能登半島豪雨災害・現地調査概要
9月21日、能登半島北部は記録的な豪雨により、特に地震で被害が多かった輪島市や珠洲市などで著しい被害がありました。だいち災害リスク研究所では、所長の横山芳春が9月23日に「地震+豪雨災害が複合する災害の特徴と備え」と題してSNSやニュース上に掲載されている情報をもとに、主に輪島市街地を例として被害地点の地形やハザードマップとの関連性などについて紹介いたしました。
その後、だいち災害リスク研究所所長・横山芳春が地形・地質のプロとして9月25日から26日に輪島市街の現地調査を行いました。この結果から、まず何が起きていたか、どのような原因が考えられるか?ハザードマップの評価は?仮設住宅の被害は?地震の影響は?今後の対策は?という点についてまとめました。
調査の結果、浸水・冠水被害に至った主な原因は3つ、1.平野部河川の氾濫、2.山間部小河川の氾濫、3.崩れた山側からの水・土砂流入という可能性があることが判明しました。また、実際に起こっていた被害について、ハザードマップが的中できていなかった事例が多かったことが判明したほか、被害については地震による影響があると思われるケースも複数みられました。
地震、災害大国日本で恐れるべきは、大地震と甚大な豪雨災害が同時期に発生することです。能登半島では、マグニチュード7.6の甚大な地震があってその復旧・復興が進んでいる最中に豪雨災害が発生してしまいました。今後も大地震後に洪水、また逆のパターンや同時に発生する例など、様々なケースが想定されます。
能登半島で実際にどのようなことが起きてしまったのか?現地で確認した実際に起きていたこと、また地域の方にお伺いしたことから、対策の教訓となる点も含めて取りまとめてみました。
能登半島地震、ならびに今回の豪雨災害で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。亡くなられた方、ご家族様に対し、謹んでお悔やみ申し上げると共に、安否不明の方が、一刻も早く見つかりますようお祈り致します。
輪島市街地の各地点調査結果~何が起こっていたか
能登半島の地形、災害リスクについては、コラム「地震+豪雨災害が複合する災害の特徴と備え」に記載していますので、まずご参考になりますと幸いです。はじめに、輪島市内の各地でX上の投稿やニュースなどで浸水・冠水が確認できた主要な地点について現地調査を行いました。その結果、浸水や冠水・山からの土砂・水の流入の痕跡を確認できた地点を、下図の紫色点線の範囲で示しています。
結論から申しますと、輪島市街における豪雨による冠水・浸水に至った原因には、1.平野部河川の氾濫、2.山間部小河川の氾濫、3.崩れた山側からの水・土砂流入に区分できると考えられます。
浸水・冠水に至った理由は複数ある場合も想定されますので、詳細な原因や浸水範囲などは今後調査等が進むと考えます。ここでは、現地でみて主な原因と考えられることで、現地で確認できたものを提示しているとしてご理解ください。
また、範囲内の全ての通りを網羅的に確認できたわけではありませんので、およその範囲としてお考え下さい。原因も実際には複数あることも珍しくありませんが、現地で初動調査で確認できた範囲で示します。まず、それぞれの調査を実施した地点の状況を説明します。
輪島市街地 現地調査範囲
得られたおよその浸水・冠水範囲と浸水等に至ったと想定される主な水の経路を示す
数字は以下に示す地点番号に対応 (地理院地図に加筆)
輪島市中心部の各被害状況について
① 河井町西部・鳳至町・市役所付近
輪島市の中心にある河井町西部では、地震でも大きな被害がありましたが、同じ地域で甚大な水害の被害に遭っています。
朝市通りから近く、メイン通りとなる国道249号線では河原田川から下がってくる位置にあり、川から運ばれたとみられる土砂が多く運ばれていました。地域の皆様が片付け、清掃に追われていました。
写真奥、左手には倒壊したビルも確認できます。大型車が通ると乾いた泥を巻き上げて視界が悪くなっていました。
X上では市役所付近で撮影された動画も拡散されていましたが、平野部を流れる河川である河原田川、支流の鳳至川合流点付近における氾濫とみて良いと考えます(1.平野部河川の氾濫)。
輪島市は昭和30年代に3回の洪水被害に見舞われ、多くの被害が出たそうです。
