地盤調査のセカンドオピニオンとは?

  • Update: 2022-03-17
地盤調査のセカンドオピニオンとは?

この記事はプロのホームインスペクターが監修しています

地盤調査では何を調べているのか

今回は地盤の「セカンドオピニオン」について解説します。「地盤調査」とは?「地盤調査報告書」はここをチェック!のコラムで詳しく解説していますが、そもそも戸建て住宅新築する際に行われている地盤調査では何が行われているのでしょうか?現在、最も多く行われているスクリューウェイト貫入試験(SWS試験)の例を紹介します。

 地盤調査の目的は、地盤が片側に地盤沈下(不同沈下)して傾かないようにするために行われる、「地盤改良工事(地盤補強工事)の要・不要」を判断することで、主に次の4つの項目を総合することで判断がなされています。

 ①その場所の地形の区分 
 ②造成の情報や周辺に地盤沈下を示す兆候がないか
 ③建物の重さで地盤が沈むことはないか(長期許容支持力度)
 ④土が圧縮することで徐々に沈下が進むことはないか(沈下の検討)

地盤調査で行われるスクリューウェイト貫入試験の例(手動式試験機)

 

 なお、住宅を建築する際の地盤調査の大半は、地震があったときの地盤の揺れやすさやどのように揺れるかは対象としていません。地震があったときに揺れやすい地盤か、共振しやすいかなどは、微動探査という調査方法で調べることができます。

地盤のセカンドオピニオンがなぜ起こる?

地盤のセカンドオピニオンは、主に2つのケースで起こっています。

  1. 地盤改良工事が「必要」との判定→地盤改良が不要(またはより小規模な工事で良いのではないか?)
  2. 地盤改良工事が「不要」との判定→地盤改良が必要ではないのか?

 このうち、課題となるのは、主にAのケースです。地盤改良工事の費用は、数十万円から、工法や改良する深さによっては数百万円がかかるため、地盤改良工事が不要にできないか、というケースが多いと考えます。しかし、私たちが受けた相談の中では、Bのようなこの数値で本当に地盤改良が不要なのか?というケースもありました。なぜ、このようなセカンドオピニオンが発生するのでしょうか。

地盤改良工事を行うかどうかは、「このデータであれば改良工事をしなければならない」ということが、4項目のうち③の項目以外ではないことがあります。このため、判定を出す会社によって改良工事の必要・不要の判定が異なることが発生するのです。

 なお、③の項目でも、「地盤改良工事をしてもしなくともよい」数値があり、「改良工事が必要」な数値でない限りは、必要、不要どちらを選んでもよいということになります。その中で4つの項目のそれぞれから③の長期許容支持力度が問題なく地盤改良が不要な数値だとしても、その他の項目がNGと判断されるなどのケースがあります。必ず地盤改良工事をしなければならない、という数値でない場合、地盤改良工事を行うかどうかは、判断する会社によってまちまちであることが現状です。

同じ地盤調査報告書から異なる判定が出ることがある(セカンドオピニオンが生まれる原因)

地盤のセカンドオピニオンが生まれた背景

 このような地盤のセカンドオピニオンは、この10年間くらいで広まった考え方です。それまでは、地盤改良工事を行う会社が事前に地盤調査を行うことが一般であったので、数万円〜10万円程度の地盤調査より、数十万〜数百万円地盤改良工事を取っていくモチベーションの高いビジネスモデルが主体でした。

 その後、自社で地盤改良工事は受注せず、地盤が不同沈下した際に保証をする地盤補償を得意とする会社が出現してきました。地盤改良判定となった調査報告書を無償でセカンドオピニオンし、地盤改良工事が不要と判定した場合には有償で地盤補償を販売して、万一地盤の不同沈下が発生した際には、補償をするというビジネスモデルです。

 このような会社の出現により、現在では改良工事判定を出しても地盤のセカンドオピニオンにより改良不要という判定になることも多いことから、従来より改良工事の割合は減ってきていると言うこともできます。現在では、無償で地盤調査データのセカンドオピニオンをしている地盤会社は非常に多く見られます。裏を返せば、地盤のセカンドオピニオンで、地盤改良が必要という判定から不要という判定になる率は、従来より下がっているといえます。

従来目立ったビジネスモデルでは、地盤のセカンドオピニオンの余地があった

 

 それでは、どのようなケースで地盤改良が必要となり、または不要となるのか。以下、ご自身でもできる地盤調査データからの地盤改良必要・不要の考え方の基本について説明します。

長期許容支持力度とその計算方法

 建物の重さで地盤が沈むことはないか(長期許容支持力度)については、平成12年建設省告示第1347号に、下の表のように定められています。単に支持力として呼んでいることもあります。この告示では、スクリューウェイト貫入試験で得られた数値から、基礎の形式をどのように定めるかが示されています。当然、地盤改良の必要・不要を判定する際に計算されている項目ですが、地盤調査報告書がお手元にあれば、ご自身で計算してチェックをすることもできます。

