豪雨災害・現地調査概要
9月21日、能登半島北部は記録的な豪雨により、特に地震で被害が多かった輪島市や珠洲市などで著しい被害がありました。だいち災害リスク研究所では、所長の横山芳春が9月23日に「地震+豪雨災害が複合する災害の特徴と備え」と題してSNSやニュース上に掲載されている情報をもとに、主に輪島市街地を例として被害地点の地形やハザードマップとの関連性などについて紹介いたしました。
その後、横山芳春が9月25日から26日に輪島市街を対象とした現地調査を行った結果から、まず何が起きていたか、どのような原因が考えられるか?ハザードマップの評価は?仮設住宅の被害は?地震の影響は?今後の対策は?という点について輪島市街の緊急現地調査から見えた地震の影響と浸水の原因としてまとめました。ここでは浸水・冠水被害に至った主な原因は3つ、1.平野部河川の氾濫、2.山間部小河川の氾濫、3.崩れた山側からの水・土砂流入という複数の可能性があることが判明しました。また、実際に起こっていた被害について、ハザードマップが的中できていなかった事例が多かったことが判明したほか、被害については地震による影響があると思われるケースも複数みられました。
その後、道路の啓開なども進んで、一部を除いて現地入りできる状態になっていたことから、豪雨災害発生から1か月を迎える10月21日~23日に被害の集中した輪島市、珠洲市全域の可能な限り立ち入れる範囲において、どういった現象によって被害が拡大したか、特に甚大な穂害が発生した地域を中心とした現地調査を実施しました。併せて、床上浸水が発生した全6箇所の仮設住宅団地のうち4箇所は9月に調査済みですが、残り2箇所の仮設住宅団地について現地調査を実施し、ハザードマップの適否について評価を行いました。
現地調査範囲(10月21日~23日)
その結果、以下の3つの課題が判明いたしました。
①床上浸水があった仮設住宅団地の6箇所のうち、3か所はいずれも浸水が想定されていなかった地域であり、完全な想定外でした。残る3箇所は、ハザードマップで浸水が想定されていた範囲内にありますが、想定される原因は異なっていたため、結果的には想定外であったと評価できます。
以上より、現地調査の結果から床上浸水のあった6箇所の仮設住宅では、いずれも実際に発生した浸水を予見出来ていなかったものと評価されます。
②河川の氾濫で甚大な被害があった地点付近では、橋がある周辺で大きな被害が発生している傾向がみられました。橋じたい、また橋に流木が引っかかって閉塞することで、その周囲に氾濫流が迂回(迂回流)して、それによって道路や護岸・道路が浸食、家屋の転倒や道路陥没による甚大な被害に繋がっていた可能性があります。
③地震で既に山林の被害が進んでいましたが、豪雨では流域における崖崩れ、土石流、それらによって激化した「土砂・洪水氾濫」や河川の氾濫などが同時多発的に発生していた可能性が示唆されます。
今後も、既に地震被害の大きかった地域の流域で豪雨があった場合、今回のような被害が各地で多発・拡大する可能性については、これまで以上に注意と警戒が必要になってくることでしょう。
以下、それぞれを現地レポを含めて解説します。
仮設住宅の浸水地点はハザードマップで危険を予見できていたか?
