冬の土砂災害が頻発・その特徴と気を付けたいこと

  • Update: 2023-02-16
冬の土砂災害が頻発・その特徴と気を付けたいこと

冬の土砂災害が頻発/その特徴と気を付けたいこと

梅雨時・台風シーズンではない冬に起こる土砂災害

 2023年2月10日には神奈川県横浜市保土ヶ谷区で土砂が崩れた、2月13日午後には東京都世田谷区で、土留めが崩れたというニュースが続きました。2020年2月5日には、神奈川県逗子市でマンション前の斜面が大きく崩れ、下の市道を歩いていた県立高校の女子生徒(当時18歳)が亡くなるという痛ましい事故も発生しました。近年、関東地方で大雨も地震もない冬場に起こる土砂災害が目立っています。土砂災害は、降水量の多い梅雨時・台風シーズンである5~10月や、大きな地震があった際に良く起こるというイメージがあります。

 昨年、2022年12月31日には山形県鶴岡市で大規模な土砂崩れが発生し、2名の方が亡くなりましたが、風化していた山全体に雪解け水が浸透して崩れたという報道があり、首都圏は積雪が多い地域ではありませんので少し様相が異なっています。大雨シーズンだけではない、冬に気を付けたい土砂災害の原因として考えられることや特徴斜面や擁壁を抱えた物件をこれから買う人、すでに買われて住んでいる方が気を付けるべきことについてまとめました。

2023年2月13日 東京都世田谷区成城の例

  2023年2月13日午後、世田谷区成城の道路沿いの工事現場で、「コンクリート製の擁壁が崩れた」という報道がありました。現地は、成城学園前から南に向かい、坂を下った先にありました。この坂こそ、「国分寺崖線」と呼ばれる東京都立川市から大田区まで連続する延長約30kmにおよぶ崖(斜面)です。主に武蔵野台地多摩川沿いの低地の境界となっており、数万年前の多摩川の流れが作り出した地形です。

 世田谷区付近の国分寺崖線は20mくらいの高低差がありますが、現地付近では階段状に2段になっており、崖の下側から見た高さが10mほどの崖になっている地形でした。下の図は標高で塗り分けて陰影をつけた地図ですが、現地(中央の+印)では赤色系の高い場所から、青色系の低い場所に一挙に下っている場所であることがわかります。成城学園前駅から現地に向かうと、途中から一挙に急坂を下りますが、この下り坂こそ国分寺崖線を降りる道です。

「地理院地図」に自分で作る色別標高図を表示 世田谷区成城の現地は+印

 このような崖線だけではなく、台地と低地の境目(地形境界)などでは、高低差ができることがよくあります。高低差があるということは、高い場所と低い場所の間にはがけや斜面があります。がけの上下に住もうとすれば擁壁などが必要となる場合もあります。斜面に土地平らな土地を作って住もうとすると、「切土」、「盛土」などでひな壇型の造成が必要となることが多いです。こういった土地では、平坦な場所とは異なり、崖や斜面が崩れることで土砂災害の可能性があります。高低差がある土地は、多かれ少なかれ崩れる可能性があると言っても過言ではありません。

 土砂災害の可能性については、土砂災害ハザードマップが目安になります。土砂災害特別警戒区域土砂災害警戒区域に指定されていれば、土砂災害に要警戒。ただし、これら区域にない場所であるからといって土砂災害がないことが担保されていないことに注意が必要です。今回の現地(中央の+印)は周辺に土砂災害特別警戒区域(赤色)、同警戒区域(黄色)がありますが、現地は指定区域外でした。

「重ねるハザードマップ」に土砂災害マップを表示 世田谷区成城の現地は+印

 雨量はどうでしょうか。近隣における気象庁のデータ(世田谷)によると、2月の降水量は当日の13日に7.5㎜(最大1時間雨量1.5㎜)、10日に26.5㎜(最大1時間雨量4.0㎜)の降水量があったほか、降水はありませんでした。 国土交通省のHPでは、「土砂災害の多くは雨が原因で起こります。1時間に20ミリ以上、または降り始めてから100ミリ以上の降雨量になったら十分な注意が必要です」と記載されているものには及ばないものの、降水があった日ではありました。

