都心に近いのに閑静な住宅地の顔も持つ杉並区!地形や災害リスクを知っておこう

  • Update: 2021-08-18
都心に近いのに閑静な住宅地の顔も持つ杉並区!地形や災害リスクを知っておこう

この記事はプロのホームインスペクターが監修しています

東京23区の西端に位置する杉並区。東西にJR中央線をはじめ、京王井の頭線、西武新宿線、東京メトロ丸ノ内線の鉄道が走り、バス路線も発達しているため、新宿や渋谷へのアクセスもよく、通勤・通学にも便利なエリアとして人気です。

江戸時代、領地の境目を示す意味で青梅街道沿いに植えられた「杉」の並木が、区名の由来だとも言われ、善福寺公園といった公園も多く緑も豊か。4年連続で「待機児童ゼロ」(2021(令和3)年4月15日現在)を実現するなど、独自の子育て支援策でも知られています。落ち着いた住環境を求める、子育て、ファミリー世代に人気の区です。

杉並区はアートやカルチャーの街としても有名です。高円寺や阿佐ヶ谷などには古くからの商店街が残っており、西荻窪などには古着やアンティークショップが数多く存在しています。またアニメ制作会社が多いことから「アニメのまち」としての顔も持っています。

利便さと住みやすさを兼ね備えた杉並区で住宅を購入したい場合、どんな点に気をつけておくべきなのでしょうか。最近は気候変動により、過去にない大雨・洪水・土砂災害、ゲリラ豪雨などが増えており、地盤や土地の特長も気になるところです。

そこで、東京都のホームインスペクターが、専門家の視点から杉並区の特徴を解説します。ご検討の参考にしていただければ幸いです。

杉並区の地形の特徴と注意したいポイント

東京都の西側、武蔵野台地にある杉並区。面積は34.06平方キロメートルで、23区の中では8番目の広さを有する四角形をしています。関東の山々から流れ下りてきた多摩川が山肌を削り、扇状地を形成しました。その後隆起し、さらに火山灰(ローム層)が堆積してできたのが武蔵野台地です。

杉並区は安定した高台の地盤にある

火山灰(ローム層)高台の平坦地部分、安定した地盤のもとにある杉並区。このエリアは地盤の沈下、地震の揺れ、液状化、大規模な水害などの災害リスクが小さい地域です(主に、下図で「台地」の地域)。住宅地としてはまず問題の少ない地域だといえるでしょう。

一方で、台地はその成り立ちから浅い谷やくぼ地になっている箇所が見受けられます(主に、下図で「台地上の凹地・浅い谷」の地域)。このような箇所では、川の近くでなくとも注意が必要です。行き場を失った雨水が、低いところに流れ込む内水氾濫が起きる可能性があるためです。

近年のゲリラ豪雨など短時間に急激な雨がふることで、排水用の水路や街の小川のようなところの水位が増加するケースも増えています。あふれた水が浅い谷やくぼ地のような場所に集中し、浸水する都市水害のリスクがあります。

東西横切る川沿いに広がる「谷底低地」は河川の洪水・氾濫に注意

杉並区には、北から妙正寺川、桃園川、善福寺川、神田川の順で、東西を横切るように川が流れています。

桃園川は、すでに地下に埋設されて見えない状態、暗渠(あんきょ)となっています。流域沿いは周辺からやや低く、また川が流れるように西から東へ低く形成されています。桃園川沿いは暗渠化されて一部緑道などになってはいるものの、川沿いであったことには変わりありません。

杉並区では古くから、川の氾濫に悩まされてきました。さらに近年、ゲリラ豪雨などの気候変動と都市化が浸水被害をもたらしています。杉並区はかつて、善福寺川流域などに田畑が広がる農村地域でした。

昭和後期以降、市街化が進んだ結果、田畑が少なくなっています。土からアスファルトやコンクリートに変わった地面は、雨がしみこみにくくなりました。地下に浸透しづらくなった水が直接下水や川へと流れるため、処理能力以上の雨水が行き場を失い、内水氾濫を起こすのです。

2005年(平成17年)9月台風14号の影響で区内が大きな浸水被害に見舞われたほか、2018(平成30)年にも京王井の頭線久我山駅前やJR阿佐ヶ谷駅前の幹線道路が短時間で冠水するなどの被害が報告されています。こういった被害を受けて、現在も調整池の整備など、国や区が治水対策に力を注いでいます。

これらの川沿い地域では、台地から低くなっている「谷底低地」が広がっています(主に、下図で「盛土地」の地域)。川沿いの低い土地では、河川の洪水・氾濫に備える必要があります。また川が運んできた軟弱な泥や砂の地盤である可能性もあり、その場合は地震の時に揺れが大きくなりやすいのです。

