マンションは必ずしも無敵ではない
2019年の台風19号によって武蔵小杉のタワーマンション(神奈川県川崎市)が被災したニュースは、多くの衝撃とともに世間に受け止められました。なぜなら、マンションは従来、「一戸建てに比べて風水害に強い」と思われていたからです。
しかし、この認識が誤りでした。多くのマンションが鉄筋コンクリート造となっているため、木造一戸建てと比べると確かに風水害に強いとは言えます。ところが、マンションは必ずしも「無敵」ではないのです。そのことをまずは知っておいてください。
タワーマンションでも中小規模のマンションでも、風水害のリスクを減らすためには、次の3つのポイントに着目することが必要です。
- 立地(マンションがどんな地域に位置しているか)
- 構造(マンションがどのような構造になっているか)
- 防災意識(管理組合や入居者の防災意識がどうなっているか、具体的にどのような取り組みが行われているか)
の3つです。
立地はハザードマップ+災害リスクカルテで万全の確認を
まず1つ目、「立地」について。風水害に強い地域、弱い地域というのは、市区町村の公表しているハザードマップを見ればわかります。河川や用水路、暗渠などに近接した水害リスクの高い地域、雨の降りやすい地域などが一目瞭然。
たとえば山沿いは雨が降りやすく、平野部でも盆地や川沿いなど積乱雲が発生しやすい地域はゲリラ豪雨が頻発する傾向にあります。
ただし、ハザードマップが想定していない災害リスクや、ハザードマップの想定から外れた被害なども起きています。そういったリスクは、自分で検討しなければなりません。
さくら事務所のサービス「災害リスクカルテ」では、購入を検討中の物件や土地の主要な6つの災害リスク(水害、土砂災害、地震時の揺れやすさ、地盤の液状化、大規模盛土等、津波高潮等)を専門家が調べてリスクを見える化します。
さらに、以降で述べる建物の構造に関しても専門家によるアドバイスを受けることができます。立地面で不安があれば、ぜひご活用ください。
立地は安全でも、構造によっては危険度の高いマンションも
ハザードマップで安全な地域であると確認できたとしても、安心するのは早いです。ここで大事になるのが、2つ目の「構造」について。構造によっては、安全なエリアに建つマンションでも風水害の被害を受けることがあるのです。
たとえば、駐車場が地下に設けられているケース。いざ極端な大雨が降れば、地下駐車場の入り口のスロープから大量の雨水が流れ込む可能性があります。一定以上の規模の建築物には駐車場の設置義務があるのですが、特に首都圏など敷地面積の限られる地域では、多くの場合、地下に駐車場を設けます。自走式の駐車場にするほどのスペースがなければ、機械式にして地下の深いスペースまで使って駐車スペースを確保…という具合に、地下のスペースを活用しようとするわけです。
マンションは基本的に「1時間あたり50ミリの雨」までは排水処理ができるように設計されています。過去に床下浸水したことのあるエリアでは、1時間あたり75ミリまでの雨にも対応できる排水計画を立てている建物もあります。
しかし、近年増加しているゲリラ豪雨の雨量はというと、「10分あたり20~30ミリ」というレベル。この勢いで1時間降り続けば、1時間あたりの降水量は優に100ミリを超えてしまいます。
つまり、「1時間あたり50ミリ、75ミリまでは大丈夫」という排水能力では、近年の気候の変化に対応しきれていないのです。
水没する危険があるのは、駐車場だけではありません。マンション全体の電力供給を賄う「電気室」も地下に設けられていることが多いです。
冒頭で述べた武蔵小杉のタワーマンションは、地下の電気室が水没したことによって停電が起きました。エレベーターは止まり、給水ポンプも動かないため断水状態に。電気室がマンション内のどこに設置されているか、もし地下にあるようならば水害対策はどうなっているか、よく確認しておいてください。
マンションの構造による風水害というと、窓ガラスの破損も挙げられます。マンションの窓には雨戸やシャッターがついていないことが多く、これはつまり、飛来物が窓ガラスに直撃するリスクがあるということです。窓に1枚ガラス(フロートガラス)が使われていたら、要注意。フロートガラスは衝撃を受けると放射線状にヒビが入って割れ、鋭く尖った破片が散らばるからです。フロートガラスを使った窓ガラスはあとから風圧や衝撃に強いガラスに交換することができる場合があるので、窓ガラスの種類のチェックと、もしフロートガラスだった場合に交換が可能かどうかを確認することを忘れないでください。
防災意識の高いマンションは資産価値が落ちにくい!?
チェックポイントの3つ目、「防災意識」に関しては、一戸建てにはないマンション特有のものかもしれません。マンションの入居者は一つ屋根の下に住む運命共同体であり、防災対策なども含め、何を決めるにしても住民同士の話し合いが不可欠です。だからこそマンションに入居する場合は高い防災意識を持ったところを選ぶことが必要になります。
そのためには、まずはマンションの管理組合内に防災担当のリーダーが選出されていること。
一定規模以上のマンションでは消防法によって「防火管理者」の選任が義務付けられており、この防火管理者がマンション内の防災リーダーを兼ねるケースが多いようです。
しかし「防災管理者」の肩書きが有名無実化し、まったく機能していないこともあるため、防災リーダーがきちんと活動しているかどうかは、しっかりと見極めなくてはなりなせん。防災リーダー以下、複数人で構成する自主的な防災組織を設けているマンションであれば、なおよしです。
地域の自治体ごとに防災マニュアルが作られていますが、これだけでは不十分。マンション独自の防災マニュアルを管理組合が作っているといいですね。そのマンションの立地や規模、構造などに合わせたマニュアルでなければ、いざという時に役に立たないからです。
多くのマンションでは「入居者名簿」を作成していますが、保有するのは管理会社であり、個人情報保護のため管理組合には公開されていません。
しかし名簿がないと、災害発生時に混乱を招く可能性があります。そこで、災害時の対応のために管理組合が独自で入居者名簿を作成しているマンションも出てきています。居住者の家族構成、緊急連絡先、親族などの連絡先、勤務先や学校名などのほか、中には、要介護者の有無まで把握しているところも。
万が一災害が起きた場合は、防災リーダーを中心とした防災組織が入居者名簿を頼りに入居者の安否確認を行うというわけです。
こうした防災意識の高いマンションは住民の自治会なども活発に運営されていることが多く、総じてコミュニティ意識が高い傾向が見られます。入居者同士が手を取り合って暮らすマンションは安心感が増し、資産価値の維持にもつながります。住民が互いの顔を知らない、挨拶もしない、そんなマンションでは、いざ災害が起こった時に頼れる人がいなくて不安ですよね。
マンションを選ぶ際には、住民の防災意識の高さ、コミュニティ意識の高さにもぜひ注目するようにしてください。
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災害リスクカルテは、過去345件超の物件で発行しています。それらの傾向から、約47.3%の物件で何らかの災害リスクが「高い」という結果となり、水害に関しては55%の物件で「浸水リスクがある」(道路冠水以上、床下浸水未満を超える可能性あり)という結果が得られています。
災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。
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■記事執筆者(災害リスクカルテ監修)
横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所所長・地盤災害ドクター地形と地質、地盤災害の専門家。災害が起きた際には速やかに現地入りして被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、逗子市土砂災害等では発生当日又は翌朝に現地入り。
現地またはスタジオから報道解説も対応(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。