住宅の性能の中でも「断熱性」は重要な要素となってきました。夏の暑さ、冬の寒さをしのぐには断熱性の高い家が必要です。断熱性はエアコンの使用を前提とする現在の住宅には不可欠なものとなっています。この断熱性の性能を表すのが断熱等性能等級です。断熱等性能等級は、2022年10月に「断熱等性能等級6、7」が新設されました。
そこで今回は断熱等性能等級と断熱性能について解説していきますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
断熱等性能等級とは
断熱等性能等級とは、品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)に規定された省エネ性能を表す等級のことを示したものであり、国土交通省が制定しています。「断熱等級」と略して呼ばれることがあります。断熱等性能等級はこれまでに何度も更新されており、2022年4月1日時点では5つのランクが設定されていましたが、同じく2022年10月1日から、戸建て住宅には新たに等級6、7が創設されました。
戸建て住宅の断熱等性能等級は7段階で格付けされる
断熱等性能等級は2022年10月に7段階となりました。これまで最高等級であった断熱等性能等級4は1999年に制定された基準で、世界的には高い基準とはいえませんでした。そこで戸建て住宅の新たな基準として2022年に等級5から等級7が相次いで導入されました。
ここで注目したいのが等級5です。等級5は「ZEH(ゼッチ)基準」相当となっています。ZEHとは、net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)のこと。つまりエネルギー収支をゼロ以下にする家のことです。そのZEH基準よりもさらに厳しい等級が2022年にふたつも導入されることとなりました。新たに導入された7段階の等級の概略を以下の表にまとめました。
等級7 | 2022年(令和4年)10月1日施行。暖冷房にかかる一次エネルギー消費量をおおむね40%削減可能なレベルの性能。 |
---|---|
等級6 | 2022年(令和4年)10月1日施行。暖冷房にかかる一次エネルギー消費量をおおむね30%削減可能なレベルの性能。 |
等級5 | 2022年(令和4年)4月1日施行。断熱等性能等級より上位の「ZEH(ゼッチ)基準」相当が断熱等性能等級5になる。断熱材や窓ガラスなどは、断熱等性能等級4以上に高いレベルの断熱が必要となる。 |
等級4 | 1999年(平成11年)制定。「次世代省エネ基準」といわれる。壁や天井だけでなく、開口部(窓や玄関ドア)なども断熱が必要となる。 |
等級3 | 1992年(平成4年)制定。通称「新省エネ基準」。一定レベルの省エネ性能を確保。 |
等級2 | 1980年(昭和55年)制定。40年前の基準なので省エネのレベルは低い。 |
等級1 | 上記以外 |
断熱等性能等級ごとの断熱材仕様例
これまでの最高である等級5と、2022年10月から新設された等級6、7。各等級で求められる性能の違いを知るために、使用が求められる断熱材の仕様や厚さの一例(省エネ基準地域区分が「6地域」に属する東京等の場合)を見てみましょう。
断熱材 |
等級5 | 等級6 | 等級7 |
---|---|---|---|
天井断熱材 |
吹き込み用グラスウール18K 210mm | 吹き込み用グラスウール18K 270mm | 高性能グラスウール20K 210mm |
壁断熱材 |
高性能グラスウール16K 105mm | 【内側】高性能グラスウール16K 105mm 【外側】押出法ポリスチレンフォーム3種 25mm |
【内側】高性能グラスウール20K 105mm 【外側】フェノールフォーム 100mm |
床断熱材 |
【内側】高性能グラスウール24K 42mm 【外側】高性能グラスウール24K 80mm |
押出法ポリスチレンフォーム3種 95mm | 【内側】フェノールフォーム 100mm 【外側】フェノールフォーム 100mm |
参照:国土交通省 戸建て住宅断熱仕様の例(6地域・東京等)「③住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級について」
グラスウールの仕様は密度と厚みで決められます。「⚪︎⚪︎K」はグラスウールの密度で数字が大きいほど密度の高いグラスウールです。
つまり断熱性能の高さは断熱材の密度と厚さで決まります。断熱性能の高い家にする場合は、断熱材の密度と厚みをできるだけ大きくする必要があります。
断熱等性能等級はUA値で定められる
