住宅に関するトラブルの相談窓口「すまいるダイヤル」を運営する公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターが毎年公表している「住宅相談統計年報(2018)」によると、住宅に関するトラブル相談の件数は年々増加傾向にあり、住まいを買った、建てた、リフォームした方の中に「こんなはずじゃなかった・・・」と困っている方がたくさんいらっしゃることがわかります。
ここでは、注文建築や売買等で取得された新築住宅・中古住宅に関する不具合トラブル統計データを対象に、不具合トラブルで特に多い事象と、トラブルをできるだけ避けるためのお勧め点検時期をご紹介します。
建物の不具合トラブルランキング
(出典)住宅相談統計年報(2018)
ひび割れ
すまいるダイヤルに寄せられた建物不具合の相談で最も多いのは、戸建て住宅、共同住宅(マンション・アパート等)の両方で「外壁等のひび割れ」となっています。
壁や基礎のひび割れは生じる場所や材料により原因はさまざまで、中には材料特性・経年劣化と呼ばれる施工不良・手抜き工事が発生理由でないものも含まれている可能性はあります。
しかし、さくら事務所の新築工事中ホームインスペクション(第三者検査)やホームインスペクション(住宅診断)、ご自宅の点検などで、施工方法が原因となっているひび割れが見つかることも多くあります。中には耐震性にも関わるもの、早期に修繕しておかないと雨漏りや構造材の腐食につながるようなひび割れが見つかることもあります。
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中古一戸建ての基礎のひび割れ
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完成前新築一戸建ての基礎のひび割れ
雨漏り
共同住宅に比べると一戸建ての不具合で高い順位となっていますが、マンションやアパートに比べて、一戸建ての屋根や壁が外に面している割合が多いことも関係しているかもしれません。
雨漏りは主に外壁のひび割れや隙間、穴などが原因のことが多いため、建築途中においては防水施工を丁寧に行うことがトラブル防止に最も有効です。
また、完成後の建物や中古住宅、ご自宅においては日常的に「目視点検」で壁・屋根などのひび割れ、隙間、穴の有無をチェックし、必要な修繕を行うことが不具合発生リスクを軽減させます。
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ご自宅の点検で雨漏りと診断された一戸建ての室内壁
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屋根裏で雨漏りが発生していた完成間もない新築一戸建て
漏水(水漏れ)
一戸建て、マンションともに比較的多いトラブルでもある給排水設備などからの水漏れ事故。一部の不具合は、部材の経年劣化で起きたものかもしれませんが、すまいるダイヤルにトラブルとして相談を寄せてられていることから、居住者・所有者は施工不良が原因ではないかと疑っている事案が多いと考えられます。
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配管施工不良により発生した漏水で、壁内にカビが生え部材が錆びた新築マンション
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建設時の床下配管の施工不良により漏水し、自宅点検で水漏れと床を支える部材が傷んでいるのが見つかった一戸建て
建物の不具合は無駄な「時間」と「費用負担」につながる恐れあり
ひとたび建物の性能に影響を与える不具合が発生し放置すれば、修繕にかかる費用が高額になったり、また、トラブルの内容によっては誰が支払うのか、所有者と不動産会社・施工会社・個人の売主などと裁判に発展したケースもあります。
特に「保証期間」(アフターサービス保証・瑕疵担保責任)を過ぎてから発見された不具合は、建設中の施工不良が原因だと特定できても、保証期間を過ぎていることを理由に売主や施工会社に修繕費用の負担を拒否されることがほとんど。住宅の保証は原則として、いつから起きていたかではなく、いつ保証者にその事実を通知したかが法律上の対応義務を決定するのです。
お勧めの点検タイミング
建物の不具合は、主に下記の理由で発生します。
- 建設・リフォーム時の施工間違い
- 施工時の点検・検査不足
- 経年劣化に対するメンテナンス(維持修繕)不足
- 太陽光や地震の揺れなどの影響で起こる建材・部材変化
隠ぺい部で起きる不具合や建物を使うことで初めて発生する不具合もあり、なんでも点検で見つけられるとは言えません。ですが、ホームインスペクション(住宅診断)の現場で見つかる不具合には“建物に詳しい人なら比較的早期に見つけられるもの”も多くあります。
