「建物の老朽化が心配だが、できればこれからも住み続けたい」
「建物の寿命を伸ばすにはどうしたらいいのだろう?」
マンションや戸建てを所有している人の中には、このような悩みを持っている人もいるでしょう。
建物は構造に限らず、50〜90年と長い期間住み続けられます。しかし、50〜90年といった長寿命の建物を実現するには、しっかりと計画を立てて、適切なメンテナンスを実施しなければなりません。計画を立てず、「劣化が進んできたし、直さなきゃ」と行き当たりばったりで行動すると費用面で苦労したり、メンテナンスを先送りしたりすることが考えられます。
そこで本記事では、建物の長寿命化の概要や具体策を紹介します。費用や活用できる補助金制度なども紹介しているので、併せて参考にしてください。
建物の寿命とは?長寿命化の必要性
建物の寿命とは、建物が実際に存在している年数のことです。減価償却資産の基準となる法定耐用年数は、あくまで税制上に使用される目安であり、実際の寿命とは異なります。たとえば、鉄骨鉄筋コンクリート造住宅の法定耐用年数は47年、木造住宅は22年ですが、適切なメンテナンスを行えば50〜90年と長期間住み続けられます。
また長寿命化を行うと、資産価値を維持できるので将来的に建物を手放す際の売却価格も高値が付く可能性が上がるでしょう。
建物を長寿命化するための具体的な方法
建物の長寿命化を実現するための具体的な取り組みは、以下の通りです。
- 定期的な建物診断
- 外装の改修
- 給排水・電気設備の交換
- 構造躯体の劣化チェックと更新
- 改修記録の管理
建物の長寿命化を実施する場合は、長期的な視野を持って取り組む必要があります。定期的に建物の状態をチェックすることで、住みやすい環境を維持できるでしょう。ここでは、それぞれの具体策について解説します。
定期的な建物診断
建物の長寿命化を実現するためには、定期的な建物診断が必要です。建物診断とは建物や関係資料を確認し、劣化状況を把握する調査です。調査結果をもとにメンテナンスを実施したり、修繕計画を見直したりする際に役立てられます。
建物診断は設計事務所や管理会社をはじめ、診断業務を行っている会社などに調査・ 診断を依頼するのが一般的です。さくら事務所はホームインスペクション(住宅診断)サービスを提供しており、建物に精通したプロが第三者の立場から的確なアドバイスをしています。建物に関するお悩みを解決したい方は、ぜひさくら事務所までご相談ください。
外装の改修
建物の長寿命化には、外装の改修工事を行いましょう。外装は建物を雨風や熱などから守る役割があり、建物にとって重要な部位です。外装に劣化症状が見られると雨漏りのリスクが高まります。また雨漏りを放置していると耐久性が著しく低下し建物の寿命が一気に縮まります。
そのため外装の定期的な点検とメンテナンスは、建物の寿命を延ばすための重要なポイントといえるでしょう。
マンションや戸建ての具体的な外装改修は、以下のような種類があります。
【マンションの外装改修】
- 外壁補修:タイル、シーリング
- 塗装工事:外壁、鉄部
- 防水工事:屋根、バルコニー床、廊下、階段等
【戸建ての外装改修】
- 塗装工事
- 防水工事
- 外壁の補修
- 屋根の葺き替え
外装の劣化状態に合わせて適切な工事を選びましょう。
給排水・電気設備の交換
建物の長寿命化を行うためには、給排水・電気設備の交換も必須です。交換時期の目安は以下のとおりです。
給排水・電気設備の部位 |
交換時期の目安 |
トイレ・洗面台 |
10〜15年 |
キッチン換気扇・コンロ |
10〜15年 |
キッチン本体 |
15~20年 |
給水管 |
30〜40年 |
排水管 |
30~40年 |
空調設備 |
13~17年 |
給湯器 |
10年 |
太陽光発電システム |
20〜30年 |
参考:住宅金融支援機構|大規模修繕の手引き、住宅産業協議会|設備商品のメンテナンススケジュール
