あの地震にまつわる話って本当なの?
先月から、日本各地でマグニチュード5程度の中規模の地震が各地で発生しています。22日には茨城県沖でマグニチュード5.8の地震があり、福島県いわき市で震度5弱を記録。そのほか八丈島沖、徳島県などでも地震が発生しています。大きな地震が発生すると、また変わった現象が観測されると、SNSなどで「地震の前兆ではないか!?」と言われるような迷信のような話が出回ることがあります。よくあるのは、地震雲を見た、深海魚が打ちあがっていた、地鳴りがした、動物がおかしな行動をとっていた、などがあると思います。これらの地震にまつわる話には様々なものがありますか、迷信なのか本当に地震と関係あるのか、わからないことも多いかと思われます。そこで、科学的に証明または説明できているかを含めて、地震にまつわる話が本当なのか、地震の常識!?うそ?ほんと?としてまとめてみました。
1.深海魚が打ちあがると地震が起こる?
リュウグウノツカイなどの深海魚は、その容貌の不思議さや珍しさもあって、打ち上ったり浅い海で見られると、地震が発生するのでは?という話がよく話題に上ります。深海魚と地震との関係性は、江戸時代の寛保年間に出版された、奇談集「諸国里人談」にまでさかのぼります。このような、深海魚の出現と地震との関係については、東海大学の研究グループによって詳しく研究がなされており、「迷信である」と結論づけられています。
この研究では、約83年間における336例の深海魚の漂着、捕獲の事例から、その30日後までに半径100km以内でマグニチュード6以上の地震発生の有無を調べています。その結果、深海魚の出現後にマグニチュード6以上の地震が発生していたケースは、2007 年 の新潟県中越沖地震(M6.8)の1例のみであったとのことです。深海魚の出現のような現象では、出現後に実際に地震が有ったか、無かったかで見ると、無かった現象は全く記憶に残らず、あったケースでは非常に記憶に残りやすいという性質があることにも注意を払う必要があります。
打ちがると地震の前兆かと言われてきた「リュウグウノツカイ」
2.ナマズが暴れると地震が起こる?
歴史的にも地震のシンボルとしても描かれており、地震の前に騒ぎを起こすなどと話題に上る魚がナマズです。茨城県の鹿島神宮と千葉県の香取神宮に「要石」と呼ばれる石があり、江戸時代に安政の大地震の後には鯰と要石の書かれた図画が庶民の間で護符として広まったと言われています(出典)。
ナマズの行動と地震との関連を科学的に扱った研究は、過去にも複数あるようです。東海大学のHPで研究内容について良くとりまとめ、公開されています。それら過去の研究では、一定の異常行動が見られた事例などはあるようですが、ナマズの行動と地震の発生、電磁気現象との関係性についての結論は得られていないようです。
ナマズが地震の前に暴れるかどうか、またナマズ以外の生物の動きについては、今後の研究の進展が期待されます。
古くから地震と関連付けられてきたナマズ
3.「地震雲」が出ると地震が起こる?
普段見かけない、変わった形の雲が出現すると、地震の前兆であるという意味で「地震雲」が出たと話題になることがあります。写真のような帯状、放射状の雲やレンズ上の雲ですが、地震の前兆となる雲はあるのでしょうか。基本的には、地球の地面の中で起こる現象である地震と、上空の大気で発生する雲には、一般的には全く別の現象であると考えられます。
気象庁のHPでは、「雲は大気の現象であり、地震は大地の現象で、両者は全く別の現象です。大気は地形の影響を受けますが、地震の影響を受ける科学的なメカニズムは説明できていません。「地震雲」が無いと言いきるのは難しいですが、仮に「地震雲」があるとしても、「地震雲」とはどのような雲で、地震とどのような関係で現れるのか、科学的な説明がなされていない状態です。」、さらに「形の変わった雲と地震の発生は、一定頻度で発生する全く関連のない二つの現象が、見かけ上そのように結びつけられることがあるという程度」として、地震雲がないと言い切るのは難しいが、科学的には説明できていないとされています。
放射状やうねるような形、飛行機雲など物珍しさや変わった形で語られるような「地震雲」とされる雲が出現することはありますが、いずれも気象学で説明づけられるものであると言われています。これらのことから、珍しい雲が出現したからといって、一概に地震雲と騒ぎたてることや、地震が起こってしまうのではないかという過度な心配は必要ないと考えます。
「地震雲」として語られることがある帯状の雲(2019年5月19日 愛知県にて横山芳春撮影)
4.太陽の周りに虹が出ると地震が起こる?
