近年、住宅価格の高騰が続いています。「住宅の高騰はいつまで続くの?」「高騰しているのは知ってるけど、どれくらいあがってるの?」「高騰時だからこそ後悔したくない!」このような悩みに答えていきます。
本記事では、住宅価格高騰の背景を探りつつ、ホームインスペクターの視点から新築購入時の注意点をご紹介します。価格が上昇している今だからこそ、より慎重かつ正しい選択が必要です。ぜひ最後まで読んで、後悔のない住宅購入を進めてください。
そもそもなぜ住宅が高騰しているの?
まずはなぜ住宅が高騰しているかについて、みていきましょう。実は住宅価格の高騰には、複数の要因が絡み合っています。具体的な要因は以下の5つが挙げられます。
- 燃料費の上昇
- 円安の進行
- 原材料費の高騰
- 住宅の性能基準があがっている
- 人手不足による人件費の増加
ここからは各要因について、高騰の背景と、過去と現在の価格差などについてデータを交えて解説していきます。
要因1:燃料費の高騰
燃料費の高騰は建築業界に限らず、さまざまな場所でコストを押し上げています。経済産業省の調査データによると、2020年までレギュラーガソリン現地価格はリッター120円から150円を推移していました。しかし2021年ごろから一気に流れが変わり、一時リッター180円を超えるほどガソリン代の価格が上昇しています。
経済産業省エネルギー庁|石油製品価格調査(1.給油所小売価格調査)のデータをもとに筆者作成
建築業界の場合は材料輸送費の増加や、工事車両の運用費に影響を与えます。当然のことですが、これらの費用増加は最終的に住宅価格に反映されてしまうのです。
要因2:円安の進行
円安の進行は、建築業界にも大きな影響を与えています。とくに、輸入に依存している建築材料のコスト上昇が顕著です。下記のグラフのように2024年9月現在、円相場はやや回復傾向にありますが、依然として歴史的な円安水準にあります。
※縦軸が1ドルあたりの円相場、横軸が年表記(2018~2024年)
引用:日本銀行|時系列統計データ検索サイト
この状況は、住宅建設コストを押し上げ、結果として住宅価格の高騰につながっています。円相場の動向は、今後の住宅価格にも影響を与える重要な要素です。
要因3:原材料費の高騰
先ほど円安の進行で材料費が高騰していると伝えました。では具体的になにが、どれくらい高騰しているかについてみてみましょう。
下記表は各種データをもとに作成した材料と相場上昇率を表した表です。
原材料 |
相場上昇率(2020年と比較) |
使用されている建築資材例 |
木材 |
約1.2〜1.4倍 |
構造材(木造)、床材、下地材など |
鋼材(鉄鋼) |
約1.6倍 |
基礎の鉄筋、構造材(鉄骨造) |
生コンクリート材 |
約1.3〜1.5倍 |
基礎のコンクリート、構造材(鉄筋コンクリート造) |
たとえば、木材価格は2020年の平均と比較して2〜4割ほど上昇しています。鉄鋼製品は2020年から約6割も価格が上昇しました。また、生コンクリートも2020年から3割ほど値上がりしています。
表のように建物に使用する材料はひとつだけでなく、何種類も価格が上昇しています。結果として建築コストを大幅に押し上げているわけです。
要因4:住宅の性能基準があがっている
住宅の性能基準の引き上げも、価格上昇の一因です。とくに近年は住宅における断熱性能の向上が求められており、国も具体的な施策を打ち出しています。
高い断熱水準を達成するために、より多くの断熱材を使用したり、施工方法を変更したりなどの対応が必要です。断熱の量や仕様が変わるともちろんコストがあがりますし、施工方法もより難易度が高くなるため、結果として建築コストの増加につながります。
もちろん断熱性能をあげると冷暖房の効率があがり、生活のコストは下がりますが、初期コストが増加するため、これから住宅を購入する人にとっては一定の負担増となります。
要因5:人手不足による人件費の増加
建築・建設業界における人手不足は深刻な問題となっています。若者の建築・建設業への就業者数は緩やかに増加していますが、それ以上に団塊の世代のリタイアの数が多く、人手不足は年々深刻化すると予想されています。
そのため今後、必要な工事を行えない状況や、高額な報酬を提示しないと人材が確保できないケースが増加していくでしょう。結果として、住宅建設の全体的なコストが増加し、最終的に住宅価格の上昇につながっています。
少子高齢化社会の日本では国内での人材確保は難しいため、外国人労働者の確保などにより、人手不足の解消を目指しています。しかし就労期間が決まっているため、一人前になるころには自分の国へ帰ってしまい、なかなか労務コストが改善されないなどが外国人労働者を雇う際の問題点です。この問題に対応すべき国も制度改正を行う方向ではありますが、施行はまだ先のようです。
このように人手不足は今後も住宅価格に影響を与え続けると予想されます。
今後住宅の高騰はどうなっていく?
