パッシブハウスとは。高気密高断熱住宅とは何が違うの?

  • Update: 2020-02-18
パッシブハウスとは。高気密高断熱住宅とは何が違うの?

ドイツで誕生した世界基準の省エネ住宅『パッシブハウス』。

2010年には、日本でも一般社団法人パッシブハウス・ジャパンが発足。

日本の気候、風土に根差した省エネ基準・省エネ住宅づくりをめざしています。

パッシブハウスは、気密・断熱性能を最大限に高め、自然の力を活用することで、最小限のエネルギーで快適な居住環境を実現できるといいます。

ここでは、そのパッシブハウスの性能基準や特徴を、デメリットも含めて紹介します。

燃費の悪い日本の住宅

1980年、日本で最初に住宅の断熱に関する基準が規定されました。
1992年に住宅の省エネ基準が改正されてからは、1992年より前の基準を『旧省エネルギー基準』、1992年以降の基準を『新省エネルギー基準』と区別するようになりました。
そして、1999年には住宅の気密性と断熱性に関する規定を強化。
それが、義務化が待たれる『次世代省エネルギー基準』です。

省エネ基準適合が努力義務である現在、2017年時点で300m2未満の新築小規模住宅における省エネ基準の適合率は62%。年々伸びてはいるものの、適合率が100%に達するまでには、まだしばらく時間がかかりそうです。
日本の住宅性能において、特に問題視されているのが『窓』。
ものづくり先進国でありながら、日本の『窓』は先進国最低レベルと言われています。

これまで日本では窓の重要性があまり認識されておらず、熱還流率で比較すると、経済産業省が定めた窓の等級は世界的に見てもかなり遅れていることがわかります。
今や世界基準では当たり前となっている樹脂サッシや木製サッシの普及も進んでおらず、熱を通しやすいアルミサッシがいまだ9割近くを占めているのが、日本の住宅の現状なのです。

パッシブハウスはこんな家

まずは、パッシブハウスの基本性能、一般的な高気密高断熱住宅との違いについて見ていきましょう。

構造と仕様

パッシブハウスの基本性能は、世界基準レベルの気密性と断熱性を有していること。その断熱性能は、1999年の『次世代省エネルギー基準』の3倍近いともいわれています。
例えば、断熱材にグラスウールを用いる場合、普通の戸建て住宅であればグラスウールの厚みは100~150mm程度ですが、パッシブハウスの性能基準を満たすためには300mm以上の厚みが必要です。
一般的には、外壁の内側(室内側)と外側(屋外側)の両方に断熱を施工する、ダブル断熱工法が採用されます。

日本においても、2枚のガラスの間に空気層を設けた複層ガラスは一般的になりつつありますが、パッシブハウス基準ではそれよりさらに上の、断熱性能の高いアルゴンガスを封入したトリプルガラスが使用されます。 当然ながら、サッシもアルミではなく熱の伝わりにくい樹脂サッシか木製サッシが標準です。
パッシブハウスは熱が外へ逃げづらい、言うなれば『魔法瓶』のような家なのです。

冷暖房空調設備について

パッシブハウスと高気密高断熱住宅の違いの1つ。
それは、冷暖房の考え方です。
一般的に『高気密高断熱』と呼ばれる住宅は、冷暖房については特に決まりはなく、床暖房を採り入れる家、各部屋にエアコンを設置する家、薪ストーブを設置する家と様々です。
パッシブハウスも『高気密高断熱』の一種ではありますが、冷暖房に関しては「エアコン一台で家中快適に過ごせること」、つまり冷暖房エネルギーに頼りすぎないことが前提です。

具体的な数字を挙げると、“年間暖房負荷”の基準値は15kWh/m2
「kWh(キロワットアワー)」は1kWの電力を1時間消費したときの電力量を表す単位で、1年間の暖房負荷と冷房負荷を合計したものを延べ床面積で割って算出します。
暖房負荷と冷房負荷は、パッシブハウスの設計者がコンピュータープログラムを用いて計算します。

『品確法における一戸建ての住宅の年間暖冷房負荷の基準値』によると、東京など都市部における断熱等級4の住宅の“年間暖房負荷”は127.8kWh/m2を基準としています。
パッシブハウスの“年間暖房負荷”15kWh/m2という基準がいかにシビアな数字であるということがよくわかりますね。

