注文住宅を検討する際、最も迷うのが「誰に家づくりを依頼するか」ではないでしょうか?
ハウスメーカーかビルダーか、工務店かなど、予算や土地、建物へのこだわりに応じて選択肢は異なります。
特に予算を気にしない場合、大手のブランド力・信頼感は魅力的であり、安定した経営基盤を持つ大手ハウスメーカーを選ぶ人は多いかと思います。しかし、大手に依頼すれば本当に安心といえるのでしょうか?「大手だから」といった先入観だけで判断するのは危険です。
実際、さくら事務所がホームインスペクションを行った新築工事現場では、規模や業態にかかわらず多くの不具合が見つかっています。
今回は、2023年に依頼を受けた新築工事中ホームインスペクション(第三者検査)の集計・分析結果をもとに、各検査工程における不具合の指摘率や、ミスの傾向、その原因などについて解説をいたします。
基礎段階から見つかる施工不良や不具合
こちらは、集計・分析結果をまとめた表になります。全体的に大手の不具合指摘率は低いものの、型枠を除いて大手でも一定の割合で不具合やミスが発生しているのがわかります。
特に、断熱検査においては大手でも60%の指摘があり、一般の方の感覚としても、決して低い数値とはいえないでしょう。断熱検査においては、準大手が独自の強みとして、断熱の設計や仕様を高い水準に設定していることもあり、指摘率の高さでは大手が上回る結果となりました。
ここからは、検査工程別にその詳細について解説していきます。
<配筋検査>指摘率は20%程度、検査関係者が多い大手が有利
配筋検査とは別名、鉄筋検査ともいわれ、基礎の鉄筋が正しく配置されているか、本数に間違いはないか、ずれはないか、といった点をチェックする検査です。
安全性に関わる大切な工程だけに、十分に検査を行うことも影響してか、大手・準大手を含めた全体では、指摘率は60%を超える結果となっています。大手だけの指摘率をみると20%近くと、全体を下回る割合となり、この場合、「チェック体制」の手厚さが関係していると考えられます。
上の画像は「補強筋」という本来なくてはならない鉄筋が不足していた事例です。
配筋検査は基礎工事の最初の工程であり、コンクリートを打つと見えなくなる箇所でもあるため、検査項目は多岐にわたります。大手ハウスメーカーの場合には鉄骨造で工業化された工法を採用していることも多いことから、木造に比べ、基礎段階の精度チェックが厳しく、協力施工会社、現場監督、本社の責任者…と、多くの目で確認することがミスの軽減につながっていると考えられます。
<型枠検査>準大手では70%近い指摘率と残念な結果に
型枠とはコンクリートを流して固めるために設置する枠のことで、検査では、型枠の設置状況、基礎と建物の上部の木材を接続する金属のアンカーボルトの位置、かぶり圧などにミスがないかなどの確認を行います。
上の画像は2023年の型枠検査で多く見られたアンカーボルトの設置忘れです。
準大手では6~70%近くの指摘がされていますが、大手では5.6%と低い数値となっております。これは、大手ハウスメーカーの場合、上記配筋検査の段階ですでにトリプルチェック、もしくはそれ以上のチェックが行われていることなどが理由と考えられます。
この工程において準大手で70%近い指摘が見られるというのは、購入者側からすると安心できない数値であり、改善の余地が大きい箇所と言えるでしょう。
<構造検査>工場生産が可能な大手が50%と有利も、全体では77.8%
構造金物とは、家の骨組みである柱や梁、土台といった構造部材を頑丈に緊結するための金具のことで、耐震性にも関わる重要な部分です。
安全性に関わる工程だけにチェック項目は多く、全体で77.8%、準大手で85%の不具合が指摘されています。時間を要する検査であり、ミスが指摘されやすい工程ということもあり、大手でも指摘率は50%近くという結果となっています。
上の画像は木材同士の接合部を補強する構造金物です。金物を留めるビスが不足しており、適切に取り付けられていない不具合事例となります。
大手の場合、工法を公開しない「クローズド工法」を採用しているところが多く、壁一面をパネル化するところまで工場で生産するなどによって施工品質の均質化もしやすくなっています。そのため、現場施工の割合がオープン(在来軸組み工法など)工法より減らせるため、ミスが少なくなる側面があります。
全国展開をしている準大手の中には、オープン工法を採用する会社も一定数あり、人手が足りない上に、工場生産をしていないこと原因で、不利な結果となっていると考えられます。
