日本では近年、異常気象とよばれる現象が目立っており、短期間に局地的な大雨が降るゲリラ豪雨をはじめ、台風による集中豪雨などが日本各地で発生しています。
その結果、毎年のように洪水や土砂災害などの水害が報告されるようになりました。特にこのところ、過去にはそれほど被害が報告されていないようなエリアでも災害が発生するなど、雨の多い日本では、どこに住むにしても水害リスクを意識しておく必要があるといえるでしょう。
今回は、災害リスクのアドバイス経験が豊富なプロのホームインスペクター(住宅診断士)が、災害リスクチェックの基本となるハザードマップの見方から、天災に強い戸建てやマンションを選ぶためのチェックポイントや注意点まで網羅してご紹介いたします。
梅雨本番である今の季節、水害への注目・危機感も高まる時期かと思いますので、ぜひ今後の住宅選びの参考にしていただけると幸いです。
何はともあれ、まずはハザードマップをチェック!
防災についてのニュースなどでよく耳にするハザードマップ。これは自然災害の被害が予想される区域や避難場所・避難経路、危険な場所などをわかりやすく表示した地図の総称をいい、災害の被害を最小限にくい止めるため、国や地方公共団体が作成しているものです。
河川浸水や土砂災害、津波浸水・高潮や地震など災害別に、かなり詳細な災害リスクを確認することができ、水害以外には、地震危険度や火山などの防災情報を記したハザードマップがあります。また、一口に水害といっても、災害の種類や原因、地形によってリスクは異なり、ハザードマップの注目点も異なります。
国土交通省『ハザードマップポータルサイト』では、各市町村ごとのリンクや災害リスク情報などを地図に重ねて表示するサービスを提供しており、一部対応外の範囲もありますが、購入予定地の情報の一要素として、まずは検索してみることをおすすめします。
◆洪水ハザードマップ
大雨などで河川の堤防が決壊してしまった際の浸水範囲や深さを示した地図で、避難所や避難経路などの避難情報も記されています。
◆内水ハザードマップ
住宅などが建てられる堤防の内側(堤内地)に雨水がたまり、下水道や排水施設の処理能力を超えて水があふれ出す内水被害のリスクを示した地図です。例えば下水道のマンホールの蓋から下水が噴き出したりする現象などが内水被害にあたります。
◆高潮ハザードマップ、津波ハザードマップ
高潮災害や津波災害が予想される区域と浸水の度合い、避難経路などの防災情報を記した地図です。
◆土砂災害ハザードマップ
地形によっては、大雨による水害が土砂災害を誘因となるケースがあります。土砂災害ハザードマップには土石流、がけ崩れ、地すべりの危険がある箇所や避難場所・避難経路等が記されています。
◆宅地ハザードマップ
大規模盛土造成地のおおよその位置と規模を抽出した地図です。
想定外の被害予測に「災害リスクカルテ」でも確認を
購入予定地が水害に強いエリアか、弱いエリアかを知るために大きな意味を持つのがハザードマップです。しかし、最近の不安定な気候は予測が難しく、ハザードマップの想定から外れた被害も報告されています。ハザードマップはあくまで災害リスクの1つの目安に過ぎないため、マップが想定していないリスクについては、自ら調べ検討する必要があります。
さくら事務所が提供する「災害リスクカルテ」では、災害の専門家がピンポイントでその土地のリスクを評価しレポートを作成、それをもとに建物の対策方法を建物の専門家が直接アドバイスさせていただいております。
購入を検討中している物件・土地の主要な6つの災害リスク(水害、土砂災害、地震時の揺れやすさ、地盤の液状化、大規模盛土等、津波高潮等)の観点から詳細な調査を行うため、立地面の調査にぜひお役立てください。
立地だけでは安心できない!水害リスクの高い住宅の3要件とは
戸建て、マンション共に水害リスクが高い立地とは、次の3条件がポイントとなります。
【その①】 想定される浸水レベルが高い
洪水で浸水したときに水面から地面までどれくらいの深さがあるかを示した値を「浸水深」といいます。
浸水深と浸水の目安は以下のように分かれます。
よく耳にする床下浸水は浸水深が0~0.5メートル、床上浸水は0.5~1メートルの状態ということになりますね。さらに水かさが増え1~2メートルなら1階の軒下まで、2~5メートルなら2階の軒下まで、5メートル以上なら2階の屋根まで水につかる危険があります。
【その②】 低地が設けられている住宅