 この告示では、長期許容支持力度が20kN/㎡以下の場合は、事実上地盤改良が必要となります。一方で、長期許容支持力度が20kN/㎡以上ある場合は、べた基礎であれば地盤改良工事不要の数値となります。30kN/㎡以上であれば布基礎でもOKです。後に説明する沈下の検討や地形、周辺の状況、高低差などを総合することで地盤改良が必要と判断されることがあります。

 平成12年建設省告示第1347号によるSWS試験による長期許容支持力度と基礎の形式

 具体的には、スクリューウェイト貫入試験で得られた荷重Wswと、1mあたりの半回転数(Nsw)の基礎底面から2mまでの平均値により算出します。 長期許容支持力度を用いる式には、現在主に使用されるものに3つの式がありますが、自沈層の荷重を評価する式のうち、安全側の評価となっている日本建築学会が推奨する式(学会式)では、

長期許容支持力度qa(kN/㎡)=30Wsw+0.64Nsw
 Wsw:自沈荷重(kN)
 Nsw:1m辺りの半回転数(回)

として示されています。

この式を、計算しやすいように地盤調査報告書の結果から読み取れるようにすると、

30×自沈層の荷重(※Wswの数値:0.25、0.5、0.75、1)+

0.64×回転層の1mあたりの半回転数
となります。

 下のような地盤調査報告書が手元にある際は、実際にご自身で計算することもさほど難しくありません。実際には、調査が建築予定地の5か所で行われている場合は、5か所とも計算が行われており、最も弱いものの数値に着目します。自沈層かどうかは、1mあたりの半回転数Nsw(下の図の青色の枠の部分)が0とある層は、自沈層です。何kN自沈かは、荷重Wswの数値となります(1kNで自沈せず回転層の場合も1として計算する)。

 Nsw(1m辺りの半回転数)の数値は、青色の枠の部分の数値を用います。自沈層は回転がないので0となります。半回転数Naと間違えないようにしましょう。なお、Naの数値は25㎝分の数値であり、1mあたりに換算するために4倍した数値は記入されているものがNswです。Nswは必ず4の倍数となります。

地盤調査報告書から長期許容支持力度を計算するには?

計算すると、ここでは自沈層のみで回転層がないデータでしたが、

0.25m 30×1+0.64×0   30+0=30
0.50m 30×1+0.64×0   30+0=30 
0.75m 30×1+0.64×0   30+0=30 
1.00m 30×0.5+0.64×0   15+0=15
1.50m 30×0.5+0.64×0   15+0=15
1.75m 30×0.5+0.64×0   15+0=15
2.00m 30×0.75+0.64×0    22.5+0=22.5
2.25m 30×1+0.64×0    30+0=30 

 以上、基礎底面から2m下までの8層分の数値を合計すると、187.5になります。これを平均すると、187.5÷8=23.4375となり、長期許容支持力度は、20kN/㎡以上30kN/㎡以下となりました。この数値だけ見ると、「基礎ぐいまたはべた基礎」ということで、べた基礎を採用すれば、地盤改良不要でもいいという数値となりました(実際にはほかの項目も含めて最終的に改良の要・不要を判定します)。

  ちなみに、基礎底面から2m間にある全ての層が1kN自沈の場合は、全層で30×1であるため平均も30kN/㎡となり、2mの間が回転層のみの場合は、計算するまでもなく30kN/㎡以上となります。計算式には、国交省の告示で定める「告示式」など3種類があるので、会社によって異なる計算式を用いている場合もあります。

建物の重さによる沈下の検討

 土が圧縮することで徐々に沈下が進むことはないか(沈下の検討)にあたっては、平成13年国土交通省告示第1113号に、次のことが示されています。

 「基礎の底部から下方2m以内の地盤に荷重が 1kN以下で自沈する層が存在する場合、若しくは基礎の底部から下方2mを超え5m以内の距離にある地盤に荷重が0.5kN以下で自沈する層が存在する場合建築物の自重による沈下その他の地盤の変形等を考慮して建築物又は建築物の部分に有害な損傷、 変形及び沈下が生じないことを確かめなければならない」とあります。図で示すと、次の図のようになります。

  平成13年国土交通省告示第1113号によるSWS試験による沈下等の検討について

 例で示したデータで見てみるとどうでしょうか?基礎底面は0.25mですので、「基礎底面から2m」は先ほど確認した深度0.25m〜2.25mの間の8層になります。基礎底面の深度がわかれば、簡単にチェックすることができます。1kN以下で自沈する層ということは、事実上自沈層がないかを確認することになります。例のデータでは全層が自沈層で、0.75kN自沈が1層、0.5kN自沈が3層あります。

 自沈層があったイコール地盤改良が必要という考え方ではなく、「建築物の自重による沈下その他の地盤の変形等を考慮して建築物又は建築物の部分に有害な損傷、 変形及び沈下が生じないことを確かめなければならない」という考え方です。実際には、事実上地盤改良の検討をすることで建築物等に影響がないことを確認し、地盤改良工事を実施するということが一般的になっています。

