よりよい暮らしは「物件選び」の前に「街選び」自治体チェックポイント

  • Update: 2021-08-26
よりよい暮らしは「物件選び」の前に「街選び」自治体チェックポイント

「家を買おう」と思い立った時、「どんな家がいいかな」の前に来るのが「どこに住もうかな」ということ。

それまで住んでいた街の雰囲気が気に入っていればその街で物件を探すこともありますが、「次は通勤に便利な都心へ」「次は緑の多い郊外へ」など、物件探しの前にまず街探しをするケースが一般的です。

では、どうやって街を選ぶか。

  • 瀟洒な住宅が建ち並ぶ落ち着いた街
  • 昔から栄えている、歴史が古い街
  • ここ数年内に開発された新しい街
  • 駅前にショッピングモールがあり、便利な街
  • 海や山が近い、自然に囲まれた街

など、街を選ぶ際の項目はさまざま。そして、どの項目を重視するかは人それぞれですが、特に私たちがおすすめしたいのが、「自治体で選ぶ」方法です。

自治体によって大きく異なる「行政サービス」

行政サービスが行き届いていない街は住みにくい

「自治体で選ぶ」とは、つまり、「行政サービスで選ぶ」ということ。私たちが安全で便利な暮らしを送れるように、国や地方自治体が税金を使って行うサービスのことを広く「行政サービス」と呼びます。

極端に言えば、いくら煌びやかな街であっても、行政サービスが行き届いていない街では住みにくいということ。各自治体が工夫を凝らして独自にさまざまな行政サービスを提供しているので、自治体のホームページなどで調べておくとよいでしょう。

自治体が提供する行政サービスが子育て、医療、交通など、市民の安心・安全な生活を支える

自治体が提供する行政サービスの中身には、どんなものがあるのでしょうか。

たとえば、日々の生活に欠かせないごみ収集は行政サービスの代表格。家庭ごみの集め方や処理方法は地方自治体の責務と法律で定められており、ごみの収集日の設定や分別方法、指定ごみ袋の有無などは自治体によって異なります。「前に住んでいた街では燃やせるごみの収集日が週に2回だったのに、いまの街では週に3回ある」というのは、まさに自治体による行政サービスの違いです。

街灯の設置もそうです。行政サービスが行き届いた自治体では必要な場所に必要な数が設置されていますが、そうでない自治体では、夜間になると真っ暗になってしまうところも。

自治体が賄う各種補助金、助成金制度も行政サービスです。市民の暮らしを支える大切なサービスですが、子どもの医療費を例にしても、中学校卒業までの子どもの医療費全額を助成する自治体がある一方で、「条件付きの助成」とする自治体もあり、こうした面を見てもさまざまな違いがあります。

行政サービスには、ほかにも以下のようなものがあります。○○市は医療面での補助金が手厚い、□□市は子育て世代へのサポートが充実しているなど、いくつかの自治体を比較すると、より違いが鮮明になります。

  • 子育て

    子どもの医療費への助成金の有無、保育園の待機児童対策はどうなっているか、幼稚園の入園料への補助金の有無、小中学校の給食の有無、妊婦健診の助成金の有無、など

  • ごみ収集

    ごみの収集日は充実しているか、指定ごみ袋の有無、など

  • 医療

    無料の健康相談の有無、健康診断にかかる費用への助成金の有無、など

  • 住宅

    住宅の建築や購入にかかる助成金の有無、耐震工事や耐震補強工事への補助金の有無、太陽光発電システムの導入への補助金の有無、など

  • 交通

    道路のガードレールや信号、街灯といった必要な設備が必要なところに設置されているか、バスの本数は十分にあるか、など

  • 公共施設

    公園や図書館、プール、文化ホールなど、市民の豊かな暮らしに役立つ設備の有無

行政サービスの質の違いは「税収の違い」にあり!?

「住民一人あたりに使える税収の違い」が行政サービスの質に影響する

さて、行政サービスとは税金を使って提供されるものだと先に書きました。であれば、サービスの質の違いは「税収の違い」によるところが大きいと言っていいでしょう。

とはいえ、税収が高ければすなわち行政サービスの質が高い、とは一概に言えません。税収が高く人口が多い(少ない)街もあれば、税収が低く人口が少ない(多い)街もあるからです。

より厳密に言えば、「住民一人あたりに使える税収の違い」が自治体のサービスの質の違いに直結しているということになります。いずれにしても、行政サービスの質を見極めるためのポイントの一つとして、「自治体の財政状況」を調べることが必要です。

前述した例を用いて端的に言えば、「住民一人あたりに使える税収」が十分にある自治体では漏れなく街灯が設置されていますが、税収が不十分な自治体ではごみ収集など必要最低限の行政サービスにしかお金を使えず、街灯の設置にまで手が回らないということです(さらに財政状況が悪化してしまうと、ごみの収集日を減らすこともあります)。

自治体の財政状況をくまなくチェックしよう

国土交通省が公表している資料に、市町村の人口密度と一人あたり歳出額との関連を調べたものがあります。この図を見ると、人口密度が小さいほど一人あたりの行政コストは増大することがわかりますが、平均値としては、一人あたり約50万円。

この数字を基準に気になる自治体の財政状況を調べ、一人あたり歳出額が50万円を超えていれば「行政サービスの質が比較的高い」、逆に50万円に満たなければ「行政サービスの質が比較的低い」という判断ができそうです。