人為的に低地が設けられていると、水が流れ込みやすい状況となります。例えば居室が半地下や地下に設けられた物件、前面道路より下がった位置に玄関や駐車場がある物件は、当然ながら水害に遭遇する可能性が高い物件です。
同じように、建物の高さ制限や軒の高さ制限を守るため、建物の基礎を低くした戸建て住宅も注意が必要です。
【その③】 住宅の「上」部分のメンテナンス不足
2019年の台風19号の直後、さくら事務所にはバルコニーの水害被害についての相談が寄せられました。実は水害の相談で最も件数が多かった内容です。
浸水というと、何かと床など下からの被害を連想することが多くないでしょうか?しかし、時間と共に屋根やバルコニー、外壁などが劣化を起こすことで、劣化した部分、特に建物との接合部から雨水が染み込み、建物内部に浸水する場合もあるのです。
水害対策をしっかり行うためには、住宅の「下」だけでなく「上」部分にも注意を払い、メンテナンスを行わなくてはならないのですね。
戸建てについては、壁や屋根のメンテナンスを怠らない
戸建てでは、自ら意識して定期的なメンテナンスを行うことが、災害リスク軽減につながります。屋根の部材のメンテナンスや雨樋の清掃は基本ですが、外壁の窓周りのクラック(ひび割れ)、エアコンの配管穴などから雨漏り、浸水の恐れがあるので気配りを怠らないようにしましょう。
屋根の形状では、例えば人気の「陸屋根」は勾配がなく、水が長期間滞留しやすくなり、屋根や防水層が傷むリスクが高まります。屋根が一方向に傾いた形状の「片流れ屋根」では、傾いている側の雨樋の負担が増えます。
傾斜が分散されている「寄棟屋根」(4方向)、「切妻屋根」(2方向)の順にリスクが軽減されます。とはいえ、風雨にさらされている屋根や外壁のチェックは欠かせません。
マンション売却において「防災意識」の高さ自体が価値となる時代が来ている
これまで、「一戸建てに比べて風水害に強い」というイメージが一般的だったマンション。それだけに、2019年の台風19号によって武蔵小杉のタワーマンション(神奈川県川崎市)が被災したことに、驚いた方も多いのではないでしょうか?
武蔵小杉のマンションでは、地下の電気室が水没し、配電盤が破損、長い時間の停電を余儀なくされました。エレベーターは止まり、給水ポンプも動かないため断水状態になるなど、完全にライフラインが断たれてしまいました。もちろん、木造一戸建てと比較すると、鉄筋コンクリート造のマンションは風水害に強い面を持っていますが、立地や構造面によっては被災の可能性がゼロではないことを心に留めておきましょう。
また、マンションは戸建てと違い、防災対策なども含め入居者同士が協力して運営にあたります。だからこそ、管理組合や入居者の防災意識を知り、高い防災意識を持ったところを選ぶようにしたいものです。
一定規模以上のマンションでは消防法によって「防火管理者」の選任が義務づけられています。防火管理者と兼務のかたちで防災担当のリーダーいるマンションも多いようです。
防火管理者が必要のない物件でも、管理組合に防災担当のリーダーがいるのかどうか、マンション独自の防災マニュアルがあるのかどうかなどにも注意を払いましょう。
一般的に、住民の自治会なども活発に運営され、コミュニティ意識が高いマンションほど、防災意識の高い傾向があります。物件選びの際には、マンションの防災意識やコミュニティ意識も要チェックです。
※さくら事務所では、管理良好マンションを厳選した中古マンションポータルサイトを運営中なので、こちらもぜひ参考にしてみてください。
より詳しい災害リスクを知りたい人は、専門家に相談を!
いかがでしたでしょうか?
水害リスクと聞くと、土地や地形の知識などあまり一般的になじみのない情報も多く困惑される方も多いかと思いますが、分かりやすく情報がまとまったWEBサイトをはじめ、リスクを減らすための専門サービスがあることが、ご理解いただけたかと思います。
繰り返しになりますが、まずは無料で使えるハザードマップで十分に調査を行い、大よそのリスクに目ぼしをつけることをお勧めします。ただし、マンションや建売戸建て・中古住宅などでは住宅の構造そのものがリスクに遭いやすい場合もあるなど、詳細なリスクについては「災害リスクカルテ」や「雨漏り・漏水解決相談」など専門のプロに相談してみるのが良いかと思います。
さくら事務所では、数多くの住宅診断を行ってきたプロのホームインスペクターが、住宅についてのさまざまなアドバイスを行っております。何か少しでもご不安や疑問点があれば、お気軽にお問い合わせください。