自然エネルギーの活用

もう1つ、パッシブハウスと高気密高断熱住宅の違いとして、パッシブハウスでは自然エネルギーの利用を重視している点にあります。
一般的な高気密高断熱住宅では、気密性・断熱性を高めて冷暖房効率を上げることで、室内温度を快適に保つことを目的としています。
しかし、パッシブハウスでは昼間の太陽光を取り込むことで冬の室内を保温し、夏は庇などを利用して日射を遮り、窓を開けて風を通します。
このように自然エネルギーを活用することで、冷暖房設備に依存しないエコ住宅が完成するのです。
積極的に冷暖房エネルギーを使うのではなく、自然のめぐみを受けて快適な居住空間をつくり上げる。それが、パッシブ(受け身)ハウスの名前の由来なのです。

自然エネルギーを利用するというパッシブハウスの考え方は、実は日本古来の家屋の建て方と非常に似通っています。
日本の古民家はとても風通しが良く、深い庇が日射を遮ってくれるため、夏でも扇風機1台で過ごせることも。
ところが、隙間だらけで気密性がなく、断熱材も入っていない古民家の冬は、室内にいるとは思えないほどの寒さです。
つまり、日本家屋の自然エネルギーの取り入れ方に高性能な気密性・断熱性を付加することで、限りなくパッシブハウスに近い家ができるというわけです。

間取りとデザイン

パッシブハウスには、間取りに関する制限は特にありません。ただし、エネルギー効率を良くするための工夫は随所に施されています。
パッシブハウスはエアコン1台で家中を暖める全館暖房の家なので、構造的に問題のない範囲で、できるだけ仕切りを少なくします。吹き抜けやリビング階段を活用して、1階で温めた空気が2階へ上がるようにするなどの配慮も必要です。
結果的に、開放的で家族のコミュニケーションが取りやすい間取りになることが多いです。

また、自然エネルギーを利用するためには、太陽の動きや風の通り方も計算しながら設計しなければなりません。建物形状はできるだけシンプルで表面積が小さいものの方が、エネルギー効率は良いとされています。
デザイン面でも、日射を遮るためには必ずしも深い庇を設けなければならないわけではなく、よしずを垂らす、庭に落葉樹を植えるなど、建物のデザインに合わせて選択できます。
このように、基準が厳しいわりには比較的融通が利くのも特徴です。

パッシブハウスのデメリット

一般的な高気密高断熱住宅でも、経験のない工務店が設計するのは難しいものです。
それに加えて、パッシブハウスはさらに厳しい基準を満たし、太陽や風の動きを計算し尽くした上で設計しなければなりませんから、パッシブハウスを建てるためには、必要な知識と経験のある工務店や設計事務所に依頼しなければなりません。
しかし、パッシブハウスの実績がある設計士や施工者は、全国的に見てもまだまだ少ないのが現状です。
また、厚みのある断熱材を入れることで、壁そのものの厚みも増します。外壁の厚みは通常150mm~180mm程度ですが、パッシブハウスの外壁は通常の100mm~200mmアップの厚みになります。
壁が厚くなるということは、それだけ居住部分の広さにも影響が出るということ。面積を広く取ることのできない狭小地や都市部の住宅においては、悩ましい問題です。

パッシブハウスの基本は気密と断熱

ドイツと日本では気候条件や敷地条件の違いもあり、なかなか実現が難しい側面もあるでしょう。
しかし、パッシブハウスの考え方には一般的な住宅においても参考にできる点が多々あります。
例えば、自然エネルギーの活用には、建物が高い気密性と断熱性を有していることが前提であるということ。

住宅にとって断熱性がこれだけ重要であるにも関わらず、断熱材の施工不良は後を絶ちません。ただ分厚い断熱材を入れただけで、気密性がまったく確保されていない住宅も少なくないのです。
しかし、逆の見方をすれば、気密と断熱がしっかりと確保されていれば、パッシブハウスの性能には満たなくとも、十分な快適性が維持されるということです。

断熱材がきちんと施工されているか不安な方は、ホームインスペクション(住宅診断)を活用してみてはいかがでしょうか。