2026年06月29日

横山 芳春

監修者:横山 芳春

さくら事務所 地盤・防災コンサルタント

地盤と宅地の防災を専門としており、災害が起きた際には速やかに被災地入りして被害調査を行ってきた経験から、想定外を起こさない立地・住宅の災害リスク評価、診断、備えのポイントを伝えることを目指しています。
広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震等では発生当日又は翌朝に現地入りして現地調査・メディア対応を実施。
防災に関するコラム執筆、現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤と防災のプロフェッショナル。
地震災害、地盤災害(陥没など)、豪雨災害など、取材・報道対応も行う。

岩手県沖の地震 現地被害と課題・注意点は?

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岩手県沖の地震 現地被害と課題・注意点は?

6月25日に発生した岩手県沖地震

2026年6月25日7時30分頃、岩手県沖を震源とする地震が発生しました。青森県階上町で最大震度6強、八戸市で震度6弱を観測し、北海道から中部地方にかけて広範囲で揺れに見舞われました。気象庁によると、震源の深さは約44km、規模はM7.2と推定され、太平洋プレートと陸側プレートの境界付近で発生したものと考えられています。

この地域では、わずか半年ほど前の2025年12月8日にも青森県東方沖を震源とする地震が発生し、八戸市などで最大震度6強を観測しています。短期間に同地域で震度6弱~6強の揺れが繰り返される事態となりました。

このたびの岩手県沖地震、および昨年からの度重なる地震により被災された皆様、不安な日々を過ごされている地域の皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。

昨年12月の青森県東方沖の地震後に八戸市内で被害調査を実施(調査報告)しましたが、今回の岩手県沖地震においても、発生翌日の6月26日午後から27日にかけて八戸市および階上町の現地調査を行いました。今後も大地震の発生が懸念されている「空白域」である指摘がある地域でもあることから、現地被害の状況や特徴、そして今後の課題と注意点について報告します。

※本記事では、2025年12月8日に発生した青森県東方沖を震源とする地震を「青森県沖地震」と呼称します。なお、記事内の被害状況は、可能な限り今回岩手県沖地震とみられる被害を掲載していますが、直近に同地域で発生した青森県沖地震の地震で生じた被害が含まれる可能性がある点をご容赦ください。地域としての被害傾向、また調査時点での現地状況の記録となればと考えております。

八戸中心街付近の被害

八戸中心街付近については、青森県沖地震後の11日夜に八戸市街(とくに中心街から南側)、12日に調査を実施しておりますので、その際の様子とも比較しつつ調査を実施しました。

八戸市街(八戸中心市街地)は、八戸城の城下町として発達し、「新産業都市」に指定されたことから1960年代以降発展した都市の中核をなし、青森県内で2番目の人口の都市である八戸市の施政、経済、グルメ等の中心として栄えています。地形としては、八戸城が台地(八戸台地)のへりに位置しており、中心市街地は同じ台地の上にあり、一般的に地盤が良い側の場所に位置しています。

八戸市街(八戸中心市街地)は、地形的には台地(八戸台地)の縁に位置し、一般的には地盤が良いとされるエリアです。今回の調査で、八戸中心街とその周辺の被害は、

  • ①地盤が良い台地上でも古いビルの被害
  • ②地形境界部(斜面)
  • ③低地側の被害、の被害

これらが目立つなど、「立地」の問題と、「耐震性」のに起因する被害があったように感じました。
以下、それぞれを開設してまいります。

①中心市街地の古いビルの被害

八戸中心街では、青森県沖地震に引き続き、ビル外壁などの落下が見られました。

特に被害が目立ったのは、八戸中央通郵便局が入っていた(昨年の地震後から一時閉鎖中)ポストコアビルです。ビルの5階部分側面の外壁が隣接する駐車場へ、また一部は前面の歩道側へと落下していました。離れた場所から確認すると、まだ落下していない壁の一部が不安定に残存しているようにも見えます。

近隣のビルでも「外壁落下の恐れがあるため歩道通行できません」という掲示とともに周囲の歩道が通行止めとなっており、歩道上に外壁の破片が散乱している箇所がありました。

