東日本大震災から12年を防災重要ワードから振り返る~盛土道路、自動車避難、低体温症、誘発地震…

  • Update: 2023-03-10
東日本大震災から12年を防災重要ワードから振り返る~盛土道路、自動車避難、低体温症、誘発地震…

東日本大震災から12年を防災重要ワードから振り返る

震災から12年を経ていまだ残る震災の爪痕

 2011年3月11日14時46分に発生した地震は、マグニチュード9.0の「東北地方太平洋沖地震」と命名されていますが、この地震による揺れや津波などによる原子力災害などを含んだ総称として「東日本大震災」という名前が付けられています。大規模な地震災害であることから「大震災」とされています。

 2023年3月11日で地震発生から12年という長い月日が経ちました。地震における津波や揺れによる被害だけではない、原発事故も含み、廃炉という長期間のスパンでの復興を要する未曽有の災害となりました。また、津波被災地からの大規模な移転も伴い、従前のまちが大きく様変わりしてしまった事例もあります。福島第一原発に近い、原発事故の影響を受けた地域では長く立ち入りができなかったことから、復旧や解体もままならないまま荒れ果てた建物もあり、震災の爪痕がいまだに多く残るという事態となっています。津波の被害を受けた土地では集団移転などで大きく様変わりをしていますが、津波対策が進んだという面もあります。

 東日本大震災では、数多くの教訓とともに、判明したことやその後対策が進んだことなど、この12年間で明らかになったことも数多くあります。ここでは、東日本大震災がどのような災害であったか、また多大な教訓を今後に迫る来る巨大地震に対して活用するべく、防災重要ワードを中心に取りまとめてみました。

国道6号線沿いに残る地震の爪痕(福島県富岡町 2022年・横山芳春撮影)

原発事故を含む「原子力災害」の教訓

 世界各地では2004年のスマトラ島沖大地震によるインド洋大津波など津波を伴う地震は多く発生しています。東日本大震災による被害・影響が大きく復興に長時間がかかっていることは、津波による原子力発電所の事故の影響が大きい状況にあります。具体的には、津波により発電所が浸水して非常用電力を喪失、原子炉への注水等が不可能になり炉心融解(メルトダウン)が発生、建屋爆発等により大気中に大量に放射性物質を放出するという大規模な「原子力災害」が発生しました。

 原子力災害対策本部の資料によると、「福島第一原子力発電所においては、設置許可上の設計津波高さが 3.1mとされていた。また原子力発電所の津波評価技術(土木学会)に基づく評価(2002 年)では最高水位が 5.7m とされ、これに対して東京電力は 6 号機の海水ポンプの取付け高さのかさ上げを行っていた。しかし、今回の津波の浸水高は 14~15m に達し、大規模な津波の襲来に対する想定と対応が十分なされていなかった 」と記載があります。

 しかし、2011年以前の研究で、500~1000年に一回という間隔で大規模な津波が襲来する可能性があることは、産業技術総合研究所の宍倉正展氏などが指摘しておりました。これらに真摯に向き合えば対策が可能な点もあったとみられますが、残念ながら発生する間隔が長い津波に対して十分な対策が行われることには繋がりませんでした。一般の住宅や危険な物質を扱わない施設であればそれでも良いかもしれませんが、原子力発電所(原発)というひとたび事故が起きれば地域とそこに住む人々、周囲の環境に対して数十年単位の大きな影響をもたらす施設を取り扱う以上、過去の地震や津波の記録については最大限評価することが不可欠であると考えます。

 リスクをどう判断するか、施設の重要度によって考慮することはリスク対策の基本となる事項です。重要施設では、楽観的想定や地質学的年代スパンのリスクを軽視せずに数百年、また1000年単位の時間軸のなかで起こる地震、活断層による地震に対して向き合うことが必要であると考えます。2月に朝日新聞が行った世論調査では、震災後初めて原発再稼働「賛成」が「反対」を上回る結果も出ております。再稼働やリスク管理は行政や管理側の問題ですが、過去の教訓に学ぶことを願うばかりです。

通行規制がかかる福島第一原発への道(福島県大熊町 2022年・横山芳春撮影)

津波浸水地域では迅速な避難を

 東日本大震災を引き起こした地震である東北地方太平洋沖地震規模は、マグニチュード9.0と日本周辺で観測された地震の中では大正時代以降で最大のものでした。世界的にみても1900年以降に発生した地震では1960年のチリ地震(M9.5)、1964年のアラスカ地震(M9.2)、2004年のスマトラ沖地震(M9.1)に次ぐ規模の大きな地震でした。被害状況は死者15,899人、行方不明者は2,526人、建物の全壊122,000棟という甚大な被害が報告(警察庁)されています。
 岩手県、宮城県、福島県における警察庁のまとめでは、年齢が判明している死者の約 65%が 60 歳以上であり、その 90%以上の死因が溺死となっており、津波の押し寄せる中で、多くの高齢者の方々が逃げ遅れるなどして犠牲となった実態が指摘されています。津波浸水が想定される地域で生き延びるには、一刻も早い安全な高台などへの避難しかありませんので、東日本大震災最大の教えともいえる「津波からの迅速な避難」を忘れないようにお願いします。

