能登半島地震の特徴と被害・注意点を解説

  • Update: 2023-05-08
能登半島地震の特徴と被害・注意点を解説

能登半島地震の概要・被害状況

 ゴールデンウィーク中の5月5日14時42分ごろ、能登地方(能登半島北東部)を震源とするM6.5の地震が発生しました(気象庁)。この地震では石川県珠洲市で最大震度6強を観測しています。このコラムでは、能登半島地震の特徴とこれまでの被害(各ニュース記事などによる)、今後の注意点について解説していきます。

 推計震度分布によると、震央から少し離れた、能登半島先端部南側の珠洲市役所のある飯田湾側で震度が大きくなっています。この地震の後、21時58分ごろにはM5.8、珠洲市で最大震度5強の地震があったほか、最大震度1~4の地震が多数発生しています。

5月5日14時42分ごろの地震による推計震度分布(気象庁HPより)

 消防庁によると、能登半島の地震による被害は死者1名(はしごから転落)、重傷者2名、軽症者32名が記録されており、負傷原因は、2回屋根から転落(重症)、建物が倒壊。タンスの下敷き、転倒(軽傷)などとされています。住家等の火災や重要施設の被害はなしとされています。

 報道されている目立った被害としては、次のようなものがあります。

・珠洲市正院町:木造2階建て住宅の倒壊、1階部分がつぶれる(TBS

・珠洲市宝立町:木造2階建て住宅の倒壊、1階部分がつぶれる(読売新聞

・珠洲市正院町岡田:自宅裏の山が崩れて岩などが自宅になだれ込み、屋根や天井の一部が崩れた(朝日新聞

・珠洲市野々江町:倉庫が倒壊。平屋の屋根が崩落しているようにみえる(テレビ朝日

・珠洲市の港で「隆起」発生(テレビ朝日
※噴砂のような砂が見られ、液状化によるものである可能性が考えられます

 なお、能登半島北東部の地盤の揺れやすさ(表層地盤増幅率)を見ると、能登半島先端部の南側、飯田湾側で揺れやすい地盤である増幅率1.6以上(オレンジ~赤系で示される)が広がっていることがわかります。この地域は海沿いの海岸平野や川沿いの氾濫平野に位置しており、推計震度分布図で震度が大きかったと推測されている部分で軟弱な地盤の地域が目立つようにも思われます。

能登半島先端部の表層地盤増幅率(J-SHIS Mapより)

能登半島地震の特徴

 能登半島の北東部の珠洲市付近では2018年頃から地震が増えており、なかでも2020 年12月以降、地震活動が活発になっています。2021年7月頃から地震活動がより活発となり、2022年6月19日のM5.4(深さ13km、珠洲市で震度6弱)の地震など、震度6弱~震度1の地震を多数観測しています気象庁)。

 地震の発生回数を見ると、震度1以上の地震の回数は、2022年6月の45回をピークに今年に入ってからは月に16回以下となっており、5月4日までも震度1の地震を5月1日に記録して以降5日まで観測されていませんでした。そのような中で、最大震度6強の地震があった5日には震度1以上の地震は58回、6日には12回を記録するなど急な増加がありました。

能登地方を震源とする地震の発生回数(気象庁HPより)

 能登半島における群発地震は、東京工業大学の研究などから、地下にある「流体」が上昇してくることが原因であるという説が発表されています。この研究では、能登半島のような非火山地域でも群発地震が起こりうることや、流体の供給が停止すれば、群発地震活動はやがて収まることなどが指摘されています。

 朝日新聞では、流体の上昇が「水のような液状の流体が(略)海洋プレートなどからしみ出して上昇。地下十数キロのあたりで膨張し、岩盤を押し広げたり、断層のすき間に入り込んだりして、地震を引き起こしている可能性」が報じられています。