一般的に「谷底低地」の地盤は「腐植土」と呼ばれる土が多いのも特徴です。腐植土は沼地のような場所で植物が溜まってできた、すき間が多い性質の土壌です。建物などの重みで沈下のおそれもある軟弱な地盤の可能性も考慮に入れておきましょう。

高台と川沿いの標高差が生じるエリアは土砂災害の懸念も

高台の台地と川沿いの低地の間には標高差ができ、斜面となっています(主に、下図で「台地の斜面」の部分)。斜面は土砂災害警戒区域が指定されている場所もある一方、区域指定がなされていないがけ地もあります。これらの場所では大雨の際や地震時に土砂災害(がけ崩れ)の発生リスクがあります。

斜面を宅地に造成するケースでは、山側を削り、谷側を埋めたひな壇型の造成地を作ることがあります。山を切り崩す切り土や土を盛って作る盛り土などで造成地を平らにしています。

このような場所では、特に盛り土部分の土地の強度が十分でない可能性もあり、地震時の宅地地盤の崩壊や、地盤沈下のリスクがあることを念頭におく必要があるでしょう。また、高低差のある斜面の崩壊防止のため作られた擁壁の倒壊などが発生するおそれも出てきます。

杉並区の地形の特徴
国土地理院「地理院地図」に土地条件図を表示して抜粋。
図中に地形の名前(紫色文字)、右上に地形の凡例を追記

杉並区で家を建てたい!災害リスクを軽減する予防策

平坦で十分な強度を持つ武蔵野台地にある杉並区。基本的には住宅地盤として適したエリアだと言えるでしょう。ただ、一部注意が必要なエリアもありますし、地域の特徴を知っておくことが災害などのリスク低減にも役立ちます。杉並区で家を建てたいと場合の留意点と予防策についてお伝えします。

川の近くや旧水田エリアは念入りな地盤調査を行う

杉並区を東西に横切る妙正寺川、桃園川(暗渠)、善福寺川、神田川の河川。周辺からやや低い箇所であり、東へ低く形成されているのが特徴です。また、かつて農村だった経緯から、旧水田地帯・旧耕作地帯を埋め立てた軟弱な表層地盤である可能性が出てきます。

台地ではなく後に堆積した地盤、また埋めて造成した地盤は軟弱なところも多く、たとえ表層だけであっても住宅の基礎は浅く強度が期待できる台地には届きません。建物の傾斜の原因となる圧密沈下が生じるリスクがあります。

圧密とは、土中の水分が外部に排出されることで、土そのものの体積が減少してしまう状態をいいます。水分量が多い地盤(軟弱な粘土層など)に家を建てた場合などに、その重みで地盤の水分が減少、トータルの体積が減ってしまい沈下を起こす現象が圧密沈下です。弱い地盤の中には、重みが加わったことで沈んでしまう軟弱な地盤(自沈層)も存在します。こういった軟弱地盤であると判明した場合、対策が必要となります。

古い地図を確認し土地の成り立ちを知っておく

建設予定地がどのような成り立ちを持つ地域なのかを、古い地図などで確認しておくのがおすすめです。結果、水田であったと判明した場合は、軟弱な地盤であると考えておいた方がいいでしょう。谷地や低地も同様です。そのうえで、地盤調査を行います。

地盤がどのくらいの建物の重さに耐えうるかを示す力は、地耐力として示されます。地耐力が大きければ頑丈な地盤であり、小さいほど地盤が弱いということです。

建物の基礎は、これに応じた仕様規定となるように、建築基準法で定められています。そのため、地耐力が満たされてない地盤、また自沈層があるケースでは、地盤改良や杭の検討を行う必要があるのです。さらに、中古住宅を購入する際には、不同沈下(一方向への傾き)による建物の傾きやひび割れがないかどうかを含め、破損等の確認を念入りに調査しておきましょう。

都市でありながら住宅密集エリアである杉並区の問題点

まちづくりの基本は、土地の使い方や建物の建て方の決まりに沿って進められます。大まかに住居・商業・工業などの用途に分け、それぞれにあった都市計画を行っていくために用途地域が決められているのです。

杉並区は区の約8割が住居系用途地域であり、そのうち約6割が第一種低層住居専用地域と定められています。

第一種低層住居専用地域とは、建物の高さが10mまたは12mの絶対高さ(建築物の高さの上限)以下と定められているほか、建ぺい率・容積率ともに細かくルールが決められています。「良好な住居の環境を保護するため」のエリアとして、1~2階建ての低層住宅が建ち並ぶ、日当たりのいい閑静な環境が維持されているのです。

防火・耐震面で不安の残る木造住宅密集地や狭あい道路も多い

緑も多く、まるで郊外のような静かな住環境に恵まれた杉並区。一方で新宿区や渋谷区に隣接するため、繁華街が近いのも特徴です。にぎやかで便利な反面、特に住宅が密集した地域が目立ちます。中でも木造住宅密集地は建物が密集、老朽化していることもあり、地震や火災時には被害が大きくなることが懸念されています。