断熱等性能等級は、必要な「UA値(外皮平均熱貫流率)」が定められています。UA(ユー・エー)は「室内と外気の熱の出入りのしやすさ」を表したもの。建物の内外の温度差を1℃とした時に、建物の内部から外へ逃げる単位時間あたりの熱量を外皮面積で割ることで算出します。つまり、このUA値が小さいほど熱が出入りしにくく、断熱性能が高いということ。東京などの地域(6地域)に関して言えば、等級5ならUA値が0.6、等級6は0.46、等級7は0.26以下でなくてはなりません。
参照:国土交通省 外皮性能のZEH水準を上回る等級案とエネルギー消費量の関係「③住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級について」
断熱性能等級を上げることで得られる効果
断熱等性能等級を上げるには高性能な断熱材や高精度な施工が必要です。コストも当然かかります。そこまでして断熱性能を上げるのはコストに見合う効果があるからです。
断熱性能を上げると室内環境がより快適になります。それだけでなく、長期優良住宅に認定される、補助金を受けられる可能性があるといった効果もあります。断熱性能等級を上げることで得られる効果をみていきましょう。
断熱等性能等級が上がると室内環境が快適になる
断熱等性能等級が上がるということはUA値が小さくなるということ。つまり、室内と外気の熱の出入りがしにくくなる、外気の温度が室内に伝わりにくくなる、ということです。これは要するに、エアコンを無駄なく効率的に使えるという意味でもあります。夏は設定温度が高めでも涼しくいられますし、同様に冬は設定温度を低めにしていても暖かく過ごせるようになるのです。
断熱等性能等級5以上で長期優良住宅に認定される
2022年10月から断熱等性能等級5以上が長期優良住宅の基準のひとつとなりました。長期優良住宅に認定されると次のようなメリットがあります。
- 所得税における住宅ローン控除での優遇
- 投資型減税を受けられる
- 不動産所得税の減税
- 登録免許税の税率引き下げ
- 固定資産税の減税期間の延長
- 住宅ローン金利の優遇
- 地震保険料の割引
- 地域型住宅グリーン化事業の補助金を受けられる場合がある
以上のように様々なメリットがあります。減税や住宅ローンの優遇など主に金銭面での優遇措置が多く存在します。断熱等性能等級5以上にするにはコストがかかるため、これらの優遇措置はコストの上昇を少しでも抑えるのが目的です。
補助金を受けられる可能性がある
断熱等性能等級の高い住宅には、室内環境の他にもメリットがあります。その1つが、行政からの補助金。新築時に、国や県、市町村から補助金が下りる可能性があるのです。ただし、「県産の木材を○%以上使用していること」といった条件があることがありますので、補助金を活用する際にはよくチェックしておいてください。
断熱等性能等級を上げる際の注意点
新たな断熱等性能等級ができても、それだけで住宅の断熱性能が上がるわけではありません。それぞれの等級にふさわしい材料や工法が必要です。
そして高性能な材料は当然ながら材料費も高額となるもの。そして上がるのは材料費だけではありません。高度な性能を発揮するためには高い施工品質も必要です。
ここでは、どれくらいコストが上昇するのか、建築現場ではどんな点に気を付けるのか解説します。断熱等性能等級を上げるための注意点を確認しましょう。
等級を上げると建築費用も高くなる
断熱等性能等級が高ければ高いほど過ごしやすい家になり、さらに補助金が受けられるメリットもあります。ただその反面、既に見てきたように、必要な断熱材の仕様や厚さが変わってきます。当然それは、建築費用にかかってきます。実際、どれくらい費用は変わるのでしょう。
仮に、いま新しく建てようとしている2階建て住宅が断熱等性能等級5だとしましょう。もし断熱等性能等級6を取得しようとすればプラス100万円、断熱等性能等級7を取得しようとすればプラス200万円以上。これくらいのコストアップを見込んでおくといいでしょう。
住宅全体を考えると何千万円もの費用がかかるわけですので、100万円も200万円もほんの誤差に感じられるかもしれませんが、そこはいったん、どうぞ落ち着いて。空調が効率的になることで電気代を抑えながら快適な生活を送ることができるというメリット、それとコストアップによるデメリットを十分に比較検討してみてください。
高い等級ほど施工品質を求められる
断熱等性能等級を高くするには、材料だけでなく気密処理をはじめとした施工品質が重要です。断熱性能が高くなると外気と室内の温度差が生まれ、結露が発生しやすくなります。
この結露を防ぐのが気密処理。気密処理は隙間なく断熱材を施工し、端部や継ぎ目にもれなく気密性の高いテープなどを貼る方法が一般的です。こうした気密処理は施工品質に左右されやすいのです。高い施工品質を求めると、腕のよい職人さんを何人もそろえなければなりません。施工品質を上げるとコストも上がってしまうのです。
これから家を建てるならどの断熱等級にすべき?