地震雲といわれる現象ほど知られていませんが、太陽の周りに虹がかかっているように見える「ハロ(日暈)」などの大気光学現象も、地震の前兆、と言われることがあります。しかし、このようなハロなどの現象は雲の中にある氷の粒に太陽の光が屈折して起こる現象ですので、地面の中で断層の活動等の結果として起こる地震とは、基本的に関係がない現象と捉えて良いと考えます。
あまり意図して空を見ないと気付かないですが、気にしてみると意外とよく見かけます。SNSでは、天気が良い日ならほぼ毎日のように日本中どこかで報告があります(一定数、地震との関連のコメントもあって残念ですが・・)。ごく薄いものを含めれば、薄い雲がかかったような日には数日に1回程度は見かける、さほど珍しい現象ではありません。
このほか、太陽の光を受けた雲が虹色に輝いて見える彩雲や、雨あがりにかかる虹(二重の虹、虹の根元なども同じ)、またやけに真っ赤であるとか空一面に紫色に見える朝焼け、夕焼けなども同様に、地震現象とは基本的には関係していないと捉えることが望ましいでしょう。
太陽の周りに虹のように見えるハロ(日暈)(2020年6月27日 神奈川県にて横山芳春撮影)
5.「地鳴り」があると大地震が来る?
大地震が発生する前に、ゴゴゴゴゴ、ドーーといったような「地鳴り」(鳴動)があったという話を聞くことがあります。記録されているものでは、気象庁気象研究所の技術報告によると「古くは西暦474年の中国のものから関東大震災、松代群発地震まで非常に多い」とされているほか、1854年の伊賀地震では本震の3日前から地鳴りが続いたとされ(出典)、地震前に地鳴りがあったというケースはあるようです。ただし、どういうメカニズムで地震発生前に地鳴りがあるかのかはわかっておらず、必ずしも地鳴りがあるわけでもないようです。専門家の見解では、「地震予知と地鳴りの関係はいまだ科学的に解明されておらず、地震の前兆として考えるのは現時点で早計」という指摘もあります。
いっぽうで、地震の波にはP波とS波という二つの波があることは理科の授業でも習ったことですが、先に到達するP波によって地鳴りがあることは知られています。緊急地震速報は、下の図のようにP波とS波の到達時間の差を利用しています。大きな揺れを伴うS波の到達する前、つまり地震の直前にP波が到達して地表を揺らすことにより生じた音波によって、地鳴りが発生する現象が報告されています(出典)。ある観測点で、P波が到達してS波が到達する時間差は、概ね数秒から数十秒程度と考えられますので、何時間も前から鳴るというものではなく、大きな揺れの数秒から数十秒程度前に地鳴りが鳴ることになるでしょう。震源から近い場所では、P波とS波の到達時間の差は小さくなるので、地鳴りと同時か直後に揺れが到達することになると思われます。
緊急地震速報はP波とS波の到達時間差を利用(気象庁HPより)
6.地震予知に関するサイトの情報を見たが、当たるの?