 実際に、被害の発生した翌日の2月14日に現地を確認しました。法面に張り付いていたコンクリート製の壁面が倒れ掛かり、重機にのしかかっているようにみられました。一般的な擁壁の形式、法枠工とも異なるようにみられますが、従前はマンションがあった場所であるようです。この壁より下部を掘削していた土留めの影響との指摘もあるようで、今後は斜面のこれらを総合した原因分析が進むものと思われます。

 一方で、西側隣地にある水抜き孔などもあるRC製擁壁は、被害なく残存していました。現行法令に則った擁壁であれば崩落しなかった可能性など、今後検証が進むものと考えます。一刻も早い対策工の実施により、崖の上や下などの住宅等に被害がないことを祈るばかりです。

 世田谷区の崩落に関しては、根本的には①そこに斜面・崖があったということが素因として大きいものと考えます。崖があることで、②崖ぎわでの工事・造作などの影響により、崖の上に住んでいる方が受けてしまう可能性が発生するものと考えます。。

2023年2月14日(発災翌日)の現地の様子(横山芳春撮影)

2022年2月10日 横浜市保土ヶ谷区の土砂災害

 2023年2月10日午後、横浜市保土ヶ谷区岩井町で「住宅地で土砂崩れ 12世帯に避難指示」という報道がありました。現地は、JR保土ヶ谷駅近くの国道1号線沿いで、標高40~50m程の台地の山裾に近い部分でした。台地に入る小さな谷となっているところに、ひな壇型に高くなっている地点のマンション前の土留め部分でした。

 下の図は、「地理院地図」の背景に地形区分を表示しています。色塗りでオレンジが台地(高台の上の平坦地)、灰色が台地斜面(岩井町より西では丘陵部も)、茶色が山麓堆積地形(山裾に山から運ばれた土砂が溜まった場所)、黄緑色が川沿いの低地です。

 現地は、台地斜面と山麓堆積地形の境界付近に位置しています。いっぽう、オレンジや赤、緑色の丸は、過去に土砂災害が発生した場所です。現地の南側一帯など、すぐ近くでも多数の土砂災害が過去にあったことがわかります。災害履歴が多い場所は、その後の対策などにもよりますが災害が繰り返し起きやすい場所であると考えやすいです。

「地理院地図」に地形区分と災害履歴を表示 横浜市保土ヶ谷区岩井町の現地は+印

 土砂災害ハザードマップでは、対象地付近は黄色の「土砂災害警戒区域(急傾斜地の崩壊)」に指定され、併せて灰色の「急傾斜地崩壊危険箇所(傾斜度30°かつ高さ5m以上の急傾斜地で人家等に被害を与えるおそれのある箇所)」に該当しています。周囲にはより警戒が必要な、赤色の「土砂災害特別警戒区域(急傾斜地の崩壊)」も含め、これら区域が広い範囲にあり、そもそも土砂災害に対して警戒が必要な地域であるということがわかります。

「重ねるハザードマップ」に土砂災害マップを表示 横浜市保土ヶ谷区岩井町の現地は+印

 2月の降水量は、気象庁のデータ(横浜)によると、当日の10日に24.5㎜(最大1時間雨量4.0㎜)、8日に0.0㎜の降水量があり、それ以外の降水はありませんでした。世田谷同様、警戒が必要な降水量には及ばないものの、関東でも積雪があるなど降水があった日でした。

 被害発生から4日後の2月14日に現地を確認しました。現地は周囲に見上げるほどの斜面がそびえる一角にありました。近くには立ち寄れませんでしたが、国道一号線から山裾の谷に向かう斜面の中腹にマンションがあり、その前面に塀とみられる構造物と、その上にコンクリートブロックが2段、さらにアルミフェンスが乗っているとみられる部分があり、これらが谷側に倒れ込んでいる様子が見られました。

