住宅の性能の中でも「断熱性」は重要な要素となってきました。
夏の暑さ、冬の寒さをしのぐには断熱性の高い家が必要です。
断熱性はエアコンの使用を前提とする現在の住宅には不可欠なものとなっています。
この断熱性の性能を表すのが断熱(等)性能等級です。
今回は断熱性と断熱性能について勉強しましょう。
断熱性能等級とは
断熱性能等級は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」通称品確法に規定された省エネに関する基準です。
断熱以外の性能も記載されているため、断熱等性能等級ともいわれています。
断熱性能等級は、何度か更新されており、現在は以下のような4ランクです。
等級4 |
平成25年制定。「次世代省エネ基準」といわれ、省エネ基準としては最高レベルの基準。複層ガラスなど開口部の断熱が義務化された。 |
等級3 |
平成4年制定。通称「新省エネ基準」。一定レベルの省エネ性能を確保。 |
等級2 |
昭和55年制定。40年前の基準なので省エネのレベルは低い。 |
等級1 |
上記以外 |
最高レベルの基準といわれるだけあって、住宅のコマーシャルや広告には「次世代省エネ基準をクリア」といった宣伝文句も並びます。
確かに等級3が制定されたあたりから徐々に断熱性能は向上しました。昭和の頃に建てられた住宅の底冷えするような寒さは等級3以上の住宅では減少していると言えます。
では断熱性能3と4ではどれほど性能が違うのでしょうか。
わかりやすくそれぞれの等級をクリアするのに、どれほどの断熱材が必要かを表にしました。
【住宅の「省エネルギー基準」におけるIV地域の木造戸建住宅の断熱の厚さ】
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等級3 |
等級4 |
天井断熱材 ■住宅用グラスウール24K・32K相当 ■高性能グラスウール16K・24K・32K相当 吹込み用ロックウール25K(λ=0.047) (λ=0.040~0.035) |
50mm 75mm |
155mm 160mm |
壁断熱材 ■住宅用グラスウール24K・32K相当 ■高性能グラスウール16K・24K・32K相当 住宅用ロックウール(マット)(λ=0.038) (λ=0.040~0.035) |
35mm 50mm |
85mm 90mm |
床断熱材(外気に接しない壁) ■住宅用グラスウール24K・32K相当 ■高性能グラスウール16K・24K・32K相当 住宅用ロックウール(ボード)(λ=0.036) (λ=0.040~0.035) |
20mm 40mm |
80mm 90mm |
等級3から等級4にしようとすると、断熱材の厚さが2倍から4倍程度が必要です。
断熱材の厚さはそのまま断熱性能に直結します。等級3と等級4ではかなりの差があるのです。
では等級4であれば十分な断熱性能を発揮するのでしょうか。
実は等級4でも十分ではないのです。
断熱性能等級4でも十分ではない
断熱性能等級4は、今の技術レベルではそれほど高い断熱性能ではありませんとは言えません。先ほどの表でも壁の断熱材は普及品を8090mm使えば足りてしまいます。現在はもっと断熱性の高い断熱材や工法がたくさんあるのです。
窓もガラスは複層ガラスでも、サッシ部分はアルミ樹脂サッシで足ります。
しかし実態は断熱性能等級4だとでも、断熱性はまだ不十分な状態なのです。これには宣伝やコマーシャルにも問題があります。「この住宅は断熱性能等級4なので性能が高い住宅です」といったセールストークも原因のひとつです。
断熱性能等級4は長期優良住宅の基準にもなっているため、断熱性能等級4あれば安心という誤解もあります。
断熱性能等級4が最低限?
実は、令和2年4月に断熱は「2020年省エネ基準適合義務化」という法律によって義務化されるはずでした。
ですが、この改正は見送られています。
理由は2016年度における住宅の省エネ基準への適合率が、57%~60%にとどまっていおり、住宅の設計を担っている建築士事務所や中小工務店のうち、省エネ計算が実施可能な社数の割合はそれぞれ概ね50%となっている、業界の準備ができていない状況なため。それほど高いとはいえない断熱性能等級4をクリアすることができない工務店やハウスメーカーもが半数以上あるのです。
義務化されると、断熱性能等級4は法律が要求する最低限の水準となります。
これまで最高性能であったとされてきた等級4が最低限となり、工務店やメーカーにとってはこれまでの戦略の見直しが必要となるわけです。
建築士の説明義務を導入
通称「建築物省エネ法」の改正で建築士には、委託を受けた住宅の省エネ性能を説明する義務が生じました。
自分の設計した住宅が「この住宅は断熱性能等級4相当です」、「この住宅は省エネ基準に達していません」といった説明です。
省エネ基準に達するようにするには、どれくらいの費用が必要かも説明します。
断熱の義務化は見送られたものの、少しずつ断熱化に向けての取り組みは進められているのです。
HEAT20のG2を目指そう
断熱の普及を目指した団体がいくつかあり、HEAT20もそのひとつです。ここでも断熱基準を作成しており、G1、G2といったレベルがあり、数字の大きいほうがより高い断熱性能となっています。高断熱高気密を目指すメーカーはG2程度の断熱性です。
断熱性能を示す数値の一つであるUa値(熱の逃げにくさを表す数値。小さいほうが良い)でいうと、「断熱等級4」は東京や大阪は0.87なのに対し、HEAT20のG2は0.47になります。およそ倍の差です。
これから家を建てるのであれば、HEAT20の基準も参考にしたいものです。
断熱性能をチェックするには
断熱性能は建築の知識がない人がチェックすることは難しいものです。
ちょうど建築士の説明義務が始まったところなので、設計をしてくれた建築士に聞く機会があれば問い合わせてみましょう。
また、インスペクションを行なう業者でも図面調査や現地調査を行うことで断熱性能の調査をすることができます。
こうした建築の専門家や専門知識を有する業者に相談することがおすすめです。
まとめ
暑さと寒さをしのぐには断熱が不可欠です。エアコンの使用を前提とすると、断熱性能の低い家は省エネの観点からもマイナスとなります。
世界的に見るとまだまだ不十分な面もある日本の住宅の断熱性能。
遅まきながらも少しずつ改善の傾向がみられます。省エネかつ快適な生活を営むためにも、断熱性能の向上が待たれます。
さくら事務所の新築工事チェックでは、
「壁天井断熱材チェック」という、断熱材がしっかり施工されているかどうかをチェックする検査があります。
断熱材の種類で大きく分けると、充填タイプと吹き付けタイプがあります。
一般的に使用されることが多いグラスウール断熱材は充填タイプです。
検査に伺うと、隙間があいていたり、断熱材がしっかり留まっていなくて下がってきていたりすることがあります。
吹き付けタイプの断熱材は隙間が生じにくいと言われますが、検査に伺うと意外と隙間が出来ていたり、吹き付けの厚みが足りなかったりすることがあります。
どんなに性能の良い断熱材を使用しても、施工がしっかりしていなければ断熱性能は低下しますし、壁の内部結露などを起こしてしまう可能性もあります。
正しい施工をされているか、工事中のチェックが大切です。