自分でできる調査とフィールドワークで土地・地盤を把握

  • Update: 2019-09-03
自分でできる調査とフィールドワークで土地・地盤を把握

日本の耐震基準は1981年と2000年に大きな改正が行われ、2000年の改正では主に接合部の仕様や耐力壁のバランスに関する規定や、地盤の状況を考慮して基礎を設計すること、という変更が加えられました。この改正をきっかけに、建築前の地盤調査の重要度も大きく増したと言えるでしょう。

今回は耐震を意識するなら今や欠かせない地盤調査、液状化や不同沈下のメカニズム、ハザードマップなどを用いた自分でできる土地の履歴調査について紹介します。

震災による被害は建物倒壊だけ?

地震による被害というと、まず揺れによる建物の崩壊や倒壊をイメージするかもしれませんが、実は地盤災害による被害も大きいのです。

1995年の阪神淡路大震災では、埋立地を中心とした大規模な液状化により、戸建住宅のライフラインが大きな被害を受けました。

それに対し、公共施設や中層以上の建物には液状化による被害がほとんどなかったことから、地盤改良の効果によって不同沈下が抑制されたと考えられています。このような経緯から、2000年の改正へ。

地盤災害が及ぼした被害は、阪神淡路大震災だけに留まりません。

東日本大震災でも、粘土層の圧密沈下や液状化による地盤沈下が報告され、テレビでもその様子は大きく報道されました。

熊本地震においても、新耐震基準に適合した建物で倒壊した83棟の内、2棟は地盤の影響を受けたのが原因とされています。2000年基準以降の建物で倒壊した7棟の中にも、地盤が原因とされるものが1棟あったと言われています。

地震被害を免れるには、建物の耐震性を高めるだけでなく「どんな土地か」を把握することが大切です。

地盤沈下や液状化が起こる原因は?

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そもそも、なぜ地盤沈下や液状化は起こるのでしょうか。

地盤沈下には過剰揚水などの人為的な要因もありますが、災害時に発生するのは地盤の液状化に伴う沈下です。

水分を多く含んだ緩い砂地盤では、地震によって揺れが繰り返されると水分が地表に押し出されます。これが液状化です。

重い土や砂は底へ沈みます。これが、地盤沈下です。軟弱地盤には水分が多く含まれているため、このような現象が起こりやすいからなのです。

そう考えると、必然的に液状化の起こりやすい場所というのが見えてきます。

まず、湾岸の埋立地。これは過去の震災による地盤災害の発生状況からも明らかで、特にまだ締め固まっていない新しい埋立地ほど危険性が高いです。同様に、区画整理などによって河川や池・沼を埋め立てた土地にも液状化のリスクが伴います。

また、地震による液状化は、揺れの大きさよりも長時間振動が継続することで発生し、被害が拡大する傾向にあるため、震度6や7の大規模地震でなくても液状化が起こる可能性はあるということです。

中古戸建、中古マンションを購入するなら地盤調査も意識

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中古住宅を購入する上でまず意識したいのは、2000年以前の建物であるかそれ以降の建物であるかということ。
2000年の改正により以前の建物では地盤調査が行われていない可能性も少なくないため、地盤の状態や基礎がその地盤に適合しているかどうかを判断することも難しいと言えます。

物件の様子から可能な範囲で、地盤の状態を判断するには…。

戸建では基礎まわりに犬走りに目立つひび割れがある場合は、不同沈下により基礎に負担がかかって亀裂が生じている可能性があります。建物内部でも床の傾きを感じたり、建具の動作不良がある場合は注意が必要です。

マンションの場合は、ボーリング調査をして軟弱な地盤には支持層に到達するように杭を打ち込むことが必須とされていますが、過去にはマンションの杭打ちデータ改ざんの問題があったりと安心とは言えないのが現実です。

自分でできる土地の履歴調査

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地盤調査を行い、地盤の状態に応じた地盤改良と基礎の設計をすることで、災害時の安全性は高まります。
しかし、これから家を買う、もしくは土地を買って家を建てるというのであれば、あえて軟弱地盤の土地を買うことはおすすめしません。

安全な住まいの確保のため、必要最小限の調査は自分できちんと行いましょう。

過去の資料から土地の履歴を辿る

最も手軽にできる調査は、ハザードマップの確認です。ハザードマップとは被災する可能性のある区域や避難場所・避難経路などを示した地図のことで、各市区町村にて入手・閲覧できます。インターネットで公開している地域もありますし、国土交通省のホームページでも確認してみましょう。

土地の履歴を辿るには、まず法務局へ行って登記簿を閲覧します。
コンピューター化された登記事項証明書では建物の建築に伴って地目が「宅地」へと変更されている場合がほとんどですが、閉鎖登記簿や土地台帳を閲覧することで、かなり古い情報を入手することができます。土地台帳が完成したのが明治22年なので、そこまで遡って土地の履歴を知ることが可能です。

ここで注目すべきは『地目』。地目が「田」「池沼」「ため池」となっている場所は、軟弱地盤であると考えられます。旧地名に水や災害を連想させる文字が入っている場合も、洪水などの自然災害と因果関係がある可能性が高いと言われています。その他、図書館で古地図や航空写真、郷土史を見てみるのも有効です。古い地図や航空写真は、昔その辺りに何があったかの判断材料になりますし、郷土史には地域の災害についても記されています。国土地理院のホームページでも古地図や航空写真を閲覧できます。

また市区町村では土壌汚染の要措置区域等の台帳も閲覧することができます。健康被害を避けるためにも、併せて調査しておくとよいでしょう。

実際に自分の足でフィールド調査

資料を閲覧するだけでなく、実際に現地を訪れてみることも大切です。歩くだけでも地盤の固さはわかりますし、閉鎖登記簿を閲覧して昔は田んぼだったとしても、年数の経過と共にしっかりと絞め固まっている場合もあるからです。

雨が降った後に何度か足を運んでみると、水はけの程度もわかります。いつまでも水が溜まっている、地面が湿っている土地は水はけに問題があると考えて間違いないでしょう。やたらコケの生えている土地も要注意。水はけが悪いということは地質に問題があるか、もしくは周囲に比べて敷地が低いことが考えられます。

近隣も歩いてみることをおすすめします。その敷地が前面道路よりも明らかに低い場合は、豪雨による浸水の危険性も。その地区一帯が低地である場合は、冠水してしまう可能性も考えられます。近隣に川や用水路がある場合も水害のリスクは高まりますし、近くに湿地があれば液状化や地盤沈下による被害が予想できます。

周辺に建っている戸建て住宅の基礎部分もチェックします。近隣の建物に著しい基礎のひび割れがある場合、その辺り一帯の不同沈下の可能性も。様々なリスクを想定しながら、慎重に調査を行いましょう。

安心な住まいは建物+地盤の状態から

いくら基礎を頑丈に造っても、地盤だけが沈んで基礎が露出してしまったり、地面と基礎の間に隙間が出来てしまうというケースも実際に見られます。防災の観点からは、住宅の耐震化と共に地盤の状態にも関心を持つことをおすすめします。

土地の履歴調査は特別な知識も必要なく、むしろその地域のことを知るよいきっかけになるでしょう。購入前の土地、今お住まいの土地、よく足を運ぶ場所などの履歴を辿ることから始めてみてはいかがでしょうか?

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 災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。

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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター

地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。