「高断熱・高気密」の家なのに暑くて寒い! 断熱・気密に関するプロの見解と解説

  • Update: 2023-12-21
「高断熱・高気密」の家なのに暑くて寒い! 断熱・気密に関するプロの見解と解説

夏は蒸し暑く、冬は寒く乾燥する中でも快適に暮らせる「高断熱・高気密」の家。しかし、「高断熱・高気密」を謳うハウスメーカー・工務店で建てたにも関わらず、高い光熱費に悩まされ、快適な暮らしとはほど遠い生活を送ることになってしまったという方がいるのも事実です。数多くのホームインスペクションを手がけているさくら事務所にはそういった悩みが数多く寄せられます。

このコラムではプロのホームインスペクターの視点から、断熱性能と気密性能について、本当に気にしなくてはいけない重要ポイントについて解説します。少ないエネルギーで快適な暮らしを送る手助けになれば幸いです。

断熱とは?

家における断熱とは、外気と家の中の熱の移動を遮断することを意味します。

断熱性能を高めることで外気の熱の影響を受けにくくなり、まるで魔法瓶の水筒のように室内の温度を一定に保ちやすくなります。

断熱材と呼ばれる熱を通しにくい材料を家の壁・屋根・天井・床下・基礎などに配置して断熱性能を高めるのが一般的です。

Ua値(W/㎡・K)(外皮平均熱貫流率)

Ua値とは、住宅の内から床・壁・屋根・窓などを通して外へ逃げる熱量を各部位の面積の合計で平均した値のことを指します。

家の外壁などがどれだけ熱を遮るかを表しており、値が小さいほど保温性能が高い魔法瓶の水筒のように熱が逃げにくく性能が優れています。

窓や玄関などの開口部は壁に比べて値が大きくなるため、開口部を減らしてUa値を良くする家が増えています。

あくまで家の外壁などの熱を遮る性能値のみを表しており、換気や日射などにより快適性や冷暖房効率は大きく変わることに注意が必要です。

気密とは?

家の気密性とは、住宅の隙間を減らして密閉性を高めることです。

気密性を高めることで隙間から空気と共に熱や湿気などが家の内外に出入りしてしまうのを防ぐことができます。

いわゆる隙間風というのを無くして室内の快適性を保ちます。

窓サッシ、シートやテープ、パッキンなどを使用して家の隙間を埋めて気密性能を高めます。

C値

C値とは、住宅の気密性能を表す値で、家の隙間面積(c㎡)を延べ床面積(㎡)で割った値のことを指します。

値が小さいほど隙間が少なく気密性が高いことを表します。

高気密と呼ばれる目安はC値1.0以下で、計画的な換気をおこなうことができる目安ともなります。

隙間の少ない気密性の高い家でも適切な換気計画がされていれば息苦しいということはありません。

断熱性能の法改正と断熱・気密の目安

断熱性能の法改正

断熱等性能等級とは、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に規定された省エネ性能を表す等級のことを示したものであり、国土交通省が制定しています。「断熱等級」と略して呼ばれることがあります。

断熱等性能等級はこれまでに何度も更新されており、2022年4月1日時点では5つのランクが設定されていましたが、同じく2022年10月1日から、戸建て住宅には新たに等級6、7が創設されました。

断熱等性能等級とは?「断熱性」を比較する基準と新設の等級6・7も解説

断熱等級の義務化

2025年4月以降のすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合(断熱等級4)が義務付けられる予定です。

001500386.pdf (mlit.go.jp)

2025年4月以降には断熱等級4未満の新築住宅は建てることができなくなります。

住宅ローン減税改正

2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅で住宅ローン減税を受けるには省エネ性能が必須となります。

001613031.pdf (mlit.go.jp)

また、省エネ性能に応じて住宅ローン控除の借入限度額が変わり、より省エネ性能が高い住宅の方が借入限度額が高くなります。

住宅ローン減税の申請には省エネ基準以上適合の「証明書」である

・建設住宅性能評価書

・住宅省エネルギー性能証明書

のいずれかの提出が必要になるため、注意が必要です。

省エネ性能表示制度

省エネ性能表示制度とは、国交省HPにて、下記のように示されています。

「販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告等に表示することで、消費者等が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする制度です。住まいやオフィス等の買い手・借り手の省エネ性能への関心を高めることで、省エネ性能が高い住宅・建築物の供給が促進される市場づくりを目的としています。2024年4月以降、事業者は新築建築物の販売・賃貸の広告等(※1)において、省エネ性能の表示ラベルを表示することが必要となります(※2)。」

 

■注意■注文住宅は努力義務の対象外

★1で「省エネ基準」、★3で「ZEH水準」、再エネなしは★4まで、ありは★6まで

家マーク4で「省エネ基準」、家マーク5でZEH水準

出典:https://www.mlit.go.jp/shoene-label/

断熱・気密の必要性とバランス

日本の自然環境夏は蒸し暑く、冬は寒く乾燥して人が暮らすには過酷。過酷な自然環境の中で、人が快適に暮らせる空間をつくってコントロールする必要があります。

そのときに重要な要素として断熱と気密があります。

 

断熱性能はZEH水準

断熱性能や気密性能について目安となるのはZEH水準で断熱等級で言えば”5”、一次エネ等級は”6”に当たります。

これは、2030年には中古住宅を含めた住宅の平均水準になるとされており、新築では最低レベルになる可能性がある性能でこれより下のレベルだと、省エネ性能が古い基準となることで、資産価値を毀損してしまう可能性があります。

■気密はC値1.0

現状では気密性能に決まりはありませんが、ZEH水準であれば高気密住宅の目安となるC値=1.0が目安となります。

C値が1.0を下回ると換気設備を使った室内の換気がある程度計画的に運用できるようになります(計画の50%ほど)。0.5を下回ると、換気の効率が非常に高まります(計画の66%ほど)。

 

断熱•気密はもちろん大切ですが住宅には

・いざという時に売れる立地

・災害リスク

・2大性能(耐震、防水)

・間取り

などバランスが大事です。

それぞれの資金計画を元に、住んだ後の理想とする暮らしを考えて家族でよく話し合って決めましょう。

パターン別現実的スペックと改修のポイント

目安として上げた断熱性能ZEH水準、C値1.0を現実的には選べないことがあります。

そこでパターン別現実的なスペックと改修のポイントを挙げます。

大都市圏で新築分譲戸建て住宅を買う方にとって現実的な選択肢

★省エネ性能が高い住宅は求めにくいが、ZEH水準程度までなら改修できる

スペック

土地が高く、建物にお金をかけるのが難しく性能を高めにくい。

分譲建売戸建てでの購入の場合、性能を選ぶことができずZEH水準であれば御の字、断熱等級4の省エネ基準であることも多い。

気密性能は測定されておらずC値1.5〜2.0以上程度であることが多い。

改修のポイント

補助金などをうまく活用してZEH水準以上を目指す

例:内窓、ハニカムスクリーン、床下や屋根裏の高断熱化、換気扇の交換、照明のLED化、高効率給湯器の設置など

大都市圏郊外で新築注文住宅をローコストで建てる方にとっての現実的な選択肢

★省エネ性能をめぐるトラブルが起こりやすい。特に特定の性能だけが高い住宅は要注意

スペック

ローコスト住宅でもZEH水準以上を施工する会社が増えておりZEH水準が最低レベルの目安となる。

断熱等級など数値のみが高く、気密性能・換気・日射遮蔽などが配慮されておらず断熱等級のわりに快適とならないことがある。

改修のポイント

設計時には断熱性能UA値だけではなく、気密性能C値や換気、日射遮蔽などバランスよく考慮する必要がある。
もし不足した性能や著しくバランスを欠いてしまった場合は改修を行って補う。

例:内窓による開口部の断熱強化、日射遮蔽のためのアウターシェード・タープなどの設置、熱交換型換気の設置

中古戸建てを買ったあとの現実的な改修のポイントと現実的なスペック

①2000年以降の建物

スペック

窓がアルミ樹脂複合サッシであればZEH水準程度、アルミサッシであれば、断熱等級4の省エネ基準程度の可能性が高い。

気密性能は測定されておらずC値3.0以上のこともあり、高い気密性能を求めることは難しい。

改修のポイント

現在の新築分譲住宅と同じような改修に加えて気流止めが無い場合は気流止めの断熱リフォームが効果的

 

②1990年くらい以降の建物

スペック

断熱等級3前後のレベルで気密も取れていないと想定される。

改修のポイント

①と同等の改修を実施し、さらにスペックを上げる必要があれば壁の断熱を強化する。

 

③1990年くらい以前の建物

スペック

無断熱に近いレベルで気密も取れていないと想定される。

改修のポイント

比較的劣化が進んでいる建物が多いため②の改修に加えて、間取り、耐震、水回りなど建物全体のリフォームの中で省エネ性能向上リフォームの優先順位付けが必要。

断熱・気密についてのトラブル事例と対策

高断熱な家なのに寒い

Ua値が低く高断熱な家を建てたのに寒い。

断熱材が入っていない箇所や断熱材に隙間が生じていて性能が発揮されていませんでした。高い断熱性能を発揮するには施工が非常に大切です。

隙間風を感じて寒い

新しい家で断熱を高めたのに隙間風を感じ寒い。

配管を通すために穴を開けた箇所から外気が入ってきて寒くなってしまった事例です。配管のために開けた穴も発泡系の断熱材で埋めるなどの対応で気密性を高めましょう。

高断熱な家なのに暑い

Ua値が低く高断熱な家を建てたのに暑い。

夏は太陽の日射によって入る熱が非常に大きいのです。日射を遮蔽することなく熱を入れてしまうと、高い断熱性により熱が抜けずにオーバーヒートをする恐れがあります。

アウターシェードやタープなど窓の外側で日射を遮蔽して熱を室内にいれないように工夫することが重要です。

トラブルを防ぐために

断熱•気密性能を契約時に一定の約束を交わし、書面に残すことが重要です。

例えば、Ua値=0.60、C値=0.65~0.75(C値は完璧にすることが難しいため幅を持たせる)を満たす、といった具合です。

契約時に決めていなかった数値を、後で”C値は0.5以下にしてくれ”と言われても施工会社は困ってしまいます。C値には明確な決まりはありません。

もし、契約後にC値が気になったなら、完成までの現実的に達成可能な数値を施工会社と相談し、実現可能なラインで完成させることをおすすめします。

その後、暮らしながらリカバリーすることも可能です。

快適な住まいをつくるポイント

快適な住まいには断熱や気密の性能が大切ですが、住まい方を間違うと快適性が損なわれます。

冬と夏、それぞれを快適にするためのポイントは下記の通りです。

冬を快適に

家全体を「高性能な断熱性能」で包み室内から熱を逃がさず室内の表面温度を下げないことが重要です。加えて、冷たく乾燥した外気を極力いれないようにするために長時間窓や扉を開けたり、浴室やトイレの換気扇を必要以上に長く使用しないことがポイント。24時間換気が正常に働いていればそれ以上の換気は過換気になることが多いため注意が必要です。

また、冬は太陽の熱を極力室内に入れて部屋を温めることも大事です。また、暖房による暖かい空気は上に上昇するので家の下の方で使用することで家全体に広がって効果的です。

夏を快適に

高い断熱性能と気密性によりエアコンなどで冷やした空気を逃げにくくすることが重要です。夏は窓の外で太陽の日射を遮るアウターシェードやタープなどを使用して室内に熱を入れないようにしましょう。冷房による冷たい空気は下に降りていくので家の上の方で使用することで家全体に広がって効果的です。

また、室温だけで無く湿度を下げる除湿を行って湿度60%以下にコントロールするとより快適な生活となります。

まとめ

断熱・気密性能の高い家は少ないエネルギーで快適に住め、健康への良い影響やQOLの向上も示唆されており非常に魅力的な家です。

さらに断熱性能に関する法改正が進んでおり、今後は高い省エネ性能が資産価値に反映されたり、逆に省エネ性能が低い家には資産価値の下落や税金が課されることも考えられます。

それらを踏まえ、他の優先事項との兼ね合いを検討した上で、適切な省エネ性能を求めるのが良いでしょう。

住宅の良し悪しは断熱性能だけでなく構造、防水(雨漏り防止)性能や家が建つ立地や災害リスクなども重要です。

特に断熱の施工は、住宅が建ってしまってからでは壁を破壊しない限り、検査をするのは困難となります。ぜひ少しでもご不安のある方は工事中から複数回の検査を入れることができる、「新築工事中ホームインスペクション」をご利用ください。