そこで、できるだけ建物の傷みを拡大させず、また、修繕費用を誰が負担するかでトラブルに発展しないよう、上記の発生理由を考慮し、以下のタイミングでホームインスペクション(住宅診断)・ご自宅点検を行うことをお勧めしています。
お勧めの点検タイミング①:建物の工事中
(注文建築や建築条件付き土地に建てられる一戸建て、工事中に契約する建売住宅などが該当)
いまだ建設現場で手作業に頼ることが多い住宅は、手抜き工事だけでなく、うっかりミスが大きな不具合を引き起こすことも多いもの。何重もの厳しい目でチェックするとミスが減らせると言われています。
また、建物の完成前に見つけた不具合・ミスは、必ず売主や施工会社の責任において手直しされるため、発注者・購入者が費用を負担する羽目になることはほぼないことから、検査・点検がもっともトラブル防止に有効に働くタイミングと言えます。
施工ミスを減らすべく検査、点検を厳しくしている会社も増えていますが、現場監督がほとんど検査せず職人任せになっている施工現場がまだ多いのも事実。そこまで過失度合が高くなくとも、ヒューマンエラーの撲滅は手作業の施工現場ではいまだ課題となっています。
そのため最近は、各種保険・保証をつけるための検査にとどまらず、特に重要な施工タイミングについて「第三者チェック」を依頼するユーザーが増えてきています。
お役立ちコラム:新築一戸建ての工事中のチェックポイント①(全14回)
お勧めの点検タイミング②:売買契約締結の前
(新築の建売一戸建てや分譲マンション、中古住宅などが該当)
契約前に見つかった不具合は、その修繕費用を誰が負担するのか取り決める可能性が高いので、購入者が将来的に想定外の補修費用を負担するリスクが減らせます。
特に、一般に売主による保証期間が新築より短い中古住宅では、契約者・購入者が補修にかかる費用を住宅支出額に見込んでおらず、想定外の出費になってしまったという事例もあります。
購入するかどうかの判断にホームインスペクション(住宅診断)の情報を役立てる方もいれば、購入を前提に費用負担を取り決めたり、自己負担になる補修個所は何かを把握する目的で利用する方が近年増えてきました。
お勧めの点検タイミング③:引き渡しの前
引き渡し前に建物に不具合が見つかれば、新築住宅は売主・施工会社に修繕する義務があります。また、中古住宅は、契約上保証対象とされた不具合であれば、売主に修繕してもらう取り決めをしてから引き渡し=代金決済できます。
事案により、手付金を放棄して解約したり、先方の過失度合が大きければ白紙解約(手付金も返還されたうえで解約)となるケースも。
引き渡し前は、費用負担の取り決めなどを確認できる最後のタイミング。契約前に点検できなかった場合はできれば引き渡し前に調べておくと安心が増します。
お勧めの点検タイミング④:売主・施工会社による保証期間内
(新築・中古・一戸建て・マンションいずれも該当)
主に下記の期間は売主(注文建築は施工会社)により該当する不具合について保証されているため、該当する不具合のみ、その取り決めに応じて売主または施工会社に補修請求または修繕費用の負担を請求できます。
【新築住宅】
- 10年:構造上主要とされる部分(構造上問題となるひび割れ等)、雨水の侵入を防止する部分(雨漏り)
- 2~5年(多くの項目は2年):床鳴り、建具の動作不良、給排水管からの水漏れ等
【中古住宅】
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売主が不動産会社の場合は2年
構造上主要とされる部分、雨漏り、シロアリ等
新築住宅に比べると限定的な不具合に限られる -
売主が個人の場合は無しまたは2~3ヵ月
契約締結後は売主が不具合の費用を負担しない契約も一般的(瑕疵担保責任免責)
瑕疵担保責任がついていても最大3か月であることが多く、その項目も構造上主要とされる部分の不具合、雨漏り、シロアリなどかなり限定的
保証の期限までに不具合を通知していなければ、契約前後から起きていたことがわかった不具合であっても、売主に保証してもらうことはできません。
つまり、全額自己負担。早期に気づけていれば一切その費用を負担する必要がなかったものも支払うことになるため、納得いかない所有者も多いようですが、契約で取り決められていればそれが有効となります。
これらの情報を知る方が増えたのか、保証を受ける権利を活用すべく、瑕疵担保責任期間・アフターサービス保証期間内にご自宅を点検する方もかなり増えてきています。
プロの建築士による住宅診断サービスもご検討を
点検を行うタイミングにより多少の違いはありますが、どのタイミングでも点検をしておくことで、建物に起きた不具合被害を最小限に食い止めたり、その補修費用を誰が負担するのかを明確にすることができます。
気になる方は、まずはセルフチェック、できれば住宅建築に精通したホームインスペクター(住宅診断士)などに点検をご相談ください。
また、ご自宅で「これって不具合なの?」など、ご心配ごとがおありでしたら、お電話、お問い合わせフォームからお気軽にご相談いただけます。