リアル #正直不動産 がインスペクションを活用する理由 Vol.3

  • Update: 2022-06-05
リアル #正直不動産 がインスペクションを活用する理由 Vol.3
さくら事務所には仲介業者様から「ホームインスペクション(住宅診断)ってどのように進めるの?」「具体的にどんなメリットがあるの?」というお声が多く寄せられています。 そこでホームインスペクションを実際にご活用いただいている企業様に実情やメリット、印象深いエピソードなどをインタビューするシリーズの第三弾。 不動産を通じたライフプランニングの専門家であり外国人にも対応するエージェントとしても活躍する二児のママ。株式会社イーエム・ラボ代表取締役の榎本佳納子様にお話をうかがいました。

 
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ホームインスペクションをもっと広めたい

ホームインスペクション(オートレーザーで傾きを測定)

——榎本社長はホームインスペクションに非常に高い関心をお寄せくださり、ホームページやSNSなどで発信いただけてうれしく思っています。周囲の方のインスペクションへの反響はいかがでしょうか。

榎本社長:SNSを見た皆様から「榎本さん、インスペクションのこと書いていらっしゃいますよね」「インスペクションって何ですか?」とお声がけいただけることも増えています。私は「人間ドッグみたいなものです。何千万円のものを買うのに、傾きとか何も調べないのはリスキーですよね」と説明しています。
「そんなの必要なの?」という方には「不動産業者から根拠も示さずに『いい物件だから買いですよ!』とすすめられるケースありますよね。理想は建物のコンディションや価値をきちんと把握している人が取引することですが、宅建士はそこまでの義務はないんですよ。そこで建物の専門家が物件をきちんと診断するのがホームインスペクションなんです」とお話すると納得していただけるんですよ。

 

——ありがとうございます。もっと不動産仲介業の方にホームインスペクションをご理解頂けるように努力しているところです。

榎本社長:外国人の方はインスペクションレポートも見ないで「仲介業者がいいって言うから買う」ということ自体に驚かれますね。「営業マンがいい人だから信じてたのに…」とか。肝心なのは信じる信じないじゃなくて、物件のことを知っているか知らないかですよね。いい人だから信じたい気持ちはわからないではないですが、不動産購入に関してはあまり必要ない感情。日本の不動産取引でもっと「知る権利」が与えられるべきと考えています。

 

——さくら事務所でもいろんなお問合せを頂くのですが「信じてたのに」といったトラブル相談はとても多いですね。もともと榎本社長が不動産業をはじめたきっかけは?

榎本様:オーストラリアの大学を卒業してから映画配給会社の副社長秘書をしていて、不動産とはまったく異なる業界にいました。主人と結婚して一旦は専業主婦になったのですが「何か手に職を」と思っている時に、以前、父が建設資材の商社をやっていて、母は実家が材木業者。親族にも住宅業界が多く、小さい頃から建築や不動産が身近だったんです。宅建試験に合格したものの実務経験がないと仕事もできないので、ブログで知った不動産会社の社長さんに「アルバイトさせてください」とお願いしました。まだ長男を出産して3か月だったんですけどね(笑)。

 

——建築・不動産のサラブレッドなんですね。

榎本社長:父とは冗談交じりに「建設vs不動産」で言い合ったりもするんですが、いつも的確なアドバイスをくれる、良きビジネスアドバイザーでもあります。6才になった息子は私の仕事を知っているので不動産チラシを見て「ママ、このマンション10万円だよ。安いよ」と言ってて「これは賃貸って言って月に一回10万円ずっと払うんだよ」って教えたら困惑。「こっち6000万円だよね。こっち10万円だよね。安くないの?」という息子に「こっちは買うの。こっちは借りるの」って教えたら、最近それも理解してきたみたいです。

 

ホームインスペクション(床下点検口から目視確認)

——早くも!息子さんの将来が楽しみですね。榎本様がインスペクションに着目されたきっかけは?

榎本社長:最初にアルバイトをしたのが賃貸専門の不動産会社で、そこの社長さんが「これからホームインスペクションは絶対必要だよ」としきりに言っていたんです。その影響が大きいですね。それと私の弟がアメリカに住んでいて、弟の義理の両親も「住宅レポートは必須。見ないで買うなんて信じられない」という感覚でした。

 

——アルバイトで経験を積んだ後は?

榎本社長:主人が経営している会社で、不動産事業部を立ち上げました。会社としては二人三脚ですね。不動産取引は「一回きりだから」「リピーターにはなりにくい」と言う方もいらっしゃいますが、主人のお得意様の取引を行うこともありますし、何かあったら顧客に迷惑がかかってしまうので慎重になりますね。

 

——これまでの不動産取引で印象深かったのは?

榎本社長:行政の条例が途中で変わったケースですね。建てられた時はグレージングバルコニーを容積率に入れなくてよかったのですが、条例が変わって既存不適格になってしまったんです。違法建築かといえばもちろんそうではないのですが、一般のお客様にとっては「既存不適格」という言葉を聞くと不安になってしまいますよね。物件自体を「もう買いたくない」でしたら「手付分を保証します。別の物件を一から」にできたんですが、お客様は「この物件は買いたい。でも既存不適格は将来、売却の時には不利になるのでは」とおっしゃっていて…。

 

——どうご対応されたのでしょうか?

