春に気を付けたい自然災害とは?傾向と対策 春の長雨・春の嵐(メイストーム)・融雪洪水

  • Update: 2023-03-27
春に気を付けたい自然災害とは?傾向と対策 春の長雨・春の嵐(メイストーム)・融雪洪水

春に気を付けたい自然災害とは?

 桜の花も咲き誇り、東京では3月22日に桜の満開の発表があった一方、西日本から東日本にかけては先週から長雨が続きました。春は意外と降水量が多い時期で、「春の長雨」のほか、春雨(はるさめ)、菜種梅雨花散らしの雨、桜雨などと呼ばれるような表現も多い季節です。東京の月別降水量を見ると、台風シーズンである8~10月や梅雨シーズンである6~8月には及びませんが、冬場の2倍近い降水量があることがわかります。

 春には、長雨のほかに春の嵐メイストームと呼ばれる暴風・突風などの被害が発生することもあります。積雪の多い地域や山間部では、雪解けの時期となり溶けた雪が川などに流れ込んで「融雪洪水」など融雪災害を引き起こすこともあります。梅雨シーズンや台風シーズンに比べて見逃されがちな、春の長雨や暴風、また融雪洪水など雪解けに伴う災害といった、春に気を付けたい自然災害の実態と対策についてまとめました

 

東京の月別降水量・気温
(気象庁「地点別平年値データ・グラフ」より)

春の長雨で注意すること

 春の長雨はなぜ起きるのでしょうか。これは、季節の変わり目の気圧配置が影響しています。日本付近では、冬季は「西高東低」と呼ばれる西側に高気圧が、東側に低気圧が位置する「冬型の気圧配置」が多いことが特徴です。春の桜が開花するころの3月中旬になるとこの冬型の気圧配置が弱まり、大陸から南に張り出してくる寒気と南海上から北上する高気圧の間で気圧の谷ができ、前線による雨雲が発生・停滞しやすいことによります。

 近年では、2021年3月には前線を伴う低気圧が関東を通過し、千葉県我孫子市では同市観測史上最大の24時間雨量を観測、隣接する千葉県柏市では民家の床下浸水3軒がありました(千葉日報)。今年は先週3月22日にも、気象庁から沖縄本島地方で顕著な大雨に関する情報として「線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています。」と発表がありました。

 春の長雨によって土砂災害に至るケースもあります。1997年4月7日には、横須賀市田浦大作町の京浜急行本線で土砂崩れが線路上に流れ込んだことによる脱線事故がありました。当時のニュース動画では「横浜地方気象台によると前線の影響でおとといから大雨が降っていた」とされ、春の長雨による土砂災害の一種であると考えられます。

1997年4月7日に「春の土砂災害」があった横須賀市田浦大作町付近付近の現在の様子

 

 梅雨時や台風シーズンのような大規模な水害に発展するケースは乏しいですが、周りより低い場所に水が集まって氾濫が発生する「内水氾濫」や、河川の洪水・氾濫、土砂災害が懸念されるでしょう。自治体が発行する洪水、内水氾濫、土砂災害ハザードマップを確認しましょう。

 ただし、内水ハザードマップの整備は遅れており作成・公開が遅れている自治体や、想定される最大の雨量で作成されていない場合があるほか、土砂災害は土砂災害特別警戒区域、土砂災害警戒区域の外で起こることもあります。ハザードマップの想定をよく確認するとともに、周りより低い場所にないか、近くに崖や斜面がないかなどはチェックしておくとよいでしょう。

 世界的な地球温暖化の影響や、人為的活動による排熱や舗装などにより蒸発する水の量が少なくなることで、都市部の気温が高くなる「ヒートアイランド現象」などが原因で、集中豪雨や異常気象が発生しているという見解もあります。ここ数10年間における「1時間に50㎜以上」という非常に激しい雨の降る回数は年々増加傾向にあります。これらの影響で、これまで水害や土砂災害がなかった場所でも、浸水の可能性が有る場所では警戒と備えが必要であるといえます。

1時間降水量50㎜以上の年間発生件数の推移(気象庁

「春の嵐」による突風被害

 3月から5月ごろは寒暖差が大きい時期で、発達した低気圧などによって、突風・強風被害が発生することがあります。突風の被害というと、台風シーズンが想定されますが、東京消防庁の調べでは、年間の強風・突風による負傷者数のうち半数弱(約45 %)が3~5月という春の3か月間で占められています。

