災害リスクカルテ大分析〜依頼300件の55%近くが水害リスクのある立地に

  • Update: 2022-09-02
災害リスクカルテ大分析〜依頼300件の55%近くが水害リスクのある立地に

災害リスクカルテとは?

 2022年の夏も前線の停滞や台風8号の影響などで各地で大雨が続き、浸水災害土砂災害が多発し、8月に東北・北陸地方などで発生した豪雨を、政府は「激甚災害」に指定しました。国土交通省 のまとめによると、8月の豪雨では48水系124河川で氾濫、土砂災害は184か所で発生しました。新潟県関川村で24時間雨量が560ミリと、過去の最大値の2倍以上の降水があった事例や、青森県などでは30日間の雨量が平年の5倍以上という地域もありました。

出典:気象庁「過去4週間の降水量の平年比」

 浸水があった場所の標高などを確認すると、周囲より低い場所が多く、内水氾濫があったと考えられる事例も多くみられました。しかし、大きな川の洪水ハザードマップ土砂災害ハザードマップは作成・公開が進んでいても、小さな川の氾濫や内水氾濫を想定したハザードマップが作成されていない自治体も少なくないことが課題です。

 NHKニュースNHK 青森県のニュース)では、青森県内で内水ハザードマップ作成の対象となる15市町村のうち、作成を終えた自治体が1つもなかったことを報じています。青森県鰺ヶ沢町では少なくとも445棟の浸水が確認されていますが、町はその大部分が内水氾濫によると認識しています。特に災害の可能性を検討するためのハザードマップが作成・公開されていない地域での災害の可能性は、個別の災害リスク検討が望ましいと考えられます。

 災害リスクカルテは、さくら事務所が提供する、知りたい場所の自然災害リスク台風大雨地震etc)をピンポイントで診断・建物への備えを専門家がリスク分析、個別で電話コンサルティングするサービスです。「住まいの災害リスクについては専門家に相談しましょう」というものの、相談できる先が現実的に存在しなかったことを解決するツールとして、2020年9月にリリースしました。ハザードマップがない地域や災害ごとに特定のハザードマップが作成されていない場合も、地形区分や高低差地歴災害履歴などから災害リスクを個別に評価できることが強みです。

 災害リスクカルテのリリース以降2年で、累計発行300件を突破したことを記念して、戸建て住宅マンション等(マンション、アパート・ビル)別で災害リスクの傾向や、災害リスクのある物件がどのくらいあるのか、大分析を行いました。不動産の災害リスクについて理解するきっかけとなれば幸いです。

調査内容の概要

水害戸建て住宅が6割以上、マンションは約3割で管理組合・投資物件も

 調査は、2020年9月から2022年8月25日までに災害リスクカルテを作成した317件について、分析を行っております。物件の種別、各災害リスクの高低、戸建て、マンション等に分けた災害リスクの傾向、リスクが高いとされる項目がある物件の数を集計しました。

 まず、作成した物件の種別を、戸建て住宅マンションアパートビル、空き地・不明の別で見て見ましょう。戸建て住宅が最も多く、全体の2/3近い64%(203件)がありました。次に、マンションは28.4%(90件)でした。アパート・ビルは3.5%(11件)、空き地・不明が4.1%(13件)でした。

 戸建て住宅が多いことは、比較的災害の影響を受けやすいことも影響している可能性があります。マンションでは購入を検討されている方、お住まいの方などがから、管理組合投資用物件としての取得を検討している方からの依頼もありました。

水害リスクは全体の約55%で浸水の可能性があり

 災害リスクカルテを発行した全件(313件)の災害ごとのリスク傾向を集計しました。災害リスクカルテでは、水害リスク(洪水・内水氾濫・高潮)土砂災害リスク地震時の地盤の揺れやすさ液状化リスク大規模盛土地に該当するか、津波リスクの6項目について確認しております。

 まず、水害リスクが高い概ね床上浸水以上)は31.9%(101件)、中程度(概ね道路冠水以上、床上浸水未満)22.7%(72件)と、浸水可能性のある物件は合わせて全体の54.6%を占めていました。半数以上の55%近い物件が、浸水被害に遭う可能性があることがわかりました。

 土砂災害リスクは、リスクが低い物件が86.8%(275件)を占め、大半の物件が土砂災害の心配がない立地にありました。一方で、土砂災害リスクが高い土砂災害警戒区域内等など)物件が、中程度(土砂崩れなどの影響を受ける可能性がある)物件が、それぞれ6.6%(21件)ありました。全体の15%弱が土砂災害への警戒が必要な物件と考えられます。

 地震時に揺れやすい地盤は28.4%(90件)あり、川沿いや海沿いの軟弱な地盤の土地などでは地震の揺れが大きく増幅される地盤であるといえます。揺れづらい地盤で震度5強だった揺れが、揺れやすい地盤では震度6弱、6強などが観測されることがあり、耐震性の向上が優先されると考えられます。3割弱の物件が、地震時に揺れやすい地盤にあることがわかりました。標準的な地盤が41.0%(130件)、ゆれづらい地盤30.6%(97%)という結果でした。