その際の水位は、上写真地点の「水害水位表示塔」に記されています。かつては大きな水害があった、水害リスクが高い地域あることを示す「災害伝承碑」があります。
一見しただけでは、時計塔に見えますでしょうか。街に残るこのような災害伝承碑は大切にして、その土地に過去、何があったか知っておきたいです。
市役所は河原田川、鳳至川が合流する合流地点があり、市役所じたいも洪水により0.5~3.0mの浸水が想定される地域にあります。
市役所北側の多目的広場付近が濁流に飲まれている動画がX上に投稿されていました。周囲の浸水した地点では、運ばれて来た泥が堆積しているほか、や木材、枝など様々なものが漂着していました。
市役所の脇を流れる河原田川の上新橋では、2本ある橋脚のうち、左岸側(上流側からみて左側・市役所の側)から左側が流木によって閉塞されていました。
当時は川の流路だけではなく、写真にある高水敷側にも水位が及んでいたとみられますが、川の流れが閉塞されることで流れは左右に迂回して、より河原田川が氾濫しやすい状態になっていたことも考えられるでしょうか。
② 二勢町~小伊勢町
市役所から南西側の鳳至川流域にあり、河原田川との合流点から0.6㎞~1.2kmほどの左岸、右岸側双方で鳳至川の氾濫があったとみられます(1.平野部河川の氾濫)。
この付近の増水の様子は、 二勢町の高台の上から撮影されたとみられる動画が複数投稿されており、右岸側から左岸側まで広い範囲が氾濫していた様子が記録されています(現地動画RP)。
現地では右岸側の堤防のない区間で、水位が上昇した後、水位が低下した際に残置されたとみられる流木や漂着物が残っていました。
駐車場や道路、水路とみられる場所では、地震後の写真を見ると地震でも被害があったかと思われますが、さらに氾濫した流れによって浸食があったとみられます。
この付近の左岸側からは小加瀬川が合流していること、また下流側で右岸側台地が少しせり出しており、低地部が狭くなっている地形的な背景から、氾濫が起きやすい場所でもあると考えられます。
③ 山岸町~宅田町
河原田川の左岸側低地部の山岸町~宅田町では、仮設住宅の床上浸水がありました。まず、輪島病院の南西側にある山岸町第2住宅付近を調査しました。
入居されている方にお話しを聞くと、「仮設住宅の水切りギリギリまで浸水があった。エアコン室外機は全滅。南西側から水が来た。このあたりは過去にも水が出たことがあって、南西側の少し低くなっているところは以前から水がたまりやすかった。」という貴重なお話しを伺いました。エアコン室外機に残る浸水跡は、約50㎝程度でした。
水が来たという南西側に追跡してみると、明瞭な浸水や水の流れの痕跡で、コメリ西側の谷を山の中から下ってくる小さな川・水路程度の流れが氾濫して多量の水が流入していたことがわかりました。水路は下図暗渠部の閉塞と記載があるあたりから住宅の間を通る暗渠となっていますが、この暗渠には土砂が詰まっており、暗渠の上を水が流れています。
地元の方にお話しを聞くと「毎年春先に業者を入れて土砂を浚っているが、今年は地震もあって土砂を浚わなかった」というお話が聞けました。
暗渠上を流れる水流がある付近に残存する水位痕を見ると80㎝ほどにも達しておりました。土砂による暗渠閉塞が浸水被害拡大につながった可能性が考えられますが、土砂が浚われていて暗渠が水を流下できても、豪雨による増水や土砂流入は著しく、いずれにせよ氾濫した可能性はあるでしょうか。
周辺の住宅の間や道路を抜けていく水の流れが追跡できますが。最も広い道であったの谷から東側に山岸町第2仮設住宅団地へ向かう道であり、途中には巨礫や木材も散乱しておりかなりの水量がそのまま東側に向かって仮設住宅側に流下したようにみられました。
宅田町~山岸町第2仮設住宅団地付近で想定される水流の経路と現地写真(地理院地図に加筆)
暗渠部付近の様子を動画で撮影しておりましたので公開します。暗渠が閉塞したあたりから、倒壊家屋の狭い暗渠上の道を水が流下していく様子が見て取れます。
山岸町第2仮設住宅団地から水の流れを追っていくと、奥能登最大級のショッピングセンターのパワーシティ輪島ワイプラザなど大型店舗があり、河原田川の堤防きわ宅田町第2仮設住宅団地があります。
ニュース等でも腰以上に水に浸かった男性が歩いていたあたりになります。宅田町第2仮設住宅団地の浸水深は75㎝ほどはあり、室内も20cm以上は浸水したとみられます。輪島バイパスの西側、宅田町第3仮設住宅団地でも65~70㎝ほどの浸水深がありました。