② 地形境界部(斜面)および ③ 低地側の被害

中心市街地から南側、台地斜面に位置する寺院では、墓石の転倒などが確認できました。ここは青森県沖地震後にも多くの墓石が転倒していた場所です。その際に見られたような「新しい墓石が多数転倒している」といった様子は見受けられませんでしたが、一部で古い墓石や墓誌の転倒がみられました(場合により、青森県沖地震の転倒等が未復旧の地点もあることが想定)。

周辺の擁壁の一部には、擁壁の傾きと背後の土の地割れが見られる場所がありました。地割れが比較的新しいと見られるため特記しますが、これも12月地震の影響である可能性は否定できません。周辺の斜面では、数箇所で亀裂や表面の剥離・落下が見られました。

③ 低地側の被害

斜面を下った低地エリア(中心街の南東側)では、建物の基礎部分の亀裂や、外構部の段差などが発生している地点が目立ちました。これも12月地震の被害を含んでいる可能性がありますが、低地エリア特有の目立つ被害です。

市内で見かけた「文久改正八戸御城下略図」の看板を見ると、この付近はちょうど「類家堤」と呼ばれるため池があった付近とみられます。「堤」とは、東北地方でため池を指します。

市内で見かけた「文久改正八戸御城下略図」の看板によれば、この付近は「類家堤」と呼ばれるため池があった場所と推測されます(※東北地方ではため池を「堤」と呼びます)。類家堤は、八戸藩時代には城下町防衛の外濠や農業用水として、近代には冬場にスケートリンクとして利用されていたそうですが、現在は失われています。

台地下の低湿地が広がるような地域で、過去にため池として使われていた背景があれば、一般的な低湿地や旧池沼地域でみられる、軟弱な地盤が基礎や外構の被害に影響した可能性も考えられます。

なお、青森県沖地震後に類家一丁目交差点付近で確認された「道路の亀裂」や「液状化による砂の噴出の可能性」も、この類家堤のエリアに近く、地盤の影響が疑われます。ただし、今回の岩手県沖地震では、新たな亀裂や砂の吹き出しは見られませんでした。。今回の地震では亀裂や砂の吹き出しはみらえませんでした(写真は青森県沖の地震後のもの)。

八戸市内の被害(中心街とその周辺以外)

八戸市内のその他の地域では、擁壁の倒壊、港湾部の舗装陥没、外壁落下、塀の損傷などが確認されました。主な被害状況は以下の通りです。

陸奥湊駅近辺(沿岸部): 太平洋に面したこの地域では、台地斜面にかかる家屋の擁壁が崩壊していました。6月27日朝の時点ではブルーシートがかけられており、向かって左側では建物の基礎の一部が宙に浮いているような危険な状態でした。詳細は不明ですが、隣接する建物が解体された直後のようにも見受けられました。

沿岸低地と台地の境界部: このエリアには、間知石(けんちいし)積みの擁壁、コンクリート製擁壁、万年塀を組んだ擁壁がみられ、一部ではいわゆる二段擁壁となっている箇所みられました。前述の崩壊箇所以外の地点において、道路からの目視では大規模な転倒、倒壊、大きな亀裂などは確認できませんでした。

沿岸部の宅地: ブロック塀の被害が見られました。完全な倒壊には至っていないものの、比較的新しい亀裂や、落下した破片などが散見されました。

高台の住宅街:塀の一部が損傷している箇所がありましたが、近隣の方への聞き取りができておらず、今回あるいは前回の地震によるものか、無関係の損傷かは不明です。

川沿いのスポーツ施設: 市内の台地側から少し下った川沿いにあるスポーツ施設では、壁面の一部が落下する被害が見られました。

港湾部(埋め立て地): 沿岸部の港湾では、1箇所で道路舗装面の陥没が見られ、周辺の建物付近の地盤が沈下している可能性がありました。青森県沖地震では複数箇所で顕著な液状化による噴砂が見られましたが、今回視察した範囲では明瞭な噴砂は確認されませんでした。