能登半島地震では、石川県のまとめによると6箇所の仮設住宅団地で床上浸水があったされています。9月の調査でそのうち4箇所(輪島市宅田町第2、第3団地、同山岸町第2団地、同稲屋町第1団地)の現地調査を行いました。この結果は輪島市街の緊急現地調査から見えた地震の影響と浸水の原因にて公開しております。
これに加えて、10月の調査で残る輪島市浦上第1団地、珠洲市上戸町第2団地の現地調査を実施しました。「重ねるハザードマップ」を閲覧すると、いずれも洪水ハザードマップが作成された地域になく、洪水で浸水が想定される区域ではありませんでした。
なお、浦上第1団地は西側の谷からの土石流の警戒区域に該当し、上戸町第1団地は津波ハザードマップでは3.0~5.0mの津波浸水が想定される区域でしたので、洪水以外で異なる災害の被害に遭う可能性はあると評価されていた立地でした。
・輪島市浦上第1団地の被害
仮設住宅の輪島市浦上第1団地は洪水ハザードマップが作成された八ケ川(はっかがわ)の支流である浦上川のすぐ西側の河岸、川のすぐわきにある低地の氾濫平野に位置しています。住人の方にお伺いすると「21日は9時くらいから一気に水が上がってきた。床上ひたひた程の浸水だった。郵便局側(上流部の北西側)から濁流が来た。水は引くのも早かった」とのお話をお伺いできました。仮設基礎は45cm程度で、浦上第1団地付近では少なくとも床上浸水があったことを現地での聞き取りで確認しました。
現地を確認してみると、北西側から水が流れ込んできた形跡が残っていましたので追跡していくと、150mほど離れた郵便局付近では少なくとも120㎝程度の浸水の痕跡があり、浦上第1団地付近より浸水深が大きかったことがわかりました。この付近は3本の川が合流してくる地点にあり、そのうち西側の川の流域から大量の流木と土砂が流れ込んでいました。
流木は郵便局西側の集落でせき止められていましたが、氾濫した水の流れはそのまま流れ下り、浦上第1団地付近に到達したものとみられます。仮設住宅付近でも若干の氾濫があった可能性がありますが、「郵便局側から水が来た」という証言とも一致します。
浦上第1団地から北西150mほどの郵便局の浸水被害と流木・土砂堆積状況(10月21日撮影)
・珠洲市上戸町第2団地の被害
仮設住宅の珠洲市上戸町第2団地は、海から直線距離で100mほどの低地の海岸平野にあり、すぐ脇を幅3mほどの小さな河川が流れています(名称は現地・地図に記載なし)。この河川は西南西より流れてくると、直接海には注がずに輪島市浦上第1団地付近で北東方向に流れを変えて海へ注ぎます。海側がわずかに標高が高くなっている砂丘とみられる高まりがあるので、これを迂回するように流れていきます。
輪島市浦上第1団地に入居されている住人の方に聞くと「川に近い1、2号棟で床上2、3cmの浸水があった。この川は、嫁いできてから何十年住んでいるがこれまであふれたことがなく、他の住んでいる人たちもみな、溢れるとは思わずに油断していた」とのお話をお伺いすることができました。
小河川の周りの柵や植え込みには浸水時に流れて来た漂着物が残置されており、最も浸水の深さが深い地点では70㎝近くでした。仮設住宅は少し地盤高が高くなっていますが、聞き取りを踏まえると概ね50㎝前後の浸水深があり、床上浸水に至ったものと考えられます。
珠洲市上戸町第2団地の際を流れる川の氾濫の形跡(10月22日撮影)
以上、6箇所の仮設住宅団地にて、現地調査及び聞き込みで床上浸水があったこと、また浸水に至った経緯として実際にどのようなことが起きていたかを確認しました。
4か所は9月の調査結果として「輪島市街の緊急現地調査から見えた地震の影響と浸水の原因にて」の記事でも評価していますが、「洪水ハザードマップの浸水範囲にあったかどうか」も含めて、以下の3つの区分にて再評価を行いました。
仮設住宅の浸水をハザードマップが予測できていたか?再評価基準
〇:的中 浸水想定区域内であり、洪水ハザードマップで想定した浸水の原因と一致していた場合(想定内)
△:範囲は的中・原因は不的中 浸水想定区域内だがハザードマップが想定した浸水の原因は異なっていた場合(結果的に区域内だが想定外)
×:不的中 洪水ハザードマップで浸水想定区域の外で浸水があった場合(想定外)
9月に調査を行った輪島市宅田町第2団地、第3団地、また山岸町第2団地は、洪水ハザードマップでは浸水が想定される区域に含まれていました。ハザードマップでは市街中心部を流れる河原田川の氾濫を想定したものでしたが、実際には河原田川ではなく、背後の山側にある小河川が氾濫して仮設住宅や周辺の店舗に流入したものと考えられるため、「△:範囲は的中・原因は不的中」と評価しました。
輪島市稲屋町第1団地、また今回調査を実施した輪島市浦上第1団地、珠洲市上戸町第2団地においては、洪水ハザードマップの範囲外で浸水が起きたことから、「×:不的中」と評価しました。