この付近は、北側に河原田川の堤防が最大2mほどの高さで存在しています。近傍の河原田川(きらめき橋~やすらぎ橋~向田橋間の西岸)は堤防を溢水したような痕跡はありませんでした。堤防の内側(人が住む側)から水が押し寄せた場合(内水氾濫)、堤防は川への排水を阻害し、水を堰き止めてしまう効果があるケースがあります。
宅田町付近においては、そのようなことが発生していた可能性もあるので、検証が必要になってくるものと考えらえます。
水害後に撮影された空中写真を地理院地図で閲覧(令和6年9月20日からの大雨 > 正射画像(速報) > 輪島地区(9/23撮影))します。下の写真の通り、山岸町第2仮設の南西から来たとみられる濁水を追跡できます。他方、写真右側に移る河原田川の方から濁水が来たという様子はみられません。
河原田川の氾濫であれば、越水等の痕跡と、川の近くにある山岸町第1仮設住宅団地や輪島病院側での土砂堆積などが多くあったものと想定されます。
宅田町~山岸町第2仮設住宅団地付近の水害後の空中写真と想定差される水の流れ
(地理院地図 令和6年9月20日からの大雨 > 正射画像(速報)に加筆)
山岸町~宅田町付近においては、確認できた範囲では「2.山間部小河川の氾濫」による影響が大きかったものと思われます。
④ 稲屋町(仮設住宅床上浸水)
稲屋町は、鳳至川ぞいに国道249号線を南下した位置にあり、9月25日時点では、山本町付近の土石流の影響で稲屋町付近から先は通行止めになっていました。国道249号線の南東、鳳至川とは反対の山側にある稲屋町仮設住宅団地を確認しました。
仮設住宅と近隣の方が集まっていましたのでお話を聞いてみると、「浸水した深さはは50㎝程度、仮設住宅の床下ひたひたくらいまでの浸水。仮設住宅の南側を山側に向かう道路は以前から水があふれることがあった。21日は深さ40㎝くらいで川のようになっていた」とのお話しが聞けました。
「川のようになった道路」に近いところで浸水深を計測させていただくと、50㎝程でした。輪島市で確認した仮設住宅は比較的基礎部分が高く、50㎝ほどあるのでちょうど基礎天端付近の浸水=床上浸水となる深さとみられます。
なお、西側を走る国道が少し高くなっていますので、山側から水が来ると、国道が水を堰き止めてしまうかたちになりやすい位置にありました。
「川のようになる道路」を山側に向かってみると、草などは北西側に向かって倒され、漂流物や土砂が堆積しています(下図左下写真)。突き当りには山側から流れてくる小さな河川(稲屋川)があります。上流側(下図右下写真)を見ると道路が大きくえぐれて、氾濫した流れによって浸食されていたものと想定されます。地震後・豪雨前(2024年9月)のgooogleストリートビューでは舗装の若干の損傷はあるもののここまで浸食等の被害はみられません。
下流側(下図右上写真)では、写真右側は河川ですが、中央の立っている場所は舗装された道路でしたが大きく侵食されてしまっています。流木が残存していますが、この場所の右岸側には家屋があり、橋によって流木が流路を閉塞して、左岸側の道路浸食に至ったことも考えられるでしょうか。
付近で確認できた範囲では鳳至川の洪水等の形跡はなく、「2.山間部小河川の氾濫」による影響が大きかったものと思われます。
稲屋町付近で想定される水流の経路と現地写真(地理院地図に加筆)
⑤ 久手川町
家屋の流出、行方不明者が出ている久手川町付近の状況については、9月23日に「地震+豪雨災害が複合する災害の特徴と備え」としたコラムで触れています。今回、流出家屋付近は規制線内にあり近づくことはできませんでした。
現地で見ると、意外と広く見える谷のうち、集合重滝川の右岸(写真は下流から見ているので左側)の護岸から上は標高が高くなっているので、氾濫した濁流は谷の左岸の半分(写真では右側半分)に集まり、水深3m近くの濁流になったと思うと、恐ろしさしかありません。
改めて被害家屋付近の断面を見ると、谷の左岸側は60mから70mほどの幅しかないことがわかります。被害があった家屋付近は、谷の幅が狭くなっている出口付近部分に建っていたことは被害拡大につながってしまったことも考えられます。
塚田川は、源流付近から被災地域までわずか3㎞しかないですが、200m近い高低差を山林の中を下ってくる河川です。