こういったデータもあります。こちらは埼玉県内にある各市の一人あたりの固定資産税収入と地方税収入の関係を示したもの。戸田市は固定資産税収入、地方税収入ともに県内トップです。市内に工業団地を抱えていることも大きな要因でしょう。

その一方で、両方とも下位に位置するのが春日部市。市民所得も少なく、税収については非常に危険な状況にあると言えます。ただ春日部市では近年、若手職員を中心としたチームを作り、現状打破に向けて動いています。財政状況が現時点で悪いとしても、そこに自治体が危機感を持って対応しているかどうかは確認しておくべきです。

税収やその内訳だけでなく、将来の人口割合なども比較検討すべき

自治体の税収の内訳を細かく見ると、金額的に大きいのが住民税、固定資産税、都市計画税の3つ。特に住民税は、住民の中に働く世代が多いほど税収が高くなります。

今後しばらくの間、各自治体では高齢者向けの行政サービスを強化していくことが予想され、実際、予定の歳出額を公表しているところもあります。歳出額が確実に増えていく中で歳入をどう増やすか。その観点で見れば、人口における働く世代の割合にも注目したほうがよいでしょう。

また、特殊な歳入としては、競馬や競輪、競艇、オートレースといった公営競技(公営ギャンブル)から得られるものもあり、自治体の財政状況を把握するには欠かせない要素です。ちなみに、上で例に挙げた埼玉県戸田市には競艇場があり、そこから約5億円の収入を得ています。

ここまで自治体の財政について述べてきましたが、具体的にどのような行政サービスを行っているか(つまりお金の使い道)に関しては自治体の方針によって異なるので、詳細はそれぞれの自治体のホームページなどで調べる必要があります。

「住みやすい街」になりつつある自治体例

財政健全化を実現した「東京都豊島区」

ここからは、行政サービスの質が高く、「住みやすい街」として知られる2つの自治体を紹介しましょう。

まずは東京都豊島区です。1日の乗降客が約250万人を誇る超巨大ターミナル駅「池袋」を有する豊島区ですが、1999年度には約872億円の借金を抱え、2014年には日本創成会議が発表した「消滅可能性都市」で名指しされています。

これは、「2010年から2040年にかけて若年女性(20~39歳)が半数以下になること」という算定基準を受けてのこと。当時の豊島区には5.2万人の若年女性がいたものの、30年後には2.6万人まで減るという推計データがありました。

まさに財政破綻寸前だったわけですが、ここから豊島区は人件費削減、施設の統廃合、事業の見直しなど徹底した行財政改革を行いました。2013年度には23年ぶりに貯金が借金を上回り、2019年度には約333億円の貯金を記録。鮮やかなV字回復を果たし、財政健全化を実現しました。

「女性や子育て世代が住みやすい街づくり」を最重要課題に掲げてきた政策が実を結び、豊島区は2017年4月には保育園の待機児童ゼロを達成。また、認可外保育所に通う家庭への補助金やひとり親支援などの取り組みも目立ち、各種メディアでも共働きが子育てしやすい街として掲載されるようになりました。行政の努力で住みやすさや印象が変わった街の一例と言えるでしょう。

「犯罪の多い街」から脱した「東京都足立区」

次に紹介するのは東京都足立区。犯罪や貧困層が多い、運転が荒いといったマイナスなイメージを抱く人も多いかもしれませんが、この数年で街のイメージは急激に向上しています。例えば区内でJR常磐線や東京メトロ日比谷線、千代田線、東武伊勢崎線などが乗り入れる北千住駅は、さまざまな住みたい街ランキング首都圏版などで、1位の常連になりつつあります。

また、足立区に住む人々の意識も変わりつつあるようです。同区の世論調査の結果を見ると、2020年度は「体感治安」で「良い」が61.6%、「悪い」が23.5%。事実、2001年には1万6800件を超えていた区内の犯罪件数が2020年には3693件まで減っており、それが区民の意識の変化に表れているのだと言えます。

この変化の裏にあるのが足立区の「ビューティフル・ウィンドウズ運動」です。かつてアメリカのニューヨーク市では、「割れた窓ガラスを放置しておくとさらに割られる窓ガラスが増え、街全体の治安が悪くなる」という「割れ窓理論(ビューティフル・ウィンドウズ)」を活用し、軽微な犯罪を地道に取り締まることで治安を回復させました。

地域の防犯活動の支援、美化推進活動の支援、路上喫煙禁止の推進、放置自転車の防止などさまざまな方策を通じて街の美化に取り組み、犯罪抑止に努め、まさに、足立区版「ビューティフル・ウィンドウズ運動」が功を奏したわけです。

かつて「消滅可能性都市」と言われた豊島区、「犯罪が多い」と言われた足立区。ともに行政改革により従来のイメージを一新させることに成功しています。自治体の状況を調べる際には、それまでのイメージや思い込みにとらわれることなく、最新の情報を収集することを心がけるといいでしょう。

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住まい選びに際して、物件選びは大切です。しかし、それよりも大切とも言えるのが街選び。物件そのものの情報や、街の周辺施設の情報だけで決めるのではなく、実際の生活をイメージしながら各自治体の情報を集めて検討するようにしましょう。