結論からいうと、住宅価格の高騰傾向は、当面続く可能性が高いと考えられます。理由は先に挙げた5つの要因について、改善の兆しがみられないためです。建設資材物価指数も上昇傾向にあり、さらなる価格上昇の可能性も否定できません。
一方で、戸建て住宅については、企業努力により価格上昇が抑えられている部分が見られます。しかし、全体としては価格の下落は当面見込めない状況です。ここからは、なぜ高騰が続く可能性が高いといえるのかについて、もう少し詳しくみていきましょう。
高騰の要因が現状改善されていないため値下がりは現状考えにくい
先ほど紹介した住宅価格高騰の5つの要因について、現時点で改善の兆しはみられません。燃料費や原材料費の高騰、円安の進行、住宅性能基準の引き上げ、建設業界の人手不足など、いずれの要因も短期間での改善は困難です。
それぞれのデータをみても、これらの要因が近い将来に好転する可能性は低いといえます。そのため住宅価格の下落は当面見込めないでしょう。むしろ、これらの要因が継続または悪化すれば、さらなる価格上昇の可能性も考えられます。
建設資材物価指数をみるとまだまだ上昇傾向にある
建設資材物価指数は、一般財団法人建設物価調査会が調査した結果をもとに、標準的な建設資材の総合的な価格動向に関する指標のことです。公共、民間工事を問わず建築費用を算出するために使用されています。
そのため住宅価格の動向を予測する上で重要な指標です。建設資材物価指数のグラフをみてみると2021年ごろから建設物価は上昇傾向にあります。
引用:一般財団法人建設物価調査会|建設物価 建設資材物価指数®(2024年8月分)
2015年ごろの物価と比較すると、約1.4倍にまで上昇しています。つまり先ほど紹介した原材料の高騰だけでなく建築コスト全体でみても物価は上昇しているといえるでしょう。
この傾向が続けば、住宅価格のさらなる高騰は避けられないでしょう。建設資材の価格上昇は、直接的に住宅建設コストに影響を与えるため、注視が必要です。今後も建設資材物価指数の動向を見守る必要があります。
高騰のなか戸建て住宅にみられる企業努力
住宅価格の高騰が続くなか、戸建て住宅の価格上昇率はマンションと比較して低く抑えられています。これは立地条件の違いによる側面も大きいですが、住宅メーカーや工務店による企業努力が見られる部分もあります。
労務費や建築コストの削減、効率的な施工方法の採用など、さまざまな工夫が行われています。しかし、この状況がいつまで続くかは不透明です。原材料費の高騰や人手不足などの問題が深刻化すれば、戸建て住宅の価格も上昇する可能性があります。購入を検討している人は、この点も考慮に入れる必要があるでしょう。
高騰中だからこそ抑えておきたい!新築の戸建て住宅における使用材料の見分け方
先ほどお伝えした通り、住宅価格が高騰するなか、戸建ての建築会社は企業努力で価格の高騰を抑えている状況です。その一環として、使用する資材の見直しが行われることがあります。
しかし、資材の見直し内容によっては住宅の品質に影響を与える可能性もあります。パッとみただけでは分かりづらい部分も資材を変えることで、長期的な視点では建物の性能や品質に悪い影響を及ぼすケースもゼロではありません。そこで、新築戸建て住宅の主要な部分について、使用材料の見分け方や注意点を解説します。
もちろんコストダウンによる資材の見直しがなされているかどうかは建築会社様によって異なるので「このような材料を使用しているときはちょっと注意しよう」といった感覚でご覧ください。
サイディング(外壁材)
サイディングは、その厚みで価格・寿命が大きく変わります。たとえば現在主流なのが16mm以上の厚みがあるサイディングですが、コストを抑えた14㎜厚のサイディングを採用している場合は注意が必要です。15㎜以上のものと14㎜のものは以下のように固定方法が異なります。
- 15㎜以上:金具固定
- 14㎜:釘固定