 判断する基準は会社によって異なるところですが、0.75kN〜1kNまでの自沈のみで、1)自沈層が1、2層程度を超える場合や、2)自沈層の深さや回転層になる深さが地点の間で大きく異なり地点間でバランスが悪い場合などには、沈下の可能性があるとして地盤改良が必要と判断することが多いようです。

 逆に、一般的に地盤改良が必要という判定が出るケースでは、1)0.5kN以下の自沈層があった場合、2)0.75kN自沈が3層以上ある場合、3)自沈層の厚さが地点によって異なる(建物の片側に偏っている)場合などがあります(造成の有無などで異なる場合があります)。

 今回のデータでは、③の長期許容支持力は20kN/㎡以上でべた基礎であれば改良不要ですが、④の沈下の検討等で、0.5kN自沈が3層で見られることから、沈下の検討が必要として、地盤改良工事判定とされることが一般的であるデータといえます。

 告示で示された「基礎底面から2m〜5m」は、今回のデータでは深度2.25~5.25mの間となりますが、4.25mで硬い地盤に当たって調査が終了しているのでそこまでの間で確認します。自沈層じたいがないので、0.5kN以下の自沈の層がみられませんでした。

 長期許容支持力が20~30kN/㎡の間(自沈層があり回転層が限られる数値)であり、基礎底面から2mに1kN自沈(わずかに0.75kN自沈)がある場合に、自沈層が限られる場合などで、会社によってなお、自沈層があるのに改良不要の判定となった、というケースでは、判定を出す際にその場所の地形と地層の特徴を考慮していることがみられます。

 自沈層があるのに改良が不要となるケースもあります。関東地方の武蔵野台地関東ローム層などが分布する地域では、ローム層じたい、またローム層より深い部分にみられる粘土層凝灰質粘土層洪積粘土などと呼ばれることもある)などです。このようなローム層、粘土層は、スクリューウェイト貫入試験で調査すると実際の地盤の強さを過小評価(強度はあるのに自沈層として評価されやすい)する傾向があります。数字をそのまま読むと改良判定になりやすいですが、過小評価されている粘土層であることを知っている地盤業者は、適切な判定を出すことが可能です。結果の数字だけでなく「所見」で掘り下げた検討をしているかも大事になってきます。

地盤調査結果、判定に疑問があった場合は?

 以上、地盤調査で何が行われているか、地盤調査結果から導き出される地盤改良工事の要・不要が発生する原因や、その背景、また自分で報告書を計算、確認する方法について解説してきました。地盤補償を得意とする会社では地盤改良不要という判定が出やすく、地盤改良を得意とする会社は地盤改良判定が出やすいこと、改良工事が必要な場合は適切な工法や深さを選択する必要があることを述べてきました。

 地盤改良工事はできればお金がかかるのでしたくない、という方は少なくないと思いますが、そもそも家屋が地盤沈下してしまっては元も子もありません。地盤補償で修復ができても、修復には時間もかかります。また、建物が傾いているまま暮らしていると、健康被害を受けることもあります。地盤改良工事は、改良工法や深さによっては液状化の被害軽減につながるケース(小口径鋼管杭工事を支持地盤まで打ち込んでいる場合など)があることもあります。

 また、地盤改良を得意とする会社では地盤改良判定を出したいモチベーションがある一方、地盤補償を得意とする会社は地盤改良不要として地盤補償を販売したいモチベーションがあるということもできます。地盤業界の用語で「営業ベタ」という言葉があります。営業が下手なのではなく、地盤補償の受注が取りたいために無理をしてベタ基礎=改良不要という判定を出すケースのことを言い、営業受注のための無理をした改良不要判定のことです。

 地盤改良工事が必要な場所は、軟弱地盤など地盤に懸念がある地域であることが多い地域といえます。地盤改良判定になった際に、コストばかりにとらわれてコストカットだけを考えることは望ましくありません。また、どの会社にセカンドオピニオンを出しても、必ず地盤改良工事判定となる調査データも存在します。地盤改良工法や深さの妥当性については、住宅会社、地盤会社や専門家と良く相談することをお勧めします。

 なお、さくら事務所では、地盤改良工事、地盤補償のいずれも受注しない完全な第三者の立場から、地盤調査報告書などから、地盤改良工事必要・不要や改良工事の仕様、改良する深さの妥当性などについて「専門家相談」よりご助言をさせて頂くことが可能です。地盤調査報告書(改良工事要・不要が記載された判定書等がある場合は判定書)、地盤改良工事報告書等を拝見して、専門家よりアドバイスをさせて頂きます。

 

ホームインスペクター 田村 啓
監修者

さくら事務所 執行役員
さくら事務所 プロホームインスペクター
さくら事務所 住宅診断プランナー
だいち災害リスク研究所 研究員

田村 啓

大手リフォーム会社での勤務経験を経て、さくら事務所に参画。
建築の専門的な分野から、生活にまつわるお役立ち情報、防災の分野まで幅広い知見を持つ。多くのメディアや講演、YouTubeにて広く情報発信を行い、NHKドラマ『正直不動産』ではインスペクション部分を監修。2021年4月にさくら事務所 経営企画室長に、2022年5月に執行役員に就任。