工事管理と工事監理の違いとは?意外と知られていない建築業界の裏側も解説

  • Update: 2023-12-21
工事管理と工事監理の違いとは?意外と知られていない建築業界の裏側も解説

注文住宅の工事を行うとき「工事管理」と「工事監理」という言葉が使われます。工事における「管理」と「監理」にはどのような違いがあるのでしょうか。本記事では「工事管理」と「工事監理」の違いについて詳しく解説します。また、「工事管理」と「工事監理」に関わる建設業界の裏側もあわせて解説しますので、興味のある方はぜひ参考にしてください。

マンション管理インスペクション

工事(施工)管理とは

工事管理とは名前の通り、工事(施工)を管理する業務のことです。工事現場を直接監督し、工事全体の流れや品質、お金(原価)などを管理する役割を担う業務です。施工管理とも呼ばれます。ここからは工事管理についてもう少し詳しく解説します。

工事管理は現場代理人が行う職務

工事管理(施工管理)は現場代理人によって行われる職務です。現場代理人とは工事を請け負った会社の経営者に代わり工事管理を行う、いわゆる現場監督のことです。ビルなど大規模建築の場合は現場監督が工事現場に常駐し工事管理を行うのに対し、注文住宅などの一戸建て工事の場合は複数の現場を兼任し、定期的に巡回を行なって管理します。

工事管理の仕事内容

工事管理の仕事は、工事現場全体の流れを監督し、計画通りに進行することを確認する役割です。具体的には以下のような業務を行います。

  • 工程管理
  • 品質管理
  • 原価管理
  • 安全管理

これらの業務は工事が予定通りに、予算内で、建物を完成させるために重要なものです。工事管理を行う者は、工事の進行や予算、安全などを全部まとめて管理し、何か問題が起きたときにはすぐに解決策を見つける必要があります。工事をスムーズに進めるためには、さまざまな技術や知識を持っていることが重要といえます。

工事監理とは

工事監理とは「工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること」(建築士法第2条第8項)です。工事現場において特に重要な工程で施工状態を確認します。つまり建物の欠陥発生を防止することが工事監理の役割です。ここからは工事監理について理解を深めるために、より詳しく解説していきます。

工事監理は設計士が行う職務

工事監理は、基本的には設計士によって行われます。工事監理の主な業務は、建築士法に定められており、具体的な職務は以下の通りです。

  • 建築工事と設計図書(図面)を照合をし、設計図書の通りに工事が行われているか
  • 工事が設計図書の通りに実施されていなければ工事施工者に指摘・是正依頼を行い、工事施工者がこれに従わないときはその旨を建築主に報告する
  • 工事監理が終了した際は建築主にその旨を文書で通知する

このように工事監理者は建築工事が設計書に沿って工事が行われているかを確認し、建物の仕上がりを担保する役割を担っています。

工事監理の業務のポイント

国土交通省が公表した「工事監理ガイドライン」によると、工事監理者の仕事内容は工事の種別によりますが、大きく「材料」と「施工」となります。

「材料」では、材料が規格にあっているか(認定を受けた材料か)、品質や性能は適切か、ホルムアルデヒド発散量に関する等級区分は適切かなどを確認します。「施工」では認定を受けた工法かどうかを確認するものです。

これらの確認作業を下記の工程で行うのが基本です。

  • 着工前
  • 着工時
  • 土工事・地業工事
  • 基礎工事
  • 断熱工事
  • 仕上げ工事
  • 設備工事
  • 工事完了時

確認方法は目視や計測、試験のほか、書類をもって確認することもあります。

工事管理と工事監理の違い

工事管理は建築工事がスムーズに進んでいるかどうかを管理するのが主な業務で、工事監理は工事が設計図書に準じて適切に実施されているかを確認することです。

ここからは工事管理と工事監理の違いについて、さらに詳しく解説します。

担当者が違う

工事管理と工事監理の主要な違いの一つは、担当者の資格にあります。工事監理を遂行する担当者は、一定規模の建物の場合に建築士などの有資格者である必要があります。これに対して工事管理は、業務を遂行するにあたり、特定の資格を必ずしも要求されません。

工事管理者の中には施工管理技士の資格を有している場合がありますが、工事の受注金額によっては、資格がなくても工事管理を行えます。特に戸建て住宅の場合はほとんどの場合で資格がなくても工事管理が可能です。

この資格の有無による違いは、工事管理と工事監理の業務の性質と責任範囲に大きく影響を与えています。

仕事内容が違う

工事監理と工事管理の仕事内容は、似ているようで異なっています。具体的な違いを比較しながら見ていきましょう。

工事監理は建築士が建築主側の立場となり、建設施工会社の工事が設計図書のとおりに実施されているか点検・確認・是正する業務です。欠陥の発生を未然に防ぐ重要な役割を担っています。

一方で工事管理は、建設施工会社における現場業務で、工程管理・品質管理・原価管理・安全管理などを行いながら、設計図や仕様書通りに建物を完成させます。担当者が異なるため、それぞれの目的や業務内容にも違いがあるのです。​

工事管理と工事監理を分ける理由

工事の管理と監理を異なる企業に委託することには、明確な根拠があります。

下請けや社内の従業員が監理業務を行うと、雇用者に対して不利益をもたらすような指摘を避けがちです。また、人材不足などで見落としが起きやすい状況なども想定されます。その結果、工事監理が適切に行われていれば防げる欠陥住宅など、実質的に監理が行われていない状況を招く可能性があります。

