【インスペクション説明義務化 直前企画②】インスペクションをめぐるトラブル

  • Update: 2018-03-26
【インスペクション説明義務化 直前企画②】インスペクションをめぐるトラブル

前回は、改正宅建業法の施行により、予想される宅建業者とインスペクション業者の癒着について長嶋修が解説しました。今回は、それによりどのような問題がおきるのか、インスペクション先進国の事例も踏まえ、解説します。

癒着、虚偽、オーバートーク・・・、インスペクションをめぐるトラブル

このような問題はアメリカ・カナダ・オーストラリアなどのインスペクション先進国で例外なく起こりました。不動産業者とインスペクターが癒着し「仕事出すから報告書便宜はかれ」というわけです。このことはやがて社会問題化し、後にアメリカでは州ごとに「業者によるインスペクター紹介禁止」などで対応。現在ではほとんどが買主依頼によるインスペクションが行われています。契約後57日程度のうちにインスペクションを入れ、その結果によって契約条件を再交渉でき、場合によっては白紙解約もできるといった流れです。

オーストラリアでもやはり 「売主のインスペクションは虚偽が多い」と問題になり、買主がインスペクションするしくみが創設されました。アメリカ同様契約後にインスペクションを行い、当日夕方5時までに契約解除や不具合箇所指摘。何もなければそのまま契約条件了承とみなします。インスペクション先進国は「宅建業者とインスペクターの癒着」と闘ってきたわけです。

日本でもすでにこうした事象は発生しているようです。さくら事務所にも、宅建事業者から報告書改ざんの依頼があり、当然のことながらお断りしていますが、次から弊社にインスペクション依頼は来ません。ということはつまりどこかで、その依頼に応じているインスペクターがいるはずです。

誰がインスペクションを行なうのか?誰が説明するのか?

インスペクション(建物状況調査)結果の説明次に問題となるのは、重要事項説明時に、宅建士がインスペクションの有無とその内容を説明しなければならないこと。宅建士には一般にインスペクションの素養はないことは周知ですが、はたしてどのように説明するのでしょうか。また説明時には、報告書を提示する義務はなく「雨漏りがあった・なかった・わからない」といった項目がいくつか重要事項説明に提示されるだけ。これは非常に中途半端で、例えば雨漏りがあった場合、その原因は何か、直し方にはどのようなものがあるか、それによってどの程度長持ちするかといったところまで説明できなければ買主は納得・安心しないでしょう。また「雨漏りがあるかどうかわかりません」と言われたところで、不透明さがつきまとうだけ。さらには重要事項説明を行う宅建士も、決して契約を壊すことなく締結したいといったモチベーションがあるから、一部では事実と異なる、営業的なオーバートークが行われるでしょう。こうなると、一体何のためにインスペクションの説明をしているのかわからなくなってしまいます。他先進国では、インスペクション結果について宅建士が説明を行うことはありません。それは宅建士の専門分野ではなくインスペクターの責任範囲であるためです。したがって説明責任のリスクもありません。

さらに国交省は、インスペクションを行う「既存住宅状況調査技術者」について、年度末には24,600人になる見込みだとしていますが、いかにも粗製乱造の感があります。実務経験に乏しく、半日程度の講習を受けた技術者が、はたしてどの程度のインスペクションを行えるのでしょうか。

アメリカでは、インスペクターの教育研修を行う企業が多数存在ありますが。筆者が2016年に訪問した教育機関では一般的にはトータル120時間のうち、机上の知識習得に40時間、現場における実地研修には80時間かけ、考査の上晴れてインスペクターとなれます。その後はアメリカインスペクターズ協会(ASHI)などの団体に加盟し、定期的に講習や考査を受けスキルアップに努めています。


日本では今後、中古住宅市場を活性化するにあたり、どのような制度設計が望ましいのでしょうか。また宅建業者はインスペクションとどのように付き合えばいいのでしょうか。次回は、その点をご説明いたします。