とくに上流域では「地理院地図」令和6年(2024年)能登半島地震 > 斜面崩壊・堆積分布データによると複数の崩壊地がみられた流域でした。
塚田川流域・抽出家屋付近の断面図(地理院地図の断面図機能)
規制線外で確認できた事象について、下図にまとめました。集合住宅前付近では狭い谷幅全域に濁流が押し寄せていましたが、その下流で右岸側(北側)に谷が広がっていったものとみられます。濁流が北側の流路のほうに流れて行ったときに地面を浸食したとみられる跡が残っていました。
これより下流では、濁水は右岸側にも向かったとみられ、右岸の藪の中にも濁水が及んでいたようで、一帯の行方不明者捜索が行われていました。これより下流側の住戸には甚大な被害はみられませんでした。塚田川流域における被害は、「2.山間部小河川の氾濫」による典型的な事例であったように考えます。
なお、塚田川の南側支流でも大量の流木などがもたらされて残置されていました。こちらの支流も、わずか2㎞程度で標高差130m程度を下ってる山中を流れる河川です。下図中央写真の中央左手に橋があり、その上流側に流木が多くみられます。また、その左側にはアパートがあります(下図左写真)。
アパートに面した護岸・ブロック塀が浸食されているためか、傾いている様子が分かります。このまま浸食が進んでいたらアパートの建物にも影響があったことが想定されます。この地域は地震でも擁壁などに被害があったことを確認していますが、護岸部分は今回の豪雨による河川の増水により浸食されたことが考えられます。
氾濫流による河岸の浸食があると、木造住宅のみならずRC造の住宅でも危険が大きいですので、氾濫流の影響が想定される地域は注意が必要と考えられます。
久手川町付近で想定される水流の経路と現地写真(地理院地図に加筆)
⑥ 輪島駅前~輪島中グラウンド
輪島駅(道の駅輪島)付近では、複数の方が山側からの濁水の流入や濁った水で冠水した状況をXにアップされていました。9月23日の「地震+豪雨災害が複合する災害の特徴と備え」コラムでも輪島中学側からの地割れからの土砂流入を想定していましたので、実際に現地で確認しました。
概ね、北側の「健康ふれあい広場(輪島中に登る一本松桜坂下)と、南側の谷を下ってくる、2つの経路で土砂が流入していたようでした。また、東側から輪島中学のグラウンド付近をみると大きな地割れが発生しており、そこから南側の谷筋に沿って砂を中心とした土砂が流下していたことがわかります。
最も山側の住宅付近は大きく道路が浸食されていました。その下流側では住宅が複数件、少なくとも55㎝ほど埋没しており、車も自転車もあらゆるものが土砂に没していました。
健康ふれあい住宅側には、輪島中グラウンドから西方向に斜面を下り、山側にある幼稚園への道に向かって流下、そのまま坂を下って健康ふれあい広場東側の住宅に流下していました。
なお、同広場には仮設住宅が建設されており、土砂がつきあたった痕跡がありましたが、確認できた範囲では床上までの浸水などはみられませんでした。
流下した土砂はグラウンドに近い側ではほぼ「砂」といった様相ですが、流れ下るにつれて土や砂利、砕石なども巻き込んでいったようでした。
以上、輪島駅付近の冠水や土砂堆積については「3.崩れた山側からの水・土砂流入」によるものと想定されます。
輪島駅~輪島中学付近の土砂・水の流入経路(地理院地図に加筆)
なお、輪島中学のグラウンド付近は西に流れ下る谷の上部にありますが、地形区分は「盛土地」であるとされます。盛土の時期や規模などは不明ですが、自然地盤ではなく人工地盤であった場合、地震による盛土の崩落の可能性もあるでしょうか。今後、対策工を進める際にも、盛土の性状や範囲、盛土の方法なども影響している可能性が有るでしょう。
輪島中学グラウンド付近の地形分類(地理院地図・地形分類 人工地形)
ハザードマップとの比較・マップの評価
現地で確認できたおよその浸水・冠水範囲と、「重ねるハザードマップ」にて、ハザードマップで色がついている範囲を重ね合わせてみました。
浸水・冠水範囲にはそれぞれ、意外と色がついているように思われますが、ハザードマップが想定していた災害と一致はあったのでしょうか。以下、考えられる原因と比較を行ってみます。
輪島市街地 現地調査で得られたおよその浸水・冠水範囲とハザードマップの比較