階上町の被害

今回、震度6強を観測した階上町では、町の中心部(町役場周辺)の住宅街と、海沿いの地域の調査を行いました。

町役場西側にある墓地では、墓石や墓誌などの転倒・倒壊は見受けられませんでした。近隣の擁壁の一部に亀裂はありましたが、今回の地震によるものかは不明です。

市内の住宅街では、旧耐震基準とみられる建物を含め、目視でわかる家屋の外観上の明らかな被害や、ブロック塀などの被害は見受けられませんでした。

町内の住宅街を歩いた範囲では、旧耐震基準とみられる建物を含め、外観から明らかにわかる家屋の被害や、ブロック塀の倒壊などは見受けられませんでした。気象庁の基準(震度について | 気象庁)で「震度6強」の際に発生しやすいとされる「耐震性が低い家屋の傾き・倒壊」や「大きな地割れ」といった甚大な被害は確認できませんでした。

岩手県沖地震・現地調査結果まとめ

今回の地震では、広域な範囲で宅地に甚大な被害があるということはみられず、直近に発生した昨年の青森県沖地震と比較しても、調査を実施した範囲においては被害はより限定されていたようにみられました。

しかし、注目すべき特異な傾向として、青森県沖地震と同様に「一般的に地盤が弱いとされる低地だけでなく、地盤が良いとされる台地側(中心市街地)に被害が集中した」という点が挙げられます。これは1994年の三陸はるか沖地震でも指摘された現象です。

耐震性が強いから被害が少ない、という意見もありましたが、明らかに旧耐震基準とみられる空き家や納屋などでも倒壊等に至っておらず、墓石や古いブロック塀等を含めた大きな被害もないことから、宅地等に大きな影響を及ぼすような地震ではなかったことも考えられます。油断なき備えが求められるでしょう。

八戸市中心市街地とその周辺では、半年前の青森県沖地震の爪痕が残っている場所が少なからず見られました。この約半年の間に仮復旧や危険なブロック塀の撤去が進められていた場所もあり、ポストコアビルでも損傷した外構部の仮補修は進められていたように見受けられます。

しかしその一方で、甚大な損傷を受けたビルの中には、十分な復旧が追いついていないケースも散見されました。細い路地が入り組み、旧耐震基準も含めた古いビルが立ち並ぶ八戸市中心街の街並みを、短期間で根本的に変えることは困難です。

八戸市中心街は地域有数の繁華街・歓楽街であり、調査に訪れた26日(土)の夜も、観光客や地元の会社員など多くの人で賑わっていました。お酒を楽しんでいる人が多く集まる週末の夜に、大地震が発生することは決して「絵空事」ではありません。今後地震が発生した際、通行人や施設利用者に被害を及ぼさないため、地域や所有者とも連携した早急な安全対策が求められます。

繰り返しの大地震の備えは?

震度6強クラスの大地震について、「数百年に1度のことだから、震度7が立て続けに起きた熊本地震は特殊な事例だ」という声もあります。しかし、実際には2024年の能登半島地震や、前回の南海トラフ地震の一部である昭和東南海地震、そして今回の八戸市・階上町周辺のように、「半年から数年程度の短い期間に、同地域で震度6強クラスの地震が繰り返される」という事態が現実に起きています。

震度6強クラスの揺れは、決して「生きている間に1回経験するかどうか」という稀なものではありません。短期間に複数回、同じ地域を襲う可能性があるという前提に立った備えが不可欠です。一例を下の図にまとめてみました。

特に東北地方の太平洋沿岸は、歴史的に見ても巨大地震が繰り返し発生している地域です。昨年12月の青森県東方沖地震および今回の岩手県沖地震では、大規模な建物の倒壊や津波によって亡くなった方はおいでになりませんでしたが、今後もこの地域で最も懸念すべき「大地震と、その後の津波からの避難」を考える上で、建物の耐震性は非常に重要になります。

耐震性の低い建物が倒壊すれば、そこに住む人が避難できなくなるだけでなく、倒壊した建物が周囲の避難経路を塞ぎ、地域住民の津波避難の重大な妨げとなってしまいます。また、建物の構造自体の耐震性はもちろんのこと、ビルの外壁落下やブロック塀の倒壊によって周囲の人に危害を加えないよう、日常的な維持管理や点検が今後ますます重要になってくるでしょう。

今後の地震に対する注意点

1. 沿岸部(津波避難の課題)