重ねるハザードマップ(洪水・土砂災害マップを表示)に輪島市街の床上浸水があった仮設住宅団地(赤色文字)を加筆
以上から、最終的な評価としてはいずれも「的中」はなく、6箇所中「不的中」が3箇所、「範囲は的中・原因は不的中」が3箇所という結果となりました。洪水ハザードマップで色がついていなくとも、想定されていない小河川の氾濫や、内水氾濫などがある場合もあり過信は禁物です。
他方、床上浸水があった仮設住宅の地形区分はいずれも川沿いの低地に位置しており、川が氾濫することで形成された低地の水害リスクが浮き彫りとなりました。ハザードマップが作成されていない中小河川沿いであっても、地形的に「低地」に位置しており、川と標高が変わらないような地点においては中小河川の氾濫などの被害が想定されることを知っておきたいです。
床上浸水があった仮設住宅のハザードマップ評価
橋付近の「迂回流」による被害の実態
豪雨被害があった能登半島の各所の河川では、橋の部分を流木が閉塞する現象が多く報道されました。9月の調査でも、輪島市街地において輪島市役所の脇を流れる河原田川の上新橋では、2本ある橋脚のうち、左岸側(上流側からみて左側・市役所の側)から左側が流木によって閉塞されている状況を確認しています。
増水時には川の流路だけではなく、写真にある高水敷側にも水位が及んでいたとみられますが、閉塞した流木を迂回した流れが発生し、市街地への浸水拡大に影響していた可能性が想定されました。
輪島市街地・上新橋橋脚付近の流木による閉塞(9月25日撮影)
ほか、大規模な浸水被害があった輪島市町野町、また道路が寸断されるように河川の氾濫があった珠洲市北部(外浦側)などで、同様の橋付近の被害が非常に多くみられました。
輪島市東部の町野町では、鈴谷川流域の被害が顕著でした。以下の写真は、スーパーなどの浸水があった五里分橋の下流側一帯の写真です。五里分橋では、「浸水2メートル、ショーケースに乗り耐えた 能登の豪雨から3週間:朝日新聞デジタル」の記事で、「鈴屋川にかかる五里分橋に引っかかった大量の流木」」とある通り、流木による閉塞が発生したとみられます。
その周辺および下流側一帯では流域に氾濫が及び、護岸・道路の浸食や家屋の支持地盤の流出なども発生していました。閉塞した地点が水を堰き止めたり、橋を迂回した流れによる被害が想定されます。
輪島市町野町・鈴谷川流域の被害(10月22日撮影)
同様の事例は他の地区でもみられました。輪島市西部沿岸にある輪島市門前町深見地区では、集落の中心を流れる深見川が氾濫し、護岸や道路、家屋の基礎地盤が浸食されるという、鈴谷川と似たような被害が見られました。
この地点でも、集落の上流側にある橋付近で流木が堆積していた形跡と、陸側に迂回した流れが周囲に氾濫が広がった形跡がみられました同様に、橋付近を閉塞した流れによる被害であると見られます。
輪島市門前町深見・深見川流域の被害(10月22日撮影)
このほか、珠洲市若山では、若山川にでは家屋が川に崩落するという被害がみられました。この地点も橋の下流部にあり。護岸と家屋の基礎地盤が浸食されたことで、写真左側の家屋が川に崩落してしまったものとみられます。
写真右側の建物も、建物左側に杭が映っており、一部の地盤が浸食されたことがうかがえます。この地点で流木の閉塞があったかは不明ですが、橋の下流側で岸側の護岸や地盤が浸食される現象が起こったものと考えられます。
珠洲市若山・若山川流域の被害(10月22日撮影)
このほか、珠洲市上戸町では9月21日に車が道路の陥没地点に転落してしまった被害が報告されています。写真では道路左側の2つのカラーコーン付近の埋め戻し跡付近が陥没現場です。
既に陥没地点も修復されていますが、この地点は珠洲市上戸町第2団地から250mほど北西にあたり、同団地を進水させた小河川の河口近くにかかる橋のたもとにあたります。川にかかる橋付近で、氾濫した流れが道路下の地盤を浸食して車の転落に至ったものとみられます。
珠洲市上戸・山王橋付近の被害(10月22日撮影)
橋付近における浸水と浸食による被害の事例は以上の地点に留まらず、多くの地点で認められました。そして、甚大被害に至っている場合では、橋に流木が閉塞して、流れが周囲へ迂回したことで、道路や護岸、住宅の基礎地盤を浸食していくことで被害が拡大したケースであると考えられます。
このようなケースは、川の流れが閉塞された際、その周囲に流れが迂回する「迂回流」による被害が含まれるものと想定されます。
迂回流に関する論文(出典)によると、「橋梁を迂回する流れによる水害・土砂災害は毎年のように発生しているが、迂回流の流況特性や河岸侵食特性に関する研究は皆無に乏しい。(略)そのため、知見が不足しており、迂回流対策が十分に実施されていない現状」と指摘されています。