岩手県・宮城県・福島県における死者の年齢別と死因の内訳(警察庁

  津波は東日本の太平洋沿岸の地域に甚大な被害を与え、その後の景色を一変させてしまっています。海沿いには巨大な堤防が築かれ、集落のあった地域は集団移転によって空き地やソーラーパネルが広がる光景がある地域は、以前の姿を知っていると非常に悲しいものがあります。

 下の写真は、福島県楢葉町の天神岬という高台にある津波防災ビュースポット「みるーる天神」という施設です。楢葉町では高さ10m超の津波があった地域で大きな被害を受けており、ここから俯瞰できる景色そのものが震災後に行われた津波防災を眺めることができる施設となっています。

 眼下の海から川沿いに津波対策として嵩上げされたT.P+8.7mの防潮堤、その内側に幅200mの海岸防災林、かさ上げされた道路、農地が広がり、それらより内陸側の高台に高台移転した住宅地が立地するという仕組みになっています。発生頻度の高い津波(数十年~数百年に一度)に対しては堤防による防御最大クラスの地震(1000年に一度)に対してはこれら施設による多重防御による復興まちづくりが一望できます。

津波防災ビュースポット「みるーる天神」(福島県楢葉町 2022年・横山芳春撮影)

巨大津波による被害を防ぐには?

 発生頻度が高い、高さ数m程度の津波に対しては防波堤などで対応することができても、東日本大震災のような起きた際には著しく高い津波をもたらす地震では、防波堤だけで防御が難しいことも多くありますハザードマップでお住まいの地域や職場、学校、生活圏が津波により想定される最大規模の津波を受ける可能性があるか、予め確認しておくことが望まれます。地震発生、津波警報発令後は回線の輻輳やアクセス集中でハザードマップが閲覧できないことが想定されますので、事前の確認が必須です。

 津波の被害は個人のレベルで対策できることは乏しいので、影響を受ける可能性がある立地であれば、速やかな避難が必要になります。津波警報やとくに大津波警報が発令された際に、冬であれば防寒着や持ち出し袋を持ってすぐに安全な場所に避難できるよう、日ごろからの備えが求められます。建物や道路が入り組んでいる地域では、津波が合流することなどで水深や速さが高まる「縮流」と呼ばれる現象が発生することもあります(多賀城市HP)。場合によっては、縮流などによって想定された津波の高さを超えることもあります。

 いざという時には、盛土された道路も津波の被害を軽減する場合もあります。仙台平野の海側を南北に走る仙台東部道路では、実際に東日本大震災の際に道路の法面を登って避難した約230人の住民が命をとりとめたほか、道路の内陸側で浸水被害が小さかったことから、「盛土道路」である仙台東部道路が「高台」と「防潮堤」という2つの機能を発揮したとされています(国交省HP)。現在では、周辺の道路からの避難階段が設置されており、高速道路上にも「津波警報時避難者注意」という看板を目にします。

仙台東部道路の津波警報時避難者注意の看板(宮城県岩沼市 2019年・横山芳春撮影)

 最近では、共同通信のアンケートによると「津波被害が想定されるとして国が防災対策の特別強化地域に指定した7道県の108市町村のうち、少なくとも60市町村が自動車での避難を認めると地域防災計画などに明記」されていますが、多くは津波からの避難は原則徒歩、「自動車避難」はやむを得ない時を想定しているようです。他方、津波からの自動車避難」を「容認」する自治体も出てきていますが(朝日新聞デジタル )。この場合、自治体により避難先や対象地域が指定されている場合などもあるので、良くお住まいの自治体の津波避難に関する情報を確認しておくことが良いでしょう。

 また、冬場には津波で体が濡れてしまうと、適切な保温ができずに「低体温症」になるリスクも想定されています。津波に巻き込まれると逃げることは困難ですが、仮に津波から逃れることができても、停電などにより避難先でも十分な暖を取れない可能性もあります。国の被害想定では、津波から逃げ延びても、体が濡れて着替えが無かったりや屋外で過ごすことなどで低体温症が懸念される低体温症要対処者数」を含めた想定が発表されています。巨大地震が繰り返し発生している千島海溝日本海溝を震源とする地震が冬の深夜に発生した際の想定として、津波による死者は最大で千島海溝の地震で約10万人、日本海溝の地震で約19万9000人と想定されています。

