家の基礎にひび割れを発見…放置してはいけないケースや補修費用を徹底解説

  • Update: 2022-12-19
家の基礎にひび割れを発見…放置してはいけないケースや補修費用を徹底解説

この記事はプロのホームインスペクターが監修しています

盤石な基礎は、物事を安定させるための大原則です。建物における地盤や基礎も、安定性と耐久性の要となります。とくに基礎は、建物の荷重を支えるだけでなく、揺れや湿気から建物を保護する重要な部位になります。現代の木造住宅に用いられる「布基礎」や「ベタ基礎」は鉄筋コンクリート造で、リフォームのように簡単に取り替えることができません。

コンクリートの特性上、基礎のひび割れは比較的よく起こる劣化現象ですが、ひび割れの程度によっては深刻な被害に発展しかねず、また、軽微なひび割れであっても、放置しておくと基礎の劣化を早める原因にもなります。

安心して快適に住み続けるためには、施工の精度だけでなく、完成後も継続的な点検とメンテナンスによって、ひび割れの状態を見極めて適切に対処する必要があります。

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家の基礎に発生するひび割れについて

ひび割れは、基礎だけでなく外壁や内壁などの構造物に発生する亀裂で、経年劣化や地震などが原因で起こる現象です。クラックとも呼ばれます。

一概にすべてが危険とは言えない:ひび割れ幅が「0.3ミリ」を超えたら要注意

一般に、ひび割れのレベルを判断する基準は、幅と深さを目安としています(*1)。この基準により、ひび割れの種類を「ヘアークラック」と「構造クラック」の大きく2つに分けています。

「ヘアークラック」は、その名のとおり髪の毛ほど細い、幅0.3ミリ・深さ4ミリ未満の微細なひび割れです。表面に発生する軽微な劣化ですが、放置しておくと美観だけでなく耐久性も損なう恐れがあります。

「構造クラック」は、ひび割れの幅と深さが、ヘアークラック以上あるものです。ひび割れから入り込んだ雨水がコンクリート内部の鉄筋を腐食し、耐久性を低下させるため、早急な補修が必要とされます。

また、一戸建て住宅などの基礎は化粧モルタルなどでお化粧をされていることがあり、基礎の表面のひび割れ幅を測るだけだとお化粧だけが割れているのか、基礎の本体までひび割れているのかがわからないことがあります。そこで、基礎の本体までひび割れている可能性があるかを判断するため、ピアノ線等を使って深さを測ります。

これらに加え、ひび割れの数や量、ひびの入り方などもあわせて、コンクリートの劣化の状態を判断します。ひび割れの幅と深さを測定するには「クラックスケール」という専用スケールが便利です。ひび割れの深さを測定するにはピアノ線等を使います。ただし、ひび割れが中で細くなっていたり、ぐにゃぐにゃと曲がっていると深さがわからないこともあるので注意が必要です。

(*1)品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)では、仕上材や構造材に発生した「ひび割れ幅」を基準にして、「構造耐力上所有名部分に瑕疵が存する可能性」について以下のように定めています。
《レベル1》幅0.3mm未満:「低い」
《レベル2》幅0.3mm以上0.5mm未満:「一定程度存する」
《レベル3》幅0.5mm以上もしくはさび汁を伴う:「高い」
出典:国土交通省「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」

また、宅地建物取引業法で定められた「建物状況調査」では、「ひび割れ幅0.5㎜以上」「深さ20mm以上の欠損」を劣化事象と定義しています。

ひび割れのメカニズムとおもな4つの原因

基礎のひび割れは、温湿度のような外部環境によるコンクリート体積の変化が、おもな原因とされています。しかし、実際には、施工・設計不良、不同沈下、地震、経年劣化など、さまざまな要因が複雑に影響しあうことで、発生するものと考えられています。

コンクリートにひびが入るメカニズム

コンクリートは、セメントと水の化学反応(水和反応)により固まります。その際に発生する水和熱や、セメントと化学反応をせずに残った余剰水が、気温や湿度などの環境の影響(蒸発・凍結)を受けて、コンクリートの体積を収縮・膨張させます。

これに加え、建物などのコンクリート構造物は、さまざまな部位(壁・柱)や部材(鉄筋・骨材)によって固定された状態にあるため、コンクリートが収縮・膨張すると自由に変形できず、引張力が生じてコンクリートの内外にひび割れを発生させるのです。

原因1:乾燥収縮

発生頻度がもっとも高く、おもに、コンクリートに含まれる余剰水が蒸発することで起こる、微細なひび割れ(幅0.2㎜以下)です。内部コンクリート打設後初期にあらわれはじめ、コンクリートの特性上、やむを得ない現象とされています。風通しの良い乾燥した箇所に発生しやすい傾向があります。