釘打ちの場合、地震や強風の影響でひび割れが発生しやすく、作業時に釘周りの傷や割れが生じやすいのが欠点です。長期的な視点でみると、釘打ち工法は劣化が進みやすい傾向にあります。外壁は家の顔であり、耐久性にも関わる重要な部分なので、慎重に選択しましょう。
屋根材
屋根材の選択は、将来的なメンテナンス費用に大きく影響します。とくに注意が必要なのは、スレート瓦とアスファルトシングルです。これらの材料は塗装や補修など定期的なメンテナンスが必要で、その際には足場を組む必要があります。
そのため、陶器瓦や鋼板屋根と比べてメンテナンス費用がかさむ傾向にあります。屋根は家全体を守る重要な部分です。初期費用だけでなく、長期的な維持費用も考慮したうえで選ぶと良いでしょう。
断熱材・サッシのガラス
断熱材やサッシのガラスについては、国の方針により基本性能を大幅に下げることは難しくなっています。しかし、細かい施工方法でコストダウンを図っている可能性はあります。
たとえば、浴室の床下における基礎断熱の仕様をスタイロフォームからグラスウールに変更するなどです。
浴室の床下の断熱をグラスウールに変更するのは断熱の計算上問題ないです。しかしグラスウールは素材の特性上、変形しやすいため本来は壁の中など動きにくい場所で使用されます。浴室の床下のように支えがない場所に施工すると垂れてしまったり、場合によっては断熱材が外れてしまったりする恐れがあります。
またガラスの断熱・遮熱仕様を変更したりするケースも考えられるでしょう。ガラスはペアガラスやLow- Eガラスと呼ばれる、断熱遮熱性能に高いものが存在します。これらは普通のガラスと比べるとコストがかかります。窓は最も外部からの熱を取り込みやすい部分です。ガラスの種類は必ずチェックをしておきましょう。
断熱材とサッシのガラスの種類は一目ではわかりづらいので、設計図や仕様書をみるか、担当スタッフに確認するのがおすすめです。
換気扇
換気扇の設置箇所も、コスト削減の対象となる場合があります。たとえば、シックハウスの計算上問題ないという理由で、2階トイレの換気扇を省略するケースです。
しかし、換気は室内の空気質を保つ上で重要な役割を果たします。とくにトイレや浴室など、湿気や臭いがこもりやすい場所では適切な換気が必要です。換気扇の有無や設置場所については、設計図面で確認するとともに、その理由について建築会社に確認しておきましょう。
点検口
点検口は、建物の維持管理において重要な役割を果たします。しかし、コスト削減の一環かどうかは不明ですが、点検口が設置されていない物件がみられます。
基本的には、定期点検や不具合発生時の対応のためにも、点検口は設置されているほうが望ましいです。点検口がないと、将来的に修理や点検が必要になった際に、大掛かりな工事が必要になる可能性があります。設計図面を確認し、適切な場所に点検口が設置されているか確認しましょう。点検口の有無は、将来的な維持管理のしやすさに直結する重要なポイントです。
住宅の高騰はまだまだ続く!住宅購入で後悔しないために仕様の確認を必ず行おう
近年の住宅価格高騰は、燃料費や原材料費の上昇、円安、住宅性能基準の引き上げ、人手不足など複数の要因が絡み合っています。この傾向は当面続くと予想されますが、戸建て住宅では企業努力により価格上昇が抑えられている傾向があります。
高騰時だからこそ、新築住宅購入の際は使用材料に注意が必要です。サイディングは厚みと固定方法、屋根材はメンテナンス費用、断熱材やサッシのガラスは性能と施工方法をチェックしましょう。また、換気扇の設置箇所や点検口の有無も確認が大切です。
これらのポイントを押さえることで、長期的な視点での品質と価格のバランスが取れた住宅選びにつながります。価格が上昇している今こそ、慎重かつ正しい選択が求められるのです。後悔のない住宅購入を目指し、専門家のアドバイスも参考にしながら、じっくりと検討を重ねていきましょう。
とはいえ建築には専門的な知識が必要です。
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