 建物への被害も発生し、トタン屋根の剥離や瓦屋根の飛散など屋根の被害が多くみられます。昨年3月26日には前線を伴った低気圧が発達しながら日本海を進んだことにより記録的な暴風が発生、各地で突風被害が生じました。鳥取市では最大瞬間風速34.2mという突風が吹き、鳥取県内では住家の被害14棟、非住家7棟の被害が発生鳥取県)、富山県では富山市八尾で最大瞬間風速35.7mを記録、住家5棟の被害が発生しました(気象庁)。

 今年も北海道北海道千歳市など暴風警報の発表があったほか、先週の3月23日夜~24日未明には前線が停滞して関東で降雨とやや強い風が吹き、千葉県内にある私の住家ではウッドデッキの柵上の植木鉢が落下がありました。ニュースなどで、気温差や雨、花粉情報などと合わせ、強風に関する情報も収集しておきましょう。

東京の突風・強風被害による負傷者数
内閣府政府広報室より。出典は東京消防庁調べ)

春の突風への備えは?

 春の嵐による突風への備えは、どのようなことが可能でしょうか。情報として、数日前~先日に、気象庁から暴風に関する気象情報」が発表されることがありますので、発表があった際にはあらかじめ強風に備えることができます。次に、災害のおそれのある強風(東京都23区では秒速13m以上)となる6~3時間前には「強風注意報が発表されます。その後も「暴風に関する気象情報」の続報や、重大な災害のおそれがある暴風(東京都23区では秒速25m以上)となる6~3時間前に「暴風警報」が発表されます。低気圧が急速発達して強風・突風が想定される際には参考として備えを行いましょう。

 住宅でできる対策にはどのようなものがあるでしょうか。台風対策とも共通しますが、まずは家の周囲やベランダに置いてある倒れやすいものや飛ばされやすいものがあると、突風により落下や飛散して人や他の住宅などに被害を与えてしまうことがあります。植木鉢や物干し竿、自転車などが代表ですが、固定しておくか家の中に入れるなどが望ましいです。窓は雨戸やシャッターを閉めることが最善ですが、無い場合には飛散防止フィルムを貼る、内側に段ボールを固定すると、万一飛来物で窓ガラスが割れた際の飛散防止に有効です。なお、ここ数年取りざたされている窓に養生テープの貼り付けを行うことは、窓ガラスの割れ防止にはなりません。飛散を防ぐにあたっては、雨戸、シャッターのある部屋や窓がない部屋で就寝をお勧めします。このほか、屋根の破損やめくれがないか、屋根上のテレビアンテナに傾きや異常はないか確認しておくといいでしょう。

 

突風が想定される前の家屋でできる対策政府広報オンライン より)

融雪による洪水

 春は気温が上昇し、積雪地域では雪解けが進む時期にあります。雪が解けることで川に大量の水が供給されることによる融雪洪水、融雪により水が斜面に多量に浸透することによる土砂災害、また斜面に積もった雪が滑り落ちる雪崩による被害などがあります。このうち、融雪洪水は、場合によって住宅にも影響が及ぶことが想定されます。

 融雪洪水は、流域に積雪地が広がる地域の河川で発生しやすい傾向があります。利根川と積雪地の信濃川で比べると、積雪地ではない流域の広い利根川では梅雨・台風シーズンで川の水位が元も高くなりますが、広く積雪地を流域に持つ信濃川では4月をピークに3~5月の雪解け時期となる春季に水位が高くなることがわかります(国土交通省HP)。2018年3月8~9日には、北海道では雨や融雪に加えて、川の表面に張っていた氷が流されてきて川をせきとめたことにより起こるアイスジャム洪水」が発生しました。この融雪等による被害としては、北海道内で死者1名、床上浸水28棟、床下浸水61棟という被害が報告されています(北海道)。

積雪地と非積雪地の河川の水量
国土交通省HPより)

