おしゃれなリフォーム・リノベーション済み中古マンション。
カタログやパンフレットを見て、その作りこまれた世界観に、「いいなぁ、素敵!」と夢を膨らませる方も多いのではないでしょうか。
しかし、一部の中古マンションは、傷み方によって、莫大な修理費用がかかることがあります。もし、知らずに買ってしまうと、リフォーム費用も含め、高くついてしまいます。
今回は、さくら事務所のこれまでの事例から、中古マンション見学時に気をつけるべき、「建物の傷み」について、住宅診断のプロであるホームインスペクターが解説します。
見学時のポイントを押さえて、リフォーム費用の思わぬ出費を防ぎましょう!
まず観察すべきは「外に面した壁(外壁)」
まず知っておきたいことは、マンションの壁には外に面した「外壁」と、住戸内の部屋同士を区切る「間仕切り壁」、隣戸とを隔てる「戸境壁(こざかいかべ)」の3種類があるということ。
多くの場合、間仕切り壁と戸境壁に見られる汚れの多くは、特に問題がない単純な汚れであることが多いです。
対して、外に面した外壁は、単純な汚れではなく、その原因が健康被害や建物の傷みによる「変色」であることがあります。
その理由は、直接雨がかかる場所だから。汚れではなく雨漏りによるカビである可能性があるのです。(バルコニーがある壁でも、風が強い日には雨がかかります)
パッと見は汚れにしか見えないけれど・・・
築28年のマンションで、リフォームせずに販売されていた物件の写真です。矢印のあたりの壁紙表面に、うっすらとした黒ずみがあります。
「中古マンションだから、まあ、多少汚れもあるよね」と思える程度の本当にうっすらとした色味ですが、庇やバルコニーもない雨が直接かかる外壁なので、少し疑って観察します。
なお、カビと言えば黒っぽいイメージがあり、実際、住宅の壁に生じる壁は黒系のものが多く見られますが、中には黄色味を帯びたもの、紫っぽいものなどカビの種類により色は異なりますので、必ずしも色だけでカビなのかどうかの判定はできません。
外壁の気になる汚れは「外側」を見る
外に面した内装壁に変色があれば、窓からその裏側の外壁を見ておきます。
このお部屋の外側には、室内側の壁の黒ずみの位置に、外壁タイルのひび割れや付着物、変色が見られました。おそらく、タイルのひび割れから水が浸入していると考えられます。
壁紙の変色が窓から近い位置であれば、窓から直接外壁をのぞいたりデジカメで撮影します(腰高窓は転落リスクがありますので絶対に無理はしないようご注意ください)。
窓から遠い位置であれば、外に出たあと、敷地や道路からデジカメで外壁を撮影し、拡大して見てみます。
ただし、必ずしも室内側の変色と外側のひび割れの位置が一致するとは限りませんし(離れた部分のひび割れから水が入ってきていることもあります)、外側にひび割れや水が染みたような見た目の症状が出ているとは限りません。外側にそれらしき事象がないからといって、壁紙変色の原因は雨漏りではないと判断しないようご注意ください。
「壁紙を張り替えればいい」という問題ではない
壁紙の変色の多くは、顔を近づけてよく見てみても、触ってみても、汚れなのかカビなのかわからないことが多いです。
ですから、「中古マンションはリフォームするのが当たり前なので、汚れた壁紙は全て張り替えてしまいましょう」と、不動産屋さんやリフォーム会社さんなどの勧めで、どんどん話が進んでしまうことがあります。
ですが、室内側壁紙の黒ずみが雨漏りによるものかどうかは、壁紙や壁下地材を剥がし、室内側のコンクリート表面に雨染みの形跡があると確認しない限り確定診断はできません。雨漏りの懸念がぬぐえない場合、壁紙を張り替えても、またカビが再発するという事態も考えられます。
ですから、中古マンションの室内で雨漏りが疑われる変色を見つけたら、単純な内装リフォームだけでいいのか、雨漏りの修繕まで行わなくてはいけないのかを決定するため、壁紙や下地材を部分的にでも解体し、雨漏りであるかどうかをきちんと確定診断することをお勧めしています。