原因2:温度変化

おもに施工精度によって発生するひび割れです。物質は温度変化によって膨張・収縮する特性がありますが、コンクリート打設時に発生する水和熱は、硬化にともなって「上昇=膨張」したのち、「下降=収縮」します。この過程で、外気による内部温度の急激な変化や凍結、引張力が発生しやすい状態にあると、コンクリートの内外にひび割れが発生しやすくなります。

原因3:不同沈下や地震によるゆがみ

軟弱な地盤では、建物の荷重や地震により、家屋が傾くリスクが大きくなります。こうしたゆがみによって荷重が局所に偏ると、基礎に深刻なひび割れを発生させる恐れがあります。地震による影響は、悪条件が重ならなければ、さほど心配する必要はありませんが、経年劣化や大きな揺れ、度重なる振動で、ダメージが大きくなることもあります。いずれも、ひび割れの状態によって家屋が倒壊する危険があり、早急な対処が必要です。

原因4:経年劣化によるコンクリートの中性化

コンクリートは、水和反応で生じる水酸化カルシウムを多く含むため、強アルカリ性です。しかし、コンクリートは吸水性が高く、成分の水酸化カルシウムは、雨水や大気中の二酸化炭素と結合してゆきます。こうした経年劣化により、コンクリートのアルカリ度が低下し、中性へと変質する現象が起きます。この中性化により、コンクリート内部の鉄筋に錆びが生じます。さらに錆が進行すると、鉄筋の膨張力で深刻な爆裂(ひび割れ)を発生させます。

放置してはいけない?基礎のひび割れ事例

軽度なひび割れであっても放置すると、劣化を早める場合もあります。コンクリート基礎に発生するひび割れの種類と注意点について解説します。

ヘアークラックは危険度低いが放置はNG!

ひび割れが幅0.3ミリ未満のヘアークラックは、基礎の劣化の初期にみられる現象で、多くが経過観察で問題ないとされています。乾燥収縮によって起きる、コンクリートの特性上不可避な現象なので、過度な心配は必要ありませんが、塗装などで定期的なメンテナンスをしておきましょう。

ただし、次のようなひび割れは、ヘアークラックでも要注意です。

同じ場所に複数集中している

ヘアークラックが集中している場所は、基礎が何らかのダメージを受けている可能性が高いです。原因は施工(打設時の養生不足による乾燥収縮、水分量過多など)や地盤に問題がある可能性があります。目安として、1m以内に3つ以上のひび割れが発覚したときは、専門家の診断を受けることをおすすめします。

縦方向に伸びている

上下に走る縦方向のひび割れの多くは、構造に影響しないヘアークラックです。温湿度の変化による乾燥収縮に加え、振動など複数の要因により発生します。とくに、換気口などは補強が十分にされていないと、縦方向のひび割れが大きくなりやすい部分です。ひび割れ幅の上側が広がっているような場合や、基礎の上から下まで全体に走る場合は、基礎の耐久性を低下させる恐れがあるため、適切な補修をしておきましょう。

危険度が高い構造クラックは補修が必要

構造クラックは、内部まで達したひび割れが、鉄筋を腐食させる恐れがあり、早急な補修が必要なレベルになります。「貫通クラック」ともいい、前述したとおり幅0.3ミリ・深さ4ミリ以上の、放置できないひび割れです。幅が0.5ミリを超えると、雨水の侵入が進みコンクリートが脆くなるだけでなく、内部の鉄筋を錆びさせます。構造クラックを放置すると、基礎の耐久性を著しく低下させ、場合によっては、家屋の傾斜や不同沈下を招く恐れがあります。

以下のようなひび割れは、構造クラックが疑われますので、信頼できる専門家に相談しましょう。

横方向・斜め方向に伸びている

横方向に走るひび割れは、要注意です。この場合は、施工や設計の不良で、内部の鉄筋などが影響して何らかの負荷がかかり、基礎の耐久性を損ねている可能性があります。ひび割れの状況と対処法を専門家に見極めてもらうことをおすすめします。

雨染みがある

天候に関わらず、ひび割れに濡れたような雨染みがある場合は、コンクリート内部の奥深くまで水分が浸透しています。コンクリートが常に湿気にさらされているので、鉄筋が錆びるのは時間の問題です。もし、ひび割れから錆のような茶褐色のシミが浮き出しているようであれば、すでに鉄筋が腐食している可能性が大きいです。
雨染みが進行すると、腐食した鉄筋が爆裂し、基礎に重大なダメージを与えるだけでなく、湿気によってカビやシロアリなどの二次被害が発生している恐れもあります。早急な処置が必要なひび割れです。雨染みの予防には、基礎に塗膜を施すなどの定期的なメンテナンスが有効です。