 塀の山側は、側面から見ると一部崩落していることを考慮してもなお、少なくとも高さの半分以上に土が乗っているように見受けられます。単なる塀としての用途ではなく、土圧がかかっていたことが想定されます。

 塀の背後には植栽もあり、これらの根の成長などがあったことや、地下水が流れ込みやすかった位置にあることは想定されます。近隣の路地を見ると、斜面から湧水が豊富に湧出している場所もあり、谷沿いであることから湧水が集まりやすい場所であったこととは考えられます。

 塀であれば、擁壁、土留めとしての用途として使うものではありません土圧がかかることは想定されていません原因の一つに、本来の用途とは違うものを擁壁、土留め代わりに用いていた可能性も考えられます。①斜面に位置していること、②本来の土留めではない塀などを用いた可能性、③植栽・地下水の影響の可能性などが考えられます。

2023年2月14日(発災4日後)の現地の様子(横山芳春撮影)

2020年2月5日 逗子市池子の土砂災害

 2020年2月に発生した逗子市池子の土砂災害では、「雨も降っていないのに発生した発生した土砂災害」として報道されました。現場は、三浦半島の丘陵地に位置しており、土砂災害ハザードマップで見ると、土砂災害特別警戒区域、ならびに土砂災害警戒区域に指定されていました。全くのノーマークであった場所というわけではありません。

「重ねるハザードマップ」に土砂災害マップを表示 逗子市池子の現地は+印

 当時、土砂崩れが発生した当日に現地入りし、被害状況を確認していました。道路面から高さ8mほどの擁壁があり、擁壁上には落石防護用の柵がありましたが、土砂が崩落した地点では押しつぶされていました。その上に8mほどの斜面があって、ここにはコンクリート吹付などはなされていませんでした。

 この約16mほどの擁壁と斜面の上にマンションが建っていました。この斜面部分が表面の植栽もともに崩落しており、崩壊した土砂の面が見えていました。風化が進みブロック状に突出している部分も見られました。

 午後に現場に入った際には道路側に崩落した土砂は撤去されていましたが、残っている岩の破片を観察すると、細粒の凝灰質砂岩である様子が見て取れました。

2020年2月5日(発災当日午後)の現地の様子(横山芳春撮影)

 国総研によると、「⽔による流動・崩壊ではなく、乾湿、低温等による風化を主因とした崩落」とされています。「東北東向きの日当たりの悪い急傾斜面」にあって、風も当たりにくいことが風化を促進したことも指摘されています。地盤によっては、雨や地震でなく風化が進むことや、寒暖差などによって斜面がもろくなっていくこともあります。

 ただし、何も前兆がなく崩れたものではありません。崩落前日には斜面に亀裂が入っていることが確認「崩落の前兆」危機感共有されず | 毎日新聞 )されていましたが、道路の通行止めなどの措置や、せめて斜面側の歩道を通行させない措置を行ってほしかったと考えるほかありません。

このように、①高い擁壁と斜面が道路脇にあり、②「風化」をしやすい地質からなっていた、③前兆現象が生かされなかったことなどの可能性が考えられます。

 土砂災害(崖崩れ・急傾斜地の崩壊)には、前兆現象がみられることがあります。代表的なものが、崖、斜面に発生する亀裂・ひび割れです。次に落石がある、地下水が止まった、泥水が噴出してきたなどがあります。崖、斜面が近くにある場合、こういった現象を見かけたら管理者、自治体などへの通報と、通学路等である場合前の道路を通らないような措置が望まれます。前兆現象を見逃さず行動に移すことで、冬場でも土砂災害による被害を繰り返すことが減るものと考えます。

冬の土砂災害から学ぶ教訓とこれから気を付けるべきこと

 世田谷区の事例では、地下の掘削やマンション、土留め、横浜市保土ヶ谷区の事例では斜面の塀らしき土留め、植栽や地下水の影響が、2020年逗子市の事例では高い斜面にコンクリート吹付などがない風化しやすい岩の斜面で、前兆現象が生かせなかったことが想定されます。