 液状化リスクが高い(地震時に地盤沈下や地盤変状のおそれがある)物件は19.9%(63件)、中程度(一部の地盤変状などのおそれがある)の物件は16.4%(52件)あり、1/3ほどが液状化リスクがある物件でした。川沿いや海沿いの埋立地で液状化リスクが高い傾向があります。一方で、液状化リスクが低い物件は63.7%(202件)と2/3近くを占めていました。

 大規模盛土地に該当する物件は5.7%(18件)と限定的で、該当しない物件は94.3%(299件)でした。大規模盛土地じたいが直接災害の懸念があるものではありませんが、地震時に家屋被害が大きくなることが知られています。

 津波リスクは、9割以上の95.9%(304件)でリスクが低く津波の到達が想定されない物件でした。想定される浸水深50㎝以上のリスクが高い物件は3.2%(10件)、想定される浸水深50㎝未満の中程度0.9%(3件)となりました。水害に比べると非常に限定的ですが、津波は50㎝でも車が流されるほどであり、水害以上に注意が必要です。

 

戸建て住宅・マンション等のリスクの違い

 次に、戸建て住宅(203件)、マンション等(マンション、ビル・アパート:合計101件)に分けて、各災害リスクの傾向を見てみます。

・水害リスクは?マンション等で2割近く高い傾向、駅前立地などが影響か

 水害リスクは、マンション等で高い(40.6%)・中程度(24.8%)の合計が65.3%であったことに対し、戸建て住宅で高い(27.5%)・中程度(21.1%)の合計は48.5%と、マンション等のほうが2割近く水害リスクが高い結果となりました。リスクが低い土地でみると、戸建て住宅では51.5%と半数以上でしたが、マンション等では34%と1/3程度にとどまった。

 明瞭に、マンション等の方が水害リスクが高い立地にある結果となった。マンションは駅前など利便性の高い土地や、工場跡地や湾岸地域などの広い土地に多く、比較的水害リスクが高い地域に建築されることが多いことを反映していると考えられます。

 

 水害は高さのあるマンションでは影響を受けづらいと思われますが、上階の居室は無事でも地下に電気室受水槽管理室等がある場合、インフラライフライン機能に大きな影響を受けることがあります。地下階の駐車場や、機械式駐車場のうちピット式駐車場では地下部分が冠水して車が水没する危険性もあります。

 戸建て住宅では、狭小地3階建てにみられる基礎の高さが低い、また玄関部分が半地下にあるような住宅では、周囲の物件より浸水の被害を受けやすいことに警戒が必要です。川の近くでなくとも、周囲より低い場所では内水氾濫の被害を受けることがあります。側溝やベランダ、雨樋等の排水経路のこまめな清掃も有効です。

 

・土砂災害リスクは?戸建て・マンション等で違いなし

 土砂災害リスクは、戸建てとマンション等で差異はありませんでした。土砂災害リスクの低い物件はいずれも86.1%、中程度・高い物件は6.9%と同じ割合となりました。

 戸建て、マンション等の双方とも大半は平坦な場所にありますが、斜面の下にある戸建て住宅や、斜面じたいを利用したマンションなどが影響しているものと考えられます。土砂災害は特に木造戸建て住宅では大きな被害につながることもあります。特に土石流などは個人での対策は困難ですので、早期の安全な場所への水平避難が鉄則です。

・地震時の揺れやすさは?マンション等で高い傾向

 地震時の揺れやすさは、揺れやすい地盤マンション等で33.7%戸建てで24.5%と、マンションで1割近く(9.2%)高い結果となりました。半面、揺れづらい地盤は戸建てで32.8%、マンションでは26.7%と、戸建て住宅の方が6.1%高い結果となりました。

 地震で揺れやすい地盤は、低地や埋立地などの水辺の低い土地に多いといえます。水害リスクと同様、湾岸部や低地の利便性が良い場所にマンション等が多いことが影響していることも考えられます。揺れづらい地盤は「山の手」地域や、やや郊外部の台地に多く、戸建て住宅向きが多いことが想定されます。

 地震の際に揺れやすい場所では、戸建て住宅では耐震性確保や、制振ダンパーの設置などが有効です。また、家具や電化製品が移動・落下・転倒することがないような据え付けや、リビングや寝室に倒れる家具を置かないなど配置も検討することで地震の被害を軽減できます。

・液状化リスクは?マンションで優位に高い傾向

 地震が発生した時に「液状化現象」が発生するリスクが高い物件は、戸建て住宅で15.7%であることに対し、マンション等では26.7%と、マンション等が10ポイント以上多い結果となりました。液状化リスクが低い物件はマンション等で52.5%と半数強であることに対し、戸建てでは69.6%と7割に近い結果となりました。

 液状化は、埋立地や川・池を埋めた土地などでリスクが高い傾向がある。水害や地震時の揺れやすさと同様、ウォーターフロントの土地などでマンションが多いことを反映しているものと考えられます。