老朽化した設備は故障のリスクが高まり、漏水や停電などのトラブルにもつながりやすくなります。建物の機能性を維持しながら安全性を確保するためにも、定期的な設備交換が必要です。
構造躯体の劣化チェックと更新
建物の長寿命化を目指すためには、構造躯体の劣化チェックと更新工事をしましょう。構造躯体とは建物を支える骨組みのことで基礎や壁、柱などを指します。
たとえば鉄筋コンクリート造の場合はコンクリートの中性化が進んでいないかのチェックが必要です。主材料であるコンクリートはアルカリ性で鉄筋のサビを抑制する性質を持っています。しかし、コンクリートが空気中の二酸化炭素に触れることで少しずつ中性化します。コンクリートがひび割れたり鉄筋部分まで中性化が進むと鉄筋が腐食したりするため定期的に状況をチェックしなければいけません。必要に応じて部分的な補修や駆体の更新工事を検討し、適切な管理を行うことで長寿命化につながります。
なお、木造住宅の場合はシロアリ被害の有無に関して定期的にチェックしましょう。
自身でチェックできるおもなポイントは以下のとおりです。
- 建物の外部に蟻道がないか
- 壁や床に膨らみや黒ずみがないか
- 歩いた際、床がフワフワする場所はないか
シロアリ被害が確認できなくても、5年に1度の防蟻剤の再散布を実施しておくと安心です。
また、シロアリ被害以外でも床や壁の膨らみや浮きが発生することもあります。その際は原因を調査した上で構造躯体の補強などを実施すると建物の寿命を延ばせます。
改修記録の管理
建物の長寿命化を目指すには、改修記録の管理が欠かせません。修繕・改修工事の内容や費用、業者などの記録を残しておくと、次の工事を行う際に過去の改修状況を把握しやすくなります。改修記録を適切に管理しておけば、今後の修繕計画の見直しにも参考資料として活用できます。
長寿命化にかかる費用と費用対策
マンションの長寿命化にかかるおもな費用は、以下の通りです。
長寿命化に必要な費用 |
概要 |
工事前の建物診断費用 |
外装材の劣化状況や躯体のひび割れ、設備機器の老朽化状況などを調査する費用 |
大規模修繕工事費用 |
外壁塗装工事や屋根防水工事、設備更新工事など。工事の規模によって異なるが、数千万円から数億円の費用がかかる。 |
修繕積立金 |
大規模修繕工事は多額の費用が発生するため、一度に徴収するのは難しい。そのため将来の大規模修繕に備え、毎年一定額を積み立てておく。 |
なお、修繕積立金の徴収額は規模によって異なるものの、平均額は以下の通りです。
- 20階以上:338円/㎡・月
- 20階未満かつ5,000㎡未満:335円/㎡・月
- 20階未満かつ5,000~10,000㎡未満:252円/㎡・月
大規模修繕工事に備えて計画的な積立を行うためには、修繕積立金の適正額を算出することがポイントです。また、建物の経年劣化に応じて長期修繕計画を立て、計画的に修繕工事を実施しましょう。適切なメンテナンスを行っていると、突発的な大規模修繕を防げます。
戸建て住宅については修繕積立金がかからないので積立自体不要と考える方もいます。しかしメンテナンスを実施するには、まとまったお金が必要になります。マンションのように徴収されることはありませんが、計画を立ててメンテナンス費用を積み立てておくと良いでしょう。
さらに、戸建て住宅においては減築による建物規模の適正化も費用対策として有効です。余剰スペースの減築によって建物の維持管理費を抑制できるほか、軽量化により耐震性能が向上して補強工事費用を節減できる可能性があります。
知っておくべき長寿命化に関わる補助金と支援制度
建物の長寿命化に関する補助金や支援制度を活用すると、金銭的な負担を軽減できます。補助金や支援制度を利用したい方は、それぞれの要件をチェックしておき、必要な準備をしておきましょう。おもな補助金や支援制度は、以下の通りです。
支援制度 |
概要 |
要件 |
補助限度額 |
