地震+豪雨災害が複合する災害の特徴と備え~能登半島豪雨災害より地域リスクや地震被害を踏まえて~

  • Update: 2024-09-23
地震+豪雨災害が複合する災害の特徴と備え~能登半島豪雨災害より地域リスクや地震被害を踏まえて~

地震で被害があった能登地方で発生した豪雨災害

 今年、2024年1月1日に輪島市、珠洲市などの奥能登地方を中心として、令和6年能登半島地震による最大震度7の激しい揺れによる様々な被害が発生しました。生活基盤となる住まいだけでなく、道路や給排水施設などのインフラ、港湾や堤防などに多数の被害が発生しました。この地震から8か月と3週間を迎えた9月21日、能登半島北部は記録的な豪雨により、特に地震で被害が多かった輪島市や珠洲市などで著しい被害が生じてしまいました。

 地震、災害大国日本では、南海トラフ巨大地震、また首都直下地震をはじめ多数の大きな地震が想定されます。それら地震では多くの被害の想定が行われていますが、最も警戒するべきは地震と豪雨災害などの複合にあると考えられます。地震で堤防や護岸、排水施設などが被災した際の洪水被害拡大、また地盤に大きなダメージがある場合に豪雨による被害拡大などが懸念されます。

 能登半島では、地震からの復興もこれからと言う矢先に豪雨災害による被害が発生しまいました。どのようなことが発生していたか、地震発生後からたびたび現地の地盤等の被害状況の調査を進め、特に輪島市には9日間滞在して地盤を中心とした被災状況を把握してきた、地形・地質のプロ・だいち災害リスク研究所所長・横山芳春が原因と考えられる事象や、地形などをもとに詳しく解説します。そのうえで、輪島市街地でリスクが低いと考えられる地点や、能登地方以外の地域にも共通する、命を守る防災についても解説します。

 能登半島地震地震、ならびに今回の豪雨災害で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。亡くなられた方、ご家族様に対し、謹んでお悔やみ申し上げると共に、安否不明の方が、一刻も早く見つかりますようお祈り致します。

能登半島・輪島市の地形と災害リスク

 21日の気象状況は、日本海から東北地方、太平洋にかけて秋雨前線が停滞し、石川県西方沖で温かく湿った雨雲が発生しやすい状況となっていました。このような状況の中、雨雲が線状に並び豪雨を降らし続ける線状降水帯が発生し、能登半島北部を中心に激しい豪雨となりました。輪島市輪島では、9月22日午前8時10分までの24時間降水量が412.0mmを観測し、1976年からの観測史上1位の値を更新(Yahoo!ニュース)するなど、記録的な豪雨となりました。

 一方、能登半島の地形はどのような立地にあるでしょうか。能登半島は山がちで道路事情も厳しい立地条件にあることは、元日以降のニュースでもよく聞いていると思います。能登半島のこうした地形の中、奥能登地域の4市町(輪島市、珠洲市、能登町、穴水町)の中核都市である輪島市では、東側の河原田川、西側の鳳至(ふげし)川が合流する。逆Y字状の低地に市の中心部が発達しています。下に輪島市街地付近の地形区分図を示しますが、薄い茶色の山地に囲まれた、主に緑色の氾濫平野が川沿いの低地です。地図の中心にある輪島市役所をはじめ、河井町、鳳至町などの市街地・住宅街の多くが氾濫平野=川沿いの低地に位置しています。

輪島市街地の地形区分(地理院地図・地形区分(自然地形)より)

 同じ範囲でのハザードマップを「重ねるハザードマップ」を使って見てみましょう。まず洪水ハザードマップでは、川沿いの低地の大半の地域に色がついています輪島市街地の大半が、浸水が想定される地域であることが分かります。川の合流点や近くでは、薄い赤色の3.0~5.0mの浸水が想定される区域も市街地となっています。低地のへりにあたる部分では0.0~0.5mの浸水が想定される区域となっておりますが、その範囲も非常に狭くなっています。色がついていない場所は、海沿いなどの一部で川から離れた低地エリアも含まれますが、大半は山地側の地形となっています。限られた低地に町が発達していることから、どうしても洪水に対してはリスクが高い場所を利用せざるを得なかったともいえるでしょうか。

重ねるハザードマップ(洪水ハザードマップを表示)

