リノベーション済み中古マンションで施工トラブルが増加!?その原因とは

  • Update: 2020-08-27
リノベーション済み中古マンションで施工トラブルが増加!?その原因とは

今や、新築分譲マンションと並んで人気になった「リノベーション済み中古マンション」。

新築のように綺麗になった住戸にすぐ入居できることや、不動産会社が売主であることが多いため購入時の仲介手数料が不要だったり、2年の保証が付いたりすることが人気の理由です。

そんなリノベーション済み中古マンションですが、供給数が増えるとともに、引き渡しを受け、住み始めた方から「家で不具合が発生して困っている」というご相談も増えつつあります。

今回は、数々のご相談を承ってきた、さくら事務所のホームインスペクター(住宅診断士)が、リノベーション済み物件のトラブルの原因と対策を余すところなくお伝えします。

中古マンションホームインスペクション

リノベーション済み中古マンションの種類は大きく2つ

同じ「リノベーション済み中古マンション」でも、不動産会社が所有する範囲や工事を手がけた規模で、2つの商品に分かれます。

ひとつは、不動産会社が中古マンションを「1棟まるごと」購入し、共用部分と専有部分(住戸)の両方をトータルで修理・リノベーションした中古マンション。

もうひとつは、不動産会社が「専有部分(住戸)を1住戸単位」で購入し(区分所有と言います)、住戸内のみをリノベーションした中古マンション。

どちらのマンションにおいても、1住戸を購入する方にとって、住戸を区分所有するという契約内容に違いはありません。

ですが、この2つのマンションは、工事の規模の違いにより、工事品質に違いが生じる可能性があるのです。 ここでは主に、住戸内のみをリノベーションした中古マンションについて解説します。

住戸だけのリノベーションは、法律違反の有無を調べない

建物を一から建てていく新築マンションでは、建設工事の前から、設計図を役所又は民間検査機関(以下「役所等」と言います。)に提出し、建築基準法や消防法など、各種法規に適合するかどうかのチェックを受けます。

また、工事が始まれば、役所等による数回の現場検査も行われます。

また、共用部分を含む建物全体の改修工事を行う1棟リノベーションマンションも、法律により、行う工事の内容に関して、役所等への届出と検査が義務付けられています。

対して、住戸単位のリノベーション工事は、工事の規模が小さく、役所等に工事の届出を出す義務がありませんし、届出対象外であるゆえ当然ながら役所等による検査もありません。

(念のために検査してほしいと役所に依頼しても、対象外として行ってもらえません)

設計や施工管理を行う人たちの資格・経験はどうか

新築マンションを建てたり、コンクリート躯体の改修工事を含む1棟全体をリノベーション工事する際、工事に関わる人材は一級建築士(※)や一級建築施工管理技士の資格が必要とされ、会社については建築士事務所登録や建設業許可が必要です。

※設計する建物が低層で規模が小さければ、二級建築士も設計・監理が可能 ですが、住戸内だけの工事においては、規模が小さいことから、建築士等の免許や建築士事務所登録も不要。

工事の金額次第では、施工者の建設業免許も不要です。

一般に建築業界においては、保有資格と実力は必ずしも一致しないと言われており、本来は「資格があれば安心」とは言えません。ですが、それら資格・登録がないということは、建築基準法や消防法などの住宅建築に不可欠な法律やそれに関する施工を学んだり実施した経験が無い可能性もあります。

建築士以外が設計に参加することは悪いことではなく、例えばインテリアデザインや空間の使い方提案に優れたデザイナーがリノベーション工事に参加すれば、楽しく、豊かな中古マンションを創り出すことに繋がります。

このように、資格が必ずしも必要でなかったり、公的な検査が入ることがなかったりということから、中古マンションのリフォーム・リノベーション業界は比較的、新規参入しやすい業界となっています。

マンション建築の知識や経験の浅い不動産会社が施主となり、工事会社任せの設計や施工になっているケースも多く見られ、まさに玉石混合な状況と言ってもいいでしょう。

命に関わる法律違反が潜んでいることも

中古マンションの住戸のみのリフォーム・リノベーションは、法律違反の設計になっていたとしても、それを客観的に検査して見つけ出す仕組みがないため、そのまま工事が完了し、引き渡されてしまう恐れがあります。

「家の中だけなら、そんなに問題ないのでは?」と思われがちですが、過去にリノベーション済みマンションのホームインスペクションで見つかった指摘事例においては、命に関係する可能性がある設計・施工が複数物件で確認されています。法律違反がよく見られる工事例をご紹介します。

・キッチンなどの換気扇「ダクト(配管)」が燃えやすい仕様になっている

火災時、キッチン等換気扇の排気ダクトが一気に燃えて火が広がりにくいよう、法律や条例で燃えにくい素材の使用を規定されています。

ですが、区分所有のリノベーション工事だとこれらについての届出(審査)・検査の義務がないため、燃えやすい素材で施工されていることが珍しくありません。

なお、ダクトは天井仕上材で隠れてしまい、完成すると室内からでは確認できなくなります。

・ガスコンロの周りに燃えやすい建材や電源がある

ガスコンロの火が周囲に燃え移りにくくし、また、万が一燃え移った際でもそこからあっという間に火が広がりにくいよう、コンロの周辺の壁類には「不燃材」を貼り付け、また、コンロのすぐ近くには「コンセント類」を設置しないという規定があります。