適切なメンテナンスによって既存住宅ストックの長寿命化に資する優良な取り組みへの支援を行う |
・1階の床面積40㎡以上かつ延べ面積55㎡以上 ・周辺の居住環境と調和を取っている ・リフォーム履歴と維持保全計画を作成している ・工事内容が要件に合致している ・施工後の住宅が住宅性能に係る評価基準に適合している ・リフォーム前にインスペクションを実施している |
1住戸につき最大160万円 ※条件によって異なる |
|
|
老朽化したマンションの長寿命化に資するモデル的な取り組みに対して支援を行う |
事業前の立ち上げ準備段階で活用できる「計画支援」と工事実施段階で利用できる「工事支援」がある。それぞれ要件や補助事業者などが異なる。 |
・計画支援:原則上限500万円/年(最大3年) ・工事支援:補助率1/3 |
なお、補助金や支援制度は予算が上限に達すると打ち切りになる可能性があります。利用を検討している方は事前に確認し、早めに申請してください。
公共施設で実施された長寿命化事例紹介
公共施設ではさまざまな手法を用いて、長寿命化工事を実施しています。おもな具体例として以下の3つを紹介します。
長寿命化工事事例 |
概要 |
新宿区役所本庁舎 |
免震改修工事により長寿命化を実現 |
横浜市ひかりが丘住宅 |
エレベーター設置と避難経路確保工事を実施 |
有田市立初島小学校 |
耐震補強と減築工事を実施 |
新宿区役所本庁舎
1965年に竣工された新宿区役所本庁舎は老朽化が進行しており、免震改修工事により長寿命化を実現しました。地下2階に免震ピットを新設し、免震ゴム支承77基とオイルダンパー32基を設置して、建築基準法の新耐震基準を満たす建物に改修しています。
2011年に耐震診断を実施し、2014年5月に長寿命化改修工事が完了しました。建て替えではなく長寿命化したことにより、建物の長期使用と財政負担の軽減を両立しています。
参考:公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会|よくわかる! 公共建物の長寿命化
横浜市ひかりが丘住宅
横浜市ひかりが丘住宅は1968~1971年にかけて建設された団地で、老朽化が深刻化していました。横浜市では2010年3月「横浜市公営住宅等長寿命化計画」を作成しており、ひかりが丘住宅においても検討の結果、長寿命化を実施しています。
2012年~2016年にエレベーター設置と避難経路確保工事を実施し、2016年~2026年の10年間で全2,200戸の長寿命化工事を計画しています。大規模改修工事の施工によって90年以上の長期利用を目指している住宅です。
参考:公益社団法人 日本ファシリティマネジメント協会|よくわかる! 公共建物の長寿命化
有田市立初島小学校
有田市立初島小学校は児童数が10年間で半減しており、余剰教室が発生していました。また、耐震性の低い教室もあったことから、耐震補強と大規模改修の工事に合わせて減築を実施しています。
耐震補強の必要があった棟を減築したことで耐震補強や建物内外の改修にかかる費用を削減できたうえ、建物の維持管理費や将来的な解体費の抑制も期待されています。近年の教育環境に沿った教室配置も実現し、より活動しやすい環境が整備されています。
参考:文部科学省|第3章 長寿命化改修と併せて検討したいこと
建物の長寿命化は劣化状況の確認と計画性が肝!
建物の長寿命化は、劣化状況の把握と適切なメンテナンスが大切です。定期的に現状を把握して適切な管理を行っていると、建物の寿命を延ばしつつ快適な住環境を整えられます。
とはいえ、建物の診断や調査を自身で行うのは難しいため、専門家の力を借りるのがおすすめです。さくら事務所ではホームインスペクションサービスを提供しており、既存建物状況調査にもとづく基本調査や欠陥住宅を防ぐために必要な調査を実施しています。第三者の専門家から的確なアドバイスをもらいたいとお考えの方は、ぜひさくら事務所までご相談ください。