能登半島でも、山側の地震・また豪雨による斜面の崩壊や土石流、土砂堆積に加えて豪雨による増水や、ときに土砂ダムによる「土砂・洪水氾濫」や、小河川では土石流がそのまま押し寄せたなどの現象も起きていたことが考えられます。なお、「土砂・洪水氾濫」による橋の閉塞があった場合でも、その後の氾濫の流れについては、閉塞された橋を迂回する迂回流が発生しやすいことが推測されます。
※土砂・洪水氾濫とは、国交省HPによると「豪雨により上流域から流出した多量の土砂が谷出口より下流の河道で堆積することにより、河床上昇・河道埋塞が引き起こされ、土砂と泥水の氾濫が発生する現象です。土砂とともに上流域から流出した流木が氾濫する場合もあります。」とされています(国土交通省)。
国土交通省による「土砂・洪水氾濫」のイメージ図(出典:国土交通省)
流木による橋の閉塞と迂回流について、以下の通りモデルの簡単な動画を作成しました。
①河川の流域に、②増水があると流木が流下して、③流木は橋付近で詰まってしまい、水があふれ始める(既に氾濫が始まっている場合は、岸側により強い流れが及ぶ)、④岸側にあふれた水(迂回流)は、護岸や道路、住宅の基礎地盤を浸食する、⑤水が引いた後には橋には流木が残り、流域には大きな被害と共に土砂が残置されるなど被害に及ぶ、ということが示唆されます。
能登半島豪雨でもあまり指摘されていませんが、このような橋付近にて被害が及んでいた箇所が少なくないものと考えられます。
今後の復興や災害対策においても、水位上昇と流木の流下、橋の閉塞という事態があった際には、迂回流による被害拡大の可能性は十分考慮しておくことが望ましいでしょう。お住まいの方なども、こういった現象の可能性が有ることを知っておいて欲しいと思います。
橋付近の流木による閉塞と迂回流のモデル図
同時多発的な災害の発生
能登半島では、1月1日の地震で既に山林の被害が進んでいたところに、9月21日の豪雨では流域における同時多発的な崖崩れ、土石流、それらによる氾濫などが同時多発的に発生していたことが示唆されます。下記、被害が大きかった輪島市東部・町野町付近を中心に、地震後、豪雨後とそれらの斜面崩壊・土砂堆積の場所を重ね合わせてみます。
地震で斜面崩壊・土砂堆積があった場所を起点として、またその近傍で斜面崩壊、土石流が始まっているような事例も多くみられます。地震で崩れた場所やその周辺が豪雨によりさらに斜面崩壊、また土石流となった可能性を示唆するものでしょうか。
さらに、豪雨時には流域の多くの地点で「斜面崩壊・土石流・堆積範囲」が広がっていますが、その周辺では浸水が発生した場所もあり、流域のある地点だけではなく、広く複数の箇所で同時多発的な災害となっていたものと考えられます。
例えばある流域で既に崩れている場所を起点としたがけ崩れ、土石流があると、それが水を堰き止めてしまい、さらなる土石流や、浸水被害が発生することになるでしょう。多発的な災害発生が、さらなる災害を招く可能性があります。
特に、大規模な地震で山や河川流域の斜面に大きな被害が発生したあとに、その地域に記録的な豪雨が降った時には、今回のような被害が拡大する可能性についても、これまで以上に注意と警戒が必要になってくることでしょう。
①地震後、②豪雨後の斜面崩壊・堆積データ、③地震後+豪雨後の重ね合わせ
(輪島市町野町の例・地理院地図、前図で示した各出典より)
以下の写真は、上の図で「町野町粟倉」とある付近の状況です。奥の民家の手前に町野川があり、周辺に多数の流木が残置されていることがわかります。奥には複数箇所の土砂が崩れた地点があり、樹木の倒壊もあります。
地震で既に一部が崩れていたところに、その周辺は他の場所が崩れたり、土石流が発生するという現象が発生します。上流域の谷幅の狭いようなところや、川が谷のへりを流れているような場所では、このような土砂が崩れて川を塞ぐと、土砂ダムができやすくなります。そうすると、土砂ダムの決壊、「土砂・洪水氾濫」などが発生しやすくなり、流域に大きな被害をもたらしてしまうことにつながります。
輪島市町野町粟倉付近の被害事例(10月22日撮影)
このような事例は、輪島市・珠洲市の至る所でみられました。仮設住宅に被害があった輪島市門前町浦上では、地域の方にご案内いただき、浦上川水系上流部の崩れた地点を説明頂きました。
「あそこは地震で崩れた、ここは雨で崩れた」、と各地点をご案内いただき、実際に地震で崩れた場所に加えて、周辺地域で複数の豪雨で崩れた場所みられ、土砂が川を塞ぎ、氾濫した流れが農地に流木を残置した様子がみられました。
3枚目の写真は、氾濫した流れが運んで来た大量の土砂と流木が、集落に残されている状況です。この付近で集落があることで下流側への流出が阻止されたこともあるようですが、家屋の浸水被害も著しいうえ、大量の流木に手が付けられない状況にありました。
小学校5年生の理科で習う「流れる水のはたらき」の、「浸食・運搬・堆積」という過程そのままが災害となっていることがうかがえます。