ですが、役所等への届出や審査、検査がないリフォーム・リノベーション工事においては、コンロの周辺が木製パネルや壁紙など、燃えやすい素材で仕上げられていたり、「家電製品が使いやすいように」と、ガスコンロから数センチ以内にコンセントが設置されていることなども。

設計や施工に反映したいものは法律だけでなく、各種学会が規定する設計・施工方法もあります。

また、過去に多数の分譲マンションで繰り返し起きてきた「クレーム・トラブル」の経験から、各分譲マンションデベロッパー(不動産開発会社)やゼネコンが「タブー」として行わない設計・施工方法もあります。

たとえば、水周りの排水管の設計。使う配管の太さや傾き、管同士のつなげ方次第で、お風呂やトイレの排水がスムーズに流れなかったり、逆流して溢れ出してしまうという事故が起きることがあるため、配管の設計にはそういったことへの配慮と工夫が必要です。

ですが、リフォーム・リノベーションの設計経験が豊富ではない設計者が関わっていると、一般的に必要とされる配管の太さや傾きを考慮していなかったり、そもそも、図面にそれらのルートを図示しておらず、現場の職人さん任せで適当につなげてもらったりというケースが珍しくありません。  

栓を抜いても水が流れない浴槽 

完成したリノベーション済み住戸のホームインスペクションで、浴槽に水を溜めてから排水口の栓を抜いたところ、一切水が流れない(水位が下がらない)。

このまま住み始めていたら、入居翌日から、浴槽の水を交換できない事態になっていた。

原因は排水管に必要な空気の補給が足りなかったこととわかり、住戸内の床の一部を解体、配管に器具を取り付けて修繕が行われた。

なお、売主・工事会社は工事終了後、一度も浴室で水を流す検査を行っていなかったので気付かなかったとのこと。

住戸のリノベーション工事は、検査がないの?

ここに挙げたトラブル事例は、供給されているリフォーム・リノベーション済み中古マンションの中のほんの一部であり、特段の問題が潜んでいない物件は多数あるでしょう。

ですが、前述のとおり、役所等による審査・検査がないため、物件を所有し、工事を発注する不動産会社が検査を行おうとしなければ、工事品質は職人さん任せとなり、検査は完成時の見た目に関するものだけになっていることもあります。

こういったリフォーム・リノベーション工事に関するトラブルが増えてきたことで、民間企業による協議会なども立ち上げられ、検査方法などのガイドラインが明示されるようになり、社内で検査を行う会社が多数出てきています。

リノベーション済み中古マンションの購入を検討するときには、どういった設計・施工の検査が行われたのか、担当者に詳しい説明や資料の閲覧を求めてみてもいいでしょう。

しかし、少しずつ進み始めたこれらの制度や検査も、あくまでも売主や工事会社など当事者によるセルフチェック(自主検査)。

不具合が無いかを探そうという目線で行う会社もあれば、規定を満たすためにざっと検査、写真撮影をして終えているケースが無いとも限りません。

対策としては、設計や施工品質に関する説明や資料閲覧のリクエストとともに、そもそもその検査は誰が行ったものなのか、検査自体の客観性についても質問してみることをお勧めします。  

せめて見られる・触れる範囲で検査を実施

ひとたび工事が完成すれば、多くの部分は床、壁、天井の仕上げ材に覆われて見ることができず、根本的な問題を見つけることはできませんが、せめて、見られる・触れる範囲の検査は購入者自ら行っておきたいもの。

しっかり検査することで、中には、不具合が発覚するのではなく、きちんと設計・施工されていることがわかる物件もあるでしょう。

中古マンションを購入するときは、契約前に(遅くとも引き渡し前に)住戸内の検査が実施できるよう、営業担当者や売主不動産会社に相談することをお勧めします。

購入検討者自ら客観的な検査を入れたいという場合は、マンション建築に精通したホームインスペクター(住宅診断士)によるホームインスペクションの利用を不動産会社に打診してみましょう。なお、売主の許可が取れれば、工事途中の検査も可能です。

(参考)さくら事務所の中古マンションホームインスペクション


スペースや手が加えられる範囲に制限がある住戸単位のリフォーム・リノベーション工事は、選択できる工事方法が限られていることもあり、コストを抑えながら品質を確保するのが難しいことも多いもの。

中には、きちんと起きうるトラブルを想定し、事前に注意して設計・施工を行ったにもかかわらず、引き渡し後に想定外のトラブルが起きてしまうこともあるでしょう。

しかしながら、そういった「想定外」というトラブルではなく、本来、当然のように守るべき人の命や健康を守るための法律を無視した設計・施工が行われているようであれば、要注意です。

「工事の手を抜こう」「品質が悪くてもいい」と思って不具合を生み出す設計者、施工者は、おそらくはほとんどいません。

ですが、トラブルが起きるリノベーション済み中古マンションの多くは、知識・経験不足によって問題点すら気付かれずに作られていますので、購入検討者自らが注意することをお勧めします。