「線状降水帯」発生情報とは?徹底解説 5月25日から最大30分早まる情報を活用するために

  • Update: 2023-05-19
「線状降水帯」発生情報とは?徹底解説 5月25日から最大30分早まる情報を活用するために

「線状降水帯」発生情報の活用方法・徹底解説

 集中的な大雨をもたらすことで知られる「線状降水帯」気象庁は2023年6月17日13時より、線状降水帯が発生し大雨による災害発生の危険度が急激に高まっていることを周知するための情報として、顕著な大雨に関する気象情報」 の発表を開始しています(気象庁

 これは「線状降水帯」と考えられる大雨の可能性がある程度高い場合、広域で半日程度前から情報を周知するものです。気象庁は、さらに2023年5年5月25日(木)13時以降、顕著な大雨に関する気象情報」を最大で30分程度前倒しして発表することを公表しました。なお、「顕著な大雨に関する気象情報」では意味がわかりづらいので、メディアなどでは分かりやすく『線状降水帯情報』と呼称することが多いようです(ここでは「線状降水帯情報」と呼びます)。

 本コラムでは、「線状降水帯」と「最大で30分程度前倒し」とは?、「線状降水帯」発生情報の的中率は?、「線状降水帯」発生情報の的中率は?「線状降水帯」の実態とリスク、「線状降水帯」発生情報が発表されたときには、どうすればよいか(情報の活用方法)について解説していきます。

「線状降水帯」とその「最大で30分程度前倒し」とは?

 世界的な地球温暖化の影響や、都市部の気温が高くなる「ヒートアイランド現象」などが原因で、集中豪雨や異常気象が発生しているという見解もあります。ここ数10年間における「1時間に50㎜以上」という非常に激しい雨の降る回数は年々増加傾向にあります。これらの影響で、下の図の通り強い雨の年間発生件数は増加傾向にあることが知られています。

1時間降水量50㎜以上の年間発生件数の推移(気象庁

 「線状降水帯」とは、このような大雨の中でも、「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域。」とされています(気象庁|予報用語 )。

 「線状降水帯」の発生メカニズムは、下の図のように

  ①大気下層を中心に大量の暖かく湿った空気の流入が持続する
  ②その空気が局地的な前線や地形などの影響により持ち上げられて雨雲が発生する
  ③大気の状態が不安定な状態の中で雨雲は積乱雲にまで発達し、複数の積乱雲の塊である積乱雲群ができる
  ④上空の風の影響で積乱雲や積乱雲群が線状に並び線状降水帯が形成される

というものが代表的な例です。しかし、「線状降水帯」の発生に必要となる条件については複数の様々な要素が複雑に関係しており、詳細がわかっていないこともあるため、その予測が難しくなっています。

線状降水帯発生メカニズム(気象庁

 気象庁が発表する「線状降水帯」の注意情報といえる「顕著な大雨に関する気象情報」は次の全条件を満たした場合に発表されてきましたが、6月25日以降は「現在から30分先までに、以下の基準を満たす場合」に発表する運用として変更されます。

 ① 解析雨量(5kmメッシュ)において前3時間積算降水量が100mm以上の分布域の面積が500km2以上
 ② ①の形状が線状(長軸・短軸比2.5以上)
 ③ ①の領域内の前3時間積算降水量最大値が150mm以上
 ④ ①の領域内の土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)において土砂災害警戒情報の基準を実況で超過(かつ大雨特別警報の土壌雨量指数基準値への到達割合8割以上)又は洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)において警報基準を大きく超過した基準を実況で超過

 気象庁は、5月25日13時より予測技術を活用し、雨量などが発表基準に達していなくても、現在から30分先までに今後雨量などが発表基準に達すると予測される場合に「顕著な大雨に関する気象情報」を前倒しして発表できるとしています。これによって情報を最大で30分早く発表できるようになるということです。少しでも早く、適切な防災対応をとることに繋がる情報が得られることが期待されます。

「線状降水帯」発生情報の的中率は?