 土砂災害ハザードマップでは、川沿いの低地をとりまく山地など高台のきわで色がついていることがわかります。低地では洪水、山側では土砂災害のリスクがあることが明瞭です。洪水ハザードマップで色がついている地域のうち、低地側のへりにあたる部分では、洪水・土砂災害の双方のリスクがある地域もあります、

 このうち、オレンジ色で塗られている範囲は地すべりの警戒区域です。輪島市内でも、地すべりリスクがある地域に住宅街があるケースもあります。なお、輪島市では、この地図の範囲より東側のやや離れた場所に有名な「白米千枚田」もありますが、これも耕作地が数少ない中、地すべり地帯の土地を利用したものです。

重ねるハザードマップ(土砂災害ハザードマップを表示)

地震によって生じていた被害や仮設住宅

 能登半島では、輪島市を例に見た地形的な特徴や洪水、土砂災害リスクがあることに加えて、既に令和6年能登半島地震により既に被害が広がっている地域であるという事情も無視できません。地震による被害は、報道されるビルの倒壊や輪島朝市通り付近の火災、また多くの住宅倒壊、津波などばかりではありません。洪水や土砂災害に関連する点では、2つの事例があります。

 一つは、山側の地盤の被害です。能登半島地震では多数の土砂災害、とくに急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)のほか、地盤の地割れなどの大きな地盤変状が発生しました。写真は、輪島市塚田町で今年5月に撮影したものですが、裏手の斜面が崩壊し、埋設配管が露出しています。このような配管損傷による排水能力低下も想定されます。この場所は、21日の豪雨によって大きく斜面が崩れた状態の写真が公開されています。

地震後の斜面の状態(輪島市塚田町・2024年5月撮影)

 輪島市街地東側では市立輪島中学校、航空自衛隊、野球場などが高台の上にありますが、高台の住宅街や道路、グラウンドなどでは地盤に大きな地割れや崩落が発生していました。この点は、濁水の流入を含めてあまりニュースにはなっていませんが、こうした被害が山側の地盤の保水力を低下させ、また崩れやすい状態になっていたことも考えられます。後で述べますが、「道の駅輪島」東側からの土砂混じりの水の流出は、こうした被害があった山側からもたらされたものとみられます。特に濁水が流れ込んできた山側には、大きく地割れなどの変状がみられた輪島中学校のグラウンド地震で地割れした輪島中学校のグラウンド・時事ドットコム)があり、山側の地盤被害の影響があったことが想定されます。

地震後の高台側における地盤の状態(輪島市河井町・輪島中学の東・2024年5月撮影)

 次に、川の護岸の被害です。能登半島地震では、各地で川の堤防や護岸に被害が生じました。21日の国土交通省の会見でも「1月の能登半島地震の揺れで、堤防や護岸が損傷している箇所が多数あった。復旧できていない箇所では低い水位でも氾濫の恐れがある」との呼びかけもありました(産経新聞)護岸や堤防が損壊していることによって、普段より低い水位で氾濫してしまうケースや、川岸の浸食が進んでしまうケースなども考えられます。写真では、中央左側の護岸が大きく亀裂が入って損壊しているようにみられます。

 さらに、能登半島北岸では海岸部が大きく隆起し、輪島市街地でも河原田川下流部が地震の際に隆起し、川からの消防用水引き上げもままならなかったという情報(輪島の大規模火災 消防団「川に水がなかった」|NHK 石川県のニュース)もあり、輪島市などではこの影響も懸念されます。

地震後の河川護岸の状態(輪島市水守町付近・2024年5月撮影)

 その他に、土砂災害からの復旧途上にある地点や、農業用の用水路、排水路や中小河川、水路にも損傷や機能不全もあり、各地の道路にもまだまだ損傷が残っていました。住んでいた家屋に被害があった方の仮設住宅も、空き地と言う空き地に建設・入居が進んでいた最中でした。これらのように最大震度7の大地震による様々な被害が発生し、住宅も、道路やインフラも、山も川も被害を復興させていこうという段階で豪雨災害がありました。

 

輪島市街地における豪雨による被害地点の分析

 輪島市街中心部における水害被害(冠水・浸水)などは、X(旧Twitter)上の投稿や多数のニュースなどで、かなり情報を収集することができます。X、ニュースサイトから位置を特定できた、土砂災害・洪水ハザードマップ上にプロットしてみました。