 これらの事例は、まずは「そこに崖(斜面)があるから」という、そもそもの原因が大きいといえます。崖がない立地であれば、崩れることはないからです。「まさか崩れることはない」ではなく、「場合によっては崩れる可能性がある」「対策に大きな金額がかかる可能性がある」ことは知っておく必要があると考えます。

 冬は、梅雨時~台風シーズンであり降水量が多い6~10月と比べると土砂災害が少ない傾向があります。しかし、急激に大雨が降った後のほか、日常的な地盤の風化や、気温が上がった日の雪解け水、地域によっては寒暖差で地盤が凍ることと溶けることの繰り返し(凍結融解)などの条件で、大雨がなくとも地盤が崩れやすくなることなどもあります。

 以上より、まずはその土地が土砂災害リスクがある斜面や崖に近い場所かどうかを知ることが大事です。土砂災害ハザードマップで、土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域に該当するかを確認しましょう。ただし、これら区域に指定されていない斜面や崖が崩れ、被害が発生するケースも多くあります。

 区域内だから必ず危険、区域外だから安全が担保されている、というわけではありません。崖の下にお住まいの場合は、崩れた際には崖の高さの2倍(安全を見ると3倍)程度の距離まで被害が及ぶ場合があります(防災科研資料)。

 次に、本来擁壁として本来用いるべきでない構造物や、既存不適格の擁壁は、豪雨や地震時だけでなく、平時の土圧(地盤じたいと上に載る構造物の重量も含む)にも耐えられるかわからない、ということです。擁壁のチェックは、国土交通省が令和4年に宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアルを公開しているので、参考にするといいでしょう。下の図にないもの(塀など)は、そもそも擁壁として使うものではありません。

擁壁の種類(宅地擁壁の健全度判定・予防保全対策マニュアルより)

 

 戸建て住宅の所有者だけでなく、マンションの区分所有者も「工作物責任」で、過失がなくても土地の区分所有者が賠償責任を負うものとして訴訟に至る場合(神奈川新聞 報道)などもあります。

 豪雨時だけでなく、突然の地震で擁壁の倒壊や崖崩れに至る場合もありますし、工事や徐々に進む風化などで思わぬ被害が発生することを、事例から知っておく必要があります。がけ崩れの発生は雨の多い時期だけに限らず、冬場でも起こる可能性を知っておくことも重要であるように考えます。

斜面の近く・擁壁のある物件にお住まいの方の注意点

 既に住んでいる方は、土地や隣地、周辺に既存の擁壁があるか、擁壁がある場合には、国交省マニュアルをもとにしたチェックを行うことが望ましいです。日ごろから水抜き孔、排水溝のゴミ取りや清掃、急に水が出なくなったなどの異常がないか気を配りましょう。

 さらに、お住まいの地域を大地震や豪雨があった際、また定期的に傾きやひび割れの発生などがないか、チェックしておくことをお勧めします。異常があった場合には、専門業者への相談や必要な対策を行うことが望ましいと考えます。 

 土砂災害が懸念される崖の近く、とくに土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域に住まわれて、住宅が被害を受けることが想定される場合は、豪雨などの際に崩壊の危険があります。避難情報などを確認し、必要に応じて避難ができるような備えと、避難する際のルート、避難先(安全な場所の親戚・知人宅等も含む)をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。

斜面の近く・擁壁のある物件の購入・居住を検討している方の注意点

 購入、居住を検討している物件に擁壁がある場合も、まずは国交省マニュアルをもとに、事前に現地でよく確認しましょう。まずは、そもそも擁壁であるのか、それ以外の塀などか。自然の斜面か。擁壁がある場合は、とくに擁壁の傾きや大きなひび割れ、水抜き孔などは要チェックです。年代が古い物件の擁壁では、現行の基準に満たない「既存不適格」になっている場合があり、安全性に問題があるケースも想定されます。

 既存住宅に住み続ける場合でも、大地震や大雨の際に崩落する可能性などもあることから、定期的な点検や異常のチェックは欠かせません。また、建て替えの際に地盤改良工事や擁壁の新設などで思ったより大きな金額がかかってしまうこともありますので、あらかじめよく調べておくことが望まれます。

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。