中古住宅購入の見極めにホームインスペクションを活用する理由とは?

  • Update: 2020-02-29
中古住宅購入の見極めにホームインスペクションを活用する理由とは?

これまでの日本の住宅市場は新築住宅が優遇され、他先進国に比べて中古住宅の流通量が非常に少ないのが特徴です。この状況を生み出している要因の一つが、購入者が得る「情報量」の差。
戸建、マンションにかかわらず、新築住宅の購入を検討している際に入手できる資料としては、まずCGや写真が大きく掲載され物件の詳細データも確認できるパンフレットがあります。それから、現物に限りなく近いモデルルームを見学して購入後の生活をイメージすることもできます。さらに、モデルルームなどでもらえる各種アメニティには、思わず購買欲が高まってしまうものです。

一方、中古住宅はというと、1枚の紙に間取り図と最低限の物件概要とキャッチコピーが入った程度。数百円の買い物なら大して違いはないかもしれませんが、数千万円の買い物です。
「なんとなく中古は不安」「新築のほうが安心」……そう思ってしまうのは当然のことだと言えるでしょう。「価格の安い中古住宅を購入して自分の気に入るようにリノベーションしたい」と、前向きに中古住宅の購入を検討している人でさえも、不安でなかなか一歩が踏み出せません。

中古住宅の価格査定にはバラツキあり。割高な物件もあれば、掘り出し物も……

価格付けの方法も、その要因の一つです。中古住宅の多くは「取引事例比較法」によって価格が付けられています。これは、過去に行われた実際の取引事例を多く収集し、そのデータを参考にしながら鑑定を行うという方法。たとえば4LDKの戸建であれば、近隣地域でその物件に近い面積、間取りの物件がいくらで取引されたのかを調べ、販売価格を算出するわけです。
ところが、取引事例比較法による価格付けが行われる際に物件の状態を調査することはありません。つまり、同じ地域内の戸建物件Aと戸建物件Bの販売価格が同じく3,000万円であるとして、購入者にはその両者を比較する材料が限られてしまうということです。物件Aはメンテナンスが行き届いた状態、物件Bは建てられてからまともに手が入っていない状態であるとしても、そういった、本来とても大切な情報は購入者には届きません。
さくら事務所のホームインスペクション(住宅診断)での数多くの現場経験により、同じ3,000万円に値付けされた中古住宅でもその状態はバラバラであるということは明らかです。「きちんと調べないと怖い」ということはもちろんですが、逆に、「よく調べたらこの物件は3,000万円以上の価値がある」というケースもあり得ます。ホームインスペクションを利用することで、掘り出し物に出会える可能性が高まるかもしれないのです。

住宅の修繕履歴、設計図面が揃っていることが当たり前に

理想としては、設計図面や工事記録、修繕記録などがそれぞれの中古住宅に残っているのがベスト。そうすれば建物の品質、状態をデータとして把握し、安心して売買ができます。例えば、自動車の場合は整備記録を残しますよね。それと同じようなものと考えてください。記録が残っていなかったとしても、ホームインスペクションで、いつ、どこに、どれくらいの費用がかかりそうかを知ることができます。
国も住宅の履歴やデータベースの整備、ホームインスペクションの普及、中古住宅の価格査定の仕組み改善に向け、いくつか施策を打ち出しています。

北米では70~90%の割合でホームインスペクションが活用されている

とはいえ、米国など海外の事例と比べるとまだまだ大きな開きがあります。そもそも米国では、住宅購入の前にホームインスペクションを入れるのは半ば常識。州によってバラツキはありますが、およそ70~90%の割合でホームインスペクションが行われています。
北米では30年以上前に大量の欠陥住宅が続出し、社会問題化しました。そこで自然発生的にホームインスペクションが生まれ、各地へ広まりました。その後、ホームインスペクションの内容や質を標準化する目的で、ASHI(ホームインスペクターズ協会/American Society of Home Inspectors)が発足。ASHIはホームインスペクション業務のスタンダードを確立し、現在でもホームインスペクションのクオリティを守る努力を続けています。ちなみにASHIに登録する北米のインスペクターは、約6,000人。彼らの年間の平均的な業務量は、約250件だそうです。6,000人が1人あたり年間250件ということは、北米では年間約150万件ものホームインスペクションが行われているのです。
北米では、ホームインスペクションの依頼主は住宅の買主が多いです。購入のための判断材料を得ること、そして、今回購入したとして今後必要になる修繕箇所を把握しておくことが目的です。日本の不動産取引慣行は、かなりの後れを取っていると言わざるを得ません。

欧米に比べてはるかに歪んだ日本の中古住宅市場

出典:既存住宅流通量の推移と国際比較(国交省資料より抜粋)

日本と欧米との違いをもう少し見ていきましょう。全ての住宅取引量に占める中古住宅の割合はどうでしょうか。約5年前のデータにはなりますが、アメリカはなんと83.1%。600万戸弱の取引があったうち、約500万戸が中古住宅でした。そしてイギリスは87.0%、フランスは68.4%。翻って日本はというと……わずか14.7%です。この数字を見るだけで、欧米と比べて日本の住宅市場が大きく歪んでいることがよくわかります。日本では税制も融資も新築住宅に有利な仕組みがある上、「新しいものが美しい」という風潮が根強いのは言うまでもありません。中古を買う場合も、あくまで「新築が買えないから中古を」と考えるケースが多い傾向があります。
しかし、これからの日本の不動産市場は変わっていきます。耐震性や耐用年数、可変性やメンテナンス性など、建物の意匠ではなく本質的な性能がよりクローズアップされていくでしょう。住宅は永く大切に住み継いでいくという意識が醸成されていくはずです。

住宅は“量”から“質”へ。「ヴィンテージ住宅」が求められる時代に

国も、「新築住宅大量供給」政策一辺倒ではなく、「中古ストック重視」政策も推進し始めました。これは2006年6月に施行された「住生活基本法」によるものですが、わかりやすく言うならば、「住宅供給は“量”から“質”へ」「“新築”から“中古”へ」ということ。この政策転換によって中古住宅の取引が増え、それと同時に耐震改修、リフォーム、ホームインスペクション(住宅診断)などの市場が拡大するのは間違いありません。日本の住宅市場は既に歴史的転換期を迎えているのです。
日本の新しい住宅市場においては、建物も街もより成熟し、人々は本当の豊かさを追求していくことになるでしょう。土台や骨組みなどの基本構造がしっかりしていて予防的なメンテナンスが適切に行われていることで、時間の経過とともに価値を維持しているものが重視される、そのような考え方が一般的になっていきます。つまり、将来にわたって永く受け継ぐことができる「ヴィンテージ住宅」が求められるのです。「ヴィンテージ住宅」をライフスタイルにあわせたリフォーム・リノベーションをすることで、より快適な住まいが得られるでしょう。