 下図に、およその冠水・浸水エリアを紫色の破線の丸で囲っています。輪島市役所付近の駐車場のからビル倒壊のあった河井町の、その北の住宅街・鳳至町付近で浸水・冠水が発生していました。また、たびたび仮設住宅の浸水や、ドラッグストア付近を腰まで浸水しながら歩く人物の動画は、仮設住宅と赤丸を記入した輪島市宅田町付近のものです。このほか、西側の鳳至川流域でも川沿いの浸水がX上で投稿されていました。

 これらの地域は、いずれも洪水ハザードマップで色がついている地域、かつ多くが3.0m~5.0m(2階部分まで浸水する程度)、または0.5~3.0m(1階天井まで浸水する程度)の地域でした。輪島市街地においてそもそも水害リスクが高い地域でも、特に想定される浸水が深い地域での被害が目立ちました。

 ほか、市街の東側では、「土砂混じりの水の流入」がありました。前の項で説明した、航空自衛隊や輪島中学校がある高台からの濁った水が大量に流れ込んでいるもの動画も投稿され、道の駅輪島付近(輪島駅前交差点付近)では、著しく濁った土砂混じりの水が流れていました。また、その南側、輪島消防署付近でも、やや高い側から低い側に濁った水が流れ込んでいました。

 濁水が流入していた場所を青矢印で記入していますが、いずれも洪水ハザードマップでは浸水が想定されていない地域からの濁水の流入となりました。これらは河川の氾濫ではなく、市街東側にある山側に浸透できなかった水が土砂とともに流れ下ってきたものと考えられ、洪水ハザードマップでは想定の対象外となります。先述したように、輪島市街東側の高台地域は地盤に大きな亀裂、崩壊などが発生している状況でした。河川の氾濫ではないことから、一種の内水氾濫ともいえますが、都市化された地域で雨水が浸透されないケースではなく、山に降った水が保水できず土砂と一緒に流れ下ったことが考えられます。こうした現象は、地震による地盤の被害により激化した可能性が考えられます。

輪島市街中心部の被害とハザードマップ(重ねるハザードマップに洪水・土砂災害マップを表示)

 上記の地図の周辺地域でも、被害が発生している地点がXや各種ニュースで確認できましたので、下の図に記載します。

 地図上北西、塚田町のファミリーマート付近では岩屑が多く道路に流れ下っている写真がたびたびアップされていた地点です。まさに「輪島市塚田町で今年5月に撮影した」として添付した写真の場所で、地震でも崩れ、豪雨災害でも再び崩れた地点となりました。土砂災害ハザードマップでは、急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)の特別警戒区域、同警戒区域となっている付近です。

 地図の南西側、山本町付近は、NHKニュースでの画像・動画(【大雨 被害 22日】石川 1人死亡 6人行方不明 川の氾濫や土砂崩れが各地で発生 | NHK |)のほか、地元の方のXの投稿で土石流とみられる土砂の流入があることがみられました。周辺では土石流の警戒区域がありますが、詳しい位置関係などは今後明らかになっていくと考えられます。

 久手川町家屋流出と記載した地点は、住宅が流されて中学生が安否不明と報道のある地点です「見つかったら抱きしめたい」安否不明の中3の父 能登豪雨・久手川(朝日新聞デジタル))この場所は、下のマップでは色がついていますがこれは土砂災害としての地すべり地形を示すもので、洪水ハザードマップとしては色がついていない地域での洪水被害、家屋流出であるとみられます。

輪島市街の被害とハザードマップ(重ねるハザードマップに洪水・土砂災害マップを表示)

 

 久手川町で、住宅が流された付近の川(塚田川)について詳しく見ていきます。、「地理院地図」の断面図機能で作成してみると、南北に切った断面で川より北側の市営住宅は標高が41m程度に対し、川より南側の被災した住宅付近は35mほどと、6mほども標高が低かったことがわかりました。塚田川より北は高台になっているような状況で、流れは低い南側に集中して浸水の深さを増して、住宅を流出させてしまった可能性が考えられます。

 断面図でもわかるようにこの付近の塚田川は堤防などもなく、道路の脇にある小さな川といった状態でした。ニュースで公開されている動画(動画撮影後「家が消え、車は流された」 輪島・塚田川の氾濫映像 – YouTube)を見ると、上流側から勢いよく押し寄せ茶色く濁った水は、川幅より大きくあふれて氾濫し、川より南側の道路上を激しく流れ下っています。被害家屋付近では濁流は谷の南半分全域に及んでいます。倒木で川の北側がふさがれて更に狭くなり、平屋住宅の屋根近くまで水が押し寄せていることから、3m近い浸水深があったことが想定されます。