 これまでの線状降水帯の発生情報の的中率はどうなっているでしょうか?2022年11月の気象庁の会見(気象庁)では、情報提供が開始された6月以降約半年の間、予測情報が発表された13回中、線状降水帯が発生したのは3回(的中率は約23%)と報告されています。実際に線状降水帯は11回発生していますが的中は3回で、8回は事前に予測できなかったとされています。一見すると「見逃し」率が約73%と多く見えます。

 一見すると的中率も低く、見逃し率も高いように見えますが、的中しなかった中でも「たまたま線状にならなかったものであったり、定義にぴったり当てはまらなかったというだけで、大雨にはなったというケース」も多いとのことです。ぜひ、今後線状降水帯発生情報が発表された際には、活用していくことが望ましいでしょう。

「線状降水帯」の実態とリスク

 「線状降水帯」発生情報の開始は昨年からのため事例が乏しいですが、開始前で情報の発表基準を満たす大雨としては、例えば平成26年8月豪雨(広島市で土石流)平成27年9月関東・東北豪雨(鬼怒川の堤防決壊)平成30年7月豪雨(広島市、倉敷市、北九州市などで大きな被害)令和2年7月豪雨(球磨川の洪水)などがあります。近年の大きな水害・土砂災害を招いた豪雨で、台風によるものではない災害の多くが該当することが分かると思います。

平成26年8月豪雨における広島市内の土石流被害(横山芳春撮影)

 1995年~2009年の集中豪雨を研究した例(津口・加藤,2014)では、線状降水帯による集中豪雨は台風・熱帯低気圧本体による豪雨を除いた集中豪雨事例の64.4%を占めていたとされています。同研究によると、線状降水帯は南日本(山口県・九州・沖縄)で全体の35.7%、西日本(京都-和歌山以西)が26.7%と多く、東日本(新潟・北関東以南・以西)の22.6%、北日本(東北以北)が14.8%と西側ほど発生する割合が多くなるが、北日本などでも起こる現象と読み取れる。さらに、南日本では梅雨前線に影響されて6~7月に発生が多く、台風による影響で北日本は8月、東日本は7月に多く発生するとされています。

 「線状降水帯」は集中的な豪雨をもたらすため、土砂災害・水害(洪水・内水氾濫)を引き起こす原因となることがあります。とくに、山地の流域一帯に多量の降水があると、とくに土石流などや、大きな河川の氾濫が発生することがあり、地域・流域一帯において、人が住んでいる住宅地にも甚大な被害をもたらすことが懸念されます。土石流や、大きな河川の氾濫では、事前の避難が必要となるケースも多いことから、住宅そのものの破壊的な被害や、人命が失われることに直結しやすいことに気を付ける必要があるでしょう。

平成30年7月豪雨による倉敷市真備町における住宅の水害被害(横山芳春撮影)

 

事前に確認しておきたい水害・土砂災害リスク

 線状降水帯による豪雨への対策として、まずお住まいの場所(職場・学校・滞在先なども)が、「安全な場所」か、そうではなく安全な場所に避難する「危険な場所」かの判断が必要です。崖などから離れ、浸水害も想定されない高台の平坦地であれば、安全な場所なので避難する必要はないのです。

 豪雨による災害としては、土砂災害(がけ崩れ、土石流、地すべり)水害(洪水、内水氾濫)に注意が必要です。「安全な場所」の判断には各自治体が発行するハザードマップが有効です。自治体のHPで掲載されていますが、発表後はアクセス集中などもあるので、情報発表前の段階で調べておくことをお勧めします。各ハザードマップで色がついている地域=浸水や土砂災害が想定されている地域かどうかを確認しましょう。

 土砂災害マップでは、まずがけ崩れ、土石流、地すべりの各土砂災害の特別警戒区域、警戒区域に該当するかを確認するとよいでしょう。ただし、特に土石流では警戒区域の周辺の区域外での被害(台風15号による土砂災害)や、警戒区域に指定されていない斜面が崩れることなどもあります。ハザードマップで「ギリギリセーフ」な場所や、区域指定されていなくとも、崖や斜面がある場合には豪雨の際に崩れてくる可能性が有ることに注意が必要です。

 水害マップでは、洪水、内水ハザードマップで浸水深も確認しましょう。洪水ハザードマップは大きな河川では作成されていても、小さな河川で作成されていないことや、内水ハザードマップではそもそも作成されていないことや、想定最大雨量で作成されていない場合などもあることは注意しましょう。

