インスペクションを説明義務化する「改正宅建業法」が、4月に施行されます。具体的には、不動産取引の媒介契約を結ぶ際、あるいは重要事項説明の際などにおいて「インスペクションの斡旋の有無」や「インスペクションをしていればその内容について説明する」というものです。要するに、住宅売買に関わる売主・買主は全て、インスペクションの存在を知ることになるわけで、本改正によるアナウンス効果は絶大でしょう。
ではこれでインスペクションが本格普及し、中古住宅流通が活発化するかといえば、ことはそうかんたんではありません。それどころか、トラブルを生む危険性すらはらんでいるのです。なぜなら、今回の業法改正にはいくつもの制度的な不備がみられ「市場の失敗」が起こる可能性が高いと思われるためです。したがってインスペクションの普及は「黎明期」を過ぎて、法改正を機に「混沌期」に入ると見ておくのが良いでしょう。
制度の不備から予想される市場でのトラブル
例えば「媒介契約時に、宅建業者がインスペクション業者の斡旋の可否を示し、媒介依頼者の意向に応じて斡旋を行う」という点。これは明らかに、売主側がインスペクションを行うことが企図されているのは、不動産売買実務者から見れば自明。なぜなら、売主とは物件売り出し前に媒介契約を締結しますが、買主とは実務上、ほぼすべてのケースで契約当日に行います。契約の場になってインスペクションの斡旋の有無を提示されたところで、すでに契約はセッティングされており、目の前には売主がいるわけで、時すでに遅しでしょう。
したがってこの制度改正では、売主の側でインスペクションを行うしかありませんが、ここには問題が潜んでいます。というのも、他のインスペクション先進国では例外なく「売主が行うインスペクションは信用ならない」として、買主側がインスペクションを行う制度設計に改められてきた経緯があるからです。
なぜ売主側のインスペクションが信用ならないのでしょうか。そこには、この業界にありがちな「癒着の構図」があるため。宅建業者がインスペクターを紹介する場合「仕事をあげる側」と「仕事をいただく側」といった構図になります。つまりインスペクターは、宅建業者の下請け業者になるわけです。このとき宅建業者は、売買契約を締結しないと仲介手数料は一切入ってこないため、とにかく契約締結したいといったモチベーションを持っています。いきおい、報告書の不利な文言は削除せよとか、一部画像を差し替えよといった注文がつくのです。これでは「事実と可能性をありのままに提示する」といったインスペクションの本来的な意義が失われてしまうでしょう。
次回、実際の現場でどのような問題がおきるのか、インスペクション先進国の事例も踏まえ、解説します。