榎本社長:グレージングバルコニーから一般的なバルコニーに改修するというご提案をして、改修費にかかる費用を仲介手数料から引く形にしてご納得いただけました。買主様は「榎本さんに負担してほしくない」と言ってくださったのですが、手付の解除の日も過ぎていましたし。その時は「もう不動産仲介業はやめよう」と思ったのですが、結局続けていますよね(笑)。

 

——逆にうれしいエピソードで印象深いことは?

榎本社長:最近で言うとスポーツ選手のお客様の物件取引をした時です。「内容わかりましたか?大丈夫でしょうか」とお声がけしたら「僕、本当に心細かったんです。榎本さんが隣にいてくれて安心できました」って、私よりずっと大きな身体で力強いアスリートの方に心強いって言っていただけました。多くの方は不動産取引の経験が一生に一度あるかないか。まず、わからないところがわからないんですよね。「何か質問ないですか」ってオープンクエスチョンだと「大丈夫です」って皆さんおっしゃいます。ですが、多くのお客様は大丈夫ではなくて、こちらからリードして「ここはわかりやすかったですか?」とうかがうと「ちょっとこの辺がわからないです」と具体的におっしゃってくれますね。

 

外部の第三者を交えた「チーム」で不動産取引

ホームインスペクション(換気口の点検)

——最近は投資家の方も増えてきましたが、一般の方は不動産取引を一生に何度もするわけではないですよね。

榎本社長:10回くらい不動産取引を経験しているお客様の11回目の取引を担当したこともあります。そういった取引に慣れている方でも3時間くらいかけてじっくり説明するとご存知ないことも多くあって…重要事項説明ってそれだけ難しいことなんだと実感しました。一生に一回マイホームを買う一般の方には、わからないことだらけですよね。

 

——そういった不安を抱えたお客様にホームインスペクションが果たせる役割ってどんなところでしょうか。

榎本社長:私たちは不動産取引のプロですが、建物のプロではないですよね。「この壁ってどうなんですか?」「傾いていないですか?」と聞かれても…すべて答えるには限界があります。私は6時間ホームインスペクションを見させていただいて「こういうことをするんだ」と初めて知ったことばかりでした。自分の領域の不動産取引に専念するためにも、建物のことはプロにお任せした方がいいと思うんですよ。土地の調査は私たちがやるべきことですが、建物の調査は建築士であるホームインスペクターさんだと思うんです。

 

——ありがとうございます。榎本さんのような不動産取引のプロ、弁護士さん、行政書士さん、私たちのような建物のプロ…いわばプロジェクトチームのようですよね。

榎本社長:そうなんです。私はチームだと思っています。大手の不動産会社に勤めたことがないので仲介担当がすべての分野を行うという方法ではなく、取引に専念してプロフェッショナルの先生と組む進め方をしています。不動産取引のご依頼を頂いたら、まず土地の調査・査定のプロである行政書士の先生に相談します。図書館で昔の土地も調べたりもする先生で、朝から夕方まで一緒に物件を回り、綿密に打ち合わせをしながら契約書を作りますね。土地、戸建、特約がついている物件などは不動産専門の弁護士の先生に相談をして「リーガル的に大丈夫でしょうか」「買主さんに不利な条約は入っていないでしょうか」と確認しています。そして司法書士の先生に登記をお願いする…このチームで取引を行っているんです。

 

——内部のプロではなくて、外の第三者の先生を交えたチームなんですね。

榎本社長:内部の専門家のみだと「自社の利益のために」とかあるかもしれないですけど、うちは全部外の先生なので「榎本さん、こんな文章ダメだよ」「業者としてアウト!」とかグサグサ言われながら、内心自信なくすこともあるんですけど(笑)、それが私の成長や経験値の糧になっていますね。
不動産エージェントも私一人ではなく、得意分野の異なるエージェントを雇っています。外国人専門のエージェント、地目変更を強みとするエージェントなど30~50代のメンバーで、物件の情報を皆で共有するようにしています。うちは「担当本人しかわかりません」というのはなくす方針です。ひとつの取引を一人が抱え込むのではなく「この査定額は高すぎないかな?」というアイデアや意見を出し合うのが特徴ですね。

 

お客様により信頼される「仲介業者」が増えることを目指して

ホームインスペクション(浴室点検口から目視確認)

——そのうち…というかもう始まっていますが、自宅の価格がレートのようにオープンになっていきますよね。あれ自体はネット上の価格をクロールして集めているだけなので妥当性に疑問はありますが近い値は出ていると思います。現状、建物のコンディションはほぼ価格に影響しないのも見直しが必要ですよね。