重ねるハザードマップ(洪水・土砂災害マップを表示)に加筆
以下に、各地点の被害状況、各ハザードマップの表記(範囲内で最大のもの、含まれるもの)。実際に起きていた事象と評価・コメントを行いました。まず、①河井町西部・鳳至町・市役所付近、②二勢町~小伊勢町はいずれも洪水ハザードマップの範囲です。②も河原田川流域と合流点に近い鳳至川流域で作成されており、それらの範囲に相当するので、洪水ハザードマップとしての想定が妥当であったこととみて良いと考えます。
次に、③山岸町~宅田町は洪水ハザードマップで最大5-10mの浸水が想定されていますが、少なくとも「山岸町第二仮設団地」付近では河原田川からの氾濫ではなく、背後の山側の小河川の暗渠部閉塞により地表を水が流下した可能性が高いと考えられ、不的中としています。
④稲屋町は土石流の警戒区域付近にありますが、少なくとも「山岸町仮設団地」付近の浸水は、背後の山側の小河川の暗渠部閉塞により地表を水が流下した可能性が高いと考えられることから、不的中としています。
⑤久手川町では地すべりの警戒区域付近にありますが、こちらも山間部から流下してくる塚田川のもので、塚田川を対象とした洪水ハザードマップは作成されていないことから、不的中としています。
⑥輪島駅前~輪島中グラウンドでは、洪水ハザードマップで0.5~3.0mの浸水、また一部台地のきわで土砂災害ハザードマップで急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)の警戒区域があります。しかし、輪島中グラウンド付近はこれら範囲にないことも踏まえて、不的中としています。
以上、6地域の浸水・冠水において洪水ハザードマップによる想定の的中は2箇所、洪水や土砂災害起源ではないケースを不的中とすると4箇所となりました。
しかし、③山岸町~宅田町などでは、洪水の浸水が想定される範囲で浸水が発生しており、原因は異なりますが一定の水害リスクの表現としては有効なケースもあるとみられました。
※この表はあくまで横山が個人的に、また網羅的ではない調査から確認したものですので、今後の詳細な調査等で異なる見解が出される可能性が有ることを付記します。
仮設住宅の被害
各仮設住宅も可能な限り確認しました。以下の図に、浸水被害があった避難所とハザードマップ、浸水経路の関係を示します。名称が残っている仮設住宅団地が、浸水・冠水が起きていたものです。
県からの報告通り、宅田町第2、第3では床上浸水があり、床上40㎝程度、稲屋町と山岸町第2では、現地で仮設住宅にお住まいの方に確認したところ、水切り、床ギリギリ、ということでした。
輪島市中心部で床上浸水の被害があった4か所の仮設住宅(下図で赤色文字で表記)では、確認できた範囲では「2.山間部小河川の氾濫」による影響で浸水に至ったものと考えられます。
このほか、輪島中学側から土砂が流れ込んできた健康ふれあい広場では流出した土砂が仮設住宅に残っていました。かなり泥分が多くなっており土砂の埋没や、浸水や洗堀の被害はなさそうに見受けられました。
また、輪島駅南側にある河井町第3でも水流によって運ばれてきたとみられる泥の痕跡があり、輪島駅前の県道とも近いことから一定の冠水があったことが想定されます。
被害に遭った方の中には、先月にようやく入居してきたばかりという方もいらっしゃいました。地震とは異なり、水や土砂が来なかった地域では被害はないことから、市内の被災されていない地域からの応援の方々も集まっているので助かっているとのことでした。
宅田町第3付近では26日にはボランティアバスで入ったとみられるボランティアの方、個人とみられるボランティアの方などのほか、河井町の重蔵神社でもボランティアさんとみられる方が物資を運んで多くの人が訪れていました。
浸水被害があった避難所とハザードマップ、浸水経路の関係(重ねるハザードマップ(洪水・土砂災害マップを表示)に加筆
床上浸水の被害があった輪島市中心部の、各仮設住宅のハザードマップ評価を行ってみます。宅田町・山岸町では洪水ハザードマップの浸水想定区域、稲屋町では土石流の警戒区域に含まれています。
しかし、各避難所付近の浸水に至った主な原因は、2.山間部河川の氾濫であり、平野を流れる河原田川、鳳至川の氾濫が主な原因ではありませんでした。川の水位が上昇して排水できづらくなることも想定されますが、それは河川の洪水ではなく「氾濫型の内水氾濫」です。