地震の予知に関する情報は、いつ頃、どこでどのくらいの地震が起こる、というような情報であり、中では有償の情報として出ているケースも散見されます。このような地震の予知に関する情報は、信頼するに足りるのでしょうか。結論として、気象庁のHPでは、「一般に、日時と場所を特定した地震を予知する情報はデマと考えられます。お聞きになった情報で心配される必要はありません」として、デマであると明確に述べられています。
的中率などを計算している事例もありますが、毎日起こるような極めて小さな地震をカウントして評価しているケースや、範囲を拡大解釈してカウントしている例などもあるようですので、これらの情報を過度に心配しすぎることはないように思います。地震大国日本では、例えばどこかである程度の地震が有る、と宣言すればある程度は的中してしまうトリックを見抜くことが必要です。冷静に受け止めることが必要であると思われます。
地震が心配なら・・
地震の前に発生する動物の異常行動や、地下水や海水の変動、音などの現象は「宏観異常現象」と呼ばれています。上にあげた現象以外でも、全く前兆となる現象がないということは言い切れません。高知県では、科学的根拠や統計的な裏付けなどにより地震との因果関係が解明されていないとしつつも、地震とは無関係と言い切れないとして情報を収集、公開しています。
前兆となると言われる現象や、民間の地震予知情報、SNSでささやかれる情報などにご心配な方も少なからずいらっしゃると思います。ただし、地震の予兆とされる現象は科学的に解明されていない(関係ない現象である説明ができるものは多い)こと、また予知と呼んでいる情報があろうとなかろうと、日本は非常に多くの地震が起こる、世界的にも地震が多い国の一つです。首都直下地震、南海トラフ巨大地震を中心に、海の地震、陸の地震ともに、発生確率が高く明日起きてもおかしくない地震、または発生したら被害が大きくなることが想定される地震がたくさんある国であると言えるのです。
地震が心配であるならば、それら不確かな情報に一喜一憂するのではなく、いつ地震が起きてもあせらない、また生き延びることができる備えをすることこそが、本当の地震対策であると考えます。究極的には、地震発生時に揺れが大きくならず液状化現象も発生しない地盤の地域で、周囲に倒壊・延焼しやすい古い木造住宅が少ない地域の耐震性の高い建物に住むことともいえます。
そこまででなくとも家具の転倒・落下・移動防止を万全として、十分な飲食料を中心とした備えを行い、いざ大地震が発生した時の家族の行動や連絡手段を万全にしておくことが重要であると考えます。地震の対策は、お住まいとなる立地の地盤の特徴、建物の構造、築年数などによる耐震性や、適切なメンテナンス、また家具などの配置や据え付けなどの対策、またいざ大きな地震があったときの行動や避難先について家族と話し合うことが大切です。
検討中の物件やご自宅の災害リスクを知りたい方は「災害リスクカルテ」のご検討を
さくら事務所の災害リスクカルテ(電話相談つき)は、知りたい場所の自然災害リスク(台風・大雨、地震etc)を地盤災害の専門家がピンポイントで診断、ハザードマップがない土地でも、1軒1軒の住所災害リスクを個別に診断します。液状化リスクの可能性も、地形情報やハザードマップ(場合により近隣地盤データ等)から判断、建物の専門家がそれぞれの災害による被害予測も行い、自宅外への避難の必要があるかどうかなどをレポートにします。
災害リスクレポート+専門家による電話コンサルティング
で、あなたの調べたい場所の災害リスクを完全サポート
- 災害と建物の専門家が具体的な被害を予想
- 最低限の対策や本格的な対策方法がわかる
- 災害対策の優先順位がはっきりわかる
国内唯一の個人向け災害リスク診断サービスです。
※全国対応可、一戸建て・マンション・アパート対応可
災害リスクカルテは、過去345件超の物件で発行しています。それらの傾向から、約47.3%の物件で何らかの災害リスクが「高い」という結果となり、液状化では36.3%と1/3以上の物件で「液状化リスクがある」という結果が得られています。
災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。
レポートだけではない!建物の専門家による電話相談アドバイスも
既にお住まいになっているご自宅や実家のほか、購入や賃貸を考えている物件、投資物件の災害リスクや防災対策が気になる方におススメです。特に、ホームインスペクションを実施する際には、併せて災害への備えも確認しておくとよいでしょう。災害リスクカルテの提出はご依頼から概ね3日で発行が可能です(位置の特定・ご依頼の後)。不動産の契約前や、住宅のホームインスペクションと同じタイミングなど、お急ぎの方はまずは一度お問合せください。