榎本社長:建物の耐用年数は20年って一律にされているのも疑問ですよね。耐用年数は物件によって違いますし、そもそも20年しか価値が続かないとされているものに35年ローンを組むって、ちょっとひどい話ですよね。先日、戦前の建物を見に行ったのですが、しっかり丁寧に建てられた素晴らしいものでした。ひとくくりに「木造20年だから」と判断するのは疑問です。特に海外のお客様からは「腑に落ちない」というお声を聞きます。欧米では「建物はメンテナンスしたら価値が上がるのでは?」という前提なんですね。

 

——ホームインスペクションの重要性を広めるには「築年=価値」という画一的な見方から変えていかなければいけないですね。

榎本社長:私の中ではホームインスペクションって「やった方がいい」というより、「やらないでどう建物のことを知るの?」と考えています。取引で買主側につくことが多いので、売り側になかなかご理解いただけないもどかしさもありますね。ホームインスペクションを提案しても「欠陥見つかったら、榎本さんが責任取ってくれるの?」とダイレクトに言われてしまうこともあります。「絶対買うって保証してくれるなら入れてもいいよ」とか。売主側がホームインスペクションを「普通のこと、当たり前のこと」と捉える透明性のある業界にしていければ、お客様が安心して中古物件を買えるんじゃないかなと思います。

 

——ホームインスペクションにあまり積極的でない、抵抗を示されるのは売り側の仲介さんが多いんでしょうか。

榎本社長:大手さんだと「インスペクション不可」と最初から書いてある場合も少なくないですよね。取引のプロとしてお伝えしないのはフェアではないと思うのですが、買主様もホームインスペクション不可でも疑問に思わない方がまだまだ多いです。「不可」と書かれていたら「何か隠そうとしてるのか心配」と買主様ご自身が危機感を感じるようになれば状況は変わると思います。今のところはまだ、こちらからお伝えしない限り危機感を感じるお客様はほとんどいないですね。

 

——まだまだ仲介業者様にも「ホームインスペクションを入れると何か見つかって、買おうとしているお客を逃してしまうのでは」とネガティブに考える方もいらっしゃいます。榎本様から「決してそうではない」という仲介業者様のメリットをアドバイスいただけますか?

榎本社長:私自身はセミナー登壇や執筆などの機会にホームインスペクションを発信するように心がけています。一般の方だけでなく仲介業者も漠然と「リスク」と言われてもピンと来ないと思うので「雨漏り」とか「傾き」とか写真などで不具合事例を見せて、「このまま売ったらどうなる?」をダイレクトにイメージしてもらうことが大切ではないでしょうか。そのうえで「こういう不具合は事前に知っておくだけで、リスクが減らせるんですよ」という方が伝わるのではないかなと。
予防の考え方で「雨漏りがあるから修繕費用はこれくらい取っておこう」とか事前の回避や準備ができると思うんです。防げる方法を知った上で「必要ないです」という方ならいいと思うんですが、防げる方法を知らずにネガティブなものと思い込んで敬遠するのはもったいないですね。ホームインスペクションをひとつの選択肢として提案できる仲介業者が増えていくといいですね。特に新築だと「不具合なんかあるわけない」と施工業者さんに嫌がられてしまったりするので。

 

——さくら事務所の実績件数で言うと、新築のインスペクションや工事チェックは相当多いんです。新築で不具合を見つけて施工業者さんに感謝して頂けることもよくあるんですよ。例えば、買うお客様が機能的に影響のない箇所で不安になられている時に、インスペクターが「そこは機能的には問題ないですよ」とお話したらご納得いただけて。一方、本当に大きな不具合があった時は、売主さんからも「後で見つかると取返しがつかなかったので、今見つかってよかったです。ありがとうございます」ということもあります。

榎本社長: 素晴らしいお話ですね。仲介業者としても「大丈夫かな。何かあったら…」と不安を抱えながら夜も眠れずに取引するよりも、建物のプロによるホームインスペクションを経て気持ち良く取引を迎えたいです。不動産取引は守備範囲も広く責任も重いので。強力なブレーンとしてタッグを組んでいきたいですね。

 

株式会社イーエム・ラボ 代表取締役 榎本 佳納子様

株式会社イーエム・ラボ
代表取締役 榎本 佳納子様

「リスクを防げるホームインスペクションを知らずにいるのはもったいない。
選択肢のひとつとして提案できる仲介業者が増えることを目指して。」
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編集後記

不動産仲介の方は、年々カバーすべき幅が広がって責任が重くなっています。ちょっと、かわいそうなんじゃないかと思うほど。特に、建物は宅建の試験に出てくるわけでもありません。建築士でさえ建物の劣化には疎い方がたくさんいるのです。そんなことに責任を負えと言われても…というのが、仲介さんのホンネでしょう。
そのような背景の中で、榎本さんの「プロフェッショナルチーム」でお客様をサポートするお姿は、大変興味深く、また合理的であると感じました。われわれインスペクターも、不動産の取引についてしっかりと学び、不動産仲介の皆様と安心安全な中古住宅の取引実現に向けてまい進したいと改めて思い直しました。

インタビュアー:NHKドラマ「正直不動産」インスペクション部分監修 ホームインスペクター 田村 啓