 融雪による土砂災害は、国土交通省のまとめ(積雪によるものも含む)では、平成29年から令和4年には年に10数件~40数件ほどが発生しています(国土交通省資料)。令和3年においては全国で30件(地滑り19件、土石流2件、崖崩れ9件)が報告されており、3戸の住家被害が報告されています(国土交通省まとめ)。都道府県別では新潟県で過半数の18件、石川県4件、山形県、福井県、長野県で各2件とされています。

 融雪による災害が想定される際には、事前に「融雪注意報」が発表されます。具体的には融雪が融解することによる土砂災害や浸水害が発生するおそれがあるときに発表されます(気象庁)。低い土地の浸水や河川の氾濫、また土砂災害が想定されますので、自治体が発行する洪水、内水氾濫、土砂災害ハザードマップを確認しましょう。長雨による注意点と同様に、ハザードマップの想定をよく確認するとともに、周りより低い場所にないか、近くに崖や斜面がないかなどはチェックしておくとよいでしょう。

 

 斜面近くでは「雪崩(なだれ)」にも警戒が必要です。雪崩とは「斜面に積もった雪が、重力により下に滑り落ちる現象」です。栃木県那須町では、2017年3月27日に「那須雪崩事故」があり、高校7名と引率教員1名が亡くなりました。積もった雪の表層部が滑る「表層雪崩」は積雪が続く1月をピークに1~3月、積雪の全層が滑る「全層雪崩」は雪解けが続く時期となる3~5月が多くなっています(国土交通省)。

 雪崩により、住宅に被害が及ぶこともあり、1986年に新潟県糸魚川市で起きた雪崩では、山の中腹で起きた大規模な雪崩がふもとの集落を襲い、8棟が全壊、2棟が半壊、亡くなった方13名、負傷した方9名という事例もあります(土木研究所)。雪崩は、斜面の勾配が30度以上(スキー場の上級者コース以上)の場所、植生が乏しい場所で起きやすい傾向があります。冬季~春季の雪山レジャーの際にも注意が必要で、積雪量や気温の変化、風などの情報や現地状況をよく確認することが望まれます。気象庁は、雪崩による災害が発生するおそれがあると予想したときに、「なだれ注意報」を発表します。山などの斜面に積もった雪が崩落することによる人や建物の被害が発生するおそれがあると予想したときに発表されますので、参考にしましょう。

春は冬型の気圧配置が緩むことで長雨や強風・突風になりやすく、気温が上昇することによる融雪災害にも注意ということを是非覚えて置いてください。

検討中の物件やご自宅の災害リスクを知りたい方は「災害リスクカルテ」のご検討を

災害リスクカルテ(電話相談つき)

 さくら事務所の災害リスクカルテ(電話相談つき)は、知りたい場所の自然災害リスク(台風・大雨、地震etc)を地盤災害の専門家がピンポイントで診断、ハザードマップがない土地でも、1軒1軒の住所災害リスクを個別に診断します。液状化リスクの可能性も、地形情報やハザードマップ(場合により近隣地盤データ等)から判断、建物の専門家がそれぞれの災害による被害予測も行い、自宅外への避難の必要があるかどうかなどをレポートにします。

災害リスクレポート専門家による電話コンサルティング
で、あなたの調べたい場所の災害リスクを完全サポート

  • 災害と建物の専門家が具体的な被害を予想
  • 最低限の対策や本格的な対策方法がわかる
  • 災害対策の優先順位がはっきりわかる

国内唯一の個人向け災害リスク診断サービスです。

※全国対応可、一戸建て・マンション・アパート対応可

 災害リスクカルテは、過去345件超の物件で発行しています。それらの傾向から、約47.3%の物件で何らかの災害リスクが「高い」という結果となり、地震時に懸念される液状化では36.3%と1/3以上の物件で「液状化リスクがあるという結果が得られています。

 災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。

 

レポートだけではない!建物の専門家による電話相談アドバイスも

災害リスクの判定・予測をもとに専門家がアドバイス

 既にお住まいになっているご自宅や実家のほか、購入や賃貸を考えている物件、投資物件の災害リスクや防災対策が気になる方におススメです。特に、ホームインスペクションを実施する際には、併せて災害への備えも確認しておくとよいでしょう災害リスクカルテの提出はご依頼から概ね4日で発行が可能です(位置の特定・ご依頼の後)。不動産の契約前や、住宅のホームインスペクションと同じタイミングなど、お急ぎの方はまずは一度お問合せください。