 洪水ハザードマップの作成対象となっていなかったとみられることから、洪水に対するリスクを認識されていた場所だったか、例えば避難指示などがあっても避難ができたかどうかなどが悔やまれるところです。ハザードマップは参考にはなるも、決して安全を担保するものでは無いという事例にもなりました。

塚田川流域・抽出家屋付近の断面図(地理院地図の断面図機能)

 塚田川(本流)の流域面積は、およそ下の図で青色点線で示した範囲と考えられます(概ねの範囲を示しています)。地理院地図で示された、「令和6年能登半島地震における斜面崩壊・堆積分布データ」を表示しました(赤い線の囲み・塗り)。塚田川本流の流域面積はおよそ5k㎡弱程度とみられますが、山間部の上流域に複数の斜面崩壊・堆積があったことがわかります。豪雨の前に、既に地震による複数の土砂崩落があったところに、さらに豪雨で保水力の低下や土砂の流出、せき止めなどが起きやすかったことが想定されます。

塚田川流域の範囲と斜面崩壊・堆積範囲(地理院地図より)

輪島市街の被害から

 能登半島北部では、輪島市内の他の地域、珠洲市、能登町などで多くの被害がありました。地震で被災してさらに豪雨災害での被災があった方もおり、地震で住宅が倒壊等したのち、ようやく仮設住宅に入ったところ、浸水被害に遭った方もおいでになりました。7月末のニュース(石川の仮設用地6割に災害リスク 土砂災害や津波浸水、地震7カ月(共同通信))では、「石川県内の9市町で建設・入居が進む仮設住宅のうち6割弱が、豪雨での土砂災害や洪水浸水、津波による浸水などのリスクが懸念される区域」にあることが事前に指摘されていました。

 しかし、これまで示してきたように、もともと市街地、住宅地は限られた川沿いに発達してきたことから、そもそも市街地の多くが洪水リスクがある地域でした。そのなかで、市街地にあるグラウンド、駐車場、空き地などの件せる可能な場所を懸命に仮設住宅用地にされてきたと思われます。ハザードマップでリスクがない土地だけにすると、4割程しかなく、全く数が不足してしまっていたことでしょう。仮設住宅用地の選定はあくまで「豪雨などの災害は起こらない前提」で成り立っていたところがありましたが、記録的な豪雨によりその前提が通用しませんでした

 例えば豪雨災害は「記録的な豪雨」だけで起こるものではありません。災害リスクや被害の大きさは、その立地の「地形」に大きく左右されます。豪雨があった時に被害を受けやすい場所で被害が発生するのです。比較的災害リスクが低いのは、下図の通り高台のうち台地の平坦地です。東京都であれば武蔵野台地にあたる新宿駅、池袋駅や吉祥寺駅付近などが該当します。千葉県には下総台地(北総台地)、埼玉県では大宮台地など台地域があります。しかし、輪島市では川沿いの低地と、その周辺の大半を山地が囲んでいる地形です。低地は水害、山地は土砂災害(特に土石流)が懸念されるという立地でした。

 なお、輪島市内で台地の平坦地の条件に合致する場所は、輪島市役所の南の高台、宅田町の西側にある台地部があたるでしょう。地図には、緑色の枠で「輪島仕合で災害リスクが低いと考えられるエリア」として着色しています。この地域には旧輪島中学校があり、既に仮設住宅が建設されています。住宅は点在するのみで畑や空き地のような使われ方の土地も多いので、数少ない災害リスクの低い(ない、ではなく他地域と比べるとリスクが低い)立地として活用が進めばと考えています。地域外より何も事情を知らずに申しておりますので、個別の事情などあるようでしたら失礼いたしました。輪島市街中心部で災害リスクが低いと考えられるエリアは?(重ねるハザードマップに洪水・土砂災害マップを表示)

 

 なお、ハザードマップは、色がついているところは何らかのリスクが有るとして考えて良いですが、色がついていない=安全と言う担保を示すものではありません。水害に関するハザードマップであれば、洪水ハザードマップには内水氾濫や、想定の対象とされていない中小河川の氾濫は掲載されていません。土砂災害ハザードマップでは、例えば急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)であれば、角度や高さが基準以下の斜面などは区域指定されず、土砂災害マップにも掲載されません。しかし、実際には内水氾濫や、想定の対象とされていない中小河川の氾濫、また区域外での土砂災害による被害は繰り返されています。