 これに加えて、津波から逃れても屋外で長時間過ごすなどして低体温症になる懸念のある人が日本海溝の地震で4万2000人、千島海溝の地震で2万2000人に及ぶとされています。大きな被害が想定されておりますが、津波避難施設の拡充などに加え、浸水域にいる人が地震発生から地震から10分ほどで避難を始めれば、犠牲者の数を大幅に減らすことができると推計しています。寒く雪の降るような冬場は、外への避難行動の第一歩が重いことも考えられますが、寒い日であるからこそ、津波に襲われ低体温症になることを防ぐため、一刻も早く防寒着を持参で避難の開始が重要なのです。

巨大地震に「誘発」される地震に注意

 3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震(震災名:東日本大震災)の約15時間後、3月12日3時59分ごろには長野県北部を震源とするマグニチュード6.7、最大震度6強の地震長野県北部地震、その後も同日中に震度5弱~6弱の地震が3回)、4日後の3月15日には22時31分には静岡県東部でマグニチュード6.4、最大震度6強の地震のほか、しばらくの間は日本国内の広い範囲で多くの地震が発生している事例がありました。

 巨大な地震があった後は、巨大地震に誘発された「誘発地震」が起こることがあります。巨大地震の震源域だけでなく、東北地方沖から離れた場所で地震が発生することもあります。これを「遠方誘発地震」と呼ぶこともあります。特に、活断層がある地域では、活断層の活動による内陸直下の地震を引き起こすことがあり、警戒が必要です。

 誘発地震の例としては、1944年に発生した直近の南海トラフ地震(半割れ)である「昭和東南海地震」の37日後、1945年1月には三河地震という活断層による大きな地震が発生しています。これは、昭和東南海地震に誘発された可能性が高い(内閣府広報ぼうさいNo.44)とされています。誘発地震が起こる仕組みは良くわかっていない点もありますが、巨大な地震発後により強い地震の波が伝わったことや、周囲にかかっていた力やひずみが大きく変化することが考えられます。

 今後、太平洋沖や千島海溝沖などで発生する海溝型の巨大地震や、南海トラフ巨大地震などが発生した際にも、震源地付近だけで起きるいわゆる余震だけでなく、誘発される地震が発生することが十分想定されます。三河地震のような誘発される地震、ときに遠方で大きな地震が起きる地震がある可能性もあることを知っておく必要があるでしょう。

 下の図は、地震本部による日本国内の主要な活断層の位置を示しますが、近傍の地域活断層がある場合は、より一層耐震性能の向上や耐震診断・耐震補強など地震に対する備えを優先的に行うことも検討が必要と考えます。

日本国内の主要な活断層(地震本部HPより)

 

地震は「対岸の火事」ではない

 2011年に発生した東日本大震災後も、2016年には熊本地震、2018年には北海道胆振東部地震があったほか、海外では先月に発生したトルコにおける地震では5万人以上の方が亡くなるなど甚大な被害が発生しています。東日本大震災以降、大阪では2018年に死者6名、462名の負傷者大阪府北部地震(気象庁 )が発生していますが、東京、名古屋などでは被害の大きな地震はなく、北海道や九州、海外の地震はどこか「対岸の火事」のようにみられることもあります。

 大切なことは、それらは決して対岸の火事ではないことです。日本の大半の都市は、地震によるリスクが非常に高い状態にあります。政府による南海トラフ巨大地震の発生確率は、30年以内に70~80%、首都直下地震にも70%程度とされています。30年程度の、いま今の現役世代が生きている間、いま建っている建物が使われていることが想定される期間に、大規模な地震の発生する確率が高いことを知った備えが必須であると考えます。

 国内で地震により大きな揺れに見舞われる確率が高い場所も判明しています。下の図は、30年以内に震度6強以上の揺れに見舞われる確率の分布図で、濃い赤色系の場所はリスクが高い(大きな地震が来る確率が高く、地盤が軟弱等で大きな揺れになる可能性が高い)場所であるといえます。東京を含む関東平野、愛知県周辺の濃尾平野、大阪近辺の大阪平野などは濃い赤色の範囲が広く、山がちの我が国において人口の密集する平野部では地震のリスクが高いことが明確です。

 それ以外でも北海道東部の太平洋岸~札幌、仙台平野を中心とした東北地方太平洋岸、新潟平野、静岡ー糸魚川構造線沿い、東海地方太平洋岸、紀伊半島・四国の太平洋岸、九州では福岡平野、熊本県、宮崎県沿岸などで赤色系の場所があることがわかります。

 全く想定されていない地震ではなく、国内全域で地震リスクがあり、かつ高い確率で地震に見舞われる可能性がある地域が明確であることから、強い揺れに見舞われる可能性が高い場所では、後から後悔することのないように、事前の対策を進めて頂きたいと考えます。

30年以内に震度6強以上の揺れに見舞われる確率の分布図
J-SHIS Mapより)

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。