もし自分が購入し住んでいるマンションで「外壁タイルが10%浮いてました」と分かった場合、あなたはどう感じるでしょうか?「10%ぐらい直せば終わりでしょ」と思って終了でしょうか。マンションの外壁タイルが浮いている事実がもたらす人生設計にも影響を及ぼすような実は大きな問題だということをこれからご紹介します。
あなたの思う数倍、外壁タイルの浮きは危険
新築だったマンションも日が経つにつれて経年劣化していきます。そのため外壁タイルが一定程度浮いてくることは基本的に避けることはできません。一般的に経年劣化でマンションの外壁タイルが浮いてくるパーセンテージは1回目の大規模修繕工事の時期で年3%〜5%程度なら健全であると考えられていますが、6%〜9%だと要警戒レベル、10%以上になると、大規模修繕工事などで一度補修をしても、そこでは終わらずにその後も補修されていない部分はずっと警戒が必要なレベルになります。
外壁タイルが10%以上浮いている危険性を病気で例えると、全身に転移したガンのようなもので、見えているものだけを治しても全身に転移したガンが治らないのと同様に、10%以上の浮きが見つかったマンションの外壁タイルは、例えその時点で見つかった浮きをすべて補修したとしても、少なからず遠くない未来には新たな浮きが別の箇所で見つかるリスクが非常に高くなります。
外壁タイルという言葉の響きだけでは伝わりづらいですが、マンションの外壁タイルの補修費用は想像されている以上の費用が発生します。タイルの張り替えはもちろん、マンションの外壁タイルを張り替えるということは、大規模修繕工事と同じく足場を組むことになりますから、大規模修繕工事と同等の費用が発生します。
つまり、仮に大規模修繕工事と同じタイミングで外壁タイルを補修したとしても、大規模修繕工事で通常かかる費用の1.5倍〜2倍の費用が発生することも珍しくありません。さらに外壁タイルに10%以上の浮きがあった場合、大規模修繕工事の度に大量のタイル浮きの補修をしなければならないリスクが生じることになるので、結果的にそのマンションでは、大規模修繕工事をするたびに、一般的な大規模修繕工事費用の1.5倍〜2倍の費用が発生する可能性があります。これは数年おきに災害に襲われるのと同等の被害をマンションが被ることを意味しませんか?
2007年・2008年に竣工したマンションは要注意
さくら事務所が2019年から2023年に手掛けた事例を精査すると、2007年・2008年に竣工したマンションで外壁タイルの浮き・剥落の危険性が高いことが判明しました。大規模修繕工事は一般的に12年程度の周期なので、2007年・2008年竣工のマンションでちょうどここ数年で実施される初めての大規模修繕工事で外壁タイルの浮き・剥落が見つかるケースが多くなっています。
2007年・2008年竣工のマンションをとりまく状況について確認すると、ちょうどこの頃、日本で竣工されたマンション戸数はピークを迎えました(2007年・25万戸)。ここから読み解けることは、当時多くのマンションが建設される一方で、現場では慢性的な職人不足かつ無理な工期で建設されたマンションも多くありました。それが結果的にマンションの品質にも影響が出ている可能性があると考えられます。
2022年に外壁タイルにまつわるマニュアルが10年ぶりに改訂
2022年に外壁タイルにまつわる日本建築学会のマニュアルが2012年から10年ぶりに改訂されました。1991年に初版が出たマニュアルは、改訂2版(1996年)、改訂3版(2005年)、改訂4版(2012年)と改訂されてきました。
こういったマニュアルは発生した不具合の原因を分析した結果による対策や新たに開発された工法などで改訂されることから、2022年に10年ぶりに改訂されたということで、そこまでの期間、数多くの不具合が発生し、外壁タイルのトラブル発生件数も大幅に減っていなかったことを暗に示唆していると言えます。また外壁タイルの施工で使用される吸水調整剤も品質の悪いものが使用されていた時期があり、不具合が発生する可能性が高いため注意が必要です。
形骸化している可能性がある特定建築物調査
建築基準法第12条では3年毎に特定建築物調査を義務付けています。特定建築物調査では手の届く範囲で外壁タイルの浮きに関しても調査しているのではないか、と思われる方もいらっしゃると思います。しかし残念ながらこの手の届く範囲の検査では、外壁タイルの不具合について正確に報告された事例はあまりありません。
不具合などを早期に発見するために義務付けられた調査にも関わらず、調査する業者間による過当な価格競争に陥った結果、調査自体が形式的なものになってしまった実態が現状として存在しているといわれます。この調査では竣工または外壁の全面改修から10年経つと、手の届く範囲外も検査を行うことになっていますが、マンションは12年毎程度に大規模修繕工事が行なわれることが多く、大規模修繕工事が優先され外壁タイル調査が行われることは少ない傾向があります。
特定建築物調査がしっかりと機能していれば、大規模修繕工事前に外壁タイルの浮きが発覚する可能性があり、現在の制度が形骸化しているような状態は特定建築物調査が効果的に機能しているとは言い難い状況は残念でなりません。
こういった致命傷になりかねない不具合を自衛するためには、3〜5年の範囲で手の届かない範囲の外壁タイルもサンプリング調査をすることが大切になります。
最後に
もしもあなたが中古マンションを購入することを検討している場合、そのマンションが大規模修繕工事をした際、外壁タイルが健全な状態であったかどうか、修繕履歴で確認しておくことをオススメします。ずっと居住する場合はもちろん、資産価値を考えるうえで大きな致命傷となる可能性もあるので、注目する必要があります。
2009年以降に竣工したマンションの状況に関しては、まだ大部分のマンションで大規模修繕工事前ということもあり、さくら事務所でも実態と傾向を完全には把握できておりません。そのため少しでも気になっている点があれば、お気軽にご連絡をいただきたいと思います。
アフターサービスを利用できる期間内であれば、補修が仮に必要になった場合もできるだけその費用を削減することができるため、早め早めに対処していくことが何よりも必要です。