剥離や滑落している

内部の鉄筋が錆びて膨張すると、内部のコンクリートが押し出されて、表面のコンクリートが剥離や滑落します。構造上の強度はほぼ期待できないほど、基礎が大きなダメージを受けている状態です。放置すれば、不同沈下など建物全体に影響を及ぼしかねず、大規模な補修が必要になります。

このほか、塗装の中断や塗り直しによって、塗膜の継ぎ目(縁)に生じる「縁切りクラック」は、外壁に多くみられるひび割れです。

基礎のひび割れ補修および補強にかかる費用と工期

このように一概にひび割れといっても、その状態により対処法はさまざまです。

最後に、ひび割れの状態に応じた基礎の補修・補強方法、それぞれの費用の相場と工期もあわせて解説します。

シール工法

ヘアークラックなどの軽微なひび割れに採用される補修です。ひび割れ表面の隙間にシール材(シーリング)などを充填します。表面の処理だけなので、ひび割れの内部まで充填剤は注入されておらず、大きなひび割れや再発の恐れがあるひび割れには適していません。費用の相場は1メートルあたり数百円程度~と比較的お手軽です。

Uカット(Vカット)シール材充填工法

比較的幅が広く深いひび割れに用いられる補修です。漏水や剥離した脆弱なコンクリートを、専用カッターでU字型(またはV字型)に除去した後、健全なコンクリートにシール材(シーリング)やエポキシ樹脂などの補修材を注入して(深さ15ミリ程度)、表面をモルタルで平らに仕上げます。
費用の相場は1メートルあたり2,000~6,000円台と幅広く、工期は補修の規模により1~2日程度とされています。このほか、必要に応じて補修跡を目立たなくする、パターン調整などの費用が加算されることもあります。

(参考)
「シール工法・Uカットシール材充填工法 比較」有限会社ナカヤマ彩工
https://www.nakayama-saiko.com/laboratory/individual/14988

ビックス工法(低圧注入工法)

構造上問題のある重度なひび割れに採用される補修です。専用の器具でひび割れに加圧しながら、ひび割れの奥深くまでエポキシ樹脂などの補修材を充填します。健全なコンクリートと同等の強度まで回復可能とされ、重度なひび割れで劣化したコンクリートの補強に適した方法です。費用は1メートルあたり4,000円~と比較的高額で、工期は補修の規模によりますが2日程度とされています。

アラミド繊維シートとエポキシ樹脂のハイブリッド工法

ひび割れ補修というより、基礎全体の補強を目的とした工法です。剥離や爆裂など重度のひび割れを起こした基礎の復元と劣化防止に非常に有効です。基礎全体に、高強度で軽量なアラミド繊維(炭素)シートをエポキシ樹脂で接着させることで、両者がもつ特性と強度を相乗的に高める工法になります。アラミド繊維シートは引張力に強く、地震など横揺れの耐震性向上に加え、エポキシ樹脂を基礎全体に塗布することで、コンクリート表面の保護と強度の向上も得ることができます。建物の解体や重機が不要で、床下に進入するだけで施工が可能なため、基礎の補強工事としては比較的低予算になります。1メートルあたり20,000円前後~、工期は1~3日程度とされています。

ホームインスペクションの活用で住宅欠陥のリスクヘッジを

ここまで読み進めてくださった方は、戸建を購入する際は、地盤や基礎の状態もしっかりチェックしておく必要性を実感されたのではないでしょうか。コンクリート基礎の劣化は、家屋の傾斜やシロアリなどの二次被害にとどまらず、悪条件が重なれば家屋の倒壊を招く恐れもあります。定期的なチェックと適切なメンテナンスで、不安材料を早期に摘み取っておくと、安心快適な状態で建物の長寿命化を図れるだけでなく、資産価値も維持することができます。とくに基礎のひび割れは、見た目では判断しにくい不安要素のひとつです。中古戸建に限らず新築戸建の購入を決断されたら、専門家に住宅診断(ホームインスペクション)を依頼することをおすすめします。

さくら事務所では、お客様に安心と安全を提供する、経験豊かな信頼できるホームインスペクターをご紹介しています。まずはお気軽にご相談ください。

ホームインスペクター 友田 雄俊
監修者

さくら事務所 住まいと暮らし事業部部長
さくら事務所 プロホームインスペクター
さくら事務所 住宅診断プランナー

友田 雄俊

大手リフォーム会社にて、木造戸建て住宅リフォームの営業・設計・工事監理に従事。
外壁塗装などのメンテナンス工事から、フルリノベーションまで幅広く手掛ける。
その後、株式会社さくら事務所に参画。