが重なると、作業時間をやりくりするのが大変なときがあります。
ホームインスペクションの仕事で好きなところ、楽しいと思うことは何ですか?
ご依頼様者や不動産会社の方、施工会社や設計者の方など、多くの人に関われることと、たくさんの建物に触れられることに面白みを感じます。また、さくら事務所のホームインスペクターには私と同様に設計監理をしている方が多いので、仕事仲間が増えるのも楽しいことの一つです。

■File2 一級建築士 和泉 達夫

「担当していただけて、本当によかったです」という感想が数多く寄せられる和泉さん。丁寧な調査はもちろんのこと、ご依頼者様に理解していただきやすい説明方法やレポートの表現などをいつも考えておられ、今もなお進化し続けるホームインスペクターです。

さくら事務所のホームインスペクション以外はどんな仕事をしていますか?
設計事務所で、アルミ建材メーカー各社の商品開発における構造計算を請けたり、アルミ製品のJIS規格原案改訂委員を務めたりしています。
ホームインスペクションをやってみようと思ったきっかけは?
さくら事務所のホームページを見て、「かかりつけのお医者さん」というフレーズに魅かれ、併せて現実に行っている仕事スタイルに共感を受けたことがきっかけです。ホームページに書かれている様々なメッセージを通じて、設計監理や施工管理とは趣きを異にした、これからの住宅市場で必ず求められる中立な立場の建築技術者像がイメージできたため迷わず応募しました。
ホームインスペクションの研修や業務を始めてしばらくの間、どんなことが大変でしたか?
はじめは、検査の手順や時間配分など、自分に合ったやり方が確立していなかったため、毎回のように試行錯誤の連続でした。道具についても、自分なりに使い勝手が良い道具を見極めるのに時間が掛かりました。
調査後に作成するレポート(報告書)のコメントも、伝えたいことはイメージできているのに、意外と要領良くまとめることが難しく苦労しました。また、さくら事務所は中立・第三者性を最も大切にしていますから、出来が良い部分はご依頼者様にそのことを正確にお伝えしたいのですが、伝え方によっては供給者側に近い目線で見ていると誤解されてしまう恐れもあります。ですから、先輩ホームインスペクターのレポートを見てキラリと光る文言をチョイスし、自分なりの表現集を作ったりして、表現力向上の努力をしました。
ホームインスペクションの経験がご自身の仕事に役立っていると思うことは何ですか?
新築の業務では住宅市場のトレンドな工法(構法)を、中古の業務では年数を経た建物の劣化度合いを知れ、自分の設計事務所の仕事に役立てられることです。たとえば、ホームインスペクションを通じて得られた情報や知識が、住宅の外壁(躯体含む)に後付けで施工するサンルームやバルコニー等の雨漏りが起こりにくい施工方法や商品開発支援のヒントとなりました。
ご自身の仕事とホームインスペクション業務の両立で大変なことは何ですか?
3日連続でホームインスペクションが入り、それらのレポート作成と個人で請け負った仕事がたまたま同時期にバッティングした時は、仕事量がとても多くなり少々ハードでした。業務バランスやスケジュール管理もさることながら、忙しいときほど思わぬミスが潜んでいるのが常であり、些細なミスによる品質低下を招かないよう、納品成果物の仕上がりには十分注意を払っています。
ホームインスペクションの仕事で好きなところ、楽しいと思うことは何ですか?
インスペクション現場では調査・点検に身体を使います。また、レポートや写真処理のデスクワークもありますから、身体労働と頭脳労働が適度に切替できて、「ボケ防止」・「健康志向」な仕事で(笑)、40代以上の建築技術者にもお勧めの仕事だと思います。設計監理・施工管理では味わえない充実感がこの仕事にはあると思っています。そういう満ち足りた時間に浸れることが、次も頑張ろうという原動力になっています。
ホームインスペクションの経験で特に記憶に残っていることを教えてください
プレハブメーカーの若い現場監督(20代後半ぐらいか?)さんが、私が行うホームインスペクションに付きっきりで回ったことがありました。
ホームインスペクションのやり方とはどんなものか、或いはさくら事務所の仕事ぶりはどの程度のものかといった興味半分ぐらいのものだと思っていましたが、その若い現場監督さんが『私たち住宅メーカーの監督も、一現場に3時間~4時間ぐらいかけ真剣に検査する必要性を感じました。』と検査を終えた全体総括の場面で、ご依頼者様を前に最後にポツンと述べていたのが印象的でした。

■File3 一級建築士 野上 哲也

いかにも若手建築家といったスマートな印象の野上さん。「屋根裏に入るのが好き」というホームインスペクターらしい(?)マニアックな顔も見せてくれました。

さくら事務所のホームインスペクション以外はどんな仕事をしていますか?
新築住宅、アパートのリノベーション、耐震補強など主に住宅の設計を行っています。
ホームインスペクションをやってみようと思ったきっかけは?
これからのストックの時代には必要なスキルだと感じました。
現状を知ることは何をするにも必要なステップです。建築設計の知識や経験を生かしつつ、建築後の建物の状態や劣化事例を数多く見ることが出来るところに興味を持ちました。
ホームインスペクションの研修や業務を始めてしばらくの間、どんなことが大変でしたか?
調査が時間通りに終わらない、これが一番大変でした。
しかし、インストラクターからの助言なども頂きながら何度か経験を積むうちに、時間がかかりすぎることはなくなりました。
ホームインスペクションの経験がご自身の仕事に役立っていると思うことは何ですか?
何より沢山の物件を見ることが出来ることです。リノベーションや耐震改修工事などを行うときに、痛んだ箇所のチェックや修繕の必要性などを判断したり、アドバイスがし易くなりました。また、ホームインスペクションでは、数時間という短い時間の中でご依頼者様、売主様、施工業者様といったさまざまな立場の方々に配慮しつつ仕事を進め、皆様に満足していただく必要があります。
こうしたコミュニケーションに関する経験は、ホームインスペクション以外にも役立っていると思います。
ご自身の仕事とホームインスペクション業務の両立で大変なことは何ですか?
時間の調整です。土日に業務が入ることも多く、休日の確保なども含めスケジュールを良く考える必要があります。また、荷物が多く、重いのでどうしたら快適に移動できるか試行錯誤しています。
ホームインスペクションの仕事で好きなところ、楽しいと思うことは何ですか?
いろいろなところに行って、いろいろな建物や街を見られること、依頼してよかったと言っていただけたとき、ご依頼者様との関係を壊さないよう配慮した売主様・施工業者さんとのやりとり、それと、屋根裏に入るのが好きです。
ホームインスペクションの経験で特に記憶に残っていることを教えてください
家の中に別の家が隠れていたことがありました。十数年前にリフォーム済みという前情報です。しかし、調査をすすめると床下や屋根裏からリフォームした部分よりもさらに古い家の基礎や屋根(の中に屋根がある状態)が見つかりました。増築によりオリジナルの小さな家に屋根も含めてすっぽりと大きな家をかぶせ、さらにその大きな家をリフォームしていたのでした。内装からでは全く分からない状態でした。 そうした状態であったことへの驚きもありましたが、住むということの多様さ、増改築方法の妥当性、履歴や資料を残すことの大事さ、推理する調査の楽しさなどいろいろと考えされられる案件でした。

※2018年よりさくら事務所関西で活動しています。