 例えば、輪島市・能登町域では、河原田川、町野川、八ケ川の3河川で洪水ハザードマップが作成されています。しかし、石川県は21日の時点で「輪島市を流れる塚田川、仁行川、河原田川、鳳至川、八ヶ川、町野川、能登町を流れる上町川、神野川、山田川で氾濫(大雨影響 石川県内の23河川で氾濫 | NHK | 石川県)」があったとしています。黒色文字は、洪水ハザードマップがあって氾濫した河川、赤色文字で示した河川が、洪水ハザードマップがなく、流域で浸水等が発生したとみられる河川です。紫色文字で、団地で床上浸水があった浦上側も追記します。洪水ハザードマップが作成されておらず、色が塗られていない複数の河川の流域で氾濫が発生していたことがわかります。

輪島市・能登町域の洪水ハザードマップ作成状況と浸水があった河川(重ねるハザードマップに加筆)

 

 以下に、内閣府による避難行動判定フローを示します。ハザードマップで色が塗られている場合は原則立ち退き避難ですが、「色が塗られていなくても、周りと比べて低い土地や崖のそばにお住まいの方は、市区町村からの避難情報を参考に必要に応じて避難してください」とあります。ハザードマップは公開されていますが、色がついていない場合でも周囲の地形や高低差などから避難が必要な場合があるのです。ハザードマップで色がないことは、安全を担保するものではありません。ただし、現状では誰も我が家が避難の必要があるか教えてくれないという状態になっています。

内閣府の示す「避難行動判定フロー」(内閣府HPより

 

 最後に、豪雨災害で被害を受けるようなケースは、決して能登半島だけのことではありません。東京、名古屋、大阪や他の大都市でも、沿岸や川沿いの平野部に発達した街が多く、水害を中心とした災害リスクがあることは共通した課題です。南海トラフ地震、首都直下地震やその他の地震など、地震リスクが高い地域も多いと言えます。大きな地震があった後に豪雨が降ってしまうと、人口が密集している分、より大きな被害も発生してしまう場合もあるでしょう。

 8月には、初めて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表され、備えの見直しをした方もいらっしゃると思います。ここでは地震対策を例にしますが、防災の備えを考えるとき、どうしても持ち出し袋や備蓄・・・などと考えてしまいがちですが、それは命が助かった後の段階のことだと考えています。まず必要なのは命を失わないこと、次に怪我をしないことです。命を失わないとは、土砂災害などで即死しないこと、津波等が想定される場合は避難すること、そして即死を防ぐための家屋の耐震性確保です。津波から避難したくとも、家屋が倒壊してしまえば避難もできません。また、安全な立地にあり十分な耐震性確保ができ、火災がなければ、避難所に行く必要はありません

 まずは即死を防ぎ、次に負傷を減らす対策として室内で怪我をする可能性を減らします。震災時には医療や救急体制がひっ迫し、普段であればすぐに治療が受けられる負傷でも地震後には治療が遅れ、最悪は命の危険に至る場合もあります。室内で怪我をしないように普段過ごす場所、寝る場所に倒れてくる家具を置かないなどを徹底したいものです。最後にに、避難の必要性有無に応じて、備蓄を手厚くするか?、持ち出し袋をしっかり準備するか?という順番が重要です。すべての防災対策の基本は立地の災害リスクの特定です

 家屋の耐震性であれば、耐震診断・耐震補強での強化や、建て替えと言う選択肢もあります。間取りや家具の配置なども手を加えられる部分といえるでしょう。しかし、お住まいの立地については、後からは変えることができません。水害や土砂災害も同様で、どこでも揺れ自体には見舞われる地震以上に、水害は①崖はいつか崩れる、②水は低い所に集まり、③川はあふれることがあるという、基本原理が起きない場所=水害・土砂災害の影響を受けない場所であれば、豪雨災害による被害を受けるリスクを極限まで減らすことができます。

 お住まいを選ぶ際などについては、後から変えられない立地の問題も是非考えて頂きたく思います。

 なお、当コラム内容の各種解説については横山のX(地盤災害ドクター横山芳春@住宅の災害リスクの専門家(@jibansaigai))で掘り下げている場合もあるほか、記載された内容の解説など必要があれば行います。急ぎの対応でも可能な場合がありますので、是非お問い合わせください。

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。