以上より、全地域ともハザードマップの原因を考慮した評価としては、いずれも不的中であると評価いたしました。
なお、先述のように山岸町~宅田町の仮設住宅においては、「洪水ハザードマップで浸水が想定されていた範囲」にはなり、原因は異なりますが一定の水害リスクの表現としては有効なケースもあるとみられました。
※この表はあくまで横山が個人的に、また網羅的ではない調査から確認したものですので、今後の詳細な調査等で異なる見解が出される可能性が有ることを付記します。
なお、ニュースではどうしても仮設住宅の被害が大きく取りざたされますので目が行きがちですが、豪雨災害による被害は仮設住宅だけではありません。もともと戸建て住宅、集合住宅に住んでいらした方や店舗なども大きな被害が出ています。
仮設住宅用地としての問題だけではなく、住み続けている方も含めて、今後どういった対策をしていくかが課題となります。宅田町第2と山岸町第2の間は広い土地に大型の大型のスーパー、ホームセンター、家電量販店、子供・ベビー用品店、衣料品店なども多い地域で、商業施設の立地という課題にも直結します。
能登半島地震との関連性
能登半島地震との関連性については、地震の揺れで、「河川の堤防や護岸が損傷している箇所が多数あり、低い水位でも氾濫の恐れがある可能性」などが呼びかけられていました(気象庁 緊急記者会見【令和6年9月21日12時00分】)。実際に輪島市街においては、明瞭に堤防や護岸の損傷によるとみられる氾濫は、調査範囲内ではみられませんでした。
①河井町西部・鳳至町・市役所付近、二勢町~小伊勢町では、そもそも堤防がない区間で河原田川、鳳至川が氾濫していたようでしたので、少なくとも堤防は該当しないでしょうか。
他方、地震が関連していると想定される被害拡大にはいくつかの事例がありました。
まず、③山岸町~宅田町の被害のうち、上流部河川の暗渠の土砂除去作業を行わなかった事例です。土砂は毎年かなり溜まるので毎年春先に土砂浚いを行っていたものが、今年は土砂を浚う作業もできていなかったところに、更に大雨による土砂流出もあったということで、多少なりとも浸水深が大きくなったこと関連性がある可能性があります。
次に、輪島駅前~輪島中グラウンドでは、土砂流出の原因となっているグラウンドの大きな亀裂は地震によって発生したものであり、亀裂から豪雨による土砂流出があったことから地震の影響と考えて良いかとみられます。この付近では、9月8日の雨の際にも土砂流出があったようです。
健康ふれあい広場から東側では、輪島の降水量は8日午前6~8時61.5ミリを観測し、4件の浸水と最大50㎝土砂の流出・撤去が進んでいることが報道されています(輪島の市道、土砂たまる 高さ50センチ、強い雨が原因|社会|石川のニュース|北國新聞 )。
なお、北国新聞では輪島中校庭から土砂、車埋まる 奥能登豪雨で輪島市中心部 震災の地割れから流出(北國新聞社) と続報を出されており、「(9月上旬の土砂堆積)を受け、市は流出を食い止める土のうを置き、仮設の配水管を設置する対策を講じたものの、記録的大雨の前では効果がなかった。」と報じており、可能な対策は行っていたようですが、効果が低かったようです。
このほか、河原田川の上新橋では河道(実際には高水敷部分が中心)の左岸側(西側・市役所側)が大量の流木で閉塞していました。上新橋付近の氾濫被害に影響していた可能性が想定されます。能登半島の山中は地震により多数の斜面崩壊や土砂堆積があることがわかっています。以下の2枚の図は、「地理院地図」で公開されている地震後と、豪雨後の斜面崩壊・堆積の位置(赤色塗り)を示した地図です。地震時に既に多数の地点で斜面崩壊・堆積があり、豪雨後にさらに拡大しています。地震で崩れていた斜面はより崩れたやすく、川には多くの土砂が堆積した状態でした。これらが氾濫によって運搬され、谷沿いの家を流出させたり、流木が橋を閉塞したり、下流にある街に大量の土砂、土石を押し寄せた原因であったことが想定できるでしょう。
上・地震後の斜面崩壊・堆積データ(地理院地図・ 令和6年(2024年)能登半島地震 > 斜面崩壊・堆積分布データ > ※各地区の斜面崩壊・堆積分布データより)
下・豪雨後の斜面崩壊・堆積データ(地理院地図・ 令和6年9月20日からの大雨 > 斜面崩壊・土石流・堆積分布データ > 斜面崩壊・土石流・堆積分布データ)