<防水検査>大手、準大手でも50%越えと高い指摘率
防水検査とは、住宅や建物の防水層が適切に施工されているかを確認する検査です。建物外から雨水が浸入すると、柱や梁などの構造躯体が腐食したり、カビが発生したりするリスクにもつながるなど、こもった湿気はシロアリを呼び寄せることにもなりかねません。
指摘率については、全体で70%近くとなり、大手、準大手に限っても、50%を超えています。
詳細を確認すると、防水シートの重ね代不足や、シートに穴があるなどの単純な施工ミスが目立ち、例えば作業中にシートに穴が空いたとしても、防水テープで補修するなど、心がけ次第で改善できるミスも少なくないのが実態です。
<断熱検査> 大手での指摘率は60%と高めの結果
断熱検査では、壁や天井などに使用されている断熱材の施工状況を確認します。断熱材の種類や厚さ、隙間、防湿シートや気密シートの施工状況などをチェックします。
上の画像は本来入れるべきところに断熱材が入っていない事例です。
この検査結果で最も指摘率が低く施工品質が良かったのは準大手でした。逆に、最も指摘率が高かったのが大手と、興味深い結果になっています。
その背景として、準大手は大手との差別化を図る目的などにより断熱・省エネ性能を非常に優れた仕様としているところも多く、こうした方針が現場の施工品質向上にも表れているのではないかと考えられます。
大手・準大手でも不具合・ミスが発生してしまうのはなぜ?
検査全体を通して、相対的に指摘率の低さが目立ちましたが、型枠の5.6%を除き、大手でも例外なく不具合やミスが一定の割合で発生しているのも事実です。
また、断熱検査のように、大手以外が設計・仕様を高い水準とし、独自の強みとすることもあり、一様に大手だから安心とは言えないでしょう。なぜ大手でも、このようなミスが発生するのでしょうか?
①人の手が関与する限り、大手でも人為的ミスは起こる
大手の場合、壁一面をパネル化するところまで工場で生産するなどによって施工品質の均質化もしやすく、人の手で行う作業が少なくなるため、その分ミスが少なくなる傾向があります。
しかし、人の手で行う作業は少なくなってもゼロにはならないため、現場で作業を行う工程においては同様に大手であっても一定のミスが見られる状況となっています。
②業界の深刻な人材不足で、現場は多忙を極めている
住宅新築の現場では人手不足が深刻な課題となっています。しかし、壁一面を工場でパネル化するなど、現場での施工を減らす工夫が大手にプラスに働いている面もあります。それでも、大手だからといって「ミスがない」「安心できる」とは限りません。
大切なのは、「ミスを指摘したときに真剣に対応してくれるか」「各工程に対して社内基準を理解し、ポリシーを持って主体的に仕事をしているか」という点です。しかし、残念ながら、十分な対応力を持った人材を育てる教育体制を整備できないほど、人手が足りていないのが現状です。
③現場の職人は複数企業の異なる工法や基準を覚える必要がある
大手・準大手企業から施工を請け負う工務店・施工会社は、必ずしもその企業の現場のみを請け負っているというわけではなく、現場の職人は複数企業の異なる工法や基準を覚えておく必要があるため、施工時に混同してしまう可能性があります。
例えば、ある現場ではA社の厳しい基準を守りつつ、次の日にはB社の独自の工法に従わなければならないことがあります。これが続くと、職人は頭の中で基準や手順が混乱してしまうことも。
そのため、工務店や施工会社は、職人がミスをしないように社内での教育や研修をしっかり行うことが求められますが、人材不足や厳しい労働環境もあって、こうした取り組みが十分に実現されていないといった課題が見られています。
依頼先にお悩みなら、お気軽にご相談ください
さくら事務所の新築工事中ホームインスペクション(第三者検査)サービスでは、着工日が決まる前、またハウスメーカー選定段階でも、無料相談を実施しております。
建築・不動産・防災・マンション管理など、あらゆる難関資格を持つメンバーが連携し、「第三者性・中立性」を保持しながら、客観的かつ専門家としての見地から、ご相談に対応しております。
既に工事が始まっている方でも、自由に検査の組み合わせが可能で、ご要望にも柔軟に対応可能ですので、迷われた場合にはお気軽にご相談ください。
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