なお、外壁面のカビの原因は雨漏りだけでなく、内装材とコンクリートの間に施される断熱材が無い、厚みが薄い(性能が低い)ことによる「結露」が原因のこともあります。この場合も、断熱材の補強工事を行ってから内装材を新しくしなければ、また結露の湿気により壁紙や下地材にカビが発生してしまうので、雨漏り同様に原因を改善する必要があります。
マンションの不具合には個人で直せないものがある
リフォームに向け、壁紙や下地材を解体し、いざ雨漏りであると確認できた場合でも、すぐにその雨漏りの修理ができるわけではありません。マンションのコンクリート、タイルは「共用部分」にあたり、管理組合の承認がなければ修理できないからです。また、どこが雨の浸入箇所なのかを特定する調査も必要となります。
仮に、管理組合からこれらの実施を個人で行う承認を得られた場合でも、足場を組んで修繕することになれば、数万円・数十万円の費用では行えない可能性が大きく、中古マンション購入時に自分で雨漏りを修理するというのはあまり現実的ではありません。
室内側で雨漏りが確認された場合、管理組合の手配による雨漏りの修理がいつ頃行われるかを確認しましょう。近いうちに、大規模修繕工事が予定されているようであれば、合わせて修繕してもらうということも考えられます。
いずれの場合も、外側の修繕工事までには時間がかかりますから、壁紙に出てくるカビの量があまり多くない、室内の家具や家財にまでカビが生えるという被害がなければ、とりあえずは住戸内のリフォームを済ませ、管理組合による外壁側の修繕工事が終了次第、室内側のその部分だけ再度工事をやり直すということでもいいでしょう。
なお、カビの原因が断熱材不足による結露であれば、断熱材は室内側のコンクリート表面に施すもののため、リフォームのタイミングで個人による工事が可能です。
単に壁紙を張り替えればいいということではありませんので、どういったところを修理・補強してから内装工事をすべきなのか、ホームインスペクターなど、住宅の性能に詳しい建築士に相談しながら検討します。
リフォーム済み・リノベ済み中古マンションでは、そもそも気付けないことも!できる対策は・・・
売り出される中古マンションのうち、所有者が居住中のもの以外は、リフォームで壁紙を張り替えてあったり、水周り設備を含めリノベーション工事済み(リノベ済み)の物件が少なくありません。
すでに内装が綺麗になっているので、販売価格以上のリフォーム費用がかからない魅力がありますが、そのリフォーム・リノベーション工事の前に、内装材に、雨漏りなど疑うような「サイン」が出ていなかったのかを見た目で確認することはできません。
ですから、リフォーム・リノベーション済みの中古マンションの購入を検討するときは、工事前の部屋の写真などがあれば見せてもらったり、リノベーション済みマンションであれば、コンクリートをむき出しにして雨漏り有無の確認したあとに工事が行われたのかどうかを聞くようにしましょう。
中古マンションは「傷み方」をチェック!リフォーム費用の総額が大きく変わる
リフォーム・リノベーションが行われていない中古マンションを内見し、内装材の汚れに気づいたても「リフォーム・リノベーションするので気にしない!」では、済まされないケースもあるということがご理解いただけたでしょうか。
雨漏りや断熱性能不足などによる汚れが原因の場合は、不動産会社に出してもらったリフォーム費用の目安では済まなくなることがあります。
もし内見時に汚れに気づき、原因の特定までできれば良いのですが、なかなか難しい。
過去に、「内見時に部屋の隅々まで、しっかり見たはずなのに、壁の変色に気付かなかった」という購入者は多数います。
マンションのどこにどんな症状が出やすいかは住宅診断のプロであるホームインスペクターが多数の事例を学んでいますので、想定外のトラブルを少しでも減らしたい場合は、ホームインスペクションの実施をご検討ください。