  • 現状と課題: 津波が想定される際には、海沿いや低い土地からの速やかな避難が必要です。特に八戸市周辺は内陸まで津波が押し寄せ、高台側への避難の経路が限られる、また渋滞等が懸念される地域があります。すぐに避難できる備えと、実際の行動が最優先です。
  • 対策: 津波からの避難は「原則徒歩」が基本です。冬場の避難では低体温症などの健康被害リスクも高まるため、防寒対策が必須となります。巨大地震に備え、平時からハザードマップを確認し、家庭ごとに避難経路を決めておく必要があります。家屋やブロック塀などが倒壊して避難の妨げとならない備えなども必要になるでしょう。可能な限り複数の経路での避難ルート、また避難場所も確認しておきましょう。

2. 中心市街地・台地(落下物の危険)

  • 現状と課題: 古くから栄えた台地上の中心街において、ビルの外壁崩落やタイル、窓ガラスの落下(青森県沖地震)など、人的被害に直結しかねない建物の損傷が目立ちました。
  • 対策: 街中で被災した際は、まず上からの落下物に警戒し、開けた場所で頭を守る行動が重要です。屋内からいきなり外に飛び出さないことも気を配ってください。、所有者・施設管理者には、定期的な点検や耐震診断・補強などの根本的な対策が強く求められます。

3. 低地・埋立地(インフラ途絶リスク)

  • 現状と課題: 港湾部など一部で液状化による路面陥没が見られました。今回は限定的でしたが、広範囲で液状化が発生した場合、上下水道などインフラの破断や、道路や橋の付け根に段差が発生したり、噴出した砂などによって通行不能が懸念されます。
  • 対策: インフラ(特に水洗トイレや下水道)が長期間使えなくなることや、地域が孤立することを想定した備蓄や備えが必要です。

4. 山側・寺社(石造物・斜面の崩落)

  • 現状と課題: 山側に多い寺社、墓地周辺では、石灯篭、鳥居、墓石、古いブロック塀などの倒壊が懸念されます。
  • 対策: 寺社や墓地など、また山側で揺れを感じたら、倒壊の恐れがある石製の構造物や古い塀などからすぐに離れること。また、土砂災害や落石、擁壁の崩落リスクがあるため、崖や斜面の下には近づかないことが重要です。津波避難の際は、高台側に向かうことになりますので、特にお気を付けください。

総括:今すぐできる「3つの備え」

  1. 平時の避難シミュレーション
    まずは津波ハザードマップの事前確認を。避難が必要であれば、自宅や職場の立地(海沿いか、高台か等)に応じた避難ルートの確立。特に冬場の津波避難を見据えた防寒具の用意を。速やかに避難できる備えがマストです。「今起きたらどう行動するか」をシミュレーションすると良いでしょう。
  2. 外出先での安全確保の徹底
    繁華街やオフィス街では「建物のそばから離れる」「落下物から頭を守る」という初期行動を周知してください。海沿い、低い土地に向かう場合は津波避難ルート確認を。
  3. 建物の耐震化とインフラ途絶への備え
    自宅の耐震性の確認(特に旧耐震基準の場合)を。家が倒壊すれば避難もできず、生活再建も長くなってしまいます。水・食料に加え、トイレの備えを忘れずに。液状化リスクがある地域では特に、長期化する下水ストップに備えた簡易トイレなどのライフライン備蓄を。

土地のリスクを知りたい方は?

災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。
戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。

ご自宅や検討中の物件などの災害リスクや防災の備え、地盤調査のデータ(戸建て住宅・個人の方向け)などについて、当コラム執筆者・地盤・防災コンサルタントの横山芳春にご相談したい場合は、「住まいの専門家相談」でのオンライン相談も可能です。

ピンポイントで特定した災害リスクや、建物の構造による被害予測をもとに何をしたらよいのか、対策や備えのポイント、避難する際の注意点など、各ご家庭でお知りになりたいことを具体的にアドバイスいたします。

既にお住まいになっているご自宅や実家のほか、購入や賃貸を考えている物件、投資物件の災害リスクや防災対策が気になる方におススメです。特に、ホームインスペクションを実施する際には、併せて災害への備えも確認しておくとよいでしょう。お急ぎで対応できる場合もあります。

登記時に内容についてお問い合わせがありましたら、執筆者の横山が対応させていただきます(取材申し込みはこちら)。このほか、地震災害、地盤災害(地盤の陥没、液状化など)、豪雨災害、住まいの防災等に関しては、豊富なメディア対応経験から、ご取材、執筆などの対応も行っていますので、お問い合わせください。

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横山 芳春

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