杉並区には行政により対策を指定された木造密集地域(阿佐谷南・高円寺南地区、杉並第6小学校周辺地区・方南1丁目地区)があり、耐震化・不燃化に向けた対策が講じられています。指定地域以外にも、駅周辺や青梅街道沿いなどにも多数存在している現状があります。

道路幅員が4m以下の狭あい道路は、区内の道路総延長の約3割を占めます。日常においても狭く不便であるのはもちろん、火災時の消火活動や避難の妨げになることが指摘されています。

狭あい道路は、家を建てるときに大型の工事車両が通行しづらいなどのデメリットが考えられます。一般的な住宅工事よりも運搬費用がかかるかもしれません。狭小住宅の場合には隣地までの距離が確保できずに、外壁や屋根などの工事が困難になるなどの問題が発生する可能性も頭に入れておきましょう。

杉並の特性を理解し、防災対策強化を

住宅密集エリアで家を建てる、購入を検討している場合、次のような対策を講じる必要が出てきます。

  • 中古住宅を購入する際には、耐震化、防火を意識したリフォームや改良を行う
  • 耐震化、防火が難しい古い住宅は、思い切って建て替えも検討する
  • 常に家の周囲はきちんと整理整頓し、燃えやすいものは置かないよう徹底
  • 狭小住宅では、屋根や外壁に高耐久のものを使用し、メンテナンスを減らすことも検討

また、中古住宅はメンテナンスが難しいため、劣化や不具合の状況には細心の注意を払わなくてはなりません。必要に応じて、隣地の協力を得てメンテナンスを行うことも必要でしょう。近隣とコミュニケーションを取りながら、地域ぐるみの防災対策を意識することが大切です。

道路幅が狭い道路に接していた場合、敷地後退も

建築基準法では、建物の敷地は道路に2m以上接しなければならないという「接道義務」が定められています。ここでいう道路とは、基本的に4m以上の幅のあるものをいいます。ですから、4mの幅が確保できない道路では、敷地を後退させて道路を確保しなければなりません。これをセットバックと言います。

狭あい道路が3割を占める杉並区の場合、新築時セットバックが必要なケースも出てくるでしょう。道路幅は広くなる反面、実質の敷地が減少し、建築スペースが狭くなる可能性も視野に入れておきましょう。

閑静で住みよい杉並区の地盤やリスクを知りたいなら専門家のサポートを

専門家に相談

高台の平坦地である地盤の安定した武蔵野台地に位置する杉並区は、比較的災害リスクの少ない地域だといえます。

一方で東西を横切る川沿いには低い土地もあり、かつての田畑など弱い地盤のところも存在します。一見して判断するのは難しく、リスクを予測するのにも限界があるでしょう。また、昔ながらの住宅密集地もあり狭い道路も多く、防災面での不安要素も少なくありません。

都心へのアクセスがよく都会の良さを持ちながらも、緑が多く静かで商店街などもある快適な住環境は杉並区ならではの魅力です。さらに子育て支援策をはじめ、ユニークな施策も注目されています。ぜひ住んでみたいとお考えの方も多いと思います。土地の特徴や成り立ちを知った上で、対策を講じておけばむやみに心配する必要はありません。

そこで検討したいのがホームインスペクション(住宅診断)です。当社では、第三者としての立場を守りつつ、住宅そのものの診断だけでなく、地盤の揺れやすさを考慮した耐震性アドバイス、ご希望地点の災害リスクのアドバイスなど、不動産・住まいの総合不動産コンサルティングサービスを多数ご提供しています。

厳しいトレーニングをくぐり抜けた精鋭ホームインスペクター(住宅診断士)が、ご相談に応じます。調査技能はもちろんホスピタリティや使命感を兼ね備えた建築士が客観的にアドバイスを行っています。

お問い合わせから当日まで迅速かつ丁寧に行える本部体制を整備し、お待たせすることがなく、本部専任の建築士も在籍しています。

「宅地建物取引士」「マンション管理士」など、建築士以外の国家ライセンス保有者が在籍し、建物以外にも契約やマンション管理など幅広いご相談対応・フォローが可能なのは、さくら事務所ならではでございます。

杉並区で新築、ご購入をご検討の方は、お気軽にご相談ください。

ホームインスペクター 田村 啓
監修者

さくら事務所 執行役員
さくら事務所 プロホームインスペクター
さくら事務所 住宅診断プランナー
だいち災害リスク研究所 研究員

田村 啓

大手リフォーム会社での勤務経験を経て、さくら事務所に参画。
建築の専門的な分野から、生活にまつわるお役立ち情報、防災の分野まで幅広い知見を持つ。多くのメディアや講演、YouTubeにて広く情報発信を行い、NHKドラマ『正直不動産』ではインスペクション部分を監修。2021年4月にさくら事務所 経営企画室長に、2022年5月に執行役員に就任。