輪島市門前町浦上の浸水被害と流木・土砂堆積状況(10月21日撮影)
さらに、土石流の直撃があった場合、さらに家屋被害は大きくなります。珠洲市大谷町では、沢筋で発生した土石流とみられる被害で、集落の2階にまで土砂が及ぶほどの被害が発生していました。
この地域でも、地震で山が崩れていたところに、豪雨によって土石流が発生していたものとみられます。小規模の土石流は至る所にみられました。
特に土石流の懸念される渓流の下流側において、土石流がそのまま集落に直撃するような位置にあっては、とくに注意・警戒が必要でしょう。
珠洲市大谷町の土石流とみられる被害(10月23日撮影)
今後の同様の被害を防ぐために
能登半島では、大きな地震の後にその傷も癒えない段階での豪雨災害がありました。山がちな能登半島特有の土石流等の被害はありますが、同様の地震後の豪雨災害などは、首都圏などの都市部でも抱えているリスクであるといえます。
首都直下地震の直後に台風などによる堤防決壊や、南海トラフ巨大地震後の活断層の地震など、大きな災害が重なってしまうことは決して絵空事ではありません。小さな1箇所の被害が、その後の大きな被害を招いてしまうことも懸念されます。
今後も同様な被害を防ぐために教訓となること、提言できることをまとめてみました。
・立地のリスクは後から変えられない・慎重な選択を
住み替え、建て替えなどにおいて、住宅の耐震性などであれば建築時やリフォーム時に改善することができることもあります。しかし、立地のリスクについては後から対策できることは限られます。
津波、土砂災害(大規模な崖崩れ、土石流)、街区全体の液状化、河川の氾濫などは個人レベルでの対応が難しいこともあります。事前に良く確認しておきましょう。
リスクが高い立地に住むことがダメなのではなく、どういったリスクがあるかを知って、どういうときに避難をする必要があるかを確認、そのための準備をしておくことが必要でしょう。
・ハザードマップで色がついているところはまず注意
まず、ハザードマップで何らかのリスクが有る場合には、どういったリスクがどの程度あるのか確認が必要です。
水害で氾濫流を受けず、自宅の2階でやり過ごせる水深であれば、豪雨災害が想定される場合に自宅2階への垂直避難ができるなどです。
自宅に留まれない場合は、どのタイミングで、どの経路で、どこに、何をもって避難するかを考えておく必要があるでしょう。
・ハザードマップにない災害が起こることがある
ハザードマップは、何らかの災害で色がついていればその災害には要注意ですが、色がついていないからといって、安全を担保するものではありません。土砂災害では崖の近く(地形境界)、浸水害は低地、とくに川と高さが変わらない地点や橋付近はリスクが大きくなることがあります。
・過去に被害があった地点は要注意
今回浸水被害があった地点付近では、以前にも大雨の際には水がたまったりしていた場所、という事例も山岸町第2、稲屋町の仮設住宅で聞いています。
周囲より低い場所や、川があふれた際に通り道となるような場所で、過去に繰り返し災害や災害に至らずとも冠水があったような場所は、将来的に記録的な豪雨などがあった際にも再び被害に遭いやすいことが想定されます。
市区町村でハザードマップ作製の際、あるいは地域でハザードマップを活用するような際には、是非過去の災害履歴についても念頭に置き、ハザードマップで同じような色の評価でも、災害に遭いやすい場所である場合には通らない、住宅用地には避けるなど配慮できると良いかと思われます。
住まいの立地のリスクを考慮し、どんな災害で被害を受ける、避難をする必要があるかを考えた備えを進めて欲しいと考えております。
なお、当コラム内容の各種解説については横山のX(地盤災害ドクター横山芳春@住宅の災害リスクの専門家(@jibansaigai))で掘り下げている場合もあるほか、ご取材やインタビュー、別途の執筆などのご要望がありましたら対応いたします。急ぎの対応でも可能な場合がありますので、是非お問い合わせください。
※本報告は地形・地質を専門とする横山芳春 博士(理学)が、個人で現地にてレンタカーと徒歩で。災害の被害に至る原因は1つでなく複数あるケースなどもあります。限られた時間で見て回ったものですので、異なる原因や見えていなかったことなどもあることが想定されますので、迅速的な全体の傾向をつかむ調査としての記録としてお考えいただけますと幸いです。
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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)
横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。