 戸建て住宅では建物の不同沈下地下配管の破損、マンションでは、杭基礎で建物自体は無事でも、周囲の地盤が沈下(抜けあがり現象)して地下配管が断裂し、ライフラインに長期間の影響が発生する可能性もあります。

・大規模盛土地は?戸建てがわずかに多い
 大規模盛土地に該当する物件は、戸建てで6.9%、マンション等で5.0%と、わずかに戸建てが多い結果となりました。大規模盛土地では、2018年の北海道胆振東部地震で地盤の流動化が発生するなどの被害が発生しています。盛土地では戸建て住宅の分譲地などが多いことを反映していることが考えられます。

・津波リスクは?影響ある物件は少ないながらマンション等が高い
 津波リスクが高い物件は、戸建て住宅では2.5%であることに対し、マンション等では5.0%と、数は少ないながらマンション等で2倍に及んでいました。マンション等の立地が、津波の影響を受けやすい湾岸地域、大きな川沿いなどにあることに影響していることが考えられます。

 

リスクが高い物件はどのくらい?

およそ半数が何らかのリスクが高い立地の物件

 最後に、各災害リスクのうち高い(地震時の揺れやすさは「揺れやすい」、大規模盛土地は「該当」)評価がある物件の割合を抽出してみました。戸建てで45.1%と半数近く、マンション等で53.5%と半数以上、マンション等が8.4%高いという結果となりました。なお、全物件トータルでは47.3%に達しました。

 半数近い物件が、何らかのリスクが「高い」立地にある現状が浮き彫りになりました。このことから、まずは住んでいる物件や住もうとしている物件はどのような災害リスクがどの程度あるかを知ることが重要になります。特に水害や土砂災害では、自宅外に避難する必要があるか、自宅内の上階などに垂直避難することで対応できるかを考えることが重要であると考えます。

 自宅が十分に耐震性があって堅牢で、水害や土砂災害の影響などがない場所では、屋外への避難が不要で、自宅をシェルターとして使用すればよい、ということも考えられます。そうなると、持ち出し袋は重視しなくてよい場合もあります。水害リスクも内水氾濫などによる床上浸水のみで、上階に逃れられるのであれば、避難所よりも慣れた家の上階に避難することも有効です(水害の際に自宅外に避難する必要があるかはこちらも参照)。

 

 

地形と災害リスクの関係性(横山芳春原図)

大分析の結果から

 以上、災害リスクカルテ300件を記念した大分析では、災害リスクの高い物件は半数近くあり、水害リスクがある物件は半数を超えているなど、災害大国・日本を反映している結果となりました。ただし、「日本中、どこでも災害は免れられない」というような声が上がることもありますが、実態は立地により災害リスクは大きく異なることが現実です。。

 住んでいる場所や、これから住もうとしている場所、またご実家などにどのような災害リスクがどのくらいあるか、事前に把握しておくと、火災保険水災特約水災補償)や、地震保険の付帯などや、ご家庭で適切な避難先・避難のタイミングの検討を行っておくことができます。「こんなことが起こると思わなかった」ということも少なくなります。

 同じ地震や豪雨があった時でも、無被害の立地と、被害が大きくなってしまう立地が出てしまうことが災害発生時に繰り返されています。災害リスクがある場所に住むなということではありません。どのような場所か知って、事前に対策をすることで被害を大きく減らすことも可能です。災害リスクカルテが、住まいの災害リスクを知って住むことのお助けとなれば幸いです。

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 さくら事務所の災害リスクカルテ(電話相談つき)は、知りたい場所の自然災害リスク(台風・大雨、地震etc)を地盤災害の専門家がピンポイントで診断、ハザードマップがない土地でも、1軒1軒の住所災害リスクを個別に診断します。液状化リスクの可能性も、地形情報やハザードマップ(場合により近隣地盤データ等)から判断、建物の専門家がそれぞれの災害による被害予測も行い、自宅外への避難の必要があるかどうかなどをレポートにします。

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 災害リスクとその備え方は、立地だけでなく建物の構造にもよります。戸建て住宅でも平屋なのか、2階建てなのか、また地震による倒壊リスクは築年数によっても大きく変わってきます。

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 既にお住まいになっているご自宅や実家のほか、購入や賃貸を考えている物件、投資物件の災害リスクや防災対策が気になる方におススメです。特に、ホームインスペクションを実施する際には、併せて災害への備えも確認しておくとよいでしょう。災害リスクカルテの提出はご依頼から概ね4日で発行が可能です(位置の特定・ご依頼の後)。不動産の契約前や、住宅のホームインスペクションと同じタイミングなど、お急ぎの方はまずは一度お問合せください。

 

災害リスク大集計 調査概要
 2020年9月~2022年8月集計分
 さくら事務所が発行した災害リスクカルテ317件分を分析
 マンション等にはマンション、ビル・アパートを含む
 戸建て、マンションの区分けには、全体の件数より空き地、不明を除外