 

 水害からの避難に関しては(ハザードマップが十分整備された地域の前提で)、例えば内水氾濫で想定される浸水深0.5mで、前面道路の低い部分から1mかさ上げされた土地で、基礎の高さも40㎝あって地下階がない場合などでは、住家に被害がおよばないので、避難の必要がありません。2階建ての住宅居室の場合、浸水深が2階の床に及ばない場合(かつ土砂災害、洪水で氾濫流に見舞われない地域)では、2階に「垂直避難」をすることができます。詳細は「逃げる?逃げない?水害に遭ったとき、あなたが取るべき正しい行動」のコラムも参照ください。

・戸建て住宅(木造住宅を想定)の場合

 戸建て住宅(木造住宅を想定)では、家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流・河岸侵食)にある場合は家屋の流出や倒壊等の可能性があることから、、早期の区域外避難が必要です。

 平屋建ての場合は上階に逃げる「垂直避難」が取れないことから、避難のタイミングは早くなります。床上浸水の目安は概ね浸水深50㎝ですが、基礎高の低い住宅では浸水深30㎝以上でも要注意です。床上浸水が見込まれる場合には、早期の水平避難が求められます。

避難の目安(戸建て住宅の場合)

 2階建て住宅では、概ね浸水深3mが2階の床面の高さです。浸水深0.5~3m以上の場合はできる限り水平避難が望ましいですが、難しい場合や逃げ遅れた場合、3m以下であれば垂直避難が可能なことがあります。同様に、3階建て住宅では5m以下であれば垂直避難が可能なことがあります。

・集合住宅(RC造を想定)の場合

 集合住宅(RC造を想定)では、居室が何階であるかが大きく左右しますので、何階建ての何階の居室であるかをまず確認しましょう。また、居室が無事でも地下の電気・機械室や機械式駐車場等が被害を受ける可能性についても留意が必要です。

 家屋倒壊等氾濫想定区域(河岸侵食)にある場合には倒壊等の可能性があることから、階高を問わずに早期の区域外避難が必要です。家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流)の場合も、強い流れが建物に押し寄せることから、可能な限り事前に区域外への非難が望ましいと考えます。

 階数ごとの避難のタイミングでは、1階の居室の場合、垂直避難が難しいことに要注意です。浸水深0.5m以上(基礎が低い場合などは0.3m以上)で床上浸水となるため、水平避難が必要です。居室外という意味では上階に逃れることは可能ですが、共用のスペースか居室などへの避難が必要となります。

 2階の居室の場合はおおむね浸水深3m以上、3階の場合は5m以上の場合は、同様の避難の考え方が必要です。

避難の目安(集合住宅の場合)

 土砂災害、水害とも、自宅から安全な場所に避難する必要がある場合、どこにどうやって避難をするかは事前に確認し、必要な持ち出し袋を準備しておくことが望ましいです。行政が指定する学校などの指定避難所以外でも、安全な場所のホテル、旅館、知人、親戚宅なども避難先になりますので、経路を含めて確認しておきましょう。

「線状降水帯」発生情報が発表されたときには?

 「線状降水帯」発生情報が発表された際は、自治体による避難情報や、地元気象台が発表する防災気象情報等を確認の上、「危険な場所」にいる場合は安全な場所に移動することが必要です。「線状降水帯」発生情報は、警戒レベル4(避難指示)相当以上の際に発表されます。

 災害が差し迫っている際に発令される情報としては、警戒レベル3(高齢者等避難)警戒レベル4(避難指示)があり、危険な場所から安全な場所に避難することが必要です。警戒レベル3(高齢者等避難)では、高齢者の方、障害のある方やこどもなど、避難に時間を要する人や避難に支援が必要な方などが含まれます。これらの方がいるご家庭、施設では、警戒レベル3(高齢者等避難)の段階で避難の開始が求められます。ほかの住民は避難の準備を進める段階です。これは、「線状降水帯」発生情報より前のタイミングでの避難が必要となる場合もあります。

 警戒レベル4(避難指示)では、危険な場所にいる全員の避難が必要とされますが、警戒レベル5では既に災害が発生している段階になりますので、命を守る行動をとることが求められます。

避難情報について(内閣府

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