被害が大きかった輪島市東部・町野町付近を中心に、地震後、豪雨後とそれらの斜面崩壊・土砂堆積の場所を重ね合わせてみます。地震で斜面崩壊・土砂堆積があった場所を起点として、またその近傍で斜面崩壊、土石流が始まっているような事例が多くみられます。地震で崩れた場所やその周辺が豪雨によりさらに斜面崩壊、また土石流となった可能性を示唆するものでしょうか。
①地震後、②豪雨後の斜面崩壊・堆積データ、③地震後+豪雨後の重ね合わせ
(輪島市町野町の例・地理院地図、前図で示した各出典より)
これらの地震による斜面崩壊、土砂堆積によって、1)山に雨水を涵養できる能力が低下していた可能性、2)土砂が流出しやすくなっていたこと、3)土石流が発生しやすくなっていたこと、4)それらにより土砂ダムができやすくなっていたこと、5)閉塞の原因となる流木などが多く流れついたことに影響した可能性もあります。
土石流やがけ崩れが起きやすくなっていたことについては、実際に輪島市街地に向かう途中の県道でも、周囲には至る所でがけ崩れ、土石流とみられる地点を確認しています。
流木で左岸側が閉塞された河原田川・上新橋
また、能登半島北岸の海岸部では地震による地盤の隆起がみられました。気象庁によると輪島市輪島(海から2.2㎞内陸の大屋小学校)で105.1cmの隆起、(令和6年能登半島地震(1月1日 M7.6)前後の観測データ (gsi.go.jp))これとは別に、輪島港では1.5mから2mの隆起があったとも報道(石川 輪島港 隆起した海底 掘削工事へ 漁船が別の港に移動 | NHK | 令和6年能登半島地震)されています。
このような沿岸部における隆起によって、北側に流下していく輪島市の河川では、流下していく先の海側の標高が高くなった河床勾配の変化が想定され、で海側への排水が困難になっていた可能性なども想定されます。
今後の同様の被害を防ぐために
以下、地震後にも輪島市街地の調査で市街を広く歩き、また豪雨災害のあとに現地入りした立場から、今後も同様な被害を防ぐために教訓となること、また提言できることをまとめてみました。
・ハザードマップで色がついているところはまず注意
まず、ハザードマップで何らかのリスクが有る場合には、どういったリスクがどの程度あるのか確認が必要です。
水害で氾濫流を受けず、自宅の2階でやり過ごせる水深であれば、豪雨災害が想定される場合に自宅2階への垂直避難ができるなどです。
自宅に留まれない場合は、どのタイミングで、どの経路で、どこに、何をもって避難するかを考えておく必要があるでしょう。
・ハザードマップにない災害が起こることがある
ハザードマップは、何らかの災害で色がついていればその災害には要注意ですが、色がついていないからといって、安全を担保するものではありません。
輪島市街地の例であったように、洪水ハザードマップは作成されていても、その対象が大きな河川の一部のみであったりします。
対象となる中小河川や、あるいは内水氾濫のハザードマップがない場合には、想定していない被害に及ぶこともあります。
土砂災害でも、例えば急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)でも、指定の高さや角度の基準に満たずに指定されていない場合などでも、崩れてくることがあります。
以下の内閣府の示す避難行動フローでも、「色が塗られていなくても、周りと比べて低い土地や崖のそばにお住まいの方」は避難情報を参考に必要に応じて避難、とあります。
内閣府の示す「避難行動判定フロー」(内閣府HPより)
・過去に被害があった地点は要注意
今回浸水被害があった地点付近では、以前にも大雨の際には水がたまったりしていた場所、という事例も山岸町第2、稲屋町の仮設住宅で聞いています。
周囲より低い場所や、川があふれた際に通り道となるような場所で、過去に繰り返し災害や災害に至らずとも冠水があったような場所は、将来的に記録的な豪雨などがあった際にも再び被害に遭いやすいことが想定されます。
市区町村でハザードマップ作製の際、あるいは地域でハザードマップを活用するような際には、是非過去の災害履歴についても念頭に置き、ハザードマップで同じような色の評価でも、災害に遭いやすい場所である場合には通らない、住宅用地には避けるなど配慮できると良いかと思われます。
・仮設住宅はどこに建てればいい?
