長嶋修が解説!平成が残した「不動産市場・業界の宿題」【後編】

  • Update: 2019-12-10
長嶋修が解説!平成が残した「不動産市場・業界の宿題」【後編】
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さくら事務所 長嶋修

前回に引き続き、令和元年の年末年始特別編です。

「平成が残した『不動産市場・業界の宿題』令和の今、取り組むべきは何か」をテーマに、さくら事務所不動産コンサルタント長嶋修が解説します。

今回は後編、マンション管理と不動産業界に期待される変革についても触れています。

(最初からお読みになるにはこちらから)

ゆくゆくは管理力も担保評価に・・・「マンション管理状態開示義務化」

マンション管理力例えば米国の多くの州では、管理組合の運営状況について「総会や理事会の議事録」「資産ポートフォリオ」などの開示が義務付けられており、金融機関はそれを参照しながら担保評価を行います。

運営状況が悪ければ、融資が付かないこともあるのです。

マンションはあくまで私有財産であるものの、公共財的な側面もあるはずですので、情報開示を義務化したうえで、買い手や金融機関が参照できるようにすべきでしょう。

現在は、一部の先進的な管理組合が開示するにとどまります。

さくら事務所が今年スタートした管理良好マンション厳選サイト「BORDER5」では、それら管理力が極めて高いマンションだけを掲載しています。

今後、中古マンション選びにおいて管理力は外せないポイントですが、金融機関がこうした情報を踏まえた担保評価ができるようになればこの流れは加速度的に進んでいくでしょう。

不動産市場へのブロックチェーン技術採用

登記簿などの不動産関係書類を改ざんする「地面師」がたびたび登場する不動産市場ですが、取引の仕組みの中に、改ざん困難な「ブロックチェーン」を導入すれば、地面師の付け入るスキはなくなります。

ウクライナではすでにブロックチェーンを介した不動産取引をスタート、米国のいくつかの州では実証実験に取り組んでいます。

日本はこの分野でも大きく立ち遅れています。

不動産業界内における変革(仲介手数料自由化・物件情報囲い込み禁止・宅建士全員取得)

不動産業界の変革無法地帯だった不動産市場において、悪質な不動産ブローカーを取り締まる精神で1952年に制定された「宅地建物取引業法」。その後わずかに改正されてきましたが、今となっては間尺に合わないものがてんこ盛りです。

例えば仲介手数料の上限は3%と決まっていますが、これは1970年の建設省(当時)の告示によるものです。

1970年といえば物価はいまの3分の1。

GDPはわずか73兆円のころに決めたことです。

3%では、低額物件の仲介などまったくの経費倒れで、現場は空き家、空き地を動かす気にもならないでしょう。

取引前に提示することを条件として「自由化」でいいはずです。

また「物件情報の囲い込み」は一向になくなっておらず、名だたる大手仲介会社も堂々と売主の利益を阻害しています。

宅建士は1店舗あたり、5人に一人いればよいことになっており、相変わらず無免許営業が許されていますが、3人に1人・2人に1人と段階的に全員取得の道筋をつけるべきでしょう。

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」というマーク・トウェインの言葉がありますが、1990年バブル崩壊から衰退の30年を経過した今、社会には30年サイクルがあるように思えます。

1960~1990年はいわゆる戦後を脱し「モーレツ」な高度経済成長。1930~1960年は恐慌から戦争へと突入し敗戦とその処理。

1900~1930年は日清・日露戦争に勝利し先進国の仲間入り。さらに30年前は明治維新です。

いま、世界の債務は2兆円を超え過去最大。

ブレグジットで揺れるEU、多額のデリバティブ商品を抱えるドイツ銀行、米中貿易戦争、香港デモなど、世界の金融システム、ひいては政治経済を大きく揺るがす可能性のある火種はいくらでも転がっています。

こうした中、昨年8月にはイングランド銀行(英中央銀行)のカーニー総裁が、「経済政策を巡る不確実性の高まりやあからさまな保護主義、限定的な政策予知といった懸念がある」としたうえで「現状維持を思慮なく受け入れるのは誤りであり、最終的には劇的な措置が必要になる」と明言。

さらには「新たな合成覇権通貨(SHC)は中銀のデジタル通貨ネットワークを通じて公的セクターによって最もうまく提供されるだろう」と踏み込んでいます。

この動きは米ドル覇権の世界通貨体制からの転換を予兆させ、1944年以降のブレトンウッズ体制を根本から覆すもので、ビットコインでもフェイスブックが発行するLIBRA(リブラ)でもなく、新たな通貨を発行しようといったプランです。

前回リーマンショックの際には、国がファニーメイやフレディーマックといった住宅金融に公的資金を投入したところ批判が相次ぎ、民間金融機関であるリーマンブラザースを放置したところあのような事態となりました。

現在はかつてないほどにFRB(連邦準備銀行)やECB(欧州中央銀行)、そしてもちろん日銀もかつてないほど金融緩和をしており、公的資金投入で金融システム破綻を救える可能性は限りなく低いのではないでしょうか。

 

思えば1990年のバブル崩壊、2000年初頭のITバブル崩壊、2008年のリーマンショックと、金融ショックはおよそ10年ごとに起きてきました。

リーマンショックから10年あまり、2020年はかつてない大規模な経済危機に見舞われる可能性もあります。

元号の変わり目には大きな社会変化が起きてきました。大正から昭和に変わった翌年には最大商社(鈴木商店)が破綻、2年後に世界大恐慌へ。

昭和から平成となった年末に株価は4万円近くのピーク、翌年の大発会で大崩れし、その後戻ることはありませんでした。数年たち「あれがバブル崩壊だった」と気づきます。

令和元年。

この年末や年明けははたしてどうなるでしょうか。

いずれにせよ政治・経済激変の中、次の世代へより良い形でバトンを手渡す仕事をしたいものですね。