断熱等性能等級は大きく変わりました。これまで最高の等級だった等級4は7段階の真ん中に過ぎません。
2025年にはこの断熱等級4が標準となります。つまり、断熱等性能等級4は事実上最低限の水準となるのです。しかも以前から断熱等性能等級4のレベルでは断熱性能は不十分といわれてきました。
断熱等性能等級以外にも「HEAT20」という基準があり、その3つのグレードのうちG2は等級6、G3は等級7と同レベルです。自治体によってはHEAT20の基準を上回る住宅性能基準を定めており、省エネ性能の高い住宅の積極的な供給を目指す流れにあります。
以上のことからこれから家を建てる際は等級6以上の家を想定するとよいでしょう。
断熱性能をチェックするには
あなたはご自宅の断熱性能がどのレベルなのか、ご存じですか?建築士には説明義務がありますので、もし説明を受けていない場合は、問い合わせてみてください。またさくら事務所のような第三者機関が図面調査を行うことで断熱性能を調べることもできます。
前述したように、2025年4月以降は、省エネ基準義務化により、新たに着工する全ての建物に「省エネ基準」適合が求められます。つまり、新築住宅において最低でも断熱等性能等級4が求められる点を念頭に置いてご確認ください。
また残念ながら、図面上での断熱性能が高くても、施工ミス、施工不良によって実際の断熱性能が下がってしまっているという例が数多くあります。断熱材というものはその性質上、住居が完成すると壁や床、天井に隠れて目に見えなくなるものですから、仕様通りに断熱材が使われているかどうかを確認できるのは「工事中」のタイミングしかありません。
新築工事中の施工ミスについて私たちが調べたところによると、断熱材に関係した箇所に関しては約80%の確率で何かしらの施工ミスが発生していることがわかりました。
さくら事務所では工事中の住宅を検査する「新築工事中ホームインスペクション」サービスも行っており、施工ミスを未然に防ぐべく、取り組んでいます。ぜひご活用いただき、断熱性能の高い住宅で快適な生活を手に入れてください。
また以下の動画では、断熱工事の注意点を住宅検査のプロが詳しく解説しています。 気になる方はぜひご覧ください。
◆参考動画◆【注文住宅】省エネ・高気密高断熱の要所!検査のプロが教える断熱工事の注意点
https://www.youtube.com/watch?v=NbN1Z_r2hQM
断熱材の施工チェックには新築工事チェックサービスのご検討を

暑さと寒さをしのぐには断熱が不可欠であり、エアコンの使用を前提とすると、断熱性能の低い家は省エネの観点からもマイナスとなります。
遅まきながらも少しずつ改善の傾向がみられる日本の断熱材ですが、実際に施工中のところへ断熱材の検査に伺うと、隙間があいていたり、断熱材がしっかり留まっていなくて下がってきていたりすることがあり、どんなに性能の良い断熱材を使用しても、施工がしっかりしていなければ断熱性能は低下しますし、壁の内部結露などを起こしてしまう可能性もあります。
新築工事の段階ですでに「約80%」の施工ミスを発見!
私達さくら事務所が、2019~2020年にかけて大手ハウスメーカーや地元の工務店まで幅広く工事中の施工ミスを集計・分析した結果、おおよそ8割近く発生していることがわかりました。
※【参考コラム】新築工事の時点で8割に欠陥が!?工程・タイミング別チェックポイント
「新築工事中ホームインスペクション」サービスは、本来施工ミスを防ぐ最も良いタイミングである工事中に、完成後には発見できない基礎・構造など建物の重要箇所について、建物に精通したホームインスペクター(住宅診断士)が複数回の検査をし、新築一戸建て引き渡し前チェック(内覧会立会い・同行)も併せて行います。
施工ミスの原因は、現場監督が「法律や規定を知らなかった」「うっかり間違えた」など、初歩的なことが多いです。しかし、工事中の施工不良は住宅完成後に立ち戻り検査をすることができなく、時限爆弾式に10年以上たってから大きな不具合が発生するなどのケースも多々あるので、未然に防ぎたいお客様には、当サービスを強くおすすめしております。
- 工事途中からのご利用も問題ありませんので、お急ぎの方はまずは一度お問合わせください。
- 特に、現在設計もしくは建築中の住宅が断熱等性能等級3にあたる場合は、2025年度の省エネレベルに満たない可能性があります。まずはお早めにお問い合わせください。
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さくら事務所は、国内におけるホームインスペクション普及のパイオニア的存在であり、これまでご依頼実績は業界No.1(累計63,000件超)、満足度98%(Google口コミ☆4.8)と非常に有り難い評価をいただいております。
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