仮設住宅の適地の問題については、SNSなどで様々な声が出ています。輪島市街地は川沿いの低地とそれをとりまく山地からなる街です。
そもそも、輪島市街地の大半が洪水で浸水が想定される地域にあります。今回、堤防で守られていた宅田町、山岸町付近の仮設住宅は河原田川の堤防を越える氾濫による被害はみられませんでした。
ハザードマップでノーマークの山からの小河川による影響が大きかったとみられます。
むしろ、市役所付近や古くからの市街地である河井町、鳳至町などでは洪水によってより大きな被害に至っています。仮設住宅だけではなく、輪島市、また能登半島の他のまち、それ以外の都市でも共通の課題と言えます。
そのなかで、仮設住宅だけではなく、その後の都市づくりをどのようにしていくか?というビジョンや、既に住んでいる地域の方の安全確保や避難の要否などを考えていける仕組みが必要であるように感じます。
仮設住宅の用地だけで考えれば、台地上の平坦地で災害リスクの低い宅田町西部、旧輪島中付近や、低地でも山際からの中小河川の水の影響が及ばない場所、また同じ浸水想定区域内でも、少しでも想定される浸水の深さが浅い地域では標高が高い場所であるなどで、被害があっても床上に及ばないなどの場所が選択できるでしょう。
ハザードマップだけではなく、標高や地形区分(地盤にも関連)などを含めて考える必要があるでしょう。
今回被害がなかった場所というのも重要なヒントであると考えます。下に、地形区分を示した図に被害があった地点を記入しています。緑色の氾濫平野は低平で水害の被害が大きいことが分かりますが、山からも川からも離れた場所は比較的被害を受けていない場合もあります。
山裾では、茶色の山麓堆積地形や山からの土砂が堆積してできた山裾の地形ですし、杉平町などにある黄土色の扇状地も山からの土砂、水が及びやすいことがあります。
また、意外と気にされていませんが、水が流れ下る先に、水を堰き止めてしまう構造物(道路、堤防、大きな建物、中央分離帯、柵の基礎など)があると、それらによって低い側に水が流れていくことができずに溜まる場になってしまい、浸水・冠水に至ることもあります。こういった場所になっていないかも確認をお勧めします。
輪島市街における被害地点と地形区分(地理院地図に加筆)
水害、土砂災害リスクは低い側としては、宅田町西側の台地(緑色枠内:上野台)のほか、低地部では沿岸の重蔵神社~朝市通り付近は砂洲・砂堆にあたり少し高台になっている場所、山地側の気勝平町(盛土部は地震被害も想定)などはいえるでしょうか。こういった、地形の傾向を是非考慮できればと思います。
写真は、宅田町周辺の台地で、旧輪島中南側の写真です。この地域には「上野台」バス停があり、旧輪島中学も「上野台中学校」という名前でもあったようです。その名の通り、輪島市では数少ない貴重な台地の平坦地ですが、実際に見てみると家はまばらで空き地や畑も多い地域です。大きな道路も作っている途中のようですが、是非有効に活用頂ければと思うばかりです。
以上、能登半島の豪雨災害では、地震で地域全体が被害を受けている中で、特に地震による被害が大きかった奥能登地域で記録的な豪雨があったことで被害が拡大したことも考えられます。このような時期が近い災害の複合は、他の都市でも十分に起こりうることです。
ただし、その際はこれまでなかったリスクが急に出現するという事は少なく、そもそも何らかのリスクが大きかった場所で、大きな被害に至るケースが大半なように見受けられました。
住まいの立地のリスクを考慮し、どんな災害で被害を受ける、避難をする必要があるかを考えた備えを進めて欲しいと考えております。
なお、当コラム内容の各種解説については横山のX(地盤災害ドクター横山芳春@住宅の災害リスクの専門家(@jibansaigai))で掘り下げている場合もあるほか、ご取材やインタビュー、別途の執筆などのご要望がありましたら対応いたします。急ぎの対応でも可能な場合がありますので、是非お問い合わせください。
※本報告は地形・地質を専門とする横山芳春 博士(理学)が、個人で現地にてレンタカーと徒歩で。災害の被害に至る原因は1つでなく複数あるケースやなどもあります。限られた時間で見て回ったものですので、異なる原因や見えていなかったことなどもあることが想定されますので、迅速的な全体の傾向をつかむ調査としての記録としてお考えいただけますと幸いです。
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災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。
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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)
横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。