 地震のタイプとして、①「プレート」の境界で起こる地震や、②活断層がズレることで起こる地震では、ある方向からもたらされる力の「ひずみ」が蓄積していって限界に達すると地震が発生すると考えられています。もうひとつ、③火山地帯では地下のマグマの上昇や熱水の影響などによって起こる「火山性地震」があります。能登半島の地震はこれらのタイプには直接分類されないように思われます。

今後の注意点

 地震としては、火山ではない場所で「流体」の上昇による地震という性質から、地震の継続は今後も年単位に及ぶ可能性もあります。地殻変動がやや収まりつつある傾向がみられる」という一方で、「今後も大きな地震に襲われるかもしれないという注意は必要だ朝日新聞)という指摘もあり、終息したように見えても地下の流体の活動等によっては繰り返すことや、長期化することも考えられます。

 これから大雨シーズンを迎えるにあたり、被災地付近では土砂災害への備えや、屋根などの損傷による雨漏りなどへの注意・警戒が必要でしょう。

 災害で被害があった地域では、悪質な訪問業者にも注意が必要です。信頼できない業者は室内や屋根に上げない、すぐに契約しない、親族や知人に相談することをお願いします。「保険が使える」などの口上には要注意で、地震(津波、火山やこれらによる火災も)による被害は火災保険では補償できません不安な場合には、地域の消費生活センター等への連絡するなどの対応をしましょう。

 ゴールデンウィーク中に発生し、「地震発生時に混雑していた道の駅、観光客らが車中泊「まさかこんなことに」」読売新聞)というニュースもありました。GW前には「ゴールデンウィーク・事前&もしもの備えは?外出先・交通機関別に解説」という記事を公開しています。地震は能登半島に限らず、全国どこでも起きる可能性があります。出先で被災するという可能性も考えた備えをしておくと、万一の際にも余裕が出るでしょう。

 能登半島の地震は、これまで知られている地震と発生する機構は異なることもあります。しかし、地震が発生した際に結果的に地表に大きな揺れをもたらす現象としては変わりません。地震で大きな揺れがあった際に、どのような被害を受ける立地・住まいに住むか、どのような対策・備えをするかが重要でしょう。

 軟弱な地盤の地域では激しい揺れ、揺れが大きかった地域では耐震性の低い家屋から倒壊・損壊、ブロック塀の倒壊、家具や家電などの落下等、崖沿いではがけ崩れ、埋立地などでは液状化現象など、被害の傾向や起きやすい場所はほかの地震と何ら変わることはないように思われます。

 地震に対して本当に強い家とは、以下の3つの条件があると考えます。

  • ①地盤の地震に対する特性や切土・盛土の特徴、液状化エリアといった「立地」
  • ②建物の耐震等級、設計・施工に関わる「初期性能」
  • ③初期性能を長く維持していくための制振ダンパーや蟻害、雨漏りを防ぐなどの「性能維持」

本当に地震に強い家とは?

 立地は後から変えることはできず、後から対策をすることが難しい場合や、多額の費用を要する場合もあります。がけの周辺では、急な地震があった際にがけ崩れが起こると、住み続けられないことが考えられます。住宅を建てる時の初期性能は、耐震等級など設計の面だけでなく、施工もチェックしたいです。最後に、いくら良い立地で高い初期性能の家を建てても、メンテナンスを怠ると耐震性が低下してしまうこともあります。

 これらの立地や住宅のリスクの次に、部屋の使い方や家具の配置を考えましょう。寝る場所や過ごす場所、ドアをふさぐ位置に倒れてくる家具を置かないこと。そのうえで家具の固定を行い、備蓄品や防災グッズなどの置き場を考えたり、どのようなものを備えるかを考える手順が重要であると考えます。

 決して、能登半島の地震は遠方での話ではありません。首都直下地震、南海トラフ地震は非常に高い確率で数十年以内に起こることが想定され、いつ来るかを事前に知ることも難しいでしょう。自分ごととして考え、我が家では何を優先して対策すべきかを考えるきっかけになれば幸いです。

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
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