こうした事態を防ぐため、施工ではなく設計側からの独立したチェックが重要です。監理業務を外部の信頼できる業者に委託するとコストがかかるものの、それぞれの役割を果たすことで、ダブルチェックのような効果を発揮し、建築の質を保証し、将来的な追加コストや手間を防ぐことにつながります。

工事管理と工事監理に関わる業界の裏側

前述で工事管理と工事監理を分けることが重要と解説しましたが、実際の住宅業界においては工事管理と工事監理をハウスメーカーや工務店などが一括で請け負っているケースが多く見られます。ここからは工事管理と工事監理に関わる建築業界の裏側について解説します。

住宅業界は設計・施工一括発注の場合が多く見られる

ハウスメーカーや住宅会社が設計から施工までを一括で請け負うのは、住宅業界では一般的な手法です。この場合は工事管理と工事監理が、同一の会社によって行われます。

工事管理と工事監理が、同一の会社によって行われることは法律的に禁止されていませんが、問題点が指摘されています。例えば設計と施工が同じ会社で行われるため、客観性や中立性の欠如が課題となることがあるのです。品質管理やコストの面でも、外部から第三者の視点が入ることで、より良い結果が得られる可能性があります。このため住宅を建てる際には、設計と施工を分けることも検討する価値があるでしょう。

設計・施工一括発注による弊害

設計・施工一括発注の方式では、工事管理と工事監理を同一の会社が担うことで、役割の曖昧化や業務の不備が生じるリスクがあります。特に設計士が現場に赴かず、現場監督のみですべてのチェックが完了するケースでは、重要なダブルチェックの機会が失われ、不具合発生のリスクが高まります。

構造計算書偽装問題の発生を受けて、工事監理業務の内容と方法の充実・適正化を図るために、国土交通省が策定した「工事監理ガイドライン」には、監理業務のうち「工事と設計図書との照合及び確認」に関わる合理的方法と例示一覧が明確に記載されており、これに従うことで品質保持が可能です。このガイドラインに沿った適切な監理体制を整えることが、住宅建設の品質を保つ上で重要となります。

設計・施工一括発注は良い点も存在する

一方で、設計・施工一括発注には、設計士と現場監督間の密接なコミュニケーション、スケジュール調整の容易さ、トータルコストの透明性といったメリットに加え、他にも多くの利点があります。

この方式では、ひとつの工事現場をまとめて管理できることから、異なる会社間でのやりとりが減る点が大きなメリットです。また責任の所在がひとつの会社にあり、明確であることから、何らかのトラブルが発生した場合も迅速に対応できるでしょう。

さらに設計・施工といった住宅を作る全体の流れがひとつの会社で簡潔するため、円滑なコミュニケーションが実現できるほか、クライアントの要望や変更にも対応しやすくなるのです。

施工不具合の発生リスクを抑えるための対策

では設計・施工一括発注方式がもつ施工不具合の発生リスクを抑えるためにはどのような対策を講じればいいのでしょうか。リスクを抑えることで設計・施工一括発注方式がもつメリットを生かすことができます。
ここからは、施工不具合の発生リスクを抑えるための対策について詳しく解説します。

設計事務所と施工会社を別々で決める

工事管理と工事監理の目的を適切に達成するためには、設計事務所と施工会社を別々に選定する設計・施工分離発注方式が有効です。この方法では設計の専門性と施工の実務が明確に分離され、各分野の専門家がそれぞれの役割に集中できます。

この分離により、より高い品質の建築物を実現することが可能です。ただしこの方式を採用する際は、分割払い可能な住宅ローンの選択や、設計と施工の間にスケジュールの調整が必要となる点に注意が必要です。これにより、プロジェクトの透明性が高まり、施主の満足度も向上することが期待されます。

ホームインスペクションを活用する

一般的にハウスメーカーや工務店の多くは、設計・施工一括発注方式を採用しています。そのため、住宅を購入する場合は、この方式が前提にある、と認識しておくとよさそうです。その認識のうえでホームインスペクションを依頼すれば、第三者としての専門家のチェックを受けられるため、不具合が発生するリスクを抑えられるでしょう。

ホームインスペクションは、建物の状態を専門家が詳細に調査するサービスです。これにより構造や設備の隠れた問題点を早期に発見し、適切な対処が可能です。またホームインスペクションの活用は、住宅の品質保証や将来的なメンテナンス計画の立案にも寄与します。このようにホームインスペクションは、設計施工一括発注の場合でもダブルチェックの役割を果たせるようになるため、不具合発生のリスクを抑える効果が期待できます。

管理と監理の違いをしっかり理解して家づくりを進めよう

工事管理と工事監理には、担当者や業務内容、およびその目的に明確な違いがあります。さらに別の企業に依頼するケースと、同じ企業がこれらの業務を担当するケースがあることがわかりました。
同じ企業が工事管理と工事監理を担当することが建築業界では一般的である以上は、第三者によるチェックの目が求められます。
さくら事務所では新築工事中ホームインスペクションによって、工事管理と工事監理を同じ企業が担当している場合の、第三者の立場でのチェックを提供しています。
工事管理と工事監理を担当する会社が同じで、チェック体制に不安がある場合は、さくら事務所の新築工事